チェレンコフ光を見た!

湘南台高校 山本明利

 1996年8月27、28両日、神奈川県理科部会の物理研修委員会が主催する東海村原研・原電見学ツアーが神奈川の公私立高の理科の先生方34名の参加で実施されました。

 27日は、原電(日本原子力発電株式会社)の東海第二発電所の施設見学をしたあと、お隣の原研(日本原子力研究所)で簡易霧箱の製作を行いました。28日は原研で原子炉物理入門の講義を受けた後、高出力パルス運転時のNSRRの炉心を見学し、午後は同研究所の核燃料試験施設を拝見しました。

 深海魚さんがお膳立てをしてくれたこの見学会、内容が非常に充実していて得るものが多く、簡単に作れて必ず飛跡が見える簡易霧箱のお土産も付いて参加者にも好評でした。深海魚さんのマネジメント能力に感服すると共に、貴重な体験をさせていただいたことに感謝しています。

 さて、今回の見学会で一番の目玉は、NSRR(安全試験炉)の「単一パルス運転」の見学でした。NSRRは軽水炉の反応度事故(炉制御のトラブルで原子炉出力が暴走する事故)を想定した実験炉です。いろいろな場面を想定して原子炉をわざと不安定な状態にし、出力の挙動や核燃料の損傷具合などを調べる研究が行われています。

 私達が見学した「単一パルス運転」は、定出力時300KWの炉の出力を、瞬間的に(数ミリ秒間)23GWという高出力にするもので、ピーク時出力としては世界最大、積分出力ではNSRRとしても最大クラスの試験運転です。その日をねらっての見学企画でした。

 試験炉の炉心は9メートルの水(中性子減速剤)の中に沈んでいますが、蓋はなく肉眼でまともに見下ろすことができます。純水の青さが印象的です。その青さの中に炉心は静かに眠っています。まだゼロ出力です。この状態からすべての制御棒を一気に引き抜いて炉心を暴走させるわけです。ちょっと怖い気もしますが、もちろん安全性は確認済みで、炉の自己制御性(減速剤の温度が上がると、中性子減速能力が急激に低下して核反応が抑制される)により高出力の状態は一瞬で終了します。

 「パルス運転2分前」のアナウンスがあって、秒読みが始まります。私達は手すりにつかまって炉心を見下ろしながらかたずをのんで見つめています。何台ものビデオカメラやスチルカメラが放列をしいています。1分前になると周囲の灯りが一斉に消えます。これはサービス。

 「5、4、3、2、1、ゼロ!」

パルス運転時の炉心(撮影間隔約0.5秒)

 鋭い音と共に制御棒が引き抜かれるが早いか、炉心部がパアーッと輝きます。まばゆいばかりの青白い光が周囲を照らし、そして消えてゆきます。反応の際に出る高速の電子が水中で作る光の衝撃波「チェレンコフ光」です。私達は世界一明るいチェレンコフ光を見たのです。輝きが引いた後も炉心付近は残光のようにぼんやりと青白く光っています。遅発中性子に由来するチェレンコフ光だそうです。歓声と安堵のため息のうちに実験は終了しました。

 NSRRの炉心部のチェレンコフ光の写真はよく教科書の口絵などに載っています。お手元の物理の教科書をあたっていただければ必ず見つかると思います。私達が見学したのはまさにその炉です。「これの実物を見てきたよ。」と生徒に自慢するつもりです。生徒と共にビデオであの感動を追体験したいと思います。

音声付動画ファイルnsrr.avi(509KB)※ファイルサイズが大きいのでダウンロード時はご注意ください

NIFTY-SERVE【理科の部屋】への書き込み(96/09/02)

BACK一つ前のページへ

天神のページ・メニューへ戻る

To HOMEホームページに戻る