冬至〜柚子湯の物理

 冬至の日の夜、慣例により「柚子湯」なるものをたてて入浴しました。我が家の場合、柚子湯にどういう効能があるのか、本来どんなたて方、入り方をするのか、などには全く無頓着に、冬至=柚子湯という半ば形骸化した儀式としてこれを実施しております。とはいえ子供達は、いつもとちがって「おみかんみたいなもの」が浮かんでいていい香りがするお風呂をそれなりにたのしんでいる様子でした。

 誰が始めるともなく柚子回しが始まりました。湯に浮かんだ柚子を独楽のように回転させるのです。渦を伴いながら結構長く回っています。「水中独楽」なんていう玩具が作れるかもしれない、などと考えながら見ていました。そのうち誰かが柚子を立てて回しはじめました。対称軸を水平にして車輪のように回転させるのです。柚子は立ったまま浮かんで回りつづけます。静止した柚子は対称軸を鉛直にした姿勢で浮かぶのが安定ですが、回転しているあいだはジャイロ効果で軸の方向が水平に保持できるのです。回転が鈍ると味噌すりをしながら軸を立ててきます。子供は無心ですが、私はけっこう興味深くこれを眺めていました。

 子供を湯からあげて、一人湯船につかりながら柚子をもてあそんでいますと、果皮から揮発成分が水中に放出されて浮かび上がり、水に浮く油膜のように水面に広がります。同時に特有の柚子の香が鼻先に広がります。よく観察すると水面に広がった薄膜にはぎらぎらした独特の虹色が見られます。薄膜の表裏で反射した光が互いに重なりあって起こるいわゆる「薄膜干渉」です。揮発成分は湯の熱で温められて空気中へと蒸発していくので、膜はみるみる薄く小さくなり、間もなく水面から消え去ります。この間、同心円状の虹色も激しい変化を見せます。膜の厚みが干渉条件を支配しているからです。

 こんな些細なところにも物理法則が顔を見せていることにちょっぴり感動しながらゆっくりと柚子湯を楽しみました。化学や生物の知識もあったらもっと楽しめたのでしょうね。

NIFTY-SERVE【理科の部屋】への書き込み、96/12/22

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