なんでも 理科室
NANDEMO RIKASHITSU


     第45回 プリマーテス研究会  日本モンキーセンター(愛知県犬山市)
                         24,25 Feb 2001


 第45回プリマーテス研究会 
「わからないこと?さがそ!−22世紀に向かう動物園・博物館で−」
--------------------------------------------------------
日時 平成13年2月24日(土)14:30より
             25日(日)17:00まで

会場 日本モンキーセンターさるの学習ひろば(愛知県犬山市)
---------------------------------------------------------

第1部 「わからないことがおもしろいこと」 

       「?(はてな)のさきに見えるもの」

                      小 田  泰 史  蒲郡市立中央小学校
 
                         【講演のためのメモより】               

大人にとっても,身のまわりには不思議があふれています。ましてや,子ども達
にとっては生活のすべてが<はてな>だといっても言い過ぎではないでしょう。

 子ども達がもった疑問をどう育てていくのか。ここのところから考えていきたい
と思います。

1.小学校1年生の教室 --- <はてな>のプレゼント ---

「かんじドリル」の中に「三日月」ということばがあります。「みかづき」と読んで,
「三日月」とかく練習をすれば,とりあえず終わりです。

 でも,これでは子ども達に<はてな>をプレゼントすることはできません。では,どの
ようにすれば子ども達が<はてな>をもつようになるでしょうか。例としてひとつ考えて
みることにします。

 さっそくで申し訳ありませんが,おうかがいさせてください。

 「三日月」は,どのような形をしているでしょうか。… 描いてみてください。
 そうですね,およそ,このような形になったことと思います。 

 次に,「三日月」はいつ頃出るでしょうか。 … 何時ころ,で結構です。

 ところで,その「三日月」は空のどのあたりに出ているでしょうか。… 東,南,
西の中から選んでみてください。  

 大人でも,???になってきます。子どもと大人のちがいは,分からないことをわ
からないということができるかどうかという点かもしれません。実は,1年生にもこ
のことを聞いてみました。形はわかりますが,それから先は分かりません。

 分からないことがあれば,それはそのまま<はてな>です。ここで注意しなくては
ならないのは,<こたえ>を話してしまわないことです。子ども達にとって,もちろ
ん私達大人にもいえることですが,答えを探す過程が楽しいはずですし,その楽しさ
を伝えることこそが私達の仕事だと思います。

 とはいえ,相手は小学校1年生です。どんなこふうに問いかければ,子ども達は答え
を見つけることができるでしょうか。1年生ですから,「調べる」という活動はまず難
しいと考えておきます。「見る」活動に気持ちを向けることができればいいと思います。

 この話を始めたのは,旧暦12月29日でした。後数日で三日月を見ることができま
す。日めくりを見ながら,「3日」はもうすぐだねと話をして,子ども達が「見てみよ
う」という気持ちをもつようにしていきました。

 話と同時に,「学級だより」を通してお父さんやお母さんへも伝えました。 家庭への
連絡には,二つの意味があります。関心の持続と安全の確保です。
たくさんの家庭で話題
にしてもらうことができました。残念ながら,天気がおもわしくなく,「三日月」は見る
ことができませんでした。

 ここでのポイントは,<はてな>から<こたえ>までに時間をおきすぎないことです。
短すぎてはわくわくする思いが膨らむ前に終わってしまいます。逆に,長すぎるのも間延
びしてしまいそうです。

2.モノの魅力

 私は,小中学校で理科の教員をやっています(愛知県では,小中の異動があります)。
20代の頃よくいわれたことは,「モノを持って教室に行こう」ということです。先ほど
の「三日月」では,モノはありませんでした。

 ここで,モノを持ち出してみます。

 1)ここに,水があります。正確には,液体といったほうがいいでしょうか。そして,
もうひとつの液体です。これを,混ぜると … 赤くなりましたね。  


  これは,子ども達にとっては確かに ? です。 でも,どう見ても,無色の液体が
赤くなっただけです。
           (フェノールフタレインとアルカリの溶液)

2)今度は,ただの水です。このように,飲むこともできます。さて,この水をこのコップ
に入れて,ハンカチをかぶせます。さて,しばらくすると…


  今度は,見るだけどころか,隠してしまいました。
  でも… コップをさかさにしても… 水はこぼれませんね。
  ここでおわったら,手品です。
  でも,子ども達はここで何が起こったか見たくてたまりません。
  コップを手にすれば,どうなっているか見ることができます。
手にとって触ってみることもできます。
     (高吸水性樹脂)

1)と2)の違いは,どこにあるでしょうか。

1)は,見るだけでおわってしまいます。「どうして赤くなるのか」という?をもった
としても,小中学生ではどうしようもないレベルの話になってしまいます。

 2)は,なんと言っても,モノとして実感できます。何でできているんだろう。どこに
使われているんだろう。どのくらい水を吸うんだろう。と,どんどん?がでてきて,さらに,
それを確かめることができる。

 こどもたちに ? をもたせたいというとき,「モノとして実感できる」ということは,
けっこう大切だと思います。

 におい。臭覚。発泡スチロールをとかす,「リモネン」は,とける様子を見て「えっ!」
とおもい,
においを確かめて身近に感じるおもしろい物質だともいます。

  ドライアイスを使った遊びも,子ども達は楽しみにしていました。給食でアイスクリーム
がつくときは,わくわくして待っていました。

ベッコウ飴作り。見た目の変化,においの感覚,などいろいろ見ることができます。

つくり方や,安全のための話はします。でも,実際につくって見せることをやめてみました。
こうしたときのほうが,色やにおいなどの変化に目が向くようです。

「わからないことがおもしろいこと」のひとつの例かもしれません。

 普段から,「五感」をつかってモノをみるということを「経験」できるようにしてあげたい
と思っています。

 少々言葉遊びっぽいのですが,  
   「体験」を「経験」化 する。 「経験」は「継続的な体験」。

こんなことも思いながらすすめてきました。

----------------------------------------------必要に応じてこの話を入れる-----------

 今とりあげた「実感」ということばが,「理科」のなかで最近しばしばとりあげられています。

 たとえば,小学校学習指導要領解説 理科編 では,「理科の目標」の解説の中で

B     自然の事物・現象に関する問題解決の活動を通して,事象の性質や規則性を
実感することにより,科学的な見方や考え方を構築できるようにする。つまり,小学
校の理科では児童が具体的な自然の事物・現象にかかわりながら,事象の性質や規則
性について実感することにより,科学的な見方や考え方をつくり,もつようになる。

とあります。

 この,「実感」ですが,辞書的な意味以上のメッセージをもっています。「感じ 考え 実感する」 
という流れの中で捉えていきます。

------------------------------------------------------------------------------------- 

3.<はてな>を見つける

理科室の廊下に展示したヤシの実の例です。

-----------------------------------------------------------------------------------

    乾燥したヤシの実を入れました。

    子ども達は,見て通ります。

    ガラスをはずしてみました。

    子ども達は,触っていくようになりました。

    重さを比べるために,ペットボトルをおきました。

    子ども達は,持ち上げていくようになりました。

----------------------------------------------------------------------------------- 

 この時々で,子ども達は何を思っていたのでしょうか。
1)今までなかったものが,ガラスケースにはいいいている。
  いつも通る廊下ですから,目に入ります。見て通ります。

2)ガラスをはずしてみました。このとき,隣のケースはガラスをつけたままにしてみました。

子ども達は,ここで考えることになりました。

モノがあればさわってみたい。大人でもこう思うのですから,子どもならなおさらです。
でも,触っていいんだろうか。と,心配になります。隣のケースは,ガラスがある。でも,
このケースには,ない。自分の「判断」で触っていくようになりました。少し,立ち止ま
るようになりました。

3)でも,なかなか持ち上げようとはしません。

乾燥したヤシの実は,とても軽い。これは,見ただけでは分かりません。触っただけ
でも分かりません。

ペットボトルに水を入れて並べてみました。

手に持っている荷物を置いて,持ち上げていくようになりました。持ち上げて,ヤシの
実をいろいろな方向から見るようにもなりました。

ペットボトルの水は,無色だと注意を引かないかと思い,食紅で染色しました。ちょっ
としたアクセントになったようです。

4.曖昧さをもつ

 富山市ファミリーパークの寺内さんは,「さわる」という行動について,その段階を示して
くださいました。

 -----------------------------
  1) さわってはいけない
  2) さわりなさい
  3) 一般にその対象にはさわっていいか悪いか判断しなさい
  4) 「あなた」がさわっていいか悪いか、「自分自身」で判断しなさい
-------------------------------
 これまで,1)か2)か,という発想しかありませんでした。子ども達に対しても,この2つの
見方で接していました。寺内さんの「自分自身で判断しなさい」というお考えは,とても新鮮
でした。
この先に,もうひとつありました。
--------------------------------
  秘伝) すこしぐらい大丈夫
--------------------------------
「すこしくらい大丈夫」という,微妙な判断をするためには,いろいろな状況を総合的に判断し
なくてはなりません。どうしても白・黒をはっきりさせなくてはという意識からはなれてみようと,
改めて思います。白か黒ではなくて,灰色の部分がある。

1か0かではなくて,0.3だってある。
 対象に対する感じ方がちがえば,それに対する反応が代わって当然です。しかし,その
反応は「常識的な判断」に支えられたものでなくてはなりません。その常識をどこで,どの
ようにして身に付けていくのか。
 小中学校での経験は,こういったこことに大きく関わっていくものと思います。

 このおはなしを伺ってから,廊下に,火山灰やコンピュータの展示を行ってみました。
もちろん,ガラスは取り外してあります。

 火山灰に,指の跡がついています。

 鉄鉱石や石炭の位置が変わっています。

目で見たら,次は手で触ってみたい。今までそうしたくても,ガラスがあってできなかった。
ガラスがなくなった今,触っていいかどうか考えて,少し触ってみた(指の跡は,ほんの
少しです)というわけです。


--------------------------------------------------------------

(もうひとつの 曖昧さ)

 子ども達は,今目の前にあるものについて考えています。
 目の前にあるものは,時として科学的事実とは多少はなれ
 ています。

 これも,ひとつの「曖昧の世界」なのかもしれません。

「Hands-on」=「かかわりあう」

「自然にかかわりあうリテラシー」

  かかわりあう … 共有

           時間の共有 ⇒ 経験の共有 ⇒ 感動の共有 

5.視点をしぼるとき

… 水族館の見学

 子どもの?(はてな)は,限りなくつづいてしまうことも事実です。
 子どもの追究の能力と,私たち担任の力量から,どうしても限界を感じる
ことがあります。時間的な制約も受けます。 

 こんなときは,「はてなの焦点化」ということも考えました。

昨年度は2年生。今年は1年生と水族館に出かけました。「インタビュー」
という形を取りながら,話したり聞いたり,それをもとに発表したりする学習です。

 このような学習の目的があることから,インタビューしたりまとめたりしや
すい対象を見つけます。事前に水族館に行き,子ども達に見せるための写真を
撮ってきます。

プロジェクターをつかって,学年全体に写真を見ながら話をします。写真の方に,
意識は向きます。

「わからないことがおもしろいこと」という立場からすると,このような方向付
けは不適当かもしれません。ただ,実際には,このような形で見学させていただ
く団体もあるということで紹介させていただきました。

 1年の間に二回お世話になりました。2回とも同じ飼育係の方がお話をしてく
れました。見学の目的を伝え,およその質問事項もお話しておきました。子ども
達にわかりやすい言葉で,丁寧に話してくださいました。

 私たちからすると,水族館にどこまでお願いしてよいのか,分かりませんでした。

水族館で話をしていると,館側は,逆に,学校のことが分からないということでした。

遠足で水族館に行ったときでも,ただ「きれいな魚がいたね」で終わらない見方が
あることでしょう。

 このことを考えるとき「わからないことさがそ!」は,いいキャッチフレーズだ
なと思います。 

 7.?(はてな)を楽しむ

「れんらくちょう」で,次のような質問をもらいました。

---------------------------------------------------------------------

 おふろにはいっていたら,ふしぎなことがありました。おふろにおゆをいれたら,
おゆがだんだん白くなって,すいちゅうめがねでもぐってみたら,まっ白でなにも
見えなくて,おふろからでてからだをあらっているときそとから見てみたらおふろ
のおゆがとうめいにかわっていました。

 それはどうしてでしょうか。おしえてください。 

----------------------------------------------------------------------

次の日,お母さんからの連絡です。

--------------------------------------------------------------------

 連絡帳の質問にびっくりされたでしょうね。すみませんでした。

 今日いただいたプリントに,私の家での会話が聞かれていたかのように載っていた
ので,思わず大笑いしてしまいました。

 A子の「どうして?」にすぐに答えを出すのではなく,自分で考えるように導いて
いただきありがとうございました。今日はどうやら白いものの正体が発見できなかっ
たようです。私も一緒に潜った方がよいのかしらと,親ばかな私は考えてしまいます。
主人は一言「そんなの簡単じゃん。」と。私は真剣に葵と一緒に考えていたのに…

しかし,しばらくの間,お風呂が不思議発見になります。

 さあ,A子は何を発見するのか。今からわくわくしています。

-------------------------------------------------------------------

3日目の連絡帳です。

-------------------------------------------------------------------

 白いしょうたいがわかりました。それは,あわでした。からだにたくさんついて
いたのです。小さな小さなあわがたくさん。
 でも,どうして,あわがおふろの中でどうやってできたのかわかりません。

-------------------------------------------------------------------

 この日,「授業参観」でした。理科室に出かけて べっこう飴づくり をする
予定の日でしたので,ビーカーに水を入れて,火にかけてみました。

 ビーカーの底から小さな泡が出ているのを見ることができました。

4日目の連絡帳です。

--------------------------------------------------------------------

 今日は,ありがとうございました。少々はずかしかったですが。
 今日のお風呂ですが,楽しいものになりました。葵がはりきって弟に教えてい
たのです。二人して水中めがねをしてお風呂にもぐり,お互いの体についたあわを
見ていたのです。そして,「これが正体だよ」と。

 どうして白く見えるかはなぞなんですが,水の中に空気がたくさんまじってその
ようになるということは理解したのかなと思います。

 なにげない生活の中に,たくさんの理科があり,たくさんの算数があるんだなあ
とあらためて思いました。

----------------------------------------------------------------------

 教室は,子どもと毎日顔を合わせてているので,このようなやり取りが可能です。

「?(はてな)のさきに見えるもの」

「?(はてな)のさきに見えるもの」というタイトルで話を進めましたので,では
いったい何が見えるのか,ということに触れなくてはならないですね。

 ひとつの疑問が解けてくると,そこにはまた新しい疑問が出てきます。それも,
当然のようにレベルアップしてきます。まるで,雪だるまのように,どんどん膨ら
んでいくのかもしれません。

「?」のさきには「見つけることの楽しさ」があり,そこには,一まわり大きく
なった自分の姿が見えるのではないかと思います。 

---------------------------------------------------------------------


なんでも 理科室 TOP PAGE 

第45回 プリマーテス研究会 プログラム

       ホームページ        ZAKKAYAおだや