2018年2月10日(土)明和高校での例会の記録です。


 島津理化でのお仕事 (元麻布中・高 教諭 増子 寛さん)  
 今回は東京から増子さんを迎え、お話を頂きました。増子さんは麻布中・高で教鞭をとられるとともに、物理教育学会で長年、活躍されてきました。

 増子さんと愛知物理サークルとの関わりは、飯田さんや川田さんが、1986年のICPE(物理教育国際会議)で、実験をするから場所を貸せと、無茶を言ってきたのが始まりとのことです。

 右の写真は、力学的エネルギー保存の法則の演示実験です。また、レールが想像以上に摩擦が小さく使い勝手が良さそうでした。

 センサーを内蔵したスマートカーのタイヤには距離センサー、台車の先端には力センサーが内蔵されており、bluetoothでパソコンとデータ通信が可能です。

 円運動でのループコースター。  力学的エネルギー保存の法則の確認のための実験。
 センサーの活用に関しては、生徒の本質的な理解に繋がらないのではと懸念を持つ人も一定数います。
 増子さんの考えは明快です。例えば、自由落下の実験を行うなら、記録タイマーのアナログ的な実験を行った後に、センサーを使った実験を行い、繰り返し誤概念を解く機会を設られる所がセールスポイントとのことでした。

 その他にも、写真にもあるコースターでの台車の往復運動をレールの形を変え、単振動と見なしたり、円の弧を作れば、単振り子と近似できるというさせる実験など実践的な利用法の提案もあり、予算が付くならば購入したいと思わせられる内容でした。

 2物体の合体前後のv-tグラフ
 新しい実験の紹介もありました。物体を水の中に入れると、物体が浮き上がって見える現象があります。よくやるのが10円玉を湯飲みの中に入れる実験ですね。

 この実験では、実際の深さと比べ、どれだけの深さにあるように見えるかということを計算することが多いですが、その深さを実験的に、直接測定するのは像が虚像なために不可能です。

 そこで考えたのが、物体と見立てたLEDライトから出た光の実像を凸レンズで作ることで深さを調べるというアイデアを使った実験です。群馬県の先生が開発されたそうです。

 光源からの光をレンズで集光し、スクリーンに実像が鮮明にできるようにスクリーンを動かします。高照度のLEDを使ってはいるものの、光量不足でスクリーンの上からしか観察できないため、一人ひとり観察する必要があります。
 装置の全景です。  LEDの上にL字スリットを置くことで、像の向きの変化も確認できます。
 最後は、ヤングの実験の複スリットと回折格子の違いの意味を示すこと目的に増子さんが考案したというスリットです。
 スリットの間隔は0.5μmで一定にし、スリットが2個、3個、4個・・・・と同じ大きさのフィルムが数種類のセットです。レーザー光を入射すると、レーザー光の広がりの方が大きいため、すべてのスリットを光が通り、干渉が観察できます!

 これまで授業でヤングの実験は複スリット、回折格子は無限のスリットと言葉で説明してきたものの、回折格子の格子定数と複スリットのスリット間隔が等しくないため、実験で示せないもどかしさを感じていたのは私だけではなかったようで、参加者は多くは「是非欲しい」と声多数!  自分で作れるものは作ってしまうが、本質的で自分で作れないものには、購入意欲が高いのがサールルメンバー共通点です。

 しかし、上司に提案したところウケが悪かったということ。
 複スリットをつかった実験。  スリット3つでの実験
 実験結果です。複スリット時には、広がりのある明線が観察できます。スリットの数が1つ増やすと、明線の中央にある最も明るい点と隣り合う最も明るい点の間に、明るい点が1つでき、さらにもう1つスリットを増やすと、最も明るい点の間に2つの明点ができる様子が確認できます。
 さらにスリットを増やしていくと回折格子の明点が等間隔の並びに近づいていく様子が確認できます。いや素晴らしい教材です!

  川田さんはベクトルの大きさを光の強さに向きの違いを位相のずれとして図示することでトリプルスリットの明線を明快に説明してくれました。隣り合うスリットからスクリーンまでの距離の差が半波長つまり位相差がπのとき、右向きのベクトルとπずれた左向きのベクトル、さらに2πずれて右向きになったベクトルの足し算により、右向きのベクトルが残り少し明るくなることが分かります。
 また、隣り合うスリットの位相差が2/3πまたは4/3πのときは3つのベクトルで打ち消し合い暗くなることが分かります。
 スリットを4つの場合。  川田さんによる、明点が増える理由の説明。明快でした。


 他方、APEJ(物理教育研究会)の活動として、教科書通りの実験を行う技能を若手教員に伝承するため、基本実験講習会を企画し、東京で10回、福岡や仙台でも開催し、好評を博してきました。

 この研修は、偉い人の話を聞いて、あの人はすごいけど自分は無力だと感じてしまう通常の研修を、自分にもできそうだと感じるような研修にしなくてはと、参加者より多くのスタッフで実験技能を指導するという贅沢なものです。
 この辺りに、真面目な増子さんと無秩序な愛知物理サークルの中にある通ずるものでしょう。
 麻布中・高という国内随一の進学校で教鞭をとり、科学教育の中での実験の重要性を強く感じてきた増子さん。強い信念を持って仕事をされてきたことを感じるお話でした。



 ベルトによる物体の運動 (前田さん)  

 入試問題でときどき見かける、ベルト上を動く物体の運度の問題ですが、受験生にとっては難解な問題でしょう。

 仕組みは次の通り。ベルトが等速度vで動いているとき、始めは静止摩擦力によって動き、ばねの伸びとともに静止摩擦力が増しながら合力0でベルトと一体となって等速直線運動します。
 ばねがさらに伸び、弾性力kx>μNとなると、物体がベルト上を滑り始め、摩擦力が動摩擦力μ’Nになることによって、合力が左向きになり、左に加速する、つまりばねが縮みます。

 大阪大学の問題ではベルトに対して物体が静止しないとの仮定を加えることで、単振動とみなしていますが、実際には戸田盛和さんの著書「いまさら一般力学」にもあるように自励振動となります。
 ベルトサンダー用のエンドレスベルトを使い静止摩擦力を増すことに成功!
 製作した実験装置は、古い扇風機をばらしたモーター2個にエンドレスベルトを巻き、モーターの回転数はスライダックで調節します。

 ベルトには、ベルトサンダー用のエンドレスペーパーというサンドペーパー流用し、ベルトがたわまず回転できるようガイドとしてアルミ棒を12本用意しました。  初めの振幅を5cmとして、運動をさせましたが、どんどん振幅が増幅してしまいます。

 電気発振回路のファンデルポールの方程式との関わりについても言及がありました。
 お寿司をのせて。最近は授業受けも意識しています。


 磁場のシミュレーション(植田さん  
 磁場のイメージは電場とともに多くの生徒を悩ませるものです。
 鉄粉を使った装置で立体的に磁力線を見ることができますが、重力の影響もあり、常に観察できるものではありません。

 そこで、植田さんはホロレンズのバーチャルリアリティを利用して、磁場を体験するアプリを開発しました。

 棒磁石を自由に動かすことができ、固定した状態で磁力線を表示することができます。さらに、方位磁針を出現させることもできます。

 鉄粉での説明十分かそうではないか。  皆で同じものを見れるのはいいですね。
 この方位磁針、それぞれに違いがあることが分かるでしょうか?方位磁針の大きさ・濃さで磁場の強さを表すという、植田さんの力作です。
 細やかな表現。植田さんの努力の結晶です。

 かごの鳥 (奥村さん)  

 前回、構想を話していたドローンを使った「かごの鳥」実験が完成し、披露となりました。

 質量はドローン本体は約45g、段ボールは約400g。まずは、閉じられた箱の中での実験です。実験前が450.38g、飛び立つと数gの単位で450.38を上下します。

 平均すると変わらないというのが落としどころです。
 閉じられた箱での実験です。  始めの値を上下します。
 今度は開放されたかごの場合です。はじめの値が334.86gで、ドローン鳥が飛び立つ際には、目に見えて値が増加、10g位増加しました。底面の近くにドローンがある方が、底面に空気が多くあたることから、目盛りのより大きく増加することが説明できます。

 使用したドローンはG10という5000円程度で購入したもの。奥村さんの分析によるとポイントはガイドがあることと気圧センサーがあり、ホバリングができることだそうです。

 開放された箱の場合です。  飛ぶ立つ瞬間目盛りが極大値を示します。


 音の干渉をどう教えるか 〜阪大・京大の入試から〜  (林さん、杉本さん、川田さん、飯田さん  

 7年前のセンター試験の後、川田さんが提起し、大学入試センターに抗議した問題が阪大・京大の入試で白日の下に晒されることとなりました。
 この件に関しては、例会までの期間にも、メーリングリストで多くの議論がありました。

 林さんと杉本さんは阪大の入試問題を実験で検証しました。
 音源として、音叉は音が小さいため、はじめに、開放型スピーカーを、検出には以前に林さんが開発した速度を図ることができるベロシティマイク(磁場中で金属はくが振動するときに生じる起電力を検出)とコンデンサーマイクを使い分け、アンプで増幅し、オシロスコープの波形を比べるという方法で、真相を探りました。
 まずは、コンデンサーマイクで実験しました。スピーカーの正面と反対の向きそれぞれ等距離の場所にコンデンサーマイクを置きます。
 コンデンサーマイクは圧力の変化量を検出する訳ですが、このとき、2つのマイクからの波形は逆位相になりました。
 コンデンサーマイクを使った実験で。  位相が逆転する状態にします。
 次に、コンデンサーマイクの位置に速度をするベロシティマイクを使ってみました。すると、同位相に変わりました。
 その後、音源を音叉に代えて同様の実験を行いました。コンデンサーマイクを使った場合は、同位相の波が検出され、ベロシティマイクに代えると、逆位相の波が検出されました。

 予想通りの結果が出た実験の後、黒板を使っての各自の持論展開が始まりました。

 会場はいつも以上に、生徒には見せられない教壇の奪い合いの無秩序状態に陥りました。講師に来て頂いた増子さんも、変わらぬ愛知物理サークルの破天荒さに呆気に取られていた様子でした。司会の力量不足で申し訳なかったです...

 さて、議論の中身です。
 林さん製作のベロシティマイク。  音叉の周辺の疎密の様子。川村康之教授の本より。
 川田さんは、かねてからの主張である縦波を変位で考えることで起こる問題(平面上を広がる縦波の変位を横波表示するとき、反対方向に進む波はそれぞれ逆位相になり、作図できないこと、変位の方向がxyの2成分あるため、スカラーの和ではなく、ベクトルの合成になること)を示し、疎密(圧力)で考えるべきということを筋道良く明快に語りました。
 飯田さんは、メーリングリストを通しての議論を経て、縦波は疎密で考えればすべてが簡単にいくと考えるようになった経緯を熱く語ってくれました。
 他方で、波の反射を横波と縦波で別々の現象として教える必要が出てくるため、重ね合わせの原理をそのまま適応できるよう、進行方向を正のするのでなく、進行方向を変位の正とし、極座標表示すれば変位の考えで統一できるという声や、縦波の干渉まで扱うべきかどうかという議論等も行われました。
 各々が割り込んで主張を始め、カオスと化す。増子さんも苦笑い。
 議論の途中、井階さんがおもむろに、スリンキーを準備し、実際に縦波の反射を演示できないかと実験が始まりました。固定端で、粗密波が密が密で、疎は疎で反射することは机上でのスリンキーの実験でも、意外にも簡単に確認できました。

 一方、自由端は、疎が密に、密が疎に変化するという事で、比較的速度の速いスリンキ―でのでは、目視での結果の判別は不可能でした。
 そこで、実験室の天井に井階さんが据え付けた紐に金属製のスリンキ―を括りつけ、より波の伝わる速さが小さい本格的な実験を行いました。
 すると、自由端では疎が密になり、密が疎になることが誰の目でもはっきり認識できました。

 予想していた以上にはっきりと実験で確認でき、実り多い時間となりました。
 スリンキーで実験。自由端での結果の判別が困難でした。  観察しやすいようにと本格的な実験を行うことに!

 プラとんぼと手裏剣ブーメラン (児島さん  
 プラトンボと名付けたプラスティック製の竹トンボを考案してきた児島さん。焼き鳥屋で飲んでいたところ四角の串を目が留まりました。

 焼き鳥が抜けにくいことから、プラトンボの空回りを防げるのではと考え、800本1000円(送料1000円)で購入!なお、接着には乾きが早いウルトラ多機能がおすすめです。

 プラとんぼの串をやきとりの串に変更。
 右の写真は、厚み1mmのバルサー板を用いた、手裏剣を真似たブーメランです。忍者に関するイベントでも大人気だったそうです。

 伊賀からみえた川上さんは早速お持ち帰りをしておりました。
 手裏剣風ブーメラン。

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