アメリカにおいて物理学の一大分野と言われるまでになった、物理学教育研究のパイオニアである、リリエン・マクダーモット教授とピーター・シェーファー教授による、研究において得られた経験や研究結果に基づいたカリキュラム・教材開発について、日本の高校教員を対象としての講演会が催されました。
 物理概念が希薄な生徒はどのようなところでつまずくのか、いかにして正しい物理概念の習得を助けるかについて、大学生や高校教員を対象とした調査資料やワシントン大学において開発された教材(”Physics Inquiry”、“Tutorials in Introductory physics”)の解説とともに、この教材を用いた教授法、学習法のデモンストレーションも行われました。

 物理サークルのメンバーも、講演会の会場にて、これまで開発した種主の実験について、参加者に向けてデモンストレーションを行いました。

 Light and Shadow (Lillian C. McDermott & Peter Shaffer  

 Lillian C. McDermott 教授
 物理学教授、ワシントン大学物理教育グループ長。
 アメリカ科学振興会ならびにアメリカ物理学会フェロー。
 ヴァッサー大学卒業後、コロンビア大学にて博士号(実験核物理学)を取得。物理学教育研究のパイオニアとして知られ、
著書“Tutorials in Introductory Physics,”は初学者向け、“Physics by Inquiry”は教員指導用カリキュラムとして様々な大学・高校で使われています。
 Peter Shaffer 教授
 物理学科教授、1985 年よりワシントン大学物理教育研究グループに参加し、”Tutorials in Introductory Physics”, “Physics Inquiry” の開発に寄与。現在は主に、エネルギー・分光学・量子力学に関する学生の理解度調査、科学的推論能力調査の研究に従事しています。


 「Light and Shadow」は光線と像のでき方に関する概念の理解と定着を図るためのチュートリアルで、下記の例のような問題を、5人の小グループで、結果を予想し実験をします。
 実験結果を考察して、次の問題を同様に解いていきます。


 電球は、点光源として考えるのですが、日本の豆電球と違って、確かに点光源と考えてもいいような非常に小さいフィラメントの電球を使います。
 ちいさいけれど、点灯すると非常に明るくなります。

 穴を開けた板を、この電球の前において、後方のスクリーンにどんな形が映し出されるか実験します。
 黒い板をスクリーンと電球の間に置きます。
 点灯すると非常に明るいです。   非常に小さなフィラメント。ほとんど点光源です。
  
 こちらは、フィラメントが直線になっている電球。
 点光源を線光源に変えたとき、スクリーンに映る形はどう変化するかを調べます。
   
 板の穴の形を変えたとき、光源を変えたとき、・・・・
 質問を少しずつ変化させて、その都度、結果を予想し実験で確認していくうちに、映し出される形を統一的に理解する原理を発見していきます。
 最後に、より複雑な問題(ポストテスト)に対しても、発見した原理を適用することにより、容易に正答を導き出すことができるようになります。

 いろいろな分野についても、同様のステップで物理概念を正しく理解適用できる力をつけるようにします。

 効果的な実験とステップを多く見出すことが、これからの研究なのだろうと、感じました。
 さらに、物理学の学習が、他の学問の理解にも活用できるという話もありました。
   

Stray Cats Demonstrations   
 リリエン・マクダーモット教授とピーター・シェーファー教授のチュートリアルは、細かいステップで本質的な理解につなげていこうとするものですが、物理サークルの投げ込み教材は、本質的な実験を生徒に投げ込むことで、生徒の考える力を生み出そうというものです。 
  
 
 1番手は藤田さんです。                                  
 A Candle-flame, a Treasure Box with Full of Educational Materials
 −ロウソクの炎も,極地の空を彩るオーロラも,そして太陽もプラズマ−

ロウソクの炎がプラズマであることを,炎に電場をかける実験や小さな電極を入れて電流を測るプローブ測定で確かめます。
 これらの実験と,関連する解説を通してプラズマについて学ぶとともに,巨大なプラズマである太陽で起こっている核融合,それを地球上で実現する方法などについても学びます。

(ここでは,前半の炎に電場をかける実験についてのみ述べます。)

 外国の方向けに、英語で発表しました。

 おかげで、残りのメンバーは理解がいまいちだったようです・・・・・・・。                                     
 
 
 2番手は川田さん
アルミ棒を伝わる縦波の音速とヤング率 

  長さ67.0cmのアルミ棒の中央をしっかり固定し、ハンマーで叩きます。初めは多くの倍音が混ざるが、時間が経つと倍音が消え、澄んだ純音だけになるので、この波形をデジタルオシロで記録し、振動数を読み取ります。
 これらの値から、音速とアルミのヤング率を出します。
 金槌でたたくとキーンと澄んだ音が出ます。  音速やヤング率の求め方についての説明。
  
 
 3番手 山岡さん
 コンデンサの問題

大容量のコンデンサ(1F,5V耐圧)のコンデンサを3つ直列につなぎ、電池をつなぎます。

(1)コンデンサの充電が完了したら電池をはずし、真中のコンデンサに豆電球をつけます。点灯します。消灯まで待ちます。

(2)豆電球が消灯するまで待って、今度は両端に豆電球をつなぎます。当然(?)点灯します。今度も消灯するまで待ちます。

(3)さて問題です。 この状態で再度、真中のコンデンサの両端に豆電球をつなぎます。豆電球はどうなるでしょうか?

    
    
 4番手 川上さん
 
 どうなる?豆電球の点灯
 


  
 
 どっちが早い? 

 2つのコースがあります。同じ大きさで同じ質量の鉄球を同時に離します。
 A,Bどちらの鉄球が早く到着するでしょう。
   
   
 

 5番手 前田さん

 光の回廊
 
 鏡とハーフミラーを使って、電球の見え方を尋ねました。
 
  四角のボックスが鏡とハーフミラーでできた箱。   右の円筒がハーフミラーでできた円筒
   

3面鏡の箱の中に手前が赤、奥が青の光源があります。
前面に外からハーフミラーを入れてゆくとこの光源はどのようにみえますか?

   回転する発光カラーダイオード3個を円筒形のハーフミラーの中に入れるとどのようにみえますか? *
 
  
 
 6番手 林さん

 机上で測定できるフィゾー現代版光速度測定装置       
 開発中の、安価で小型の光速度測定装置の発表です。
 
 フィゾーの実験装置の概略図

 
 現代版実験装置の概略図LEDを10MHzの信号で振幅変調して発光させ、反射して戻ってきた光の位相差を検出して往復の時間を求める
    
    

 最後は 飯田さん
 CD、DVDで作る円形の虹

 上方の点光源からの光をCDやDVDの表面で反射させると、干渉により美しい円形の虹が見えます。
 
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        
 
 では、点光源ではなく、平行光線ならどんな色が見えるでしょうか。

 懐中電灯(ちょっと高価で平行ビームを出します)でCDに光を当て、反射光をスクリーンに当てます。
 点光源と同様の円形の虹ができているように見えますが・・・
 CDを半分黒い紙で隠してみると右の写真のような虹が映ります。
 どうしてこんな形になるか説明できますか?
  
 

 林さんの高感度霧箱についても説明をしました。

 線源がないにもかかわらず多くの飛跡を見ることができます。
 
  
 たくさんの参加者の方が最後まで熱心に聴いてくれました。
 心より感謝申し上げます。