学 習 指 導 案

指導者:○○ ○○

指導日時:2001年 6月 ○日,○日,○日,○日

指導場所:物理実験室

指導学級:物理○a講座(男子21名,女子17名,計38名)

指導教官:川村 康文

 

1.授業の題目 : 等速円運動「実験:等速円運動の力学的解析」

 

2.単元設定

(1)単元観

 これまで,一年間かけて物理の基礎を学習してきたが,いずれの単元にしても円運動を伴った力学的解析はしなかった.しかし,円運動は自然界の運動解析においては避けて通ることの出来ない現象である.円運動は慣性座標系と非慣性座標系での見方によって異なって観察される.

本単元においては実際に円運動を直接体験することによって,非慣性座標系における力学的特性を解析,発見し,物理学的な実験の解析方法を知ることを目的としている.

(2)生徒観

 本実験においては,等速円運動の理論的講義は事前にされていない.今回,指導の対象となるのは理系の高校3年生であり,物理を習い始めてから1年を過ぎた時期である.時期的には物理ができる生徒とできない生徒に別れ始める時期である.また,実験となると非常に面倒くさがる生徒も多くいると予想される.

(3)指導観

 指導の方針としては,実験を通して生徒自らがデータを出し,処理する過程を学ぶことに重点を置き,生徒同士のディスカッションなどによって色々な方向から対象を見る訓練がなされるよう指導をする.

 本実験の目的から,既習の公式を単に当てはめ,その妥当性,誤差を吟味する実験ではなく,実験結果から自分なりの公式,結論を理論的に導く体験を生徒にしてもらうため,受験物理の公式のに走ること無いよう助言を与える.ただし,生徒に実験目的は明確に伝える.

 今回は実験を通して数式による解析とは違う一面に触れることで,物理に必要な実験解析の感覚を持ってもらうことを第一に考える.

 

3.授業の獲得目標

(1)1時間目,2時間目

 教科書に掲載されている測定法を用いて,生徒自らが加速度の測定を行い実験データをそろえる.実験方法および処理方法はこちらから指定するものとするが,実験データの計測範囲,回数は基本的に任意とする.ただし,適宜助言を与える.

(2)3時間目,4時間目

 前回行った実験により得られたデータをグラフ化等の方法を用いて処理する.その結果を元に何らかの法則を見つけだすよう試行錯誤する.それに応じてデータの再計測が必要となれば順次計測する.また,基本的な統計ソフトのリテラシーを習得する.

(3)5時間目,6時間目,7時間目,8時間目

 これまでのデータおよび実験結果を元に考察したことがらを実験レポートとしてまとめる.レポートは技術報告書の形態をとり,理論的に展開し,端的にまとめる.

 

4.必要な教材

(1)1,2時間目

中空丸棒(各班1本) ・ナイロン糸(1m程度) ・ゴム栓(各班数個) ・1m定規 

おもり(各班数個) ・実験プリント(各人一枚配布) ・グラフ用紙  ・筆記用具 

・パソコン各班1台 ・関数電卓 (各班一台以上) ・ストップウォッチ(班台数分)

(2)3,4時間目

・筆記具  ・パソコン各班1台(エクセルインストール済み)・プリンタ ・グラフ用紙

・定規  ・数色の色ペン  ・実験プリント ・関数電卓(各班一台以上) 

ストップウォッチ(班台数分) ・おもり(各班数個) ・中空丸棒(各班1本)

ナイロン糸(1m程度) ・ゴム栓(各班数個) ・1m定規 

(3)5,6,7,8時間目

・筆記具  ・レポート用紙  ・グラフ用紙  ・定規  ・実験プリント ・おもり

パソコン各班1台(エクセルインストール済み) ・プリンタ 

関数電卓(各班一台以上) ・ストップウォッチ(班台数分) ・中空丸棒(各班1本)

ナイロン糸(1m程度) ・ゴム栓(各班数個) ・1m定規 

 

5.授業展開

(1)1,2時間目:手製実験器具を用いた生徒実験(物理実験室)

時間

学習活動

説明

留意点

5分

・挨拶

・出欠の確認.

・プリントの配布

・プリントの配布と同時に今回の実験の題目を説明する.

・席はあらかじめ名簿順に班分け扉に貼りだし,それに則して座る.

20分

プリントを使って本実験の趣旨を説明.

同様に実験器具の使い方,実験データの処理についても説明を加える.

等速で回転する物体にかかる力は中心からの距離によってどのように変わるのか.また,回転速度との関係,周期の変化はどのようであるか.

糸が傾いている場合の解析方法はレポートの課題とする.

70分

実際に器具を使ってデータの計測に取りかかる.

休憩中の注意を行う.

ベルが鳴り次第休憩に入る.

グラフはそれぞれ縦軸横軸に何が示されているのかを明示して,データの種類ごとに色分けすると見やすくなる.

グラフから,関数関係を決定する.

休憩中は実験器具(加速度計)を振り回さないよう注意する.(立ち歩くことが多いので危険)データ処理は続けてもらってもよい.

実験器具を振り回す際に周りに注意を払う.

実験器具を回転させる人は一人に決め,交代はしないようにする.(手のスナップの調子をできるだけそろえるため)

適宜巡回し,データ処理に戸惑っている場合は助言し,場合によっては手伝う.

グラフの関係式を導くのに手間取っている場合は,グラフが簡単な線形となるように誘導する.

5分

実験器具の後片づけ.

挨拶をする.

実験データは次の時間まで大切に保管すること.

次回も物理実験室に同様に入ることを言う.

 

 

(2)3,4時間目:実験データ処理(物理実験室)

時間

学習活動

説明

留意点

5分

・出欠の確認.

・プリントの配布(表計算ソフトの使い方)

・今回は前回と同じ事をしてもらうが,グラフの作成において,コンピュータによる処理を取り入れる.

・プリントの配布に無駄な時間がないよう留意する.

40分

プリントを使って,パソコンを使った実験データの処理について説明を行う.

実験データを表計算ソフトに打ち込み,表を作る.

作った表より,グラフ化し,近似曲線を描かせる.

作ったグラフより,縦軸と横軸に取った物理量がどのような関係にあるのかを推測し,それを裏付けるような結果を更に示す.

各自が前回および今回の授業で作った手書きの近似曲線と比べ,どのような差があるかを考える.

表計算ソフトによって得られた近似式は全面的に信用するのではなく,参考程度にする.

パソコンに不慣れな生徒も多くいると予想できるので,実演も含めて説明する.

手書きのグラフは下書き程度で,提出は表計算処理をしたグラフとする.

手書きは,実際に手でグラフを描くことによって,その図中に含まれる関係が見えてくることが多いことを念頭に置く.

表計算ソフトによって得られた近似式は全面的に信用するのではなく,参考程度にする.

50分

実験器具を使ってデータの再,追加計測をする.

実験データの処理を行う.

グラフはそれぞれ縦軸横軸に何が示されているのかを明示して,データの種類ごとに色分けすると見やすくなる.

希望があるならば,表計算ソフトによって描いたグラフを出力しても良い.

実験器具を用いて実験する際に周りに注意を払う.

適宜巡回し,データ処理,パソコンへの取り込みに戸惑っている場合は助言し,場合によっては手伝う.

・コンピュータ・リテラシーを習得している生徒には積極的に手伝ってもらうよう言う.

5分

休憩中の注意を行う.

・ベルが鳴り次第休憩に入る.

休憩中は実験器具を振り回さないよう注意する.(立ち歩くことが多いので危険)

・データ処理は続けてもらってもよい.

・パソコンの電源を切る場合はちゃんとした終了処理をするよう指導する.

 

(3)5,6時間目:実験レポートの作成および実験データ処理(コンピュータ室)

 

時間

学習活動

説明

留意点

5分

・挨拶

・出欠の確認.

・今回は前々回と前回で得られたデータとグラフなどを元に,実験レポートを書いてもらう際の基本的事項についていくつか述べる.

座席は前回と同様に着席する.

事前にレポートを書く際の教科書に載っていない注意を板書しておく.

20分

教科書を使って実験レポートの書き方の説明をする.

今回の実験レポートは技術報告書の形態に近い形で書いてもらう.

レポートの構成は,

概要,1.目的,2.理論,3.実験方法,4.結果,

5.考察,6.結論,

参考文献,(感想),付録

 とする.

・字数,およびレポートの枚数は指定しないが,冗長にならないようにする.

理論において既知であることは,今回の場合,糸が傾いている場合の解析についてである.

考察は感想ではなく,理論的な展開および,考えに基づいて結論,予測を導き出すものであることに注意しなくてはならない.

結果は実験によって得られた結果を事務的に報告し,結論は目的に沿ったものである事に注意する.

感想は,1〜2行程度で何を書いてもよい.

70分

実験データが十分でない場合は,実験器具を使ってデータの追加計測をし,実験データの処理を行う.

レポートの作成を行う.

実験データの採取は今回で最後である.追加計測を行う班は急ぐこと.

結果の処理について,生徒同士のディスカッションをすることで考察を深めることを勧める.

適宜巡回し,作業が滞っている場合は助言を与える.

5分

実験器具の後片づけ

パソコンの終了処理

レポート提出の指導をする.

挨拶をする.

パソコンの終了処理について順に誘導する.

パソコンの電源を切る場合は手順を守るよう指導する.

 

(4)7,8時間目:実験レポートの作成および実験データ処理(コンピュータ室,物理実験室)

 

時間

学習活動

説明

留意点

5分

・挨拶

・出欠の確認.

・今回は前々回と前回で得られたデータとグラフなどを元に,実験レポートを書いてもらう際の基本的事項についていくつか述べる.

座席は前回と同様に着席する.

事前にレポートを書く際の教科書に載っていない注意を板書しておく.

90分

実験データが十分でない場合は,実験器具を使ってデータの追加計測をし,実験データの処理を行う.

レポートの作成を行う.

実験データの処理は今回で最後である.追加計測を行う班は急ぐこと.

結果の処理について,生徒同士のディスカッションをすることで考察を深めることを勧める.

適宜巡回し,作業が滞っている場合は助言を与える.

5分

実験器具の後片づけ

パソコンの終了処理

レポート提出の指導をする.

挨拶をする.

パソコンの終了処理について順に誘導する.

レポートの提出期限は授業中の出来具合によって判断し明確に伝える.

実験レポートは添削すべき点が有れば添削し,後に返却することを生徒に伝える.

パソコンの電源を切る場合は手順を守るよう指導する.

 

6.本時の評価

実験目的を的確に捉え目的に添った実験データを集めることができたか.

実験データを適切な方法を用いて処理できたか.

処理した実験データを元にして自分なりの理論を展開できたか.

既に知られている結果や理論について自分で調べることができたか.

実験を通して等速円運動の特性を知り,理解できたか.

自然現象に対する物理的考察力を養うことができたか.

 

7.配布プリントおよび板書

(1)1時間目配布プリント

実験「等速円運動」

<はじめに>

 これまで,力学として学習してきた内容は直線運動が中心であった.しかし,自然界における運動が全て直線運動であるわけではなく,複雑な曲線で構成される運動も少なくない.

 本実験において曲線運動の中でも最も単純な等速円運動の特性を解析する.

 

1.目的

 本実験の目的は,手製の実験器具(教科書参照)を用いて等速円運動の特性,特に回転周期と回転半径,運動する物体に作用する力の関係を明確にし,等速円運動の理解を深める.

 

2.実験方法(器具の扱い)

(1)実験器具の作成.

 教科書に掲載されている実験器具(以下実験器具)は既に作成されている.作成に必要であった材料は以下の通りである.

 ・中空丸棒 ・ゴム栓 ・おもり数種類 ・ナイロン糸

 作った実験器具の物体(ゴム栓)を回転させる際は,その役割を1人に任せ,任された人は回転の調子をできるだけ変えないようにすること.

 また,ナイロン糸にあらかじめ印を付けておけば回転の安定を判断するのに有効である.

(2)実験データの取得.

 今回行う実験は以下の各条件の下で行う.条件は

@物体とおもりを変えずに,回転半径を変えて行う.

A物体と回転半径を変えずに,おもりの重さを変えて行う.

Bおもりと回転半径を変えずに,物体の質量を変えて行う.

である.

・回転周期Tの取得

 ストップウォッチを用いて回転する物体の周期T〔s〕を測定する.10周するのに要する時間を計り,1周あたりの時間を算出する.これは3回ほど計測し,その平均を取るものとする.

(3)実験データの処理.

 おもりの重さM,物体の重さm,回転半径rによる周期の変化を整理する.

 この時,計測したデータを表にする.表は「3.データ処理法(2)表の作成」を参照.

(4)得られた実験データのグラフ化.

 得られた実験データをグラフ化する.少なくとも,半径r―周期Tグラフは作成すること.

 

3.データ処理法

(1)解析

 糸が傾いていようといまいと,回転半径rと物体に

作用する加速度との関係は変わらない.

 右図のように糸が水平からθだけ傾いていたとする.

この時の真の半径はRであり,物体に作用する力は

あり,

     cosθ , R=rcosθ

と表される.

 今回計測するのは(||=|M|)と,rで

あるので傾きθによる影響は相殺されることが解る.

 (ここで,はベクトルである.)             図1

 この他,物体にのみ注目したときの釣り合いからも同様に

cosθが打ち消されることが解る.

 この正確な証明はレポートの課題となる.

 (本実験の結果から,回転周期と回転半径,運動する物体に作用する力の関係が導かれたなら,θの変化がこの実験に関与することがないことを証明してもよい.)

(2)表の作成

 本実験において作成する表は,以下のような形態をとる.(単位省略)

物体の質量m= m〜m  (班により変わる)

   半径r

おもり

の重さM

r=0.2

r=0.28

r=0.36

r=0.44

r=0.52

周期T

Ave

周期T

Ave

周期T

Ave

周期T

Ave

周期T

Ave

=50

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

=80

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

=110

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

=140

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

=170

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここで,周期Tは3回測り,Aveにはその平均を入れる.また,一つの変化に対して回転半径r〔m〕は0.2,0.28,0.36,0.44,0.52の5種類を取る.

 また,この表の形態は個人の見やすい形に変えても良い.

 

4.諸注意

実験器具を回すときは周りに十分に注意すること.

パソコンの終了は手順を守り,決して電源をすぐに切ったりしないこと.

パソコンなどは精密機器である.丁寧に扱うこと.

 

 


(3) 課題<糸が傾いている場合の解析> 

 物体,およびおもりの質量をそれぞれm〔kg〕,

M〔kg〕とする.右図に置いて,糸は水平面から

θ〔゜〕傾むいているとすると,糸の張力Tと,

重力mが物体に働いている.ここで,糸および

物体は釣り合っているので,

 糸の釣り合い |M|=|

 物体の釣り合い ||=||  ……… (1)

 ただし,  =mF’ , F’cosθ である.

 ここで,θ=0の時, ||=||=|F’|となり,

θがいずれの値を取った場合も(1)式は成立する.

 このことより,糸が傾いている場合も等速円運動の周期に変化が起こることはない.

 

(2)3時間目配布プリント

表計算ソフト(Excel)でのグラフ描画

 

@図1のようにセル(箱)に数値を入力し,表を作る.作った表全体をドラッグ(左クリックしたままマウスを移動)し,グラフにする範囲を指定する.

Aグラフウィザードのアイコンをクリックする.もしくは,メニューバーから挿入()を選び,その中からグラフ()を選択.(図2)

Bグラフウィザードが起動したら,グラフの種類を選択する.今回の場合,散布図,折れ線図が妥当であろう.また,それぞれの中から形式を選び,“次へ”をクリックする.(図3)

C図4の様に表示されれば,グラフの系列を選び,“次へ”をクリックする.グラフの系列は行(横方向)を固定してグラフを描画するか,列(縦方向)を固定して描画するかを選択できる.

Dグラフオプションでは,グラフのタイトルや,x,y軸が示すものを入力し,“次へ”をクリックする.(図5)

E図6ではグラフを作成する場所を選択できるが,基本的にどちらでもよい.新しいシートを選べば,大きく表示できるが,データと同時に見ることはできない.オブジェクトを選べば小さい表示となるが,データと同時に見ることができる,という程度でよい.

F次に近似線を表示したい場合,図7のようにグラフの近似線を表示したい線上で右クリックをして近似曲線の追加を選択する.すると,図8−1のように表示されるので,追加したい近似線を選択する.また,オプションからは,数値表示や,切片の設定などが可能である.

 

    

     図1              図2               図3

 

    

     図4              図5             図6

 

    

     図7             図8−1           図8−2

 

(3)5時間目板書案

 報告書の書き方

 報告書の書き方は教科書p.174−175(平成13年度用東京書籍)を参照のこと.

 レポートの構成は,概要,1.目的,2.理論,3.実験方法,4.結果,5.考察,

 6.結論,参考文献,(感想),付録とする.

<注意>

報告書には表紙を作り,表紙に題目,氏名などを明記すること.

2ページ目,目的の項の直前に,本実験の全体を通した概要をまとめること.

結果には実験より得られた結果を事務的に記すこと.結論は目的に沿って結論づける必要がある.

考察とは感想と別物.理論的に自分の考えをまとめること.また,参考文献から引用したのであれば,それが判るように番号などをふること.感想は巻末に記す.

付録は本来レポート本体にまとめられなかったことを付け足すものである.今回の場合,自分の得た知識をまとめてみても良い.