小型ビデオカメラによる微小重力実験

                                          神奈川県立湘南台高等学校
                                          横浜物理サークル  山本明利

 NIFTY-Serve【理科の部屋】での議論からヒントを得て表記の予備的な実験を
試みたので報告する。

 重力に身を任せて自由落下する観測者には、いわゆる「無重力状態」が実現す
る。これを実現するには一般に宇宙船などの大掛かりな実験設備が必要にである。
したがって、私たちはせいぜい宇宙飛行の記録映像でこれを間接体験し、「自由
落下するエレベーター」のような思考実験によって想像をたくましくするほかな
かった。
 しかし、小型のCCDビデオカメラの登場で、私たち一般人もその気になれば
比較的簡単に、間接的ながら「無重力」を目の当たりにすることができるように
なった。要するに、実験対象を仕込んだ箱に小型ビデオカメラをとりつけて、カ
メラもろとも落下させればよいのである。
 とは言え、ハンディカムのようなカメラを落下させるのはリスクが大きすぎる。
しかし、デッキ部を持たず、CCDと光学系だけが独立した超小型カメラを用い
れば、極めて軽量で、メカニカルな部分がないので衝撃にも強そうである。さら
に、ビデオトランスミッターという小型送信機を用い、撮影した映像をワイヤレ
スで伝送し、室内アンテナで受信してビデオデッキで記録すれば、わずらわしい
コードの処理も不要である。もちろん、カメラもトランスミッターもバッテリー
で動作するものを用いる。
 1995年12月に行った予備実験では下記の装置を段ボール箱などの中にセットし、
ほんの一瞬の微小重力の世界を記録した。

A:カラービデオカメラ《まめカム》 CCD−MC1 (SONY)
B:リチャージャブルバッテリーパック NP−55H (SONY)
C:ビデオトランスミッター UT−101 (UNIKOM)
D:カメラ固定用小型雲台
E:UHF用室内アンテナ TA−V2 (National)
F:ビデオデッキとモニターテレビ

 Aのカメラはハンディカムやビデオウォークマンのアクセサリーとして発売さ
れているもので、ハンディカムの光学系と受光・撮像回路だけを独立させたよう
なものである。デッキ部はなく、単にビデオ/音声信号が取り出せるだけで、ハ
ンディカム用の充電式バッテリーで動作可能である。映像信号はこのカメラで撮
影し、即、電波にのせて送信する。これを室内に置いたアンテナEで受信してF
のVTRデッキで記録すると共に、モニターに出力してリアルタイムで観察する。
映像信号をUHFの電波に変換するのがトランスミッターCで、バッテリー(0
06P)で動作する。重量はカメラ、バッテリー、トランスミッターで計625
gと軽量である(図1)。これらを用いて以下のような実験を行った。

【実験1】微小重力下のロウソク

 カメラの前でロウソクをともしてカメラ・トランスミッターと共に箱に入れ(
箱は風防代り)、両手で頭上まで持ち上げて箱もろとも床に落下させる。無重力
になると空気の対流が起きないので、長く伸びたロウソクの炎が丸くなるのが観
察できるのでは?という実験である。ロウソク自身が光源なので撮影も楽である。
概念図を図2に示す。

 もちろん、衝撃に備えて回路部とトランスミッターは緩衝材で保護した後、箱
内にガムテープで固定、カメラ部はむき出しだが、ふっとばないように板に固定
して箱の底にはりつけた。ロウソクも同じ板の上に立ててカメラのアングルを調
整しておく。床にも緩衝材を敷いておく。
 さて、ロウソクに火をともし、箱のふたをして、頭の上まで持ちあげて箱ごと
自由落下させる。落下距離は2m程なので、実験は1秒もかからずに終わる。ト
ランスミッターが動くことによる画像の乱れもなく、床との衝突の瞬間もはっき
りとらえられる。コマ送りで観察すると1秒足らずの実験もゆっくり観察でるの
で十分実用になる。
 微小重力下のロウソクの炎をコマ送りで詳しく観察すると、落下しはじめる直
前まで長く伸びていた炎(図3a)が、落下の瞬間急に半分以下の長さに縮み、
火勢が衰えるように見える(図3b)。空気の流れが悪くなって酸素の供給が不
足するためだと思われる。しかし、炎は完全に丸くはならず、やはり紡錘形をし
ている。原因はよくわからないが、空気の流れが若干はあることになる。箱が受
ける空気抵抗で、完全な無重力にはならないためかもしれない。
 そして、床への激突の瞬間、炎は平常燃焼時よりも極端に伸びて(図3c)、
直後に衝撃のため消える。炎が伸びるのは炎の周りに瞬間的な強い気流が生じて
いることを示している。おそらく急減速の際、上向きの大きな加速度のせいで
(みかけの)重力が増し、浮力も大きくなるので強い上昇気流が発生するのだろ
うと考えられる。もちろん一瞬のことであるが。

  (図1)落下前の炎の状態(長く伸びて明るく燃えている)
  (図2)落下中の炎の状態(炎は縮んで暗くなるが、なぜか球形ではない)
  (図3)床に激突した瞬間(炎が一瞬極端に伸びて燃え上がり、直後に消える)

【実験2】微小重力下の単振り子

 次に、カメラの前で小さな単振り子を揺らしておいて、箱ごと自由落下させる。
0Gのもとでは振り子は振動できないはずである。
 落とすタイミングがけっこうむずかしく、振幅いっぱいまで振れた瞬間に手を
放すと、初速度が0なので糸が傾いたまま静止している(図4)。一方、      

図4    
       
振り子が速度を持っている時に手を放すと、糸と直角な方向に初速度があるので
そのまま糸を緊張させつつ等速円運動に入り、やがて壁や天井にぶつかることに
なる。この予備実験では箱が小さかったのですぐに壁に激突して運動は乱れてし
まったが、直前まで小幅に振れていたのが振幅を越えて運動するようすが観察で
きた。
 この実験では採光のため箱をプラスチックの虫かごにかえて、外界が見えるよ
うにしてみた。落下物体からの視点もそれなりにおもしろいが、つい動く背景の
方を見てしまうので善し悪しである。

【謝辞】
 以上、急ごしらえの微小重力実験のあらましをご報告した。冒頭に述べたよう
に、この実験は【理科の部屋】の話題からヒントを得て実現したものである。極
めて有用な示唆を与えてくださった、檀上さん、鵠沼さん、薬師さん、HAN.さん
にこの場を借りて御礼申し上げる。

【参考文献】YPC二ユースNo.93(横浜物理サークル)


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