例会速報 2017/03/20 県立麻生総合高等学校


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授業研究:波の授業 水上さんの発表
 水上さんの授業コンセプトは「生徒に『教科書を辞書代わりに使えば80%の物理の問題は解ける』と思わせる」である。授業では以下のものを用いている。
① パソコン、プロジェクター、黒板貼り付け+書き込み式スクリーンを教室に持ち込む。以下の②~④を必要に応じて提示する。(教科書へのアンダーライン引きやプリントの空欄埋めは写真のようにホワイトボードペンを用いる。なお、鎌倉学園では各教室に電子ペン対応のプロジェクターが設置されている。)チャイムと同時に開始できるように教室には5分前に行ってセットしている。
② 教科書(PDFファイルを投影)(指名した生徒が窮したときには、「キーワードは**、索引をみなさい」と助言し、該当ページを提示している。たいていこれで解決する。)
③ 授業プリント(授業で扱う問題は穴埋めあるいは選択式、それ以外の問題は詳解付き。用いる公式や必要な知識には教科書の該当ページが添えられている。)空欄は指名された生徒が答える。


④ 現象の映像と説明用のパワーポイント(下段左の写真)→教科書の理解促進・公式の説明・指名された生徒の解答を助ける など、必要に応じて利用する。なお、これらは9割以上が水上さんの自作である。
 


 例会の席で、参加者から「単振動のy-t図の意味が分からない生徒への説明は?」の質問があり、参加者の提案で「ばね振り子の映像を白紙に投影し、静止(pause)→位置を白紙上に打点→数コマ進める→白紙を左にずらす→位置を打点→・・・を繰り返してy-t図を描く」ことが試された。(写真右)
 


ゴム動力トンボ・4 天野さんの発表
 毎回、「ゴム動力トンボ」(呼称もまだ一定していない)の開発過程を報告してくれている天野さん。今回はなんとか「浮いた」。まだ勢いよく飛び上がるという感じではないがなんとか飛び上がるようになった。ゴムのパワーを増すために機体を頑丈にすると、それが重量の増加につながるという課題がある。実際の飛行機やヘリコプターでも同じ問題が起こるのだろうなと思う。
 


ドップラー効果 天野さんの発表
 天野さんはドップラー効果の演示用に簡単な移動音源を作った。音源を放ると危ないので、ブザーに滑車をつけてひもにそって滑走させる。ひもをうまく操ると往復も可能。動画(movファイル3.3MB)はここ。ドップラー効果は音源や観測者の運動により、観測される音の高さが変わる現象だが、生徒は「音の強弱」の方に気をとられて勘違いしてしまうことがあるので、演示の際には注意が必要だ。
 


気柱の共鳴 水上さんの発表
 水上さんは、以前に紹介してくれたパソコンを利用した気柱共鳴の黒板実験をさらに改良した。
 1つ目、最近のパソコンにはマイク端子が無い。またHDMIケーブルを使うときには映像だけでなく音もプロジェクター優先となってしまい、イヤホン端子から音が出なくなる。しかしUSB用のマイクにはイヤホン端子がついており、HDMIを使用していてもこの端子につないだイヤホンから音が出る。これをスピーカーとして用いればパソコンを利用して黒板上で気柱共鳴の実験ができる。
 


 2つ目は、オシロスコープソフト「振駆郎」を利用して気柱の固有振動数を1Hzの位まで測定する工夫である。「振駆郎」には録音機能とそのデータを表示する機能があるので、8秒間の録音を選択し、この間に振動数を例えば200→201→・・・→210と変化させて開口端の音をマイクで拾って録音し、右の写真のように指定部分(写真上方の黄色い区間)を拡大して振幅の大小を観察する。これが極大になるときの振動数(閉管の基本振動数205Hzだった)を固有振動数とする。
 また、この実験では温度計も利用している(左の写真では25.4℃)。音速はV=331.5+0.6×25.4=346.74m/sになるので 波長λ=V/f=346.74÷205≒1.6914m、λ/4≒0.423m が得られる。
 


 巻き尺で閉管の長さを測ったところ0.398cmだった。したがって、開口端補正が0.423-0.398=0.025m(25㎜)になることがわかる。さらに205Hzの3倍振動数は615Hzになるはずだが、測定してみると、610~615Hzの範囲で振幅が極大かつ同じ大きさだった。中央値は612.5Hzである。同じ管でも開口端補正の値は振動数とともに変化するのだろうか。

数学セミナーの実験数学 車田さんの発表
 平成29年度からの「数学セミナー」の表紙に数学に関する物理的な実験の写真が掲載される。その第1回目(2017年4月号表紙)の実験を再現した。明治大学理工学部の矢崎成俊先生の「実験数学読本」より「与えられた一つの空間閉曲線を境界とする表面積が極小となる曲面は存在するか」という問題の実験的解答である。
 同じ大きさの2つの円環を平行に向かい合わせ、セッケン膜でつなぐと、表面張力による極小曲面ができあがる。この場合は懸垂線(カテナリ)を回転して得られる曲面となる。洗剤とグリセリンを1:1に混ぜたシャボン液を用意し、まず片方のコップに膜を張り、2つのコップの口を合わせる。そこに上からスポイトでシャボン液を補充する。これを静かに左右に引き離していく。コップを鉄製ブックエンドにネオジム磁石で固定したのはいいアイデアだ。
 


 数学セミナーの実験もプラスチックコップで行っているが、そのまま引き離すと膜がコップの中に入り込んでしまう。これを防ぐためにはコップの側面に穴を開け、内外の気圧を等しくしてやればよいのだそうだ。
 美しい虹色の曲面ができると参加者から歓声が上がった。重力が作用しているため上側と下側の懸垂線はわずかだが違うようだ。動画(movファイル10.5MB)はここ


カラフル・ウェーブマシン 成見さんの発表
 「カラフル・サイエンス」のシリーズでビジュアルに訴える実験器具を開発している成見さんは、スーパーボールと竹串を用いてカラフルなウェーブマシンを作った。竹串100本、スーパーボール200個を長さ5mの強力なガムテープに並べて貼り付けたもの。ゆっくりと、ダイナミックに波が伝わっていく。スーパーボールの穴あけには電動ドリルを使用。5mのガムテープ上に竹串100本をずらさずに並べていく作業にはなかなか苦労したそうだ。
 


カラフル・重心ボックス 成見さんの発表
 重心下が接地していると物体は倒れないことを示す演示グッズとして、2015年5月例会で勝田さんが空箱を用いて演示していたが、成見さんはカラフル、かつユーモラスな顔を付けたものをたくさん制作してみた。鼻のように見える矢印が揺れて常に重力の向きを示す。
 


 色の順に並べてみるとまさに「カラフル」。いろいろな表情があって楽しい。カラーセンスもさることながら「目をつける」という発想が成見さんの優れたセンスだと思う。


100均のカラフルグッズ 成見さんの発表
 百円ショップのおもちゃコーナーも要チェック。物理の授業に使えるアイデアグッズが発掘できる。写真はダイソーの「おふろでフルート」。筒の中に入れる水量で音の高さを変えることができる。筒が透明なので中の様子がわかるので教育的。気柱共鳴の授業で便利。
 


 左の写真の手前に見えるのがキャンドゥの「ピューピューリコーダー」。白いピストンを抜き差しして気柱の長さを変える。その上は「クラシックマイギター」。電動でないことと、ペグで弦の張力も変えられる点が便利。その上と、右の写真は「COLOR FLAME」。炎色反応で炎の色を楽しむロウソクだ。部屋を暗くして回折格子でスペクトルを観察すると面白そうだ。
 


光の三原色・朝日新聞の記事から 山本の発表
 2017年3月11日付の「朝日新聞be土曜版」に三原色と補色に関する記事が載っていた。人間の視覚生理学について、わかりやすい図と詳しい解説があって参考になる。「白色を作るには赤、緑、青の3色の光が必要」と言ったら「間違い」だそうで、「白」の感覚は青と黄など、補色関係にある2色で作り出せるという解説だった。そういう関係を「補色」と呼ぶのだから、当たり前と言えば当たり前である。ただ、青と黄で作った白色光では「赤」の感覚は作り出せないので、肉などの色味が悪くなるのが欠点だそうだ。つまり「フルカラーの感覚を作り出すには三原色が必要」と言えばよいのである。
 


集合抵抗パズル 山本の発表
 秋葉原などのパーツ屋の店頭に「ジャンク袋」なるものが並ぶことがある。売れ残り、廃棄品、再生品など、要するに処分寸前のガラクタパーツを詰め合わせた「福袋」のようなものである。「めぼしいモノ」が入っていて元が取れそうだと判断すれば買うが、「めぼしいモノ」以外は結局廃棄することになる。写真の「集合抵抗(抵抗アレイ、SIP抵抗)」もその1つ。M6-1-391J(6ピン、1回路、390Ω、誤差5%の意味)という型番で、図のように390Ωの抵抗が5個並列に入っており、左端にコモン端子が出ている。100個もあるが使い道がないので捨てようと思ったが、最後のお役目にパズルを考えた。
★問題:この集合抵抗1個で何種類の合成抵抗が作れるか。ただし、不使用のピンがあってもよいが切断してはいけない。抵抗値が等しいものは1種類とみなす。★
 捨てる前に、こういう素子もあるのだと生徒に観察させ、ちょっと頭をひねらせるのもよいのではないか。そうすればこのジャンク品も浮かばれようというものだ。なお、正解は10種類である。
 


正解ですけど…… 平野さんの発表
 2月に実施された平成29年度神奈川県公立高等学校入学者選抜学力検査・共通選抜全日制の課程・理科の問題について討議した。物理分野の問5は、〔実験1〕と〔実験2〕の二つの実験で構成されている(写真左)。〔実験1〕では斜面上に置かれた台車に糸を付け一定の力で、ある距離を引いたところで糸をはなす実験をし、〔実験2〕では糸を引く力の大きさと引く距離を変えずに斜面の角度を小さくして同様の実験をする。最後の小問(エ)(写真右)は枠囲みの中に、

 〔実験1〕と〔実験2〕において、糸を引く力がした仕事は等しいので、台車がもつ力学的エネルギーは等しいと考えられる。また、糸をはなした瞬間の台車は2種類のエネルギーをもち、これらの和が力学的エネルギーである。〔実験1〕と〔実験2〕では、糸をはなした瞬間の台車の床からの高さが異なるため、そのときの台車がもつ2種類のエネルギーの大きさもそれぞれ異なる。糸をはなした瞬間の台車がもつ2種類のエネルギーの大きさをそれぞれ比べると、〔実験1〕の台車と比べて〔実験2〕の台車がもつ【 X 】と考えられる。(後略)…。

とあり、【 X 】に適する内容を、「2種類のエネルギーの具体的な名称を両方とも用いて25字以内」で答えさせる設問だった。
 


 県教委の公開した「正答表並びに採点上の注意」の模範正答例は、「位置エネルギーは小さく運動エネルギーは大きい」(写真左)で問題ないが、別記の採点基準には「位置エネルギーと運動エネルギーという語を両方用いて、位置エネルギーが小さく運動エネルギーが大きいという趣旨が読み取れる」ならば得点を与えるとある(実際には後半の設問との完答が求められている)。この採点基準だけ見ると、「位置エネルギーは運動エネルギーより小さい」のような解答を正答にしてしまいそうだが、それぞれの実験で台車の位置エネルギーと運動エネルギーの大小関係は決定できないのでそのような解答は誤答である。

 本問は大学入試やセンター試験で出題してもいいほどの問題だと思うが、中学生には難問であったろう。ほとんどの中学生は、問題文に誘導(?)されて、力学的エネルギー保存の法則を使って解く問題だと勘違いしたのではなかろうか。もちろん、糸を引く力などの非保存力がする仕事の分だけ力学的エネルギーが変化することは中学校の学習指導要領にはない。公立高校入試では、出題範囲外の問題のように思えた。

映画「パッセンジャー」の無重力プール 車田さんの紹介
 この春公開され、アカデミー賞にノミネートされたSF映画「パッセンジャー」の1シーンをめぐる話題。大型宇宙船「アヴァロン号」の人工重力装置(回転モジュール)がコンピュータの異変で停止し、プールで泳いでいるヒロイン(ジェニファー・ローレンス)が無重量となった水の塊にとらわれる。コンピュータグラフィックスだと分かっていながらなかなかリアルな映像だ。水中に閉じ込められた彼女の運命は……?
 これまでにない斬新な描写には息を呑むが、無重力の世界での大量の水の挙動はどうなるのだろう。このシーンの科学考証は正しいか、などツッコミを入れながら鑑賞するのもいいだろう。
 映画のオフィシャルサイトはここ。問題のシーンの予告動画はここ

二次会鶴川駅前「鳥メロ」にて
 15人が参加してカンパーイ!鶴川駅前の鳥料理居酒屋、新規開拓の二次会場だ。ちなみに、今回の例会会場は、かつて鈴木健夫さんが勤務していた2002年9月に会場として以来実に15年ぶり、当時を知る人は大変懐かしがっていた。県立高校で例会を開催するのもずいぶん久し振りで、2014年3月の相模大野高校以来なのである。いろいろな教育現場を見ることは例会の楽しみの1つでとても参考になる。これを機会に、新たな会場が開拓されることを期待したい。
 


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