例会速報 2017/10/22 慶應義塾高等学校


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授業研究:概念獲得状況調査問題の自作と実施結果 小河原さんの発表
 小河原さんが、2年物理基礎において自作問題(力学14題、電気6題)で概念獲得調査を実施した結果について報告してくれた。2015年は事後のみ、2016年は事前と事後に行ってみたということである。そもそもの自作問題作成のきっかけは、FCIだと生徒に解答を提示できず、教育的にどうだろうという理由からだったが、なるべく授業の範囲内から出題すること、また電気分野から出題することにも意義があるのではないかと考えている。
 例えば、1番の問題と、生徒の解答状況は次の通りである。

1. 物体に1つだけの力が加わると[  ]が変化するが、力が全く加わらない場合は必ずそれが一定である。
 a)位置、b)速度、c)加速度、d)位置と速度、e)aからdに正答はない
  事前 a)18.0%, b)20.7%, c)20.7%, d)35.1%, e)3.6%
  事後 a)0.9%, b)29.7%, c)34.2%, e)9.9%

 紛らわしい選択肢もあり、なかなか難しい問題ではあるが、正解b)を選んだ生徒は9.0%増加ということである。
 例会参加者からは、次のような意見が出された。
・「一つだけの力」とあるが、「一定の」と断るほうが良い
・速度ゼロの場合も考慮した問題文のほうが良い
・選択肢の加速度は、事前の段階で未習ではないか
 他にも多くの質問や意見が出され、今後参考にして修正していきたいとのことだった。他の問題にも興味がある方は、小河原さんに連絡してみよう(ogawara[at]hs.keio.ac.jp)。問題についてご意見をいただける方には、メール添付などで配布したいということである。
 

抵抗の温度変化演示装置 石川さんの発表
 富山からわざわざ上京して参加してくれた石川幸一さんは、自作のいろいろな実験器具を持ち込んで披露してくれた。まず、最初の実験はこれ。
 40Wのクリプトン電球を割って、フィラメントをむき出しにした抵抗と、6.3V用の豆電球を直列につなぎ、12VのACアダプタを電源とした回路。ライターでフィラメント部分をあぶると、豆電球は光らなくなる。(右の写真:ピンぼけでごめんなさい!)
 


 次に、フィラメント部分に息を吹きかけて冷やす。すると、豆電球は明るく光るようになる(写真左)。フィラメントのタングステンの抵抗が温度により変化したからだ。輸送時の保護もちゃんと考えて装置が作ってある(写真右)。
 


夕焼けの原理説明器 石川さんの発表
 試験管を2本立てられるようになっているスタンド。試験管の底部を下から照らすように、RGBフルカラーLEDと、白色LEDが取り付けてある。その下部は電源回路になっており、ロータリースイッチで色を切り替える。試験管の中には、水に床ワックスを少し垂らして縣濁した液を入れる。
 


 赤の光で照らすと、光は上まで届くが(写真上右)、緑、青と切り替えるにつれ、散乱によって光が上まで届かなくなる。
 


 隣の試験管を白色LEDで照らすと、下から上に向かって、白から橙色へと変化するグラデーションが見られる(写真左)。夕焼けの状態だ。この様子は、試験管を上からのぞき込むことでいっそうはっきりと観察できる。
 


 上からのぞくと、赤い光では液全体が赤く染まって見えるのに(写真上右)、青い光では試験管のリムだけが光っていて、液は色づいていない。光が水面まで届いていないのだ(写真左)。白色LEDの光は、上から見ると橙色に見える(写真右)。観察者の操作がわかりやすいようにスイッチなどが工夫してある。
 


連成振り子とうなり 石川さんの発表
 石川さんは「力学的な波から垣間見る量子の世界」というユニークな本を自費出版した。これはその本にも集録されている連成振り子の実験である。二つの振り子は視点の近くがピアノ線で緩く結合しており、互いに干渉する。
 連成振り子には二つの定常状態がある。二つの振り子が同位相で平行に振れるモード(定常状態Ⅰと呼ぶ)と、逆位相で振れるモード(定常状態Ⅱと呼ぶ)である。前者の方が後者より若干振動数が小さい。適当に振ると、この二つの状態が混じった振動となりうなりを生じる。この装置ではうなりの周期は3.9秒だった。その逆数が二つの定常振動数の差である。
 


 それぞれの振り子のおもりには磁石が内蔵されており、下の台には手巻きのコイルが仕込まれている。二つのコイルは逆巻きで直列になっており、二つの振り子に対し逆位相で作用する。
 このコイルに左の写真のような「周期コントローラー」で電流を流し、ちょうどうなりの周期に一致する攪乱を与えると、定常状態Ⅰ→うなり(位相差90°)→定常状態Ⅱ→うなり(位相差270°)→定常状態Ⅰという「状態遷移」が起こるのが観察できる。動画(movファイル17MB)はここ
 原子内の電子のエネルギー準位にたとえると、Ⅰ→Ⅱは「励起」に、Ⅱ→Ⅰは「誘導放出」に対応する。つまり、ボーアの振動数条件、E’-E=hνは、各辺をプランク定数hで割ればうなりの式になっていて、二つの定常状態の差に相当するエネルギーを出し入れすることにより状態遷移が起こるという意味なのである。
 


磁場の生徒実験 武捨さんの発表
 武捨さんは、電流のつくる磁場、電流が磁場から受ける力の生徒実験の工夫を紹介してくれた。
 ひとつめは定性的な観察。以前の教科書には、アルミ箔の両端をクリップで挟む方法(写真左)が載っているが、もっと手軽にできないかと工夫した結果が右の写真。
 


 トレー(無印良品「ポリプロピレン整理ボックス3」200円、100円ショップのもので代用可)にアルミ箔をゆるめに張り、電池につなぐ。このほうがアルミ箔の張り具合の調節がしやすい。磁石をアルミ箔のそばに持ってくると、電流が磁場から力を受けることがわかる。方位磁針をアルミ箔のまわりに置くと、電流が磁場をつくることがわかる。実験が終われば、トレーをそのまま格納箱に。積み重ねてコンパクトに収納できる。
 


 ふたつめは定量的な実験。電流のつくる磁場の強さについて、距離一定で電流との関係、電流一定で距離との関係を調べる。初めは左の写真のような装置も考えたが、さらに距離の調節を簡単にするために100円ショップでみつけたカゴ(キャンドゥ「ストックバスケットディープ」)を使った(写真右)。等間隔に穴が空いているので、そこへ金属棒を通す。通す穴の高さを変えれば電流と方位磁針との距離を変えることができる。方位磁針との距離がやや測定しづらいが、生徒の実験結果はtanθ-Iグラフもtanθ-1/rグラフもおおよそ原点を通る直線となった。これも重ねられるので格納は意外とコンパクト。
 どちらの実験も用いるものは比較的安価で入手しやすく、特別な工作も不要なので、お試しいただきたい。
 


クリップモーター 武捨さんの発表
 武捨さんは、これまでいろいろな方法でクリップモーターの生徒実験をやってきたが、今年度は学校図書の中学校教科書に載っている方法を試してみた。クリップの一端を伸ばし、電池ボックスに直接差し込む。磁石はおなじみのダイソーのフェライト磁石。コイルは単三乾電池に巻きつけてつくる。工夫した点は、金床の上にクリップを置き、金槌でたたいて電池ボックスに差し込む部分を薄くつぶしたところ。こうすることで、電池ボックスに差し込みやすくなり、固定も安定する。
 


虹を作る雨粒のモデルのその後 宮崎さんの発表
 宮崎さんが昨年5月の例会で発表した「虹を作る雨粒のモデル実験」の続報である。前回は良い光源がなく、見栄えがよくなかったが、今回は良いLEDライトを入手でき、暗室でなくても十分『虹』を見せることができた。おまけに副虹も見えたが生徒には説明しない。非常勤講師は勤務校の備品の中に良い道具がない場面に出会うことが多々あるので、どうしても必要なものは自腹で整備して持ち歩く。
 


 上および下の写真は、SUNSPOTのCREE XM-L T6という強力LEDトーチ。ズーム機能付きで、ものすごく明るい。直視しないようにとの注意書きがある。通販で2600円ぐらいから。
 雨滴モデルのアクリル球に照射すると、後ろ側のスクリーンに明瞭な虹が現れた(写真左)。部屋を暗くしなくても見えるほど。写真右は別の角度から見た様子。アレキサンダーの暗帯や副虹を作る2回反射の光線の空間分布が立体的に観察できる。これはすごい。
 


 下の写真は別のLEDトーチ。ややスリムなGENTOS MG-743Dである。通販価格2300円ぐらいから。光量は上記XM-L T6より少ないが、こちらでも同様の虹は観察できる。
 


ミリテスラ表示 喜多さんの発表
 左の「ピップエレキバン」の磁束密度表記は、45年前の発売当初はガウス表記だったが現在は「180mT」(購入したのは10数年以上前)。
その右のダイソーの超強力マグネット4個のものは、「2400Gs(ガウス)」の表記だった。そして、最近ダイソーで取り扱われるようになった超強力マグネット1個、2個のものは、「200ミリテスラ」の表記になっている。磁束密度の話の折に、こんな単位の変遷にも言及してみるのは如何だろうか。
 


 このネオジム磁石と、同じ売り場で入手したダイソーの定規(厚さ2mm)でコイン選別器を作成した。定規の厚さは3mmのものが多いので、2mmのものを選ぶことがポイント。試行錯誤して、1円玉、10円玉、5円玉、そして、50・100円玉の4種類の選別をすることができた。
 


500mLアルミ缶+ドライアイス 喜多さんの発表
 喜多さんの家庭では生協の宅配便を利用している。そのため毎週、冷凍食品の保存に入っているドライアイスが入手できる状況である。また、毎週500mLのアルミ缶を数本資源ごみの回収に出す状況でもある。そこで喜多さんは、ふと、断熱膨張の実験をしてみようと考えた。
 


 約5gのドライアイスを廃棄予定の空缶に入れて栓をする。ざっくり計算して気圧差は5気圧程度になる。後は、釘で穴を開けるだけ。応答速度の速い温度センサーを試用すれば、4~5度程度の温度変化が観察できる。動画(movファイル5.1MB)はここ。ドライアイスの入れすぎは大変危険なので、必ず質量を測って500mLに対し、5g以下にとどめること。
 


新・真空ポンプとマグデブルグ半球 天野さんの即売会
 天野さんは、前回の発表で評判のよかった簡易真空ポンプの量産体制に入った。
 ダイソーの風船アート用の空気入れの底側は空気を吸い込んでいるので、これを排気に応用したもの。アダプターとして、はじめは薬の容器や柔軟剤レノアの口の部分などいろいろ試したが、最後に行き着いたのが前回発表のダイソーの「プリンカップ」の底を切り落としたものだ。ちょうど、空気入れの底側にぴったりはまる。下の写真でその開発の歴史をたどることができる。
 下の写真のマグデブルク球の真空引き以外にも、空き缶・ペットボトル潰しの実験にも使える。車田さんの気圧計付き時計で測定したところ250hPaまで下がっていた。
 


 以前からの人気商品、子供用どんぶりのマグデブルグ半球も、写真のように弁の部分を改良・簡略化。合わせて即売会が行われた。
 


新作マリオのCM 宮本さんの発表
 宮本さんは、最近テレビで流れている任天堂のスーパーマリオオデッセイのCMを見ていて、CM中に出てくる副虹(と思われる光学現象)の色の順番が、主虹と同じであることに気がついた。本物の虹ではアレキサンダーの暗帯をはさんで、内側の主虹と外側の副虹の色の並びは逆順になる。
 早速任天堂にメールしたところ、「お知らせいただいた内容は関連部門へ報告させていただきます。」とのことだったそうだ。
 例会参加者からは、「虹がマリオのバックに見えるためには、太陽光はマリオの正面から当たっていなければならない。影のつき方がおかしい。」のツッコミも。あくまでCG映像の中の虹を地球上の光学現象、それも太陽が一つであるとした場合だが・・・。
 それにしても、こんな一瞬のシーンの間違いによく気がついた、と一同感嘆。

二次会 日吉駅前浜銀通り「小青蓮」にて
 8名が参加してカンパーイ。背景のテレビの字幕にもあるように、例会当日は大型の強い台風21号がまっしぐらに関東に向かっていたため、一度は予約をキャンセルしたが、楽しみにしていた人たちは、「帰りの足の心配のない人だけでも・・・」となじみのこのお店に集った。このぐらいの人数だと全体で話ができてよい。富山から実験道具を携えて、はるばる参加してくださった石川さんを囲んで、楽しく酒を酌み交わした。なお、台風21号は、この後、23日5時頃に予報通り神奈川県を横断していった。


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