例会速報 2018/10/21 東京学芸大学附属高等学校


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授業研究:仕事とエネルギー 清水さんの発表
 清水さんは物理基礎の仕事とエネルギーの単元について授業報告した。以下は、清水さん自身によるレポートである。

 2018年度の物理基礎の授業は,「授業参加率を向上させる」「基礎的な概念を構築させる」「多様な人と協働する能力を養う」ことを方針とした。3つの方針のうち,授業参加率は見た目にはほぼ100%を達成している。基礎的な概念の構築は,FCIの結果から考えてあまりうまくいったとはいえない。多様な人と協働する能力は,授業アンケートの結果からみて,及第点といえそうである。
 

 基本的な1回(90分or100分)の授業の流れは上図のとおり、
1.スクリーンにランダムに座席を配置し,生徒はその日使用するプリントを取ってから指定された座席に座る(毎回席替え)
2.前回の授業の振り返りを共有する
3.問題提示→正答表示→教員の解説(演示実験)or 問題提示→個人予想→グループでの予想→全体共有→演示実験(ILDs)
4.配られた問題を理解する時間(約40分)
5.確認テストと振り返りアンケート(約10分)
である。
 

 「仕事によりエネルギーが物体間を移動し,物体(系)がもっているエネルギーには様々な形式(運動エネルギー・位置エネルギーなど)と配分割合(運動エネルギー70%・位置エネルギー30%など)がある。」ことを理解してもらいたく,授業を構成した。手ごたえはまずまず。ILDsのようにメタ認知を促すAL型授業の有効性を実感した。ただ,具体的な数値を扱ったり,そもそも仕事をどう定義するかなどのご指摘を頂き課題意識をもった。
 

位相差を利用した音速の測定-可聴音- 山田さんの発表
 山田さんは二現象オシロスコープを使った音速測定を班別実験として授業に取り入れている。
 発振器からの6000Hzの正弦波をスピーカーに送り、その音を真上の固定マイクで受ける。発振器とマイクのそれぞれの信号を二現象オシロスコープで表示すると、位相差が観察できる。スピーカーを載せたラボラトリージャッキを上下すると、マイクとスピーカーの距離に応じて位相差が変化する。位相が一致したところから、次に一致するところまでのジャッキの高さの差が1波長に相当する。波長が決まれば音速を求めることができる、という原理だ。
 

 位相差の観察には、二現象オシロスコープをX-Yモードにして、リサージュ図形を表示させるとわかりやすい。位相が一致していれば右上がり直線、180度(半波長分)ずれていれば右下がり直線となる。これらの直線が交互に現れる点を次々に測定していけば半波長ずつの座標が複数求められる。
 山田さんはレポートの書き方もしっかり指導している。生徒は測定値と文献値の違いを「誤差」としてその原因を列挙してくるが、その量的な評価が欠落していることが多い。それがどの程度測定値に影響するのか、あるいは無視できるのか、その見積もりこそが大切だと教えている。
 

位相差を利用した音速の測定-超音波- 市原さんの発表
 超音波スピーカーと超音波マイクをノギスに取り付け、空気中の音波による振動をデジタルオシロで観察する。ノギスの間隔を広げて行き、同位相で振動する点を探し出し、音波の波長を求める。波長がわかれば、出力している振動数は既知なので、音速が求められる。この点は山田さんの可聴音の実験と全く同じ原理だ。
 40000Hzの超音波を使うので、班別実験をやってもうるさくないのはメリットだが、可聴音と違い、音が出ていることを認識できないので「何をやっているのかイメージできない」生徒も出るのはデメリットかもしれない。
 参考URL(http://www.gakugei-hs.info/~physics/EXP/phye3-1/onpa.html
 

 課題としては、「ノギスの間隔を広げると、オシロの画面はどうなるか」、「振動数をわずかに上げると、オシロの画面はどうなるか」、「振動数を大きく上げると、オシロの画面はどうなるか」、「スピーカー・マイク間の空間をドライヤーで温めると、オシロの画面はどうなるか」(下の写真)等を生徒に考えさせる。ここに答えは書けないが、オシロスコープの横軸が時間であることを認識させるには良い課題である。動画(movファイル6.0MB)はここ
 

毛笛 市原さんの発表
 お祭りの夜店などでクジの景品等になっている、ストローの先端に風船を取り付け、息を吹き込んで口を放すと「ぺェーー」と音が出るおもちゃが、毛笛という名前で売られていた。市原さんはをの活用法を2つ紹介してくれた。
 一つは音を出しながらストローの先端を口に入れ、口の形をアイウエオの形にする。すると、声を出さなくても、なんとなくアイウエオに聞こえる。アイウエオを、そのように聞こえさせている要素の一つに、口の形があるだろうということがわかる。
 もう一つは、音を出しながらストローを切っていく。すると、音程が変化する。ストローを切ってしまうので一回しかできないが、ストローの長さが音程を決定する要素であることがわかる。ただし、任意の長さで任意の音程ができるので、よくある気柱の共鳴実験とは原理が違う。生徒がここを混同しないように気をつけて演示したい。動画(movファイル5.5MB)はここ
 例会会場ではすぐに分解が始まり、音が出る仕組みをのぞきこんでいた。YPC魂さすがである。
 

オームの法則 西村さんの発表
 西村さんは、9月に教育実習生と協同で開発した教材を発表した。中学生のオームの法則と抵抗の接続に関する教材だ。
 写真のように靴箱やAmazonの配達用の箱の蓋に6つの穴を開け、そこから端子が顔を出している(アイディアは西村、工作は教育実習生が行った)。実はこの端子同士が、箱の内部で抵抗や導線で繋がっているのだが、どのように繋がっているのかは箱を開けないとわからない。
 生徒には、箱を開けずに、端子同士がどのように繋がっているのかを明らかにすることを求める。生徒は習ったばかりのオームの法則や抵抗の接続に関する知識を使い、順番に二つずつの端子に電源、電流計、電圧計を接続し、測定値から中身を推測する。
 

 生徒にはあらかじめ、箱の中に10, 20, 40Ωの抵抗が1つずつと、導線が1本入っていることは知らせておくため、その配置を考えることになる。抵抗が一つだけならば、単純にオームの法則を適用できるが、直列つなぎになっていることもあり、なかなか難しい。また、全く電流が流れないところは「電流計が壊れている」のではなく、単に繋がっていないことや、電流計の針が振り切れてしまうところはショートしていて「危ない」ということも、生徒は実験しながら徐々に掴んでいく。実際の授業では、6班中1〜2班が正解にたどり着くことができた。
 このように教材にゲーム性をもたせることで、単調な作業になりがちな電気回路の実験を、生徒同士で教えあい、アイディアを出し合いながら取り組める実験にすることができた。
 

ガドリニウムのキュリー点 車田さんの発表
 ガドリニウム(Gd)は鉄と同様、常温以下で強磁性を示し磁石につく。強磁性体が常磁性体に変わる転移温度をキュリー温度という(ピエール・キュリーに由来)。低温では分子磁場によって磁気モーメントが揃って自発磁化を生じるが、キュリー温度以上では熱振動が大きくなり自発磁化が焼失する。
 ガドリニウムのキュリー温度は292K(19℃)と室温に近い。都立高校の化学の先生が高純度化学研究所(埼玉県坂戸市)で一括購入して分けてくれたものだ。削りかすとはいえかなり高価な金属で、100g単位でないと購入できない。例会では2g入りサンプル瓶が2000円で頒布された。
 

 秋以降の室温(19℃以下)ならネオジム磁石がくっつく。ドライヤーで温め、キュリー温度を超えると磁石が落ちる。瓶を冷やすと再び磁石がつく。直接水に触れると酸化してしまうので、瓶に入れたまま実験する。動画(movファイル6.8MB)はここ
 

マイクロサイキック・ナットスクリュー・マジック 車田さんの発表
 ボルトに奥までねじ込んだナットが、手を触れなくても自然に回転していきボルトから外れる、というマジック。車田さんが初めて見たのは、科学の祭典全国大会の売店だった。当時は周りの騒音で気付かなかったが、静かなところならブーンとマイクロモーターの振動音(理科教員ならすぐに分かる音)がして、振動でナットが回転して外れることがわかる。動画(movファイル5.6MB)はここ
 販売元は有限会社 クライス http://www.kreis-magic.com/
 

 非常に精巧につくられており、手渡されてばらしてみてもただのボルト・ナットに見える(写真左)のだが、実はボルトの六角の頭が蓋になっていて、外すとLR41という7.5mm径のボタン電池が入っている(写真右)。その奥にマイクロモーターが仕込んである。指に小さなネオジム磁石を貼っておき、ボルトに近づけるとスイッチが入る。リードスイッチが使われているようだ。
 数年前、ツールドフランスで何度も優勝した選手がテクニカルドーピングで失格した話があった。自転車の支柱にモーターが巧みに仕込んであった。ハイテク技術を使った不正である。テクニカルドーピング防止のために、スポーツ用具のレントゲン検査も行われているそうだ。「いずれ、マラソンも裸足で走る時代が来るかもしれませんね!」と、車田さんは授業で陸上部の生徒に投げかけた。
 

光電効果その後 市江さんの発表
 市江さんは前回例会に引き続き、光電効果を生徒実験として取り入れるべく、模索中である。殺菌灯とブラックライトを紫外線の光源として用い、亜鉛、アルミニウム、銅の3種類の金属について、光電効果の半定量的な比較をする。大まかな実験手順は前回報告を参照のこと。
 生徒に扱わせるUV-C殺菌灯としては、YAZAWAハンディー除菌ライトTVR13WHが最適である。おそらく253.7nmの紫外線が出ていると思われる。上記3種類の金属すべてで光電効果が確認できる。UV-Cなので、実験に当たっては安全メガネの装着はもちろんのこと、手や顔の皮膚にも長時間照射しないよう注意が必要だ。
 

 さらに波長のちがう紫外線源として、ブラックライトを用いたい。しかし、安全面への配慮からか、同じUV-Aレベルのものでも、390nm以下の紫外線がほとんど出ていないものも多く市販されている。これでは光電効果は確認できない。比較的短い波長の紫外線を出すコンパクトなブラックライトを探したところ、HANDHELD BLACKLIGHT DL-01が安価で扱いやすいことがわかった。
 BLB-T5/4Wのブラックライト蛍光管が採用され、ピーク波長は365nmであり、アルミニウムで光電効果が確認できる。はくは殺菌灯のときに比べ、ゆっくりと閉じてゆく。ただし、アルミニウム表面の酸化が早く、1分程度放置するだけで、はくが閉じなくなってしまう。また、付属のアクリルカバーは紫外線をかなり遮蔽してしまうので、カバーを外した状態で、金属を磨いた直後に照射する必要がある。詳しくは今月発行のYPCニュースの記事を参照されたい。
 なお、繰り返しになるが、紫外線は目に悪影響を及ぼすため、安全メガネの着用、最小限度の照射、直視厳禁等、十分な配慮が必要となる。
 

シュリーレン現象を自作スクリーンとライトで見る 夏目さんの発表
 屈折率のわずかな違いを利用して、流体の動きを影絵のように視覚化するシュリーレン法。夏目さんは極めて簡便なシュリーレン現象の観察法を考案し、科学館や駅ナカでのサイエンスカフェで普及に努めている。
 透明な四角い容器に水を八分目ほど入れ、水面付近に飴玉をビニールひもなどでくくってつるす。光源は赤または橙色のLED(発光角が15度の狭角のもの)を用い、3Vのボタン電池を二本の足ではさんで洗濯ばさみでおさえる。洗濯ばさみはそのままライトスタンドになる。安定するし角度の微調整もできて便利だ。スクリーンはB4の画用紙に二箇所切り込みを入れて折り曲げて作る。部屋を暗くすれば準備完了。
 

 LEDの光が飴玉のすぐ下のあたりを通るようにして、後ろのスクリーンに投影すると、飴が水に溶けた濃厚な砂糖水が流れ下っていく様子が、幾もの動く縞模様になって見える。動画(movファイル2.6MB)はここ。なお、この実験についての夏目さんによる詳しい解説は、RikaTan2018年12月号に掲載されている。
 

シュリーレン撮影法にチャレンジ 市原さんの発表
 まだ物理基礎を履修していない高校1年生が、課題探究活動としてシュリーレン現象に興味を持った。シュリーレン撮影法というものがあるが 高額な光学機器(!)を使わないで、高校生の手で撮影し、何か評価できないか、としてスタートした。
 実際にやってみると、わりと簡単にそれらしい画像は撮影はできたのだが、ナイフエッジの置き方やマスクする割合などで、得られる画像がどう変わるかはこれからの探究となる。試しにロウソクの揺らぎを撮影して見たが、ここからサーモカメラのような温度分布が分析できると面白いと思っている。市原さんは、他にも「こういうことを調べてみれば?」というアイディアを募集中だ。ぜひ応援を!
 

アーチ構造 古谷さんの発表
 本年7月例会で車田さんが紹介した「セブンブリッジ」はアーチ構造をポリスチレンのブロックで構成した模型である。古谷さんは、イタリアを旅したとき、コロッセアムを見学し、ブリッジ=橋の強度を保つ工法というよりも、上の階を支える建築物の工法であるとしたアピールが適しているのではないかと思った。およそ7個程の巨大な岩石からなるアーチがコロッセアムの随所に見られた。
 また、壁の中に見られたアーチ構造はどんな意味があるのか、不思議に思い写真に収めた。(写真右)
 

 当時の技術として感心したのは、石材で作られた床に一定間隔で金属(鉛)を埋め込み、日照による収縮を調整したという技術。(写真左)
 ローマの時代に建築工学が発達していた事実を目の当たりにし、感動したという報告だった。
 

クインケ管を説明するスライド 武捨さんの発表
 波の干渉の導入としてクインケ管の実験を行っている武捨さんは、この説明を苦手に感じていたため、パワーポイントの図形ツールを使ってコマ送りのスライドを作ってみた。
 クインケ管の入口から進む音波の山谷山谷…の様子を、赤青赤青…のタイル模様で表した。分岐後の経路の一方を長くしていくにつれて、出口では同位相と逆位相の重ね合わせが交互に繰り返されることが、視覚的に理解できる。
 

 前時にウェイブマシンを用いた山と山・山と谷の重ね合わせを扱っているにもかかわらず、毎年ほとんどの生徒がクインケ管の実験結果に驚くが、今年はこのスライドを見て「あー、だからかぁ」と納得していたようだった。
 

二次会学芸大学駅前「海の家 あそなる〜」にて
 12名が参加して「カンパーイ!」。YPCの二次会では初めてのお店だ。ちょっと変わった店名の由来は、店主のご両親が居酒屋「阿蘇」をやっていて、それにハワイ語で「波」(NALU)をつけたとか。ところで、本日の例会は発表の数は少なめだったが、ストレートに物理っぽい話題ばかりで内容が濃く、ずいぶん頭を使った。疲れた脳みそをアルコールでほぐしながら、明日の授業への英気を養う。


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