つながる思いプロジェクトin福島県西郷村


理科実験教室と講演会実施までの西郷村の準備

西郷村での理科実験教室「ふれあい体験塾」と講演会「第2回西郷村風評被害対策事業実行委員会講演会−放射線の人体への影響と身を守る方法について」は,どのような経緯で実施が決まったのであろうか。開催決定に至るまでの西郷村での取り組みについて,西郷村企画調整課に尋ねたところ,次のような準備が行われて来たことが明らかになった。以下,西郷村企画調整課の了承を得て,メールで頂いた文章を引用しながら説明を行う。

 西郷村では、村民及び村内の産業を原発事故による風評被害から守るため、西郷村風評被害対策事業実行委員会を設置した。この委員会設置の理由が,次のメールで頂いた文章のなかにくみ取れる。

平成23年3月11日午後2時46分に発生した東北地方太平洋沖地震は、日本の観測史上最大のマグニチュード9.0を記録しました。宮城県内で最大震度7の激震となる一方、遠くは静岡県までもが震度5を記録するなど、地震の影響は、最大かつ広範囲に及ぶものでありました。特に、東北地方太平洋沿岸部では、この地震による最大遡上高38mにも達する大津波により壊滅的な被害に見舞われました。死者、行方不明者は、合わせて約24,500人、全壊建物も約90,000棟に達し、県内でも約2,300名を超える死者、行方不明者を数えております。また、この震災は、多くの民家、工場、道路、上下水道などの生活基盤にも甚大な被害をもたらしました。4月1日、この惨事に定められた呼称は「東日本大震災」、その名が示すとおり、日本最大の自然災害となりました。更に本県では東京電力福島第一原子力発電所が壊滅的打撃を受け、流出した放射性物物質により、皮肉にも「ふくしま」は世界中のマスコミが注目する地名となってしまいました。その影響は、今なお不自由な避難生活を強いられる多くの人々のみならず、農林水産業、 畜産業、観光、商工業とあらゆる分野に拡大し、地域経済のみならず日本経済をも揺るがすこととなっています。特に、本県への影響は大きく地震、津波、原発問題という三重苦のなか、風評という第4の困難が立ちはだかり復興を遅らせています。西郷村でも一時1,000人を越える人が避難し、農産物は出荷制限、工業製品も放射線検査を求められることとなり、果ては福島県人というだけでいわれのない蔑視を受けました。しかし、いつまでもその状況を看過ごすことはできません。責任の落ち着く先を待っている訳にもいきません。これだけの混乱においても秩序を維持した日本人が世界を驚かせたように、被害を受けた者が元気を出し、変えようのない現実を乗り越え、世界を感服させなければなりません。そして我々は郷土の豊かな自然、安全、安心をできるだけ良好に後世へ引き継ぐ責任があります。苦難の中にあるがゆえ、自らの立場で、自らできることを行う。それが支援、応援を受けた国内外の人々に応えることでもあります。」

以上の文章から,西郷村の村民のみなさんが多大なダメージを受けたが,その苦難に負けないで,前を向いてしっかりとやっていこうという自立の精神を強く感じることができる。このような状況のなか,具体的にはどのようなことを実施すればよいかが課題となり,以下の議論が展開された。

 「住民は、放射能汚染問題や目に見えない放射線に関して知識が乏しいため、放射線に対しただ怖いものとして先入観があります。そこで 住民を主な対象として放射線の基礎を学び 放射線の性質や人体への影響そして

放射線から身を守る方法について学び、放射能についての先入観や不安の解消や、個人が放射線による被害を最小限に抑える生活が必要となります。

 村で放射線の基礎知識について講師を探していたところ平成20年の学習指導要領の改訂で中学生の学習内容に放射線が追加され、川村先生が模擬授業を行ったことをネットで見つけぜひ川村先生に講演をしていただきたいと担当である企画調整課で事業展開を行いました。」

 上記のような経緯のもと,西郷村から「放射能の性質,放射線の人体への影響,放射線から身を守る三原則,自然エネルギーの可能性」についての講演の依頼を受けた。

 一方,子供達のための理科実験教室については,次のの経緯を経て決定された。

 「次に新エネルギーの実験事業についてですが、西郷村では、NEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の補助を受け自然環境及び、エネルギーに関する社会情勢・環境問題を踏まえ、水力・太陽光・バイオマス等新エネルギーの導入を意欲的に推進していくために、平成23年2月28日に西郷村地域新エネルギービジョンを策定いたしました。

 その啓発活動の一つとして、新エネルギーの教育を行うことを検討していたところ、 村教育委員会でふるさと体験塾事業を行っていたため、タイアップして理科実験教室を開催することにしました。新エネルギー啓発を主としていたため、発電の仕組みや太陽光発電についてを

メインとして自然エネルギーの理解をしてもらうのがねらいでした。

 今後も、村の予算にもよりますが、理科実験授業を何らかの形で行っていければと考えています。」

 このように,西郷村が主体的に,放射線被害に立ち向かうべく,この実験教室及び講演会が実施されることとなった。

 

「ふれあい体験塾」

西郷村文化センターを会場に,93日(土)の午前中に,「ふれあい体験塾」が実施された。ふれあい体験塾では,自然エネルギー講習として,次の内容の実験教室が実施された。括弧内は担当講師名である。

1.自然エネルギーについて 9:309:50 (川村康文)

2.手回し発電機(持ち帰り工作)9:5010:20 (藤原清)

3. 太陽電池でメロディーカードを作ろう!(持ち帰り工作)10:2010:50 (辻川達美)

4. 燃料電池の実験(グループ実験)10:5011:20 (川村康文)

5. 自転車発電機でテレビをつけよう!11:4012:00 (辻川達美)

6. 水素ロケットを飛ばそう!11:2011:40 (藤原清)

 

 次に上記の1.6.の実験について,その実験内容および実践の様子を報告する。

1.自然エネルギーについて

子供達に,自然エネルギーのうち,東京理科大学川村研究室で実施しているエネルギー環境学習のための実験教材について説明を行った。

特に,色素増感太陽電池は電子メロディが鳴るところの実演や,サボニウス風車風力発電機は赤色ダイオードが点灯するところの実演を行った。冒頭と最後に,著者が,3.11以降の被災地復興の応援ソングとして作詞・作曲した「つながる思い」を歌った。

図1.自然エネルギー講習の一場面

図2.つながる思い

図3.震災復興応援の歌「つながる思い」を歌っている場面

 

2.手回し発電機

 平成23年度から実施される小学校学習指導要領では,小学校6年生で手回し発電機を利用した学習が実施される。このことも考慮しながら,本実験では,実際に手回し発電機を製作し,自分で製作した手回し発電機を用いて,発電実験を行った。

図4.手回し発電機を各自が組み立ている場面

 

3. 太陽電池でメロディーカードを作ろう!

本実験では,太陽電池と電子メロディーを組み合わせて,往復葉書と同じ大きさの台紙に貼り付け,メロディカードを作成した。

図5.メロディカードに貼った太陽電池をハロゲンランプにあてて音楽を聴いている場面

 

4. 燃料電池の実験

本実験では,身近なドリンクでできる燃料電池を模型自動車の上に搭載し,この燃料電池を,当日製作した手回し発電機を利用して,電気分解を行い,電気分解により得られた酸素と水素を利用して,模型自動車を走行させるというものである。

図6.燃料電池模型自動車を走らせようとしている場面

 

5. 自転車発電機でテレビをつけよう!

 本実験は,古いブラウン管のテレビと省エネ技術が進んだ省エネ製品のテレビとを,同じ性能の発電能力をもつ自転車発電機で発電し,どちらのテレビがつけやすいかを,体感してもらう実験である。10組のペア―がこの競争を,受講生の小学生を代表して実験した。その結果,みてないテレビは消そうなどということを,子供達が再確認してくれた。

図7.新しい液晶テレビと古いブラウン管テレビを同じ性能の自転車発電機で映像を映そうと競争している場面

 

6. 水素ロケットを飛ばそう!

本実験は,酸素の体積と水素の体積を1:2で混合した混合気体に電気火花を飛ばして,両者を一気に燃焼させ,そのエネルギーを利用してロケットを飛ばす実験である。水素を酸素を利用して燃焼させたあとにできる気体は,水蒸気で,二酸化炭素を発生しないことを実験で学んでもらう。ロケットが飛ぶのをみて,水素エネルギーについて認識してくれた。

図8.酸素と水素の1:2の混合気体を燃料にロケットを打ち上げる実験の場面

 

「第2回西郷村風評被害対策事業実行委員会講演会」

 第2回西郷村風評被害対策事業実行委員会講演会は,93日(土)午後1:30から3:30(予定を30分延長)まで,西郷村文化センターを会場に実施された。講演演目は,「放射線の人体への影響と身を守る方法について」であった。

 西郷村からは,講演の内容として「放射能の性質,放射線の人体への影響,放射線から身を守る三原則,自然エネルギーの可能性」について依頼があり,この4つの内容については,西郷村のホームページ上でもアナウンスされた。

図9.当日のポスター

 

 講演会では,依頼を受けた内容について講演を行った。

まず,自己紹介をかねて,自然エネルギーについて,色素増感太陽電池やサボニウス風車風力発電機をまじえて,実演を取り入れて説明を行った。

続いて,放射線に関する解説を行った。まず,放射能と放射性物質,放射線の違いについて解説をし,放射線の単位の説明を行った。続いて,主な放射線としてα線,β線,γ線について,それぞれの正体とそれらの透過力について解説した。

それでは,私たちは日々どれだけの量の放射線を受けているのかを知ってもらうため,自然放射線量について,世界平均や全国の地域ごとの3.11以前の線量を紹介した。また,X線検診を受けた場合など,日常生活において受ける放射線の線量について解説したのち,人体への影響が表れる線量とその症状について解説を行った。そして放射線による影響の現れ方として,確定的影響と確率的影響について説明した。

その後,放射線から身を守るための三原則について,具体的にどのようにするとよいのかについて説明した。

また,外部被ばくだけでなく,内部被ばくの問題点として,体内に入った放射性物質はどうなるのかについて説明し,最後に,原子力発電所の事故とは切り離して,日常生活のなかで放射線は,医療はもちろん,工業,農業,その他の分野でも利用されていることを紹介し,質疑応答に移った。この時点で90分の講演の予定の60分分を講演にあてたので,質疑応答の時間は30分あった。しかし,放射線への関心は高く質疑応答の時間は予定の時間を30分も超過し,最終的には120分の講演会となった。また,講演会事務局のほうで配慮して頂き,震災復興応援のために作った歌「つながる思い」を紹介させて頂くことができ,会場からは,大きな拍手が得られたので,おおよそ,講演会に来場のみなさんに満足をして頂けたのではないかと感じた。