第29回サイエンスEネット例会


          天体スペクトルを見る

                      大阪市立科学館友の会 小野則子
                           2004.3.13

1.はじめに
 天体スペクトルに関心を持ち、岡山天体物理観測所の観測データに接するようになったのは、1998年 8月のことだった。ごく一般人である私が天体スペクトルデータに向き合う、そのきっかけを与えて下さったのは、堺市教育センターの片平順一先生です。その頃、私は科学館サークルで相対性理論と量子力学を勉強していた。宇宙に興味を持ち、科学館に出入りしては、探究心で満ち溢れていたのである。そんな時、片平先生から天体スペクトルデータを見ることができる、素人にでも出来る簡単な作業があると聞いたのである。それは、科学館の加藤賢一先生がはじめていたプロジェクトだった。科学館の展示場でも、何枚かの天体スペクトルを見ることは出来たが、私はもっと沢山見て、スペクトルを見比べてみたかったのである。

2.天体スペクトル(恒星スペクトル)
 岡山天体物理観測所で得られてたクーデ分光乾板データ 408枚を見ることができた。これは大阪教育大学の定金晃三先生が撮影されたものです。研究分野の関係でA型特異星が多い。データは写真乾板である。今ではCCDを使用するようになっている。聞くところによると、写真乾板は青色に敏感というもので貴重なものだ。写真乾板での天体スペクトルは見やすい。2X10 cm の長方形のガラス板[参照1]に、黒く帯びのようなスペクトルが映し出されてる。容易くスペクトルの違いが分る。黒い帯のところが、天体により違うのである。
 写真乾板をマイクロフォトメータでトレースしデジタル化した [参照2]。デジタル化されたデータ (スペクトル図)[参照3]をもとに、特徴的な吸収線をもとに波長づけ同定をした。同定するのに忍耐強さがいった。スペクトル A 型 の特徴である水素のバルマー線やカルシュウムの K 線(3933.660Å) の同定は簡単にできた。また、吸収線の強くでている 鉄・クロム・ケイ素 もわりあい容易に同定できた。吸収線がハッキリでていないものの同定が難しいのである。

3.天体スペクトル(恒星スペクトル)同定
 スペクトルの同定には、元素の波長をわかる必要がある。すでに、実験によって調べられている波長(Å)がある。分厚い資料集 [Moore の Multiplet table とその finding list] に元素の波長ばかりが集められている。カルシュウム・鉄・クロムなどの元素ひとつとっても、沢山の元素の波長(Å)があるのだ。
 電子が原子(又は、元素)に束縛されている場合、量子力学的な理由のため、とびとびのエネルギーを持つ状態しか許されない。エネルギー準位というとびとびのエネルギー状態にある、電子は準位を高くしたり、低くしたり遷移することがある。この時、エネルギーの差に相当する波長の光を吸収したり放出する。[参照 4]この光が線スペクトルとなって観測される。これらの線スペクトルは沢山あり、波長(Å)と表示された資料があるのだ。

(1) この資料を使っているうちに、元素がどのようにしてできたのか知りたくなった。その前に、元素と原子はどう違うのだろうか。

 元素とは、(a )万物の根源をなす究極的要素。例えばギリシャ哲学における土・空気・火・水。(b )化学元素のこと。化学元素とは化学的手段(化学的反応)によっては、それ以上に分解し得ない物質。厳密には、同一原子番号の原子だけからなる物質。金・銀・銅・鉄・水素・酸素・炭素・窒素など。
 原子とは、(c )アトムの翻訳。(d )物質を構成する一単位。各元素のそれぞれの特性を失わない範囲到達し得る最小の微粒子。大きさは 1億分の1cm 。原子核と電子からなる。と、これでなんとなく元素と原子の違いがわかったような気がするが、もうひとつしっくりこない。
 原子を個人、元素を民族にたとえる。民族という言葉が集合代名詞であるのと同様に、元素という言葉も同種の原子の集合代名詞としてとらえるのが正しい。別ないい方をすれば、元素の種類と原子の種類は対応している。
 宇宙間にあるものは「すべて何かの原子からできている」ということを、「すべて元素からできている」といってもよいし、「元素はすべてものをつくるもとである」といってもさしつかえない。と、[元素111の新知識] 桜井弘(編)で知る。些細なことで理解が中断されてしまうのだ。

(2) 2002年 理化学研究所よりビデオ [元素誕生の謎にせまる]を頂く。ビデオは、元素の起源を宇宙にあるはずとはじめる。観測・理論・実験の連携によって、最近では、元素を原子核レベルで理解するみちが開けてきた。加速器のなかで元素を合成し、また分解させることも可能になっている。「私たちは、今、元素の誕生と進化の謎を明らかにするときを迎えている。」と、ビデオから元素の起源を知る。太陽系における元素の相対組成など、視覚的に分りやすく説明されていた。

4.「かがくとくい星」
 化学特異性とは、化学的な性質がちょっと変わっている星。星を作っている元素が平均よりずれている星のことをいう。太陽や隕石に基づいたデータ標準宇宙組成といわれる、「太陽系」組成に対してずれている組成比の奇妙な星のことである。希少なはずの希土類が非常に多い。
 αDra(ドラコ・りゅう座α星)のスペクトルは [A0V] で普通の A 型星です。この星と波長域4120Å〜4230Å。[参照5]で見比みると、星 78Vir (ビルゴ・おとめ座)A 型化学特異星 [A1pSrCrEu]は、ストロンチュウム(SrU 4215Å)の吸収線が強くあらわれている。また、この星では軽希土類であるユーロピューム(Eu)の吸収線も見られるはず。 元素セリウム・プラセオディミウム・ユーロピュームが特に多い化学特異性(HR7575)と同じ種類だがやや温度が高いらしい。
 21Per(ペルセウス・ペルセウス座)は B 型特異星 [B9pSi]です。78Vir星と 同じく ストロンチュウム(SrU 4215Å) の吸収線が強くあらわれている。ケイ素星といわれており、ケイ素の1階電離イオンの吸収線が2本並んでいるのが特徴。
 特異星は最初から元素分布に偏りがあったわけではない。その星に何か原因があってその星にだけ起こっている現象で、特定の元素が星の表面に浮かんでいるというアイデアがもっともらしい、と、されているようです。特異星は一般に自転速度が遅く、連星系も沢山あるようだ。その光度やスペクトルも変動し、と、いろいろ現象がからみあっているらしい。[参照6]

5.おわりに
 天体スペクトルを見て、宇宙の進化を理解したいと思った。そのためには、元素の起源を知りたい。そんな時、サイエンス Eネットで得た情報で、理化学研究所からビデオ[元素誕生の謎にせまる]を頂いた。ビデオは、「核図表を」、「ベータの谷」を3次元面で見せてくれる。分り易いとおもった。天体スペクトルを見るのは興味深い。どの天体も違うスペクトルを見せてくれるのだ。今は天体スペクトルを見るだけで満足している。しかし、天体スペクトル解析ができるようになると、もっといろんなことが解ると思う。宇宙を想像するのは楽しい。科学館サークルで勉強もしよう。その手掛かりを与えてくださるサイエンスEネットに感謝いたします。

MLでは貴重な情報を頂有難うございます。


                参考資料
  理化学研究所[元素誕生の謎にせまる]、桜井弘(編)[元素111の新知識]
第5回天体スペクトル研究会資料集  
   [参照1]  
  粟野諭美他 1998、宇宙スペクトル博物館(CD-ROM)
[参照2]・[参照3(CD-ROMでスペクトル図がどのようなものかわかります)]
   [参照・4]    
  Moore の Multiplet table とその finding list
大阪市立科学館 HP http://www.sci-museum.jp/~kato/pub10k1.html
[参照5]
  大阪市立科学館友の会 月刊「うちゅう」2003.5号
   [参照6]