高等学校物理学習指導案 (略案)
京都教育大学教育学部理学専攻3回生 ○○ ○○
対象 物理TB 2○ 講座(男13名、女17名、計30名)
日時 9月14日(木) 第○校時(1:40〜2:30)
場所 物理教室
指導教官 川村康文教官
1. 本時の中単元名:仕事とエネルギー
2. 本時の教材観
物体に力F(N)を加えて,物体を力の向きにs(m)変位させたとき,力Fは物体 に仕事をしたといい,その仕事の大きさW(J)は,
W=Fs
で表される。
力の向きと物体の動く向きが異なる場合,その間の角度をθ(0°≦θ≦180°)とす ると,力のする仕事の大きさは,
W=Fscosθ
で表される。これは,力Fを,作用点の移動方向の成分Fxとこれに垂直な成分Fyとに 分解して考えると,力の作用点はy軸方向には移動していないので,Fx(=Fcosθ) がした仕事だけを考えればよいからである。90°<θ≦180°のときは,Wは負の値をと
る。このとき,力は負の仕事をした,あるいは力は物体によって仕事をされたという。
エネルギーを持っている物体は,仕事をする能力を持っている。このことから,運動 エネルギーの定義を導出することができる。衝突の現象の中で,動いている物体が静止 するまでにする仕事として,運動エネルギーを導くことができる。
エネルギーは,物理学において頻繁に用いられる概念の一つである。したがって,エ ネルギーの基本的な内容が含まれる本時の単元を理解することは,今後物理学を学習す る上で非常に重要であるとされている。
3.本時の生徒観
「仕事」という言葉は,日常生活でも頻繁に使われているので,おそらく言葉のイメ ージで敬遠されることはないと考える。しかし,物理学で用いる「仕事」と、日常生活で 用いる「仕事」という言葉との間に,意味上のギャップを感じてしまうかもしれない。 これはエネルギーについても同様のことが言えると考えられる。
また,仕事の量を求めるときには,力と変位の向きを考慮に入れなければならない が,このことは生徒にとっては理解するのが困難な課題であると考えられる。
4.本時の指導観
まず,物理学で用いる「仕事」という言葉の定義をしっかりと理解させる必要があ る。生徒の理解支援のため,演示的内容を交えながら説明する。また,力と変位の向き が異なる場合については,演示と図を用いて図形的に理解させる。即ち,Fのうち,実 際に仕事をしているのはFxであることを示し,Fx=Fcosθ であることから, W=Fscosθ を導く。
エネルギーについても,仕事と同様に,物理学における意味を十分に理解させる必要 がある。仕事とエネルギーは密接に関係しているので,仕事との関係に着目させれば, 生徒のエネルギーについての理解も深まると考えられる。また運動エネルギーについて は,速さv(m/s)で等速直線運動をしている質量m(kg)の物体Aが,物体Bに 衝突し,s(m)だけ 動いて静止するという現象を解析していく中で
Ek=(mv2)/2 を導き出すように指導する。
5. 本時の目標
・物理学における仕事の定義を述べることができる。
・力と変位の向きが異なる場合の仕事を求めることができる。
・物理学におけるエネルギーの定義を述べることができる。
・質量m,速さvで運動している物体の運動エネルギーを導くことができる。
6. 準備物
特になし
7. 展開計画
段階 |
学習内容 |
教師の活動 |
生徒の活動 |
留意点 |
出席など
(1分) |
(1分)
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・挨拶
・出席確認 |
・挨拶
・返事 |
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導入
(2分)
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物理学の 「仕事」
(2分)
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・日常生活において用いる「仕事」と,物理で用いる「仕事」という用語との違いを説明する。
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・説明を聞く。
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・教卓にて物体を水平移動させたり持ち上げたりする演示を行う。
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展開
(46分)
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仕事の定義
(5分)
力の向きと動く向きが異なる場合
(15分)
仕事の原理
(9分)
仕事率
(5分)
エネルギー
(5分)
運動エネルギー(7分)
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・仕事の定義を板書する。
「物体に力F(N)を加えて,物体を力の向きにs(m)変位させたとき,力Fは物体に仕事をしたといい,その仕事の大きさW(J)は,W=Fsで表される。」
・F=0(物体が動いていても,力が働いていない場合)でも,s=0(力を加えていても,物体が動いていない場合)でも仕事をしたことにはならないことを,例を挙げて説明する。
例1.教卓などの重い物体を動かそうとするが,動かない
例2.等速直線運動をしている物体
・物体にロープをつけそれを生徒に引かせて動かす(力と変位の向きは違う)。このときの仕事は W=Fs でよいかどうか質問する。
・ 仕事をしたのは,Fの水平成分Fx のみであることを,黒板に図示して説明する。
・Fとsのなす角度θ (0°< θ<180°)のとる値によって,Wがどのように変化するのかを説明する。
・90°<θ≦180°のときは,W<0になることを示し,負の仕事について説明する。
・物体を鉛直に持ち上げるのと,斜面を使って持ち上げるのとでは,どちらが楽に感じるか質問する。
・課題提示
「斜面を使っても,仕事量は変わらないのはなぜか証明せよ。」
・答えを板書する。
・仕事率の意味と定義を説明する。
定義:単位時間にする仕 事量 P=W/t
・エネルギーの意味を説明する。
意味:仕事をする能力
・運動エネルギーが(mv2)/2 になることを,衝突の現象から導く。
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板書を写す。
・説明を聞く。
・指名された生徒は答える。
・板書を写す。
・指名された生徒は答える。
・課題を解く
・板書を写す。
・説明を聞く。
・板書を写す。
・説明をきく。
・板書を写す。
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・力の向きに変位させたときに仕事をしたことになるということを強調する。
・もし生徒がわからないときは,一度ロープを水平にして,このときの仕事はW=Fsであることを示し,先ほどとの違いを考えさせる。
・斜面を使った方が楽であると答える。
・仕事率の単位W(ワット)は,仕事を表すWと間違えやすいので注意するように言う。また仕事率を表すPは,運動量を表すpと間違えやすいので注意するように言う。
・仕事との関係についてもふれる。
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まとめ
(1分)
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・仕事の定義
・仕事の求め方
・エネルギーの定義
・運動エネルギーの定義
これらのポイントを十分復習しておくように言う。 |
・話をきく。
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8.本時の評価
・物理学における仕事の定義を述べることができたか。
・力と変位の向きが異なる場合の仕事を求めることができたか。
・物理学におけるエネルギーの定義を述べることができたか。
・質量m,速さvで運動している物体の運動エネルギーを導くことができたか。
9.板書計画
○仕事
物体に力F〔N〕を加えて,物体を力の向きにs〔m〕変位させたとき,力Fは物体に仕事をし たという。仕事の大きさW〔J〕は,
○(力の向き)≠(変位の向き)のとき
Fyのした仕事は0
W=Fx・s=Fcosq・s=Fs cosq
(a)θ=0° (b)0°<θ<90°
W=Fs cos 0° W=Fscosq
=Fs ・1
=Fs
(c)θ=90° (d)90°<θ<180°
W=Fscos90° W=Fs cosθ<0
=Fs ・0 (∵cosθ<0)
=0
(e)θ=180°
W<0のとき,
力は負の仕事をしたという。
W=Fs cos180°
=Fs・(−1)
=−Fs <0
○仕事の原理・・・道具を使っても仕事の量は変わらない
例:質量m〔kg〕の物体をh〔m〕持ち上げる
・真上に持ち上げる ・斜面を使う
W1 =mg×h=mgh W2 =mg sinθ×l
=mgl sinθ
l sinθ=h より
W2 =mgh
∴W1 =W2
○仕事率・・・単位時間当たりの仕事量
P=W/t 単位〔W〕
○エネルギー・・・仕事をする能力
単位〔J〕
○運動エネルギー
AがBにする仕事 W=Fs ・・・・・・@
02−v2=2as ∴s=−v2/2a ・・・・・A
Aについての運動方程式
ma=−F ∴F=−ma ・・・・・・B
ABを@に代入
W=(−ma)・(−v2/2a)=(mv2)/ 2
∴Aの運動エネルギーEkは
Ek=(mv2)/ 2