1 テーマ         
既有の見方や考え方から科学的な見方や考え方への高まりを意識化する理科学習のあり方
〜物質が化合する質量の比を、化合する原子の数の比と原子量を根拠に   
                  説明していく学習展開に焦点を当てて〜
                       
2 テーマ設定の理由
本校理科では、主体的に事象にはたらきかけて自然の規則性を明らかにしようとする姿を、学ぶ意欲を高めた生徒の姿ととらえている。その姿の具現に向けて、1時間や単元の節目において見方や考え方の高まりを振り返って意識化していく学習を積み重ねることで成就感や充実感を味わい、自己効力感を高めていくことの大切さが実践から明らかになってきた。
M生は、「電流のはたらき」(2年)の電流と磁界との関係を見いだしていく場面で、導線に電流を流すと、そのまわりに磁界ができる現象をもとに、コイルのまわりの磁界の様子を説明し、さらに電流の流れるコイルが磁界から力を受ける理由を考えた。ここでM生は、コイルが磁界から受ける力の向きについて、コイルのまわりの磁界を根拠にして図1のように説明した。そして、スピーカーのしくみも、コイルが磁界から受ける力を根拠に説明し、電流と磁界の相互作用がエネルギーとして身の回りで役立っていることを見いだすことのできた喜びをワークシートに記入した。このようにM生が、事象を既習内容や日   図1 M生の考察
常生活と関連付けて説明できる見方や考え方を養い、その高まりを意識化することができたのは、教師が導線のまわりにできる磁界を根拠にして、電流と磁界の相互作用のしくみや電流のはたらきを利用した器具のしくみを明らかにしていく学習を展開したからであると思われる。このことから、見方や考え方の高まりを生徒が振り返ることのできる授業を具現するためには、1時間の追究において生徒が養う科学的な見方や考え方を教師が決めだし、生徒の見方や考え方を高めていく学習を展開する必要があることが見えてきた。
そこで、単元を通して養う科学的な見方や考え方を明確にし、既習内容や日常生活の体験の中から、追究する事象と関連付ける既習内容や体験を決めだす。そして、決めだした内容や体験を根拠にして事象の規則性を説明していく学習を展開する。このことにより、生徒は、既有の見方や考え方を科学的な見方や考え方へと高め、その高まりを振り返って意識化することで成就感や充実感を味わい、自己効力感を高め、主体的に事象にはたらきかけて自然の規則性を明らかにしていこうとするようになると考え、本テーマを設定した。
             
3 仮説  
既習内容や日常生活の体験を根拠にして、事象の規則性を説明していく学習を展開する。
 
4 単元名・学年   「物質どうしの化学変化」・2年 (全11時間扱い)
 
5 単元の目標
 
(1) 自然事象への関心・意欲・態度
  2種類の物質の化合や、化学変化に関係する物質の質量の規則性について関心をもち、仮説をも ったり、観察・実験を行ったりしようとする。     
 
(2) 科学的な思考(*1 事象と関連付ける既習内容を決めだし、その内容に基づいて目標を設定した。)
 @化合などの化学変化について、原子、分子のモデルと関連付けて説明するとともに、化学反応式  で表す。
 Aスチールウールや木炭と酸素との化合を、反応前後の質量や体積の変化と関連付けて説明する。
 B化学変化の前後の物質の質量について、原子、分子のモデルと関連付けて説明する。
 C決まった質量の比で化合する理由を、化合物をつくる原子の数の比や原子量と関連付けて説明  する。   
 
 
(3) 観察・実験の技能・表現
 @鉄と硫黄の混合物を熱したときに起こる反応と、できた物質の性質について調べることができる。
 A金属や木炭、水素を燃やしたときの反応と、そのときできる物質について調べることができる。
 B閉鎖系で石灰石と塩酸が反応したときの質量の変化や、開放したときの質量の変化について調べ  ることができる。
 C金属を加熱する前後の質量を測定し、その結果をグラフに表すことができる。
 Dいろいろな物質が化合するときの質量の変化を調べることができる。
 
(4) 自然事象についての知識・理解
 @2種類以上の物質が結びついて別の新しい物質ができる化合について理解する。
 A熱と光を出しながら酸素と化合する燃焼について理解する。
 B化学変化の前後で、物質の質量の総和が等しいという質量保存の法則について理解する。
 C2種類の物質が化合するとき、一定の質量の比で化合することを理解する。
 
6 教材化       
(1) 3年間の学習を通して養う科学的な見方や考え方   
 @第1分野の単元における科学的な見方や考え方
「定性的」などの科学的な見方や考え方に着目し、各単元で生徒が養う科学的な見方や考え方を、学習指導要領の分析をもとに下記の表のように決めだした(表1)。単元ごとの科学的な見方や考え方を明確にすることで、教師は、1時間の追究で生徒が養っていく科学的な見方や考え方を決めだすことができる。そして、既習内容や日常生活の体験を根拠にして、追究する事象の規則性を説明していく学習展開を構想する。
表1 第1分野の単元における科学的な見方や考え方(太字は、主たる科学的な見方や考え方)
 見方や
  考え方

大単元名
 
定性的
事象を質的側面からとらえること
 
定量的
事象を量的側面からとらえること
 
巨視的
事象を全体の様子からとらえること
 
微視的
事象を肉眼で見分けられないほど細かくとらえること
エネルギー的
事象をエネルギーとしてとらえること
 
総合的
様々な事象を一つにあわせてとらえること

身近な物理現象

 
光の規則性や音の性質、力の働きを定性的に明らかにする 力や圧力の規則性を定量的に明らかにする
 
空気の重さによる大気圧を巨視的に明らかにする
 




 




 




 

身のまわりの物質
 
水溶液や気体の性質を定性的に明らかにする


 
物質の性質や状態変化の特性を巨視的に
明らかにする
溶解や状態変化を粒子の広がりの変化で微視的に明らかにする


 



 

電流とその利用

 
静電気の性質、電流と磁界の関係を定性的に明らかにする 電流と電圧の規則性を定量的に明らかにする
 




 
電流の流れを粒子の流れとして微視的に明らかにする
 
電流の発熱・発光作用や電流と磁界の相互作用のしくみをエネルギー的に明らかにする



 

化学変化と原子、分子

 
化学変化における物質の性質の変化を定性的に明らかにする 化学変化における物質の質量変化の規則性を定量的に明らかにする



 
化学変化を粒子の結びつきの変化で微視的に明らかにする



 




 

運動の規則性

 
力と運動の関係、エネルギーの相互変換を定性的に明らかにする 運動における速さと時間の関係を定量的に明らかにする



 




 
熱・光・音・電気・化学・力学などの現象をエネルギー的に明らかにする



 

物質と化学反応の利用

 
化学変化とエネルギーの関係を定性的に明らかにする
 




 




 
資源利用での酸化と還元を粒子の結びつきの変化で微視的に明らかにする 化学変化による発熱や発電をエネルギー的に明らかにする
 




 


科学技術と人間

 





 
  関連的    




 





 





 
人間の生活を支えるエネルギー資源の有効利用をエネルギー的に明らかにする
 
科学技術の発展と人間や自然とのかかわりを総合的に明らかにする
科学技術の利用と環境保全とを関連的に明らかにする
 
 
 
 
 
 
 A第2分野の単元における科学的な見方や考え方(P26資料参照)。
(2) 単元に寄せた教材化
 @本単元で養う主たる科学的な見方や考え方   
本単元は、化学変化における物質の性質の変化を定性的に明らかにし、そして、化学変化における質量の関係を定量的に明らかにすることで、化学変化を粒子の結びつきの変化としてとらえる微視的な見方や考え方を養うことがねらいである。表1の微視的な見方や考え方の本単元までの高まりを次に示す(表2)。                     
表2 微視的な見方や考え方の高まり
大単元名 関連付ける事象と内容 微視的な見方や考え方が高められた生徒の意識 微視的なとらえ



身のまわりの物質


 
物質の水への溶解を、粒子のモデルの変化や広がりと関連付けて説明する。 ・物質が水に溶けていく現象を粒のモデルで考えることで、 物質がだんだん小さくなって水と混ざり合っていく様子が イメージできた。物質は目に見えないくらい小さな粒にな って水の中に均一に存在しているのだ。 溶解して見えない物質の存在をモデルでとらえる
物質の状態変化を、粒子のモデルの広がり方と関連付けて説明する。
 
・状態変化を粒の様子の変化で考えることで、状態が液体か ら気体に変化すると体積は大きくなるが質量は変わらない 理由を説明できた。粒が広がると体積は大きくなるが、存 在する粒子の数は変わらないから質量は変化しないのだ。 状態変化による粒子の広がりをモデルでとらえる

電流とその利用
 
電流の強弱を、電子のモデルが移動する速さと関連付けて説明する。
 
・電流の流れを電子という粒子の移動で考えることで、電流 の強弱の違いがイメージできた。強い電流とは、粒子の流 れが速くて単位時間に移動する粒子の数量が多くなること だったのだ。 電流を粒子の流れとしてモデルでとらえる



化学変化と原子、分子


 
化学変化を原子、分子のモデルと関連付けて説明する。
 
・化学変化を原子、分子のモデルで考えることで、粒子の結 びつきや組み合わせによって分解や化合を説明することが できた。結びつきは変わるが、全体の原子の数は変わらな いので、化学変化の前後で質量は保存されるのだ。 化学変化の原子の結びつきの変化をモデルでとらえる
物質が化合する質量の比を、化合する原子の数の比や原子量と関連付けて説明する。
 
・物質が決まった質量の比で化合する理由を、化合物をつく る原子の数の比や原子量を根拠に説明することができた。 化合する原子の数の比が決まっていて、原子1個の質量が 決まっているのだから、物質が化合する質量の比が決まっ てくるのだ。 化合の質量の比のきまりを原子の結びつきと質量でとらえる
このようにして、生徒は、目に見える物質の性質や反応を、目に見えない粒子の考え方で統一的に説明していく微視的な見方や考え方を養っていく。
   
A本単元を通して養う科学的な見方や考え方と1時間の追究において養う科学的な見方や考え方
本単元は、化学変化を定性的に明らかにする学習から、定量的に明らかにする学習への深まりが見られる。その中で、生徒は、化学変化の現象の説明から量的な規則性の説明までを、原子、分子のモデルを用いて考えていく。このことにより、化学変化を粒子で考える抽象的思考(*2)が発達し、微視的な見方や考え方が養われていくと考える。単元を通して養う科学的な見方や考え方と本単元の1時間の追究において養う科学的な見方や考え方との関係を次に示す(図2)。
  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  *2言語や記号を媒介として、形式的・抽象的な概念や課題によって思考する活動。思考活動においては、対象    的思考から抽象的思考へと発達の過程をたどることが必要である(新理科教育用語事典 井口尚之 1996)。
B本単元の「化学変化に関係する物質の質量の割合は決まっているか」(P21単元展開参照)の場  面において養う見方や考え方の構想                
  生徒の研究  




 
  既習内容の     素朴な  




 
  素材の研究  
1 関心・意欲・態度
・既有の見方や考え方では説明が難  しい事象に出合うと、意欲的に追  究していく生徒が多い。
2 科学的な思考
・化学変化の前後で質量が保存され  ることを原子、分子のモデルで説  明できる生徒が多い。
3 観察・実験の技能・表現
・実験器具の基本的な扱いを習得し  ている生徒が多い。
・質量の比を調べる化合実験を、ほ  とんどの生徒が行った経験がある。
4 本単元の学習を支える知識・理解
・既習の化合について、多くの生徒  が原子の結びつきをモデルで理解  している。
・周期表と原子量の意味を知ってい  るが、活用して事象を説明することは
 ほとんどの生徒がしていない。
見方や考え方 見方や考え方 1 銅、マグネシウム、鉄、硫黄、  酸素の原子量
物質と物質が化合すると質量が大きくなる 化合する質量の比にきまりがあるとは気づいていない

 
Cu Mg Fe S O  
64 24 56 32 16  
2 銅やマグネシウムと酸素と  の化合
 


 
化合するときの質量が一定の割合で大きくなるとは思っていない   (既有の見方や考え方)

 


 
化学反応式 質量比  
2Cu+O→2CuO 4:1  
2Mg+O→2MgO 3:2  
  3 鉄(スチールウール)と酸  素の化合(四三酸化鉄)



 
いろいろな物質の化合の質量の比を原子、分子のモデルや原子量と関連付けて明
らかにする学習展開



 

 
化学反応式 質量比  
3Fe+2O→FeO 21:8  
(質量比は約5:2となる)
4 銅と硫黄の化合
 




 
いろいろな物質がその質量の比で化合する理由を、結びつく原子の数の比と原子量を根拠に説明できる。
  (科学的な見方や考え方)




 

 
化学反応式 質量比  
2Cu+S→CuS 4:1  
物質を完全に化合させて上記の数値の通りにすることは難しい。
(本時に寄せた教材化参照)
 
(3) 本時に寄せた教材化
 @原子量に着目して、物質が決まった質量の比で化合する理由を説明していく学習を発展的な内容  として位置付ける価値 
実験によりマグネシウムや銅が酸素と化合する質量の比を見いだした後、それぞれの化合を原子、分子のモデルで確認すると、どちらも金属原子1個に対して酸素原子1個が結びついているのに、3:2や4:1という質量の比で化合することについて疑問をもつ生徒がいる。これは、マグネシウム原子1個や銅原子1個と、酸素原子1個との質量の比がそれぞれ3:2や4:1であるためであり、周期表の原子量を提示して説明すれば、生徒は、その規則性を理解できると思われる。そこで、周期表と原子量の意味を学習し、化合の質量の比が決まっている理由を原子量と関連付けていく学習の展開を考えた。生徒は、目に見えない原子の質量や結びつきを根拠に、化合の質量の比が決まっている理由を説明していくことで、微視的に化学変化をとらえていくことのよさを振り返っていくと考える。
 
A物質が化合する質量の比を、化合する原子の数の比と原子量を根拠に説明していく学習の展開
生徒は、「化学変化をするときに質量は変化するか」(P20単元展開参照)の場面において、化学変化の前後で質量が保存されることを明らかにしたが、物質と物質が化合する質量の比のきまりについての追究はしていない。そのため、金属を燃焼し続ければ質量は増え続けると考えている生徒もいると思われる。そこで、前時にマグネシウムの燃焼の実験を行う。マグネシウムを強い火で熱すると、光を放ちながら酸素と化合する。反応が終わったら冷やして質量を測り、かき混ぜて、再び強い火で熱する。この操作を繰り返すことで、質量はわずかずつ増えていくものの、一定の割合からは増えなくなり、物質の化合には限度があることを知る。そして、マグネシウムと酸素は3:2の質量の比で化合することを確認し、物質が化合する質量の比は決まっていることを学ぶ。ここで、原子数の比が1:1であるのに、質量の比が3:2となることについての疑問を取り上げる。そして、銅と酸素の化合、鉄と酸素の化合、銅と硫黄の化合の、それぞれの質量の比と、その比になる理由を問う。生徒は、実験への興味・関心、反応の様子を想起した予想、原子量に着目した予想などによって追究したい実験を選択する。
本時は、前時に選択した化合について、どんな質量の比で化合するのかを追究する。生徒は実験により、それぞれが4:1、5:2、4:1の比で化合することを見いだすだろう。そして、なぜこの質量の比で化合するのかを考察する。生徒は、銅と酸素は原子が1:1(CuO)で、鉄と酸素は3:4(Fe3O4)で、銅と硫黄は原子が2:1(CuS)で結びつくことを原子、分子のモデルで確認するとともに、周期表の原子量に着目するだろう。原子1個の質量は決まっていることに気づいた生徒は、それぞれの原子量から、銅:酸素は64:16で、簡単な整数の比にすると4:1になり、銅:硫黄は128:32で、これは4:1になることを見いだすだろう。鉄:酸素については168:64で21:8になり、5:2とならずに考え込むことが予想される。そこで、このような生徒には、実験で調べた鉄0.5gや1.0g、1.5gの値に8/21をかけてみるように促す。生徒はそれぞれが0.19g、0.38g、0.57gとなることを計算し、電子てんびんで測ることのできる小数第一位までの数値にすると0.2g、0.4g、0.6gとなることを確認して、5:2の比になった理由を説明していくだろう。このようにして化合を原子、分子のモデルや原子量と関連付けて説明し、事象を微視的にとらえることによって化学変化の規則性を明らかにできたことを意識化していくと考える。
 
B素材の教材化
生徒が化合の様子を想起し、化合における質量変化のきまりについて自分なりの考えをもって実験を選択できるようにするために、本時は、既習の化合の中から質量の比の理論値が得られやすい次のイ〜エの実験を準備する。
 
ア マグネシウムと酸素の化合(前時の実験)
マグネシウムはアルミニウムより軽く、湿気中で徐々に酸化し、酸化被膜を形成するが、リボンでは完全にぼろぼろに崩れる。粉末は非常に発火性が高く、マグネシウムの火は水や二酸化炭素を加えるとさらに激しくなる。酸素中で点火された火は窒素中でも反応し続ける。
マグネシウム粉末を強い火で熱し、酸素と化合させ、化合の質量の比を求める実験では、点火にガストーチを使用する。燃焼皿の下から、ガスバーナーとガストーチを併用して加熱する。点火後もガストーチを使うと強烈な光を発して反応するが、冷却後質量を測定すると質量はあまり増えていない。これは、マグネシウムの表面のみが酸化しただけであるからと考えられる。点火
後は、ガストーチの使用をやめて、薬品さじでかき混ぜ続けるようにする。秤量0.1gの電子て





 
んびんを使用しているため、100mg単位での数値しか得られず、わずかな質量の変化は読み取
れないが、質量の比3:2の理論値に近づけるためには、加熱後丁寧に酸化物を砕き、かき混ぜて細かくし、再び加熱す マグネシウム1.2gを加熱したときの質量の変化
加熱方法 ガスバーナー + トーチ ガスバーナーでかき混ぜ続ける
加熱回数
質量(g) 1.4 1.6 1.8 1.8 1.9 1.9 1.9
ることを最低でも3回は繰り返す必要があると考える。
生徒は、前時にマグネシウムの加熱を繰り返し行い、化合物の質量の増加には限界があることに気づき、グラフからマグネシウムと酸素の質量の比が約3:2になることを見いだすだろう。
 
イ 銅と酸素の化合
銅は、可鍛性・伸展性のある優れた熱伝導体である。銅の赤い光沢は空気中にしばらく放置すると失われ、最終的には水酸化炭酸銅の緑青を生じる。
銅粉末と酸素の化合では、銅をできるだけ広げた燃焼皿をるつぼばさみで持ち上げ、ガストーチで燃焼皿が真っ赤になるまで一気に加熱すると、ほぼ理想の質量の比4:1が得られた(図3)。ガスバーナーのみで繰り返しかき混ぜるよりも、短時間で正確な結果が得られることから、本時ではガストーチを使用する。
銅と酸素の化合を選択した生徒は、燃焼皿が真っ赤になるほどの強









 
い加熱によって銅が黒く変色していく様子を観察する。生徒は、銅がす 図3 ガストーチでの加熱
べて黒く変色したかどうかを観点に実験を進める。銅0.8g、1.2g、1.6gのいずれの質量でも、1回か2回の加熱で完全に酸素と化合したと判断して 銅1.6gを加熱したときの質量の変化
加熱方法 ガストーチ ガスバーナーでかき混ぜ続ける
加熱回数
質量(g) 1.9 2.0 1.8 1.9 1.9 2.0
実験を進めるだろう。そして、実験結果の数値から、銅と酸素の質量の比が4:1であることを見いだすと思われる。そして、銅と酸素の化合を原子、分子のモデル(図4)で確認し、周期表の原子量に着目して、4:1の質量の比で化合する理由を説明していくだろう。     図4 銅と酸素の化合の原子、分子のモデル
ウ 鉄(スチールウール)と酸素の化合
酸化鉄には、酸化鉄(U)(化学式FeO)と、酸化鉄(V)(化学式FeO)、四三酸化鉄(化学式FeO)とがある。酸化鉄(U)は、シュウ酸鉄を空気を断って加熱したり、鉄を酸素の少ない状態で加熱したりすると得られる黒色の粉末である。酸化鉄(V)は、鉄の水酸化物などを加熱すると得られる赤褐色の粉末である。製鉄の原料や赤色顔料などに使われる。四三酸化鉄は、鉄を空気中で焼いたり、赤熱した鉄に水蒸気を作用させたりすると得られる黒色の粉末である。磁性をもち、黒色顔料や印刷インキなどに用いられる。スチールウールを強い火で燃焼させると
  主に四三酸化鉄が得られる。
   丸めたスチールウールをガスバーナーで点火  し、息を吹きかけて燃焼させたときと、酸素中  で燃焼させたときの質量変化の違いを調べた。
スチールウール1.0gを燃焼させたときの質量の変化
加熱方法 空気を送り続けた 酸素中で燃焼させた
質量(g) 1.3〜1.4 1.4
空気を送り続けた場合、約5:2の理想の質量の比が得られるときとそうでないときがあった。酸素中での燃焼では、ほとんど理想の質量の比が得られた(図5)。したがって、質量の比を正確に求めたい本時では、スチールウールを酸素中で燃焼させる実験を行う。
スチールウールの燃焼実験を選択した生徒は、酸素を満たした集気びんの中で熱と光を発して燃焼するスチールウールを観察する。燃焼がおさまってきたら、再び酸素を吹きかけるように指示し、酸素を吹きかけても燃焼しなくなるまで繰り返すように促す。0.5gでは0.7gに、1.0gでは1.4gに、1.5gでは2.1gになった結果から、鉄と酸素の質量の比5:2を見いだすだろう。四三酸化鉄は、鉄と酸素が3:4の原子数の比で結びつくことか 図5 酸素中の燃焼
から、原子量に着目して21:8の質量の比になると導きだすだろう。実験した鉄の質量に8/21をかけた計算の値から、電子てんびんの精度も考慮し、約5:2の質量の比で化合する理由を説明していくと思われる。
 
エ 銅と硫黄の化合
試験管に入れた硫黄を加熱し、発生した蒸気の中へ熱した銅を入れると、硫黄と銅が激しく反応して硫化銅ができる(図6)。1.2gの銅を反応させると、1.5gの硫化銅ができる。1.6gでは2.0g、2.0gでは2.5gとなり、結果から銅と硫黄の質量の比が4:1であることを見いだすだろう。CuSという化学式や原子、分子のモデルから、銅原子と硫黄原子が2:1の数の比で結びつくことを確認し、原子量に着目して4:1の質量の比で化合する理由を説明していくと思われる。なお、この実験は、二酸化硫黄(SO)が発生するため、換気に気をつけるとともに、教師が火力の調節等安全面に配慮する必要がある。                       図6 銅と硫黄の化合
 
C生徒が見方や考え方の高まりを意識化する振り返り
本時における生徒は、物質が化合する質量の比にきまりがある理由をまだ明らかにしていない。化合の質量の比が決まっている理由を見抜けない既有の見方や考え方から、それぞれの化学変化を原子、分子のモデルで見返し、周期表に着目することで、物質の化合を原子の数の比や原子量と関連付けた見方や考え方へと変容させる。このような見方や考え方の変容を振り返り、結果を予想できた自分の考え方のよさや、予想に反した実験結果、参考になった友の意見、想起した前時までの学習内容、納得した友の考察など、見方や考え方の変容に役立ったことをまとめていく。このようにして生徒は、事象の規則性を科学的に説明できるまでに至った過程を振り返って見方や考え方の高まりを意識化し、自分の追究に対する成就感や充実感を味わっていくだろう。
 
7 評価計画
  本校理科では、それぞれの「評価の観点」において、見方や考え方、科学的な調べ方や目的意識のもち方の高まりの程度に基づいて本単元における具体の評価規準を次のように設定した(表3)。
評価の観点アについては、すべての時間においてAとCの生徒を評価し、Aと評価した生徒の追究のよさを全体に紹介する。また、評価の観点アやウにおいてCと評価した生徒に配慮し、その授業内に手だてを講じていく。評価の観点イやエについては、ワークシートによる評価を中心に行い、個々の生徒の追究のつまずきや深まりの状況を把握する。そして、Cと評価した生徒のつまずきを全体で考え合うために取り上げたり、追究の見通しについて対話したり、また、Aと評価した生徒の考えを全体追究に位置付けたりして、指導に生かしていく。
表3 本単元における具体の評価規準

評価の観点
 

「おおむね満足できる」状況(B)
 

「十分満足できる」状況(A)
 
「努力を要する」(C)と評価した

生徒への手だて

評価方法
 
ア 自然事象 への関心・ 意欲・態度

 
2種類の物質の化合や、化学変化に関係する物質の質量の規則性について関心をもち、仮説をもったり、観察・実験を行ったりしようとする。 自分の仮説を進んで発表しようとしたり、自ら目的意識をもって観察・実験を行ったりしている。
 
仮説をもつための着目点について対話をしたり、観察や実験を共に行ったりする。

 
行動観察
発言



 
イ 科学的な 思考













 
@化合などの化学変化について、 原子、分子のモデルと関連付け て説明するとともに、化学反応 式で表す。 物質の化学式の説明がなくても化学変化を化学反応式で表している。
 
化学変化による原子、分子の結びつき方の変化について、モデルを用いて共に考える。 ワーク  シート













 
Aスチールウールや木炭と酸素と の化合を、反応前後の質量や体 積の変化と関連付けて説明する。
 
スチールウールや木炭と酸素との化合物を予測し、質量や体積の変化の理由を説明している。 鉄や炭素が酸素と結びついてできる物質について対話する。
 
B化学変化の前後の物質の質量に ついて、原子、分子のモデルと 関連付けて説明する。 化学変化の前後の物質の質量について化学反応式を用いて説明している。 化学変化を原子、分子のモデルを用いて説明し、原子の種類と数の変化を問う。
C決まった質量の比で化合する理 由を、化合物をつくる原子の数 の比や原子量と関連付けて説明 する。
 
原子量に基づいた質量の比が簡単な整数にならない化合物の質量の比について、実験上の誤差を考慮して説明している。 それぞれの化合の原子、分子のモデルを確認するように促し、周期表の原子量を提示する。
 
ウ 観察・実 験の技能・ 表現















 
@鉄と硫黄の混合物を熱したとき に起こる反応と、できた物質の 性質について調べることができ る。 鉄と硫黄の混合物と化合物の違いを予測し、性質を調べる方法を自ら考えている。 鉄と硫黄の混合物と化合物の違いを調べる方法について説明し、結果を共に確認する。 行動観察
ワーク  シート















 
A金属や木炭、水素を燃やしたと きの反応と、そのときできる物質 について調べることができる。 金属や木炭、水素を燃やしたときにできる物質を予測して調べている。 金属や木炭、水素が酸素と化合してできる物質について対話し、調べる方法を問う。
B閉鎖系で石灰石と塩酸が反応し たときの質量の変化や、開放し たときの質量の変化について調 べることができる。
 
発生する二酸化炭素の行方に着目して、密閉容器の変化や栓をゆるめたときの変化を注意深く調べている。 石灰石と塩酸の反応によって発生する気体を説明し、密閉状態から開放したときの発生気体の行方について対話する。
C金属を加熱する前後の質量を測 定し、その結果をグラフに表す ことができる。
 
質量の増加の仕方を予測して金属の加熱を繰り返し行い、誤差を考慮してグラフを表している。 金属の加熱を繰り返し行うように促し、結果には誤差がある理由を説明して、グラフの表し方を確認する。
Dいろいろな物質が化合するとき の反応前後の質量の変化を調べ ることができる。 反応後の質量を予測して実験を行い、必要に応じて再実験をしている。 化合の質量の変化を調べる方法について対話し、実験上の注意点を共に確認する。
エ 自然事象 についての 知識・理解









 
@2種類以上の物質が結びついて 別の新しい物質ができる化合に ついて理解する。 化合を原子や分子の結びつきで説明する。
 
化合前と化合後の物質の性質の違いについて対話する。
 
ワーク  シート
単元   テスト








 
A熱と光を出しながら酸素と化合 する燃焼について理解する。 燃焼を酸素原子との結びつきで説明する。 物質が燃焼するときの共通点について問う。
B化学変化の前後で、物質の質量 の総和が等しいという質量保存 の法則について理解する。
 
質量保存の法則を原子、分子の種類や数の変化で説明する。
 
化学変化を原子、分子のモデルで表し、反応前と反応後の原子の種類と数の変化を共に確認する。
C2種類の物質が化合するとき、 一定の質量の比で化合すること を理解する。
 
既習の様々な化合の質量の比を、結びつく原子の原子量で説明する。
 
化合で結びつく原子の数の比を問い、原子1個の質量は決まっていることを説明する。
また、本時における科学的な思考の「具体の評価規準」と「判断規準」、「指導・手だて」を次のように考えた(表4)。この評価規準表に基づき、本時の追究における生徒の姿を評価して指導
 に生かしていく。          表4 本時の評価規準表
具体の評価規準 場面(評価方法) 判断規準 指導・手だて
イ−C
決まった質量の比で化合する理由を、化合物をつくる原子の数の比や原子量と関連付けて説明する。




 
学習活動4
(ワークシート)








 

A
 
原子量に基づいた質量の比が簡単な整数にならない化合物の質量の比を、実験上の誤差を考慮して説明している。 決まった質量の比で化合する理由を友に説明するように促したり、発展問題を出題したりする。

B

 
決まった質量の比で化合する理由を、化合物をつくる原子の数の比や原子量と関連付けて説明できている。 原子量に基づいた鉄と酸素の質量の比から理論上の化合の質量を求めるように促し、電子てんびんの精度について説明する。

C
 
決まった質量の比で化合する理由を、原子、分子のモデルや周期表に着目して考えることができていない。 それぞれの化合の原子、分子のモデルを確認するように促し、周期表の原子量を提示する。
10 資料
表5 第2分野の単元における科学的な見方や考え方(太字は、主たる科学的な見方や考え方)
 見方や
  考え方


大単元名
関連的
事象を他の事象とのかかわり合いでとらえること
 
類似的
事象を多様性と共通性でとらえること
時間・空間的
事象を時間の推移や空間の広がりでとらえること
動的
事象を動きの変化でとらえること
 
相対的
事象を比較できる他の事象との関係でとらえること
総合的
様々な事象を一つにあわせてとらえること

植物の生活と種類
 
植物の体のつくりとその働きとを関連的に明らかにする 植物の分類を類似的に明らかにする


 



 



 



 

大地の変化

 
大地の変動の様子と火山活動や地震とを関連的に明らかにする


 
地層や火山、地震の規則性を時間的・空間的に明らかにする


 



 



 

動物の生活と種類

 
動物の体のつくりとその働きとを関連的に明らかにする
 
動物の分類を類似的に明らかにする
 




 




 




 
動物の生活や体のつくりと働きを総合的に明らかにする

天気とその変化
 
観測による気象要素と様々な気象現象とを関連的に明らかにする


 
前線の通過に伴う天気の変化を時間的・空間的に明らかにする 水の状態変化と大気の動きを動的に明らかにする


 
天気の変化の規則性を総合的に明らかにする

生物の細胞と生殖

 
細胞レベルで見た動物と植物の多様性と共通性、生命の連続性を関連的に明らかにする



 




 
生物の細胞の分裂を動的に明らかにする
 




 




 

地球と宇宙

 
観察記録や資料と天体の運動や特徴とを関連的に明らかにする


 



 
天体の日周運動や年周運動を動的に明らかにする 天体事象の規則性や太陽系の構造を相対的に明らかにする


 

自然と人間

 
自然界の生物相互の関係とつりあいとを関連的に明らかにする


 



 



 



 
自然と人間のかかわり方を総合的に明らかにする