平成20年度 数学教育勉強・研究会                            (mathEnet主催)


 この勉強会も平成15年〜17年頃は,京都に教育研究の習慣や土壌がないこともあり手探り状態でした。申し訳ないですが,それ以降についても,校務や時間的に余裕がないことを理由に催しから距離を置いておりました。昨今は,時代の拙速な流れに対応すべく幼・小・中・高での各学校が研究というテーマに取り組む姿が見られ出しました。しかし,形だけのしかも中身のない「やらされ」のスタイルでは,せっかくの研究も台無しです。また,独善的な研究・勉強に陥らないように第3者からの定期的な建設的な評価や方向性への助言も,研究する人にとって大切なモチベーション向上に繋がります。そこで研究の仕方や教育現場での生かし方,そして今後の教育研究の土壌育成・定着に向けて再び活動を開始することにいたしました。

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vol.1 H20.4/12
vol.2 H20.5/24




 平成20年4月12日(土)午後3:00〜           於:京都教育大学A棟4F
 参加者は,30数名。発表者は,7名でした。

テーマ・御題(仮題も含む) 概要及びコメント
数学科教育の研究とは

数学教育学や研究を行う上での心構え等の講演。数学教育学は,中心分野として教育課程論・教育内容論・授業論。
基礎分野として数学・認知論。素養分野として,日本の数学教育史,世界の数学教育史・比較数学・教育学・数学の文化史・数学史を研究する学問であるとした。文化史の一つの例として,時刻をどのようにして測れるようになってきたのかを水時計の歴史を題材に説明があった。また,学校で行われる授業研究の問題点を幾つか提示し,まとめとして「学校現場への提言」として数学教育学を基本とした数学科教育,教員養成・教員研修の充実,幅広い知識を身につけた教員の必要性を説いた。大学の教員養成カリキュラムへの悩みと現場への期待感が述べられた。
守屋誠司
(京都教育大学教授)
  会場の様子
分割概念を素地とした量分数の指導実践


太田直樹
(ノートルダム学院小学校)
量分数に対して,児童が誤認識をすることは,従来から指摘されている。高学年児童を対象に行った認識調査でも,分割分数の認識である児童がほとんどであった。そこで,分数の指導に関わる基礎資料として,小学校3年生児童に対して8時間の教育実践を行った後で,認識調査を行った。その結果,指導を受けていない小6児童よりも量分数についての正答率が高くなったことが判明した。

(会場からの質問や意見)
・1/2mといような紛らわしい質問を含んだ調査に,問題はなかったのだろうか?
・小数や%,割合などを総合的に利用する方が,有効ではないか?
・改善するカリキュラムの構成を研究し,次回以降に勉強しましょう。

学力実態把握の分析方法について

大村隆之
(京都市立洛西中学校)
児童・生徒の入学前の学力状況の改善を目指して実践を行う際に,大きな壁として色々な素因が見え隠れする。原因を究明し少しでも学力向上や差を無くすためには,いったいどのような事前調査を行い,またどのような研究内容を進めていけば良いのか...。
率直な現場からの悩み・提言が述べられた。


(会場からの質問や意見)
・じっくり腰を据えて慎重に研究をしましょう。大学からも何かお手伝いができるなら,一緒に考えましょう。
・地域全体としての取り組みに発展して欲しい。
情報科の教材として統計を扱った場合の効果と課題

種村 篤
(京都府立東宇治高等学校)
小・中において,現行の学習指導要領では統計分野が削除された。高校では,数学Bに統計は存在するが選択である。教科「情報」では統計の手法が必要とされながらも,統計を未学習の生徒達には基本的な内容も理解できない。そのため「情報」で統計の基礎を扱い,実践的な取り組みを行い,さらにコンピュータの習得を目指した。実データの収集,集計,分析,発表も行う一連の教材から分かった効果と課題が報告された。

(会場からの質問や意見)
・エクセルを使用して活動を中心に実践されたことに正直嬉しく感じた。
・「活用」というテーマは,どこまで解釈するのか。最初から上げ膳据え膳で集められたデータではなくて,ある目的を持ってデータを収集から始める教育内容であって欲しい。当然教育効果は高いと思うが,その為には膨大な時間を要することも付随してくる。
・「探求」と「活用」の違いって何だろう?
模試に見る1点差による学力差

大竹 真一
(河合文化教育研究所)
今回は,話題提供として大手予備校の大学受験生を対象とする模擬試験において見られる学力差とその原因について考察された。

(会場からの質問や意見)
・「式の整理」において学校現場の入試対策のテクニックとして,大凡の正解が得られれば次の問題を解かせる傾向にある。綺麗に纏めた式に整理しない奇妙な習慣はそこから生まれたのではないか?
・テストの答えが明解なものとして与えられる前提である。ドイツでは,この奇妙な解答は明かに授業等で指導者から苦言を出されるだろう。日本では,気にならないのだろうか。数学を扱う者として違和感を憶える。
紙箱の数理
-長方形から容積最大の容器を作る-


大西 俊弘
(龍谷大学准教授)
段ボール箱やテトラパックなど身近な紙容器について容積最大になる原理を考察してみると面白い結果が得られた。蓋付き直方体の箱の容積のモデルとなる式を構築し,Grapesで最大値を検討された。確かに段ボール箱が最大であった。テトラパックについてもどうかと考えられた。決められた1枚の長方形から四面体を作る際に,容積が最大になるには?それは正四面体なのか,また長方形の縦横の理想的な比はどうなのか?

(会場からの質問や意見)
・テトラパックは体積が最大になることは企業も理解していただろう。コストを考える上で「紙の面積が一定」という条件が少し見えにくい。確かに長方形の縦横の比が黄金比であることは有用であろう。そのときが面積最小となり得るのだろうか。

Skypeを利用した遠隔協同学習
 
―学校設定科目「サイエンス・ラボ」におけるフラクタルのカリキュラム化―


河崎 哲嗣
(京都府立嵯峨野高等学校)

2007年4月から高校1年生対象の学校設定科目「サイエンス・ラボ」を担当した.そこでは,フラクタル教材をカリキュラム化し,授業実践をした.高校で学習する数学単元との繋がりを意識し,学力向上は基より論理的思考力と科学的実践力の育成するための教材と方法の開発を目的とした.また11月からスウェーデンのイェーテボリ市Polhemsgymnasiet校の高校3年生とSkype による協同学習を展開する機会を得た.そこでは,協同学習を通じて国際理解や学習意欲の向上を目指した.これらの実践経過報告(ビデオ放映)を行った

(会場からの質問や意見)
・参加した生徒の学習以降の様子に,どのような変容が得られたのか?
・更なる効果的な実証研究を進めるべきだろう。

2 平成20年5月24日(土)午前10:00〜午後4:00           於:京都教育大学A棟4F
 参加者は,10数名。発表者は,5名でした。

テーマ・御題(仮題も含む) 概要及びコメント
小学校の確率のカリキュラムに向けて

口分田 政史
(京都教育大学大学院M1)
講師をしている高校での生徒から「確率が分からない」という声を良く聞いた。確率の概念は小学校1年生から導入したいと考えている。実験実測を通して素朴に確率概念をつかむ教育内容が不足していると考える。子どもが身につけるべき内容はいったい何なのか。確率教育のカリキュラムを作成するにあたり,学力調査の結果・諸外国の確率教育・日本の実態を先行研究を通して,まず考えてみた。日本の中学校で,数学的確率が導入されるまでに割合(相対度数)の計算に終始するあまり,蓋然性・根元事象の一様性に関するの学習が不十分であるという指摘があった。
(会場からの質問や意見)
・他国との比較であるが,日本で実践してその結果をデータで示して欲しい。
・小学理科では,5年生で「ふりこと衝突」の時にやっと実験を行い,そのデータを集めて平均をとるという作業がある。これが最初で最後である。しかし,算数はもっと奥へ踏み込もうとしている。どこまで踏み込むのか。どういう教材が必要なのか。視覚的な判断に従属してしまう小学生。結局暗記で終わってしまうのであろうか。
ドイツのBayern州Hauptshuleにおける幾何教育について

植村 友紀
(京都教育大学大学院M1)
ドイツのHauptschule(基幹学校)における幾何教育の現状をBayern州の数学カリキュラムや目標などと教科書を中心に分析していこうという試み。Hauptschule(基幹学校)は卒業後,ほとんどの生徒が就職する高校のようなイメージ。5年間通う(希望すれば6年間)。他自分の学力に見合うように,ギムナジウムやリアルシューレがある。大凡30%rずつの割合で,それぞれの学校に進学する。実際の教科書の中から日常生活や仕事、職業との結びつきを重視している内容として水上エレベータを扱ってモデリングを考える教材を提示された。またピタゴラスの定理を経験的に発見させる内容も取り上げられた。

(会場からの質問や意見)
・論理教育がやや手薄のような感がするが,果たしてその影響があるのではないか?
・演繹的な証明がないのは何故か?
確率・統計の指導目標は何か?

小波 秀雄
(京都女子大学教授)
因果関係の認識が未成熟と考えられている昨今。何の疑いもなく全く無関係なものまでを結びつけてしまう実態が目につく。そこで統計学習の3つの基礎として,1.データ集合から分布の特性を示す統計量(平均・分散など)を計算すること 2.確率分布の概念を知ること 3.抽出という過程を理解することを揚げられ,これらを元にして統計的判断を正しく使えるようになることが大切だと言われた。そして確率を学ぶ意味として,1.確率そのものの理解(リテラシーの側面をも含む) 2.統計理論への準備とされた。"リテラシー"としての確率学習の欠如の指摘もされ,実態として確率の計算はできるが,その理解は誤認識だらけで,社会と生活に有用な問題に取り組んでいない(条件的確率とベイズの定理)問題点を掲げられた。例えば,降水確率60%と言われた時の理解,,マルコフ仮定で人間は認識してしまうとして,宝くじ一等賞が出た店頭に何故多くの人が買い並ぶのか。打率3割の打者が2打席凡退した後,次打席で高い確率でヒットが出るのか。発表で小さく纏めたのが申し訳ない位であった。

(会場からの質問や意見)
・小学校での教育で,実感させる教材として何が考えられるかヒントをください。
会場の様子
凸反射板の焦点と面積

長濱 聖
(Kenis株式会社)教材屋さん
下のような凸反射板(鏡面)を製作したところ,ユーザーとなる小学校の先生から幾つかの質問があがった。「焦点が何処にあるか調べるにはどうすれば良いのか」「この面の表面積を計算したい」という無理難題な要望に困っていることを吐露されていました。

(会場からの質問や意見)
・多変数関数(この場合,2変数関数)の偏微分や重積分を活用すればということで,学生の作品を提示した。
錐体鏡と球面幾何
河崎 哲嗣
(京都府立嵯峨野高等学校)
画像がなくて済みません。錐体鏡を嵯峨野高校の中学生向け講座で扱ってみたい。錐体鏡から正多面体,組み立てていく球面への発展が出来た。鏡が反射して写る数学的な背景のヒントが欲しいということを求めた内容であった。

  午後の部   船越俊介先生(甲南女子大学)の講演

   この講演は,京都教育大学大学院の算数・数学教育実践総論の内容です。そして,船越先生の御厚意で聴講させて頂きました。 「新学習指導要領」について,「全国学力テスト」PISA型の学力について,算数・数学教育観(学力観)に基づく実践上の問題点について,聴講者に対しても多くの意見や質問を求められ,熱く語られました。