第3回mathEnet勉強会 発表要旨

日時: 10月9日(土) 13:00−17:00
場所: 京都教育大学1号館A棟4階A1教室

1) 「小学校における論理教育カリキュラムの試案」
太田直樹 京都教育大学大学院1回生
 論理教育の必要性は「論理思考の質を高め、体系だて物事を考える習慣を養うため」である。
高校3年生を対象にした学力調査の結果から自分の考えを説明することが困難な生徒が多い
ということがわかった。これは始めから記述問題を論理的に考えようとする習慣がないことや、
考えようとしたが論理的に表現できないということを示唆している。これは現在の教育課程で論
理的思考の育成を主な学習目的とした系統的な単元はなく、種々の学習の中や生活経験の中
で付随的に育成することになっているからである。
論理認識の先行研究から、否定、連言、選言は小学校1年生または2年生ごろに適当な教育を
行うことで、子どもの認識を発展させることができるのではないかと考える。また、小学校5、6年
生の児童は演繹法、消去法、背理法を無意識に使っているので、これを顕在化させながら教育
すべきであることがわかった。
以上のことから、低学年から,基礎的な用語となる否定(でない)・連言(かつ)・選言(または)を
扱い、中学年では,条件式を扱い,簡単な論理記号と推論規則を導入しながら2段階の連続した
推論を扱い,高学年では,消去法や背理法を扱うカリキュラムを提案した。今後の課題としては、
提案したカリキュラムの妥当性と効果を実証的に検討し、修正していくことである。

2) 「変換を用いた図形指導カリキュラムの試案」
有利晃武 京都教育大学大学院1回生
 近年の数学教育において図形分野の内容は縮減される傾向にある。平成10年の学習指導要
領の解説においてはユークリッド空間の把握が指導内容の骨格としてあげられているが,コンピ
ュータの普及など社会の状況に応じて,義務教育においての変換幾何や解析幾何への一定の
理解が望まれるところである。そこで,数学教育の現代化の頃にみられた変換幾何の指導に着
目し,歴史的な経緯もふまえて,その教育的効果を検証する。

3) 「数学教育での創造性育成のための基礎研究」
寺本京未 京都教育大学大学院2回生
 「数学教育での創造性育成のための基礎研究」寺本京未 京都教育大学大学院2年生
 創造性の育成には,拡散的思考だけでなく,論理的思考も育成することや,基礎的な学力の習
得や文化からの学び取りなどの準備を徹底的に行った上で,孵化期をとることが必要である。また
,創造性の評価方法について,拡散的思考と論理的思考の双方を評価するためには,教師の観
察による評価が適当である。


4) 「確率概念の認識における水準について」
岡部恭幸 神戸大学附属住吉中学校
 本研究の目的は,確率の分野において,「方法の対象化」を明らかにし「確率概念の認識につい
ての水準」を設定することである。「方法の対象化」はvan Hieleの水準論を特徴づける原理であり
,単元やカリキュラムの構成原理となりうる。しかし,幾何以外の分野においては,必ずしも明確と
はいえない。そこで,確率概念について,FishbeinやHorvathらの先行研究をもとに分析を行うとと
もに,数学言語の構成という視点からとらえ,数学的に形式化することで,確率概念の認識につい
ての「方法の対象化」を明確にした。そして,得られた知見をもとに「確率概念の認識における水準
」の設定を行い,第2水準から第3水準への「方法の対象化」の存在について,実態調査から検証
を行い,第2水準と第3水準の生徒が混在することを明らかにした。水準の差は、確率を求める際
の方法を見た。全体の場合を数えあげ確率を求める方法を第2水準とし、それぞれの事象の確率
そのものを対象に、加法乗法を行って求める方法を第3水準としている。

5) 「等積変形についての一考察」
     〜直交する2本の直線にそって切り,並べ直すと正方形にできる図形列〜         
                 八木義宏 長岡京市立長岡中学校
 面積5の十字形の図形は2本の直線を引いて,その直線に沿って切り分け,再び並べ直すと正
方形にできることはよく知られている。また,十字形以外にも正方形になる図形を示すことができ
る。本稿では,正方形にできる様々な図形を,b,cの値に着目し分類することによって以下の2点
を導こうとするものである。
 @ある1つの図形が2本の直線で切り分け,正方形に並べ直すことができれば,その図形に数
列を与えることができ,その数列を満足する図形が数列に従って順に定義される
 Aその数列で定義された図形はすべて,2本の直線で切断すると正方形にすることができる。し
かし,2ないし3までの数列の定義である。また,bについてもせいぜい5までであるので,別解が
ある可能性は否定できない。


特別講演    「中国の義務教育事情」
劉京莉 北京師範大学 副教授 数学教育担当
 中国の教育制度は,日本同様の形になっている。義務教育は9年間であるが,中退者は小学生
で0.5%,中学校で3.2%いる。また高校の進学率は51.2%である。中国には,特別に重点学校という
学校が設けられている。その学校に進学するのは,中国の6%(約7000万人)である。その学校に
は,国から多くの援助が出ていて,いい先生も集められている。
 中国の教育課程の特徴は,基礎知識をしっかりと教えていることである。重点学校でない公立の
学校では,内容として二次関数の問題や三角関数まで扱っている。
 2001年には,中国の文部省は学習指導要領を改訂している。創造能力・実践能力の育成を目指
している。知識の他に子どもの意欲態度も重視し始めている。小学校の教育内容には,数と代数,
空間図形,統計確率,実践総合問題がある。数と代数には負の数,文字式,方程式があり,図形
では,変換や極座標系の位置,確率統計では,確率の起こりやすさ,場合の数,割合,平均や,論
理的思考力育成のための内容もある。
 現在の問題としては,創造力実践力の育成のために,総合学習が取り入れられているが,受験
知識が低下したことや,実践が意味のない活動とされていることが挙げられていた。
 教員養成制度は,小学校教諭は大卒以上,中学校教諭は,専門4年と教育2年の6年間となって
いる。他にも教師には,等級や任期制度がある。