1996年度  
               「ソニー教育資金」応募論文 
                                                                                   
人間のもつ可能性の開発をめざす教育  

             愛知県蒲郡市立中央小学校  
                        校      長    内藤公夫  
                          教      頭   前田千佳子  
                      PTA会長   大須賀友彦   
                          研究代表者     小田泰史  

 は  じ  め  に

  最近,理科室が汚れていることがしばしばある。理科室が利用されなければ,汚れるこ
とすらないことを考えると,これは,大変喜ばしいことである。
  小学生の理科離れは教員の理科嫌いが原因の一つだという指摘がある。本校の職員につ
いても,この指摘のとおりであった。この現状があるからこそ,理科学習に焦点を絞り,
その発展を各教科に求め,研究の推進をはかってきた。
  その結果が,理科室の利用頻度として現れてきた。昨年度は,ソニー教育資金に応募し
「努力校」をいただくことができた。理科室の備品充実と共に,子供たちが,自分たちの
学習のようすが評価されたことを喜んだことがなによりであった。
  教員自身の不得意分野を模索する姿は,子供の学ぶ姿に通じるものがある。これこそが
私たちの財産になるであろう。

一人一人の特性を伸ばし,自主的な活動をうながす工夫

本校の教育理念と全校的な取り組み

(1)本校の教育理念
  本校は開校以来27年「個の開発」を研究主題としてきた。この主題のもとに,毎年さま
ざまな角度から研究実践を継続してきたことが,本校の伝統作りの基盤となっている。    
開校当時の記録には,「子どもの持っている可能性を無限に引き出してやるためにも,わた
したちは綿密な計画をたて,労を惜しむことなく力強く実践していかなければならないと
思っている。すすんで学ぶ子にするために一人ひとりによくわかる授業,子どもの側に立
った授業を展開していきたい」とある。  校訓「あかるく かしこく たくましく」を根
底に,開校以来の精神に基づき地域,子供,職員が一体となった努力を続けている。
                                        
2)全校的な取り組み

  1)誰もが主役 児童会活動
「ぼくたち,私たちの手で児童会活動を盛り上げよう」を合言葉に児童会活動が行われて
いる。児童会活動の中心は代表委員会である。ところが,4月当初の代表委員会では,話
し合いの仕方がわからず,意見も質問も言わない子がほとんどであった。
  第2・4月曜日に行う児童集会を,年間計画の中で執行部と各委員会に割り振った。そ
の際,児童会だより『のびのび』の発行と,代表委員会での提案を必ず行うこととした。                                                                                                                                                  
各委員会では「代表委員会での質問に答えられないと困るから,しっかり案を練らないと
いけない」という意識がはたらいた。そのため,代表委員会での的確な提案,集会でのわ
かりやすい説明やスムーズな進行ができるようになった。さらに,学級委員や協力委員の
意識の高まりも見られた。

 2)縦割り活動の充実  …  通学団活動
  本校が実施している通学団活動は,1年生から6年生までの同じ地域に住む子供の集ま
りで,異学年で組織する縦割り集団である。横の関係でさえ希薄になっている現実を見る
と,この縦の関係で交わる機会は,児童の社会性を育てるために大きな役割を果たしてい
る。
  一つ一つの通学団活動にねらいを持ち,計画的に実施すること。そして,内容を充実さ
せることにより連帯感を養い,さらに高学年は,集団をリードすることでリーダー性を育
てる場にもしていくことを目標に活動を続けている。
  
 〈活動の具体例〉
  毎週木曜日の始業前10分間の草取り,毎週土曜日の一斉下校や各通学団ごとの小集団に
よる仲よし班登校の常時活動のほか,サツマイモの栽培や収穫を祝う会を行っている。    
5月下旬から10月下旬にかけて各通学団で一畝のサツマイモを育てている。イモのつるさ
しから世話まで,高学年がリードし自主的に活動している姿を毎年見ることができる。学
校の年間行事の中に組み込み,継続して行ってきた成果である。
「収穫を祝う会」では,通学団ごとに収穫したサツマイモを焼きいもにして食べる。子供
たちは事前に決めた役割にそって,イモを切ったり,火をおこしたりと,それぞれの仕事
に意欲的に取り組んでいる。
  特に昨年の祝う会では,戦後50年にあたるということで「すいとん」もつくり,当時の
食事を知る機会とした。

  縦割りの活動を続けることによって,子供たちは,その集団内の相手の考えや気持ちを
理解することができるようになっている。時間の許すかぎり,通学団単位での活動の機会
をつくっていくことが子供たちの人間関係づくりにとって重要である。

 3)子供が生きる学校生活
〈中央小まつり〉
  3年生以上がクラスごとにパビリオンをつくり,全校で参加する。内容は,展示や店,
ゲームとさまざまであるが,それぞれに子供の工夫が見られ,毎年楽しみに迎えられる行
事である。
  今年度は,生活科の立場から,低学年もパビリオンによる参加ができるように計画を立
てる方向で検討している。

 〈 隣学年集会 〉
  2年前,高学年の連絡のための集会として行われたことが始まりである。
  今では,中学年や低学年でも定期的に行うようになった。
 内容についても連絡だけにとどまらず,キャンプなど行事の報告会やレクリエーション
と広がりを持つようになった。さらに,運営についても子供の手による集会が企画される
ようになっている。

 4)地域との協力
  昨年度から行われている,学区を流れる川をきれいにしようという「落合川クリーン作
戦」や,菊の栽培など,地域との協力による活動が広く行われている。
  また,PTAの活動も活発で,学校の教育活動になくてはならない存在として機能して
いる。
  高学年にとって,教師以外の大人と活動するよい機会である。

 5) 職員の研修 
  授業のための基本的な実験操作から,新しい器具の扱いまで,研修内容は大変多い。
  さらに,数年後には導入されるコンピュータ,特にインターネットについては企業の協
力を得て実際の操作を通して学んできた。
  本格的に導入される前に,とにかく慣れてしまうことをめざしている。目標は,ビデオ
と同じ感覚でインターネットを授業に取り入れることである。

2.教科指導を通しての工夫

(1)3年間の研究の歩み
  本校の研究は,教科の学習の中に体験活動を取り入れることから始まった。少子化,外
遊びの減少などいろいろな要因で子供たちの体験が乏しくなり,思考の手がかりになる学
習の基盤が弱くなっている。
  取り組みとしてまず手がけたことは,体験活動の質の検討と体験活動に適した題材の選
定であった。教科書の単元の中からリストアップしたが,数は限られていた。次に取り組
んだのが,単元構想である。ここでは,体験活動を問題解決学習にどのように位置づけて
単元を構成するかを検討した。
 研究が進むにつれて浮かび上がってきた課題は,追究のさせ方,考えの深まりの確かめ
表現力を伸ばすことである。
 追究のさせ方では,子供たちの多様な追究に対応できるように,展開の複線化を図った
り,順序選択学習取り入れたりしてきた。  考えの深まりの確かめでは,授業記録の考
察,抽出児の思考の追跡などに検討の余地がある。さらに検討していかなくてはならない
ことは,わかったことをどのように表現させていくかという点である。

(2)子供の側に立った検討
  前述したことは,子供を中心にといいつつも,教師側からの発想が多い。
「考えの深まり」についても,子供の「自己評価」を中心に見ていくという発想の転換を
図っている。
  実験操作や知識は,正解か間違いかで判断できることがらである。一方,関心・意欲や
思考は多様であり,そのような判断はできない。この困難さのため,関心・意欲や思考は
問題にされながらも先送りされてきた。
 昨年より,子供の可能性を伸ばすためにこの点についても検討をすすめている。

(3)子供の夢と教師の遊び心
          …  生活科の授業を通して

  1)えんそくで見たこと
  4月末の「たんけん遠足」(1,2年生合同)では,白竜池の排水口付近にいたオタマジ
ャクシやサワガニを子供たちは夢中になって捕まえていた。その後,2年生の一部が落合
川や緑地公園,清田町,幸田町などへ出かけ,カメ,ザリガニ,メダカ,タニシなどを捕
まえ,教室に持ち込むようになった。
  こうして,2年生の教室ではいろいろな生き物を育てることになった。しかし,小さな
水槽の中では,なかなかうまく飼育することができなかった。
 遠足で出かけた白竜池でいろいろな生き物を見た経験から,「池があったらいいな」 
「池があったら学校に来るのが楽しくなるねという思いを持つ子が現れてきた。

  2)低学年集会での呼びかけ
  低学年集会で2年生が「南庭に池をつくろう」と呼びかけた。1年生にとってはとても
魅力的なことばであった。「水を入れたときしみちゃったらどうしますか」「どうやって水
を替えたらいいですか」などたくさんの質問を2年生に投げかけていた。

  3)池づくり
  池の作り方や生き物の飼い方,作業の進め方の一つ一つを自分たちで解決していく中で
池に対する思いが深まってきた。
自分たちの手で作った自分たちの池という意識を持つことができた。そのため,生活科の
「いきものワクワクランド」の単元が終了した後も,池に対する関心は弱まることがない  
子供たちは,他学年の児童と活動することで,社会性や協調性を身につけることができた。

 4)T.Tによる指導
  池づくりは1,2年生合同で行った。教師はそれぞれの得意分野を担当し,複線化した
子供の思いを広く受け止めることができた。  ここでは,子供から見たとき,中心になる
教師はいない。これまでのメインとサブという関係のT.Tだけでなく,このような対等
の関係のT.Tを積極的に取り入れている。

5)教師の遊び心
  生活科の学習は,子供たちの思いをくみ上げ,ふくらませていくものでありたい。そし
て,より豊かな活動とするために,教師はそこに「遊び心」を持っていたい。
  池づくりは,まさに,教師の遊び心そのものであった。それがあるからこそ,真剣に子
供の手伝いをすることができた。さらに,同じレベルで子供と教師が同一体験をすること
により,心の一体感を味わうことができた。子供の心が育つ大きなチャンスであった。

(4)自己評価のできる子供
                …  理科の授業を通して

  1)科学者の卵
  子供たちには科学者の卵として科学の基本を身につけさせたいという思いで指導に取り
組んでいる。
  科学の基本を考えるとき,実験・観察のデータを記録することは重要である。これは,
操作に関わるものであり,いわゆる「見える学力」である。それだけに,すべての子供に
身につけさせたいことと位置づけている。
  そのために,顕微鏡やメスシリンダーなど技能習得のための器具を充実させている。

  2)自己評価の初歩
  自己評価は,子供自身が子供自身のために行うものである。
  習得したデータをもとに話し合うとき,データの集め方,観察の仕方から自己評価は始
まると考えている。
  自己評価の結果は,発表することによりさらに深まっていく。発表の方法としては,ノ
ートを印刷して配布することが中心であったが,手軽に扱うことのできる視聴覚機器も利
用している。
  限られた時間しかないふだんの授業では,ビデオカメラ等視聴覚機器による発表が大変
役だっている。

  3)視聴覚機器の活用
  解像度のよいテレビとフォトビデオカメラが理科室に入ったため顕微鏡を使う学習の幅
が広がった。
  今年度は,テレビを複数台接続したり、専用の顕微鏡テレビ装置の導入など,機器の充
実に努めている。
  新しい機器を導入すると,使い方の説明会が企画される。時間の都合をつけて,授業場
面を使っている。機器の使い方だけでなく,授業の中でどのように使うかがよくわかるか
らである。結果として,T.Tの形態になっている。

 4)ノート指導の取り組み
  自己評価のために,自分の思いを自由に書くことのできるノートを利用している。
  自由記述されたノートの中には,学習の振り返りや,友達との関わり,驚きや発見など
子供のさまざまな思いを見ることができる。  自由記述による自己評価は,教師の都合か
らすると,一義的に全体を把握しにくい等の問題点が指摘される。しかし,自己評価の背
景には子供の多様な個性があることを考え,「一義的に把握」というような固定的な見方か
ら変えていくよう努めている。

  5)理科で育つ力
  中央小まつりの雑貨屋さんに「ミョウバンの結晶」が宝石として売られていた。しかも
「ぜったいに読んで  −  ミョウバンは食べれません。氷ざとうのようですが、ぜったい
口にいれてはいけません。」という注意書きが張られていた。
  このミョウバンは「不思議 体験!ものをとかそう」という単元で,溶けたものをとり
だす学習の結果としてできたものである。子供たちはミョウバンが結晶する様子に関心を
持ち,登校するとすぐ理科室へ行って観察を続けていた。この学習の発展の姿が中央小ま
つりで見られたのである。

(5)環境を考える
        …家庭科の授業と自由研究を通して                                          
地域の活動である「落合川クリーン作戦」は子供たちが川を見つめ直す機会となった。家
庭科の授業では「衣服の手入れ」として洗濯を学ぶ中で,合成洗剤と環境について調べた。
また,自由研究の中で,川の汚れについて調査してきた子もいた。

 1)自分で判断できる能力
  環境問題の原因の一つといわれている合成洗剤に重点を置くことにした。家庭で使われ
ている洗剤の種類を調べてみると,そのほとんどが合成洗剤である。理由はいろいろある
が,テレビのコマーシャルの影響が大きい。さらに,スーパーマーケットなどの洗剤売り
場を見ると,石けんよりも合成洗剤の方が圧倒的な売り場面積を持っている。
 私たちにとって,石けんよりも合成洗剤の方が身近な存在にさせられており,消費者が
自分の判断で商品を選びにくいという現実につながっている。
  そこで,合成洗剤がいいのか,石けんがいいのかを根拠を持って話し合い,考え合う場
を設けることにした。
  ここでは,最終的にこちらの方がいいという統一した答えを出すことをねらいとするこ
となく,
  ・一人の生活者として判断し,選択できる能力
  ・安いから,便利だからというだけでなく,環境や将来のことも含めて考える
    ことのできる能力
を育てることを目標とした。

  2)地域の活動に学ぶ
  5年生のT君は3年生の時のノートに次のように書いている。
「さいしょはあそびだと思っていたら,考えてみると,じしゃくのじっけんだということ
がわかりました」
あそびに熱中する中から,自然と理科の学習に向かっていくという授業を経験してきた子
である。
  昨年の「落合川クリーン作戦」に参加したことが,川の水に関心を持つ機会となった。
その後,蒲郡環境クラブの現地調査に同行したり,保健所や浄水場にでかけて学習を深め
ている。
  国語の授業で環境問題を取り上げたときもこの調査が大変役立った。また,国語の授業
がまとめや発表の場として大変有効にはたらいており,合科的指導の効果があった。

2. 今後の発展への具体策

 1.原理を学んだ後の便利  …  時間の確保  質量を測定するのにいつまでも上皿天秤を
使っていたのでは,限られた時間を有効に使うことができない。電子天びんを導入するこ
とにより,本来の実験や討論のための時間を確保することができる。
  電流の学習とデジタル表示の電源装置,棒温度計とデジタル温度計等同様の例は多い。  
機器の活用を図り,子供たちが関わることのできる時間を確保するよう努めていていきた
い。

2.枠にとらわれない指導  …  関連的指導  教育課程との関係を考慮しながら,教科や
学年を越えた関連的指導について,誰もができるというレベルでの指導形態を工夫してい
きたい。

3.地域との交流  …  交流学習
  子供の活動にとって,地域との交流は大変有効である。しかしながら,学校から働きか
けるということが少ない現状にある。
  問題点を見直し,一人一人の子供の特性を伸ばすため,地域との交流を積極的に行って
いきたい。

   お わ り に
   校内の研究テーマから「理科」という文字が消えた。しかし,理科室は頻繁に利用され
るようになった。「理科は苦手だけれど,嫌いではない。」職員の意識が少しずつ変化して
きた結果である。
 理科好きな子供たちに追いつくよう,今後も努力を続けていきたい。
                                                                                                                        
<別冊>                             実践事例「理科学習における個に応じた学習指導」                     
問題追究場面の設定」            『5年 ものをとかそう』                                        
資  料  A4版50ページ                

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