天神流スズムシの飼い方

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卵から孵化まで
 スズムシの卵は白くて長さ3mmほどの紡錘形をしています。卵は乾燥に強く、産卵後春まで全く水をやらなくても平気です。土がカラカラに乾いていても卵はちゃんと生きていますからご安心。 春になって、桜の花の咲く頃が水やりのタイミングです。土が上から下まで黒く湿った状態になるようたっぷりと水をやり、以後時々水を補給して土が乾かないようにします。びしょびしょになって水が浮くようではやりすぎです。「湿っているが濡れていない」状態に保つのがコツです。
 最初の水やりから約20〜40日で卵が孵化しはじめます。生まれてくるまでは卵が生きているかどうか気がかりなものですが、透明感のある象牙色を保っていれば卵は生きていると見てよいでしょう。孵化前に死んでしまった卵にはたいていカビが生えてきますが、生きている卵にはカビは決して生えません。

孵化したら
 孵化したばかりの1齢幼虫は体長3〜4mmで、真っ白な色をしていますが、孵化後数時間で黒い色に変わっていきます。小さい上にいわゆる保護色で濡れた土の色と見わけにくいので、よく見ないとわかりません。孵化の予定日が近づいたら毎日飼育箱の中を注意して見る必要があります。孵化したらすぐに餌を与えなければなりません。見逃して給餌を怠ると共食いや餓死で全滅する恐れがあります。

スズムシの餌
 スズムシには魚粉などのタンパク質と水分をとるための野菜を与えます。昔からスズムシの餌といえば煮干とキュウリ、ナスが定番のように言われていますが、煮干丸ごとよりは粉砕して魚粉になっているほうが食べがよく、よく育ちます。必要量を与えて、カビないうちに食べ切るようにできる点でも無駄がなく優れています。魚粉は「スズムシの餌」としても売られていますが、釣りの餌や、鳥の餌として売られているものの方が安くて経済的です。要するに魚粉が主成分であればよいのですから。ビンの王冠などに少量を盛って与えます。カビが生えないうちに食べきるぐらいの量が適量です。
 野菜もキュウリ、ナスは日持ちせず傷みやすいのでお勧めしません。最適なのはキャベツです。調理では捨ててしまうキャベツの外葉をとっておいて5cmぐらいの大きさに切って与えましょう。キャベツは腐りにくいので食べ切るまで数日から1週間放置しておくことができます。いたんだり、干からびたものはとりかえます。
 息絶えた仲間の死骸も良質の餌で、小さな幼虫のうちは死骸はきれいに食べ尽くされてしまいます。ただ、放置するとダニやカビがつきやすいので、大きくなってからの死骸は早めに取り除きます。

シェルターと脱皮板
 スズムシが生まれたら隠れ家(シェルター)を用意してあげましょう。スズムシは比較的暗いところを好むようで、物陰に集まります。スズムシが脱皮するときには体を固定するための手がかり足がかりが必要です。経木やベニヤの木片を土にさして脱皮板とすることもよく行われます。シェルターと兼用することもできます。流木や割れた植木鉢を使う人もいますが、私は園芸用のジフィーポット(苗を育てるための水苔を固めた小型植木鉢)を半割りにしたものを使っています。安くて、汚れたら手軽に交換できて、処分も楽です。庭に埋めればそのまま肥料になります。

土の入れ替え
 土が糞で汚れてきたり、カビが生えてきたりしたら、土をそっくり交換します。庭土や天然砂を使う場合はよく焼いて滅菌しなければなりませんので面倒です。園芸用の赤玉土(小粒)を買ってくるのがお手軽です。別の飼育箱を用意して、新しい赤玉土を3センチぐらいの深さに敷きつめ、上から下まで一様に黒くなる程度に水をまいて湿らせます。
 準備ができたらお引っ越しです。シェルターを入れてあれば多くのスズムシはシェルターにつかまっていますからシェルターごと移し替えられます。引っ越しの数時間前にシェルターを多めに入れておくと引っ越しが楽です。土の上を歩いているものは小箱に追い込むなり、手のひらに乗せるなりして運びます。体を傷つけますから指でつまんではいけません。

アリやダニからの防護
 スズムシの天敵はアリです。アリの道がつくと一日で全滅します。普通の飼育箱のふたではアリが目をくぐってしまいます。スズムシ自身も体の小さい1齢、2齢のうちは目をくぐって脱走してしまいますので、飼育箱の上に木綿などの布をかけて、その上からふたをかぶせます。これはダニの予防にもなります。スズムシは外敵の多い自然の中では多くは繁殖できないひ弱な昆虫なのです。

成虫へ
 スズムシは約1週間ごとに脱皮を繰り返して成長し、はじめは数ミリだった体長がやがて2センチほどになります。はじめは雌雄の区別がつきませんが、成虫になる3齢ぐらい前にはメスの尾部に短い産卵管が見えてきて、オスメスとも背中に翅になる部分が現れます。1齢前には、メスの腹部はふくれてぽってりしてきます。成虫になると、オスの立派な翅には独特の模様が現れ、メスの産卵管は1センチを越える長さになります。
 成虫になったオスはまもなく独特の美しい声で鳴き始めます。鳴く時期は夏から秋にかけてです。鳴くといっても、もちろん翅をこすり合わせて音を出すのですが、スズムシ飼育の醍醐味はなんといってもこの声を聞くことです。オスとしては人間のために鳴いているつもりはなく、配偶者を見つけるために必死なのですが。
 スズムシの活動時間は夜間です。夕方から翌朝にかけて鳴いたり食べたり活発に動きます。昼間は暗がりで休んでいるようです。

産卵の準備
 オスが鳴くようになると間もなく産卵の時期です。糞や死骸で汚れた古い土はカビやダニの温床です。この時期に土を替えるのを忘れないようにします。翌年まで卵を保持する土になりますから、全部新しい土と交換して引っ越します。前述のように園芸用の赤玉土(小粒)がいいでしょう。土は適度に湿らせておきます。産卵をしてしまうと土の交換はできないので、時期を逸しないように気をつけましょう。

卵の保存
 成虫のメスはたくさんの卵をその大きなお腹に蓄えています。メスは長い産卵管を土に突き刺して、0.5〜1.5センチの深さのところに一つずつ卵を産み付けていきます。スズムシの卵は長さ3ミリほどの紡錘形で象牙色をしています。
 秋が深まり、産卵の時期が過ぎるとオスもメスも間もなく死んでしまい、卵だけがあとに残ります。親の死骸や食べ残しの餌はとりのぞき土の上はきれいにします。産み付けられた卵には手を触れずに、そのまま飼育箱ごと放置します。
 殺菌・保湿のために炭を入れるとよい、などという話も聞きますが、迷信に近いと思います。霧を吹く必要もありません。土がカラカラに乾いてしまっても卵はちゃんと生きています。翌春まで何もする必要はありません。アリが入らないように布をかぶせておくことだけは忘れないようにして、桜の時期を待ちます。またたくさんのスズムシが生まれてくることでしょう。


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