*叔父さんのお年玉

モンティ・ホールのジレンマで脇道として出てきた問題です。確率というのはどう解釈されるべきものなのかをめぐってとても面白い展開になり,勉強になりました。多少長くなったのでこちらに分家させることにしました。結論が出たような感じになってますが,もちろん更に議論していくことも歓迎です。

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COLOR(#006789){ところで,''モンティの問題設定とは直接の関係はないのですが,''似た設定の次のような議論が浮かんできます。}

 目隠しして振ったサイコロの目を 3 と予想して掛け金を払った。
 予想が当たっている確率は 1/6 だ。
 その後目隠しをとって見た。そしたら 3 が出ていた。
 確率は1だ。

COLOR(#006789){うーん,なんか変ですね。確率を教わった中学生が言いそうだ(大人もいうかな)。だけどこの考えに対してどう応じればいいのでしょうか。そもそも確率って何なんでしょうか?}

COLOR(#000066){モンティからさらに逸れるのか少し戻るのか,あるいは上の問題提起「みる前・みた後」も絡むのかわかりませんが,人から聞いていまだにすっきりしない次のような問題もあります。}

 おじさんが親戚の子どもを前に,お年玉袋を二つ並べて言った。
 「一方のお年玉袋には他方のお年玉袋の2倍の金額のお金が入っ
 ている。好きな方をあなたにあげるので,選びなさい。」
 子どもが選んであけてみると,1000円入っていた。おじさんはまた言った。
 「1度だけ,交換してもいい,というチャンスを与えよう。もちろん,
 交換しなくてもいいよ。」
 子どもは考えた。
 「2つのお年玉袋のどちらを選ぶかは,まったく五分五分だった。
 だから,取り替えたときに金額が2000円になるか,500円になるか
 はまったく五分五分だろう。だったら,期待値を考えれば1250円に
 なるから取り替えた方が得だ。」
 横で見ていたこの子のお姉さんに,おじさんはまったく同じゲームを
 仕掛けた。姉がお年玉袋を選んで開ける直前に,おじさんは言った。
 「今度は,袋を開ける前に取りかえるチャンスを与えよう。どうするかい?」
 姉は考えた。
 「弟の考えたことは,1000円という金額には無関係だ。袋の中の金額をx円
 としよう。取り替えたときの金額は,0.5x円か2x円かのどちらかで,
 その可能性は五分五分のはずだ。だから期待値は1.25x円となり,取り替え
 た方が得だ。」こういって,封筒を取り替えようと手を伸ばした。
 が,そこでまた考えた。「上の論法が正しければ,一度取り替えようと決心
 して,でもまだ封筒を開けていないときに,改めて考えてみれば,
 また取り替えた方が得だということになる。そこでまた考えてみれば
 取り替えた方が得になって・・・」
 とうとう姉は2つのお年玉袋の間で身動きがとれなくなってしまった。
 いったい上の考えのどこが悪かったのだろうか?

COLOR(#000066){「選びなおし」が絡むところがモンティと少し似ているかな?でもモンティと違って,選んでから以後新たな情報は何も与えられていないので,そこで取り替えた方が得になるというのはいかにもおかしい。上の姉弟の議論が間違っているはずだが・・・。意地の悪いおじさんと考え深い子どもたちですが,だれかすっきり説明できる方がいたら教えてください。}


COLOR(#006789){脱線大いに歓迎です。ネタが長続きしますから(^^)。さて,このお年玉の問題は,おじさんが胴元なんですよねえ。だからおじさんの立場から考えるとどうってことはなくなります。おじさんは2通りの封筒しか用意してませんから,もって行かれる金額の期待値はそれらの平均です。ところが子供たちのほうはというと,結果的に3通りの金額を想定することになりますね。その妥当性はどうなんでしょうか。}

COLOR(#000066){そうですね。たとえばサイコロの場合なら,6通りの出方はいずれも起こり得ることで,結局3が出たとしても,結果がわかった後から振り返っても出る可能性のあった目は6通りだった,ただそのうち何がでるかは事前にわからなかっただけだ,ということになります。でも,上のお年玉の問題は,1000円を前にして500円,2000円と3通りを想定している。で,あとから両方あけて振り返ってみれば(あるいは胴元の視点から見れば)じつはそのうちの一つは最初から決して起こりえないものを考えに含めていたということになる。このあたりに問題がありそうなのですが,では,「この問題は設定が悪い」で済ませるのもひっかかる。現実に考えうる上のような状況を確率の言葉で表現するにはどういう方法をとればいいのでしょうか?(ところで上の問題,もうすこし無味乾燥な設定だったのを書きながら脚色したのが不徹底で,お年玉袋が途中から封筒になってますね。)}

COLOR(#006789){確率を考える上で最も重要なポイントは,当然のことながら,「確率とは何か?それはどう解釈したらいいのか?」ということです。これは多分総論としては異存のないことでしょう。ところが,このポイントが実はあいまいなままで進んでしまっているのではないでしょうか。じゃあ,ある事象が起きる確率というのは何でしょうか。}

確率を考える前提と,その上で確率 '''p'''が与えられる状況は次のようなものです。

-事象の集合{A,B,C,...}が与えられている。
-試行によって事象 A,B,C,... のうちいずれか1つだけが,必ず実現する。
-このとき事象Aが実現する確率は '''p'''である。

このとき '''p''' は何を意味するのでしょうか。それは

-試行を'''N'''回行ったときに, A は平均して '''N p'''回実現する

ということですね。このように,確率を頻度で解釈,表現することでより的確な理解や意味の伝達が可能になるという実践的な研究がアメリカでなされているようです。

COLOR(#006789){つまり,確率や期待値を考える時には,何回もの試行が少なくとも思考実験として可能であるという状況が必要です。お年玉を出すおじさんにはそれは可能。子供たちにとってそれはどうなんでしょう。}

COLOR(#000066){たとえば,おじさん役がランダムに2つの封筒にx円と2x円を入れ,子ども役がコインを投げて一方の封筒を選んでから両方の封筒を開き金額を調べる,という実験を繰り返す。たくさんの実験結果の中で,選んだ封筒の中の金額が1000円であったケースだけを拾い出し,そのときの他方の封筒の中身が2000円の場合と500円の場合の頻度を調べる,という実験は考えられないでしょうか。おじさんが「ランダム」に封筒に入れる額を決める,とはどういう状態かな。おじさんの選ぶ金額の対(x,2x)は,少ない方の額を定めたら自動的に多い方の額は決まるから,xで代表させて,根元事象の全体は{(x,a)|xは自然数,aは表or裏}}COLOR(#000066){かしら。無限離散集合上の確率?各根元事象が正の等確率を持つとすると全事象の確率が無限大に発散する。xの上限を定めておいて,あとから大きくして極限をとるのかな。なんてことを考えていつも放り出すのです。何か迷路にはまり込んでるのかも。}

単純に次のように考えたらいいのではないでしょうか?~
2つのお年玉袋にはそれぞれx円,2x円が入っているとします。~
姉がそれぞれのお年玉袋を選ぶ確率は1/2ずつですから~
1.お年玉袋を変えなかった場合の期待値は x×1/2+2x×1/2=(3/2)x~
2.お年玉袋を変えた場合~
最終的にx円のお年玉袋を選ぶ確率は,最初に2x円のお年玉袋を選ぶ確率と等しいから1/2です。同様に,最終的に2x円のお年玉袋を選ぶ確率は1/2です。
ですから,この場合の期待値は x×1/2+2x×1/2=(3/2)x~
1.2.から結局お年玉袋を変えても変えなくても期待値は同じ。~
直感的に言うと,おじさんに変えてもいいよと言われても,それだけでは,姉が選んだのが金額の多い方なのか少ない方なのか分からないので確率にはなんら影響しないということではないでしょうか?~
もっとも,おじさんが意地悪か,いい人かで変化するかもしれませんが...~
弟のときと結果が異なるのは,弟のときは片一方が500円のときはx=500で,片一方が2000円のときはx=1000というふうにxが変化するからではないでしょうか?~
なんか,条件付き確率の問題みたいで,なかなか条件付き確率が理解できなかったことを思い出しました。

COLOR(#000066){えーっと,「弟のときと結果が異なるのは,…」ということは,弟の主張は正しい,あるいは少なくとも弟のときと姉のときとでは状況が異なるということでしょうか?私は,両者は同じ議論に乗るはずで,姉の主張が間違っているのはもちろん,弟の議論も間違っているように思うのです。姉が考えていることは,まだお年玉袋を開けてはいないけれども,「開けたとして,それがたとえば2000円だったにせよ,3000円だったにせよ,金額が明らかになったとき(その具体的な額には関わらず)その条件のもとで考えれば」,弟が考えたのと同じ議論によって取り替えた方が得になる,ということではないでしょうか。そしてそこから,開けてみたときにその額によらずにいつも取り替えた方が得ならば,開ける前に取り替えても同じだろう,と考えたのだと思うのです。「開けたとして」という前提なしに,2つの袋を前にしたその状態で,「一つを選んですぐ取り替える」のと「単に一つを選ぶ」のとで違いが出ないというのはご指摘の通りで,それが直感の示すところでもあり,だからこそ上の姉弟の議論がおかしいとおもうのですが,「ここがこう違うのだ」という間違いの構造を指摘できないのがもどかしい。知りたいのはそこのところなのですが。}

COLOR(#006789){弟の行動を''外から''見ると,最初に 2x のをとる確率と x のをとる確率はどちらも 1/2。それから交換すると前者からは x, 後者からは 2x となるわけで,交換前と交換後とでは期待値は変わらない。だから,弟にしても交換は無意味と思いますが,いかが。}

COLOR(#fe891c){更なる「突っ込み」を,家のマックでは相変わらず書き込めなくて悶々としていたものですから,とここまでは前置き。''外から''見るとではなくて,''選んで開ける前に''考えれば,でしょう。観察は事象に影響する,とは違うかもしれないけど,1,000円というのが分かった段階をスタートとすれば,全体の事象は変わってしまいますよね。違うかなあ。うーん。うーん。}

COLOR(#006789){弟にしろ姉にしろ,次のように考えているわけです。}

 2度目の金額は 1/2x である確率と 2x である確率がいずれも 1/2 だ。
 交換後の期待値をそれにもとづいて計算すると得失が分かる。

+ COLOR(#006789){この考えの妥当性を吟味すべきだということになりそうです。そこが違うのではないか,未来に生起する事件についての確率を考えるのに,試行や事象の概念をきちんとしないといけないんじゃないか。と私は思うのです。つまり,この問題が立場の違いによって異なった結果になること自体がまずいわけですから。}
! COLOR(#006789){この考えの妥当性を吟味すべきだということになりそうです。そこが違うのではないか,未来に生起する事件についての確率を考えるのに,こんなふうに試行や事象の概念を使うのがそもそもまちがいなんだ。と私は思います。・・・と書いたところで寝ます。}

COLOR(#000066){ええ,弟にしても交換は無意味で,枠囲みにしていただいた考えを吟味すべきだと思います。だんだんはっきりしてきました。弟の立場で,すでにお年玉袋を開いて1000円とわかったとしましょう。そこで交換してよいといわれたときに自分はどう行動するべきかを確率を用いて考えようとした。このとき,2つのお年玉袋を前にして自分がどちらを選ぶかはまったく半々の確率であった,というのもいいでしょう。問題は,「だから,他方の袋の中身が500円であるか2000円であるかも,それぞれ確率1/2だ」と考えたところにあるようです。もしおじさんが用意した金額が「500円,1000円」である可能性と「1000円,2000円」である可能性が等確率ならば,たしかに「袋を選ぶ確率が1/2であること」が「他方が500円である確率,2000円である確率がそれぞれ1/2」であることを意味しますが,これがおかしいですね。おじさんがいくら袋に入れるか,を,さいころを振るような等確率の仮定を置いて考える事に無理がある。「金額」としては理論的にはいくらでもおおきな値をとりうると考えると,けっして等確率にはなりえない(もし等確率ならば,総和が1になりえない)。現実の問題を数学モデルを作って考える際に''確率分布は理論から導出されるものではなく経験にもとづいて仮定されるもの''であり,確率分布が与えられたところから以後が数学の問題となる,ということでしょうか。金額xに対して,おじさんがx円と2x円を用意する確率p(x)を与え,分布関数p(x)を定めて始めて損得を期待値で考えることができる,というのが正解のような気がしてきました。この分布関数p(x)の形は,たとえばお年玉として妥当な金額・おじさんがこれまで与えてきたお年玉の額,などの経験から仮定される。もし,袋を開いてみたときの金額がかなり高額なら,取り替えたら損する確率が高い。低額なら,取り替えたら得する可能性が高い。袋を選ぶ際の等確率性が,そこに入れられる金額の選ばれ方の確率分布と混同されてこの問題のしくみが見えにくくなっており,それが弟の間違った判断を引き出した原因だった。こんなところでしょうか?マルがもらえるかな?}


COLOR(#006789){数学的には大体そんなところで落ち着けるように思います。}

COLOR(#fe891c){少しだけ,突っ込みます。おじさんは「既に」中身の入った二つの封筒を目の前にして、という条件なのではないのでしょうか?というより、そう考えても考えなくても、大勢に影響はない?つまり、封筒の中身は「確定」しているわけです。ということは封筒の中身には「上限」も「下限」も必然的に存在しているわけですね。違うかな?高額であるとか(物理的に封筒には入らないとか、、、いや、紙幣とは限らないか?)低額である(硬貨が入ってるから膨らみ具合でわかる?)とかは、本当に関係あるのでしょうか?問題を元のレベルに戻してしまったかな?いや、そんなはずはないはずだけど。}
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COLOR(#006789){しかし,またも混ぜっかえしなんですが,それでも男の子の立場に立って考えるとどうなるんだろう,と思いたくなりませんか?あるいは,自分自身が先の見えない選択を迫られたときのリスク判断をどう考えるか。}

 もっとゲットできる可能性がある。やってみよう!

COLOR(#006789){という,しごくまともな判断に対してどう言ってあげます?}


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COLOR(#fe891c){さてさて,議論が白熱してきましたねえ。ネット上を探すと,上限がどうとか分布がどうとか言う似たような話が散見できますね。中学生や高校生?いやいや,いつも念頭に置くのは小学生なんですけど,一般的な説明はできないものでしょうか。}


COLOR(#fe891c){どこかにも書いてありましたが,小学生向けの問題の場合,きっと上限なんてものは考えにはいれないはずです。もちろん無限もね。さて,おだてていただいたからというわけでもないのですが,やっぱりこの封筒の問題でも,封筒が3つなら,4つならというのを考えてみるべきですね。二つに固執すると話が余所へ行ってしまうような気がします。}

COLOR(#006789){確率分布を念頭においたら?ってことですね,ふむふむ。一発ヒントのむらいさんだな(^^)。次のような状況のちがいが頭に浮かびます。}

 あるサンプルを手にした。このサンプルはどのような母集団に属するのだろうか?

 ある母集団からサンプルをひとつ取った。このサンプルは母集団のどこにあるのだろう?

COLOR(#fe891c){そうですねえ。例えば、}

 弟が選んだ封筒を開けると、1001円入ってた。

COLOR(#fe891c){とすると、100%交換しますよね!っていう噺かも。それで、更に袋が3つで、x,2x,4xと入ってると言う設定なら、交換しても色々だなってことです。うーん。更に謎をかけただけかも。}

COLOR(#fe891c){こんなケースがあるとしても、姉の場合は交換することには意味がない?というか理由がない。当たり前ですよね。「理由が」ないんですから。うふふ。}

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COLOR(#006852){この問題は2倍でしたが、設定をもっと極端にすると解りやすくておもしろいです。ちなみに私は100倍で話をしてみました。封筒を開ける前と開けた後で何が違うんだろうと、家内に話をしてみたら、欲が出てくるからじゃないと軽く流されてしまいましたが・・・}


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COLOR(#000066){手の内を知っているおじさんの立場からではなく男の子の立場からどう対処すればよいか(問題の中での男の子の考えのどこがおかしいのか,どうすればいいのか)を確率の言葉で説明することが知りたかったことでした。}

COLOR(#000066){そこで,「あるサンプルを手にした。このサンプルはどのような母集団に属するのだろうか?」と,この母集団を推測することが,この問題のケースでは,「おじさんはいくらくらいのお年玉をくれそうだろうか。1000円未満の硬貨ってことはないだろう,1万円以上ってこともないよな。まあ,いずれにせよ1000円以上1万円未満で,3000円から5000円までくらいがいちばんありそうかな」などと経験を頼りに考えることに相当する。「どのような母集団か」を知ることは,すなわち「母集団の分布を知る」ことですね。}

COLOR(#000066){その推測をしたならば,次に,推測した分布の中で「1000円」がどのあたりの位置にあるかを考える。これが「ある母集団からサンプルをひとつ取った。このサンプルは母集団のどこにあるのだろう?」にあたる。今の例では,分布の範囲の下限あたりの金額だから,自分の推測した分布にもとづく限り,取り替えた方が得,という判断となる。もし,袋を開けたときの金額が1万円だったら,推測した分布の上限あたりの金額だから,取り替えたら損,となる。(}COLOR(#006852){緑さん}COLOR(#000066){がされたように100倍にして考えたら,もし1000円入っていたときに,「いくらなんでも10万円はないだろう←これ自体母集団分布の推測の一部」となって取り替えないでしょうね)。高額,低額というのは,この意味(自分の想定した分布の中で上限あたりを高額,下限あたりを低額)でした。}

COLOR(#000066){この「分布の推測」にあたる部分で,なにも情報が与えられていないときにとりあえず仮定しがちな「等確率の仮定」を知らず知らず採用してしまったのが男の子の推論の間違い。それでも金額としてあらかじめ有限個の候補だけに限定されているならば(現実に有効かどうかは別にして)矛盾をきたさない推論が進められるが,そのような限定が一切ない状態で(無数にある候補に対して)「等確率の仮定」を持ち込むと,矛盾が生じる。それが問題の姉のケース。いろいろつっこんでいただいたおかげで,自分の中では非常にすっきりしました。}

COLOR(#006789){この議論は,人生における決断の問題とか相場の引け際を判断するとか,そんなときのヒントになりそうですね。たとえば20歳の青年が,これから出会う女性のだれと結婚すべきか考えるなんてのにも。}

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