2012年12月1日(土)愛知工業高校での例会の記録です。


 マイクは音の何を測っているのか (石川さん  

 2個のスピーカーから等距離にある場所では音は強め合いますが、これは空気圧のこと、それとも空気の振動(変位)のことなのでしょうか。

 例えば右図のように、2個の密閉型スピーカーS1、S2を同位相で振動させると、両者から等距離にある中央線上では、S1、 S2が作った密な状態が同時に届くので、より大ぎな圧力変化となります。
 しかし、変位の方はどうでしょう。 同位相の振動により、S1が空気を動かす方向とS2の方が動かす方向は逆向きになります。そのためPにある空気はどちらにも変位しないことになります。

 したがってS1、 S2から等距離の場所で強めあうのは圧力変化のほうです。マイクなどで強めあいを確認する場合は圧力変化をとらえるマイクで'なければならない、ということになります。
 
 2個の密閉型スビーカーを向き合わせて、1700Hz(λ=20cm )の音波をその線上で重ね合わせます。中央は定常波の節になります(つまり、圧力変化が大きい)。
 薄いベニヤ板などで囲んだのは箱の中を1次元の定常波に近い状態にしてより観察しやすくするためです。
 S1、S2を結ぶ線上でコンデンサーマイクを動かした場合、やはり中央で出力最大(節)、そこから4分の1波長(5cm)ずれた点は、出力最小(腹)、となりました。
 コンデンサマイクは、圧力変化を測っています。


 次にダイナミックマイクで測定します。マイクを中央におくと強めあいました。
 本来(?)、ダイナミックマイクとは、音(空気の振動)をコイルを使って電気信号に変換するマイクです。 コイルや磁石の運動を利用して発電するので、空気の速度に比例して起電力が決まります。
 ですからダイナミックマイクは中央部で信号が小さくなると思われます。


 この実験に使ったダイナミックマイクはどうも圧力を測っているようです。

  手前はコンデンサマイク、奥はダイナミックマイク。   中央部の音をひろい、オシロスコープで波形を見ます。
  中央部は大きな信号になります。  中央部から5cm離れると、信号は最小になります。

  確認のため、スピーカーをマイク代わりに使って実験してみました。

 例えば右のスピーカーは、前面と背後の空気が動くとコーン紙も追随して動き、発電します。この結果、媒質の速度に比例した出力が得られるはずです。


 先の測定と同様に測定すると、今度は中央の位置で出力が極小で、そこから半波長ずれた位置で出力最大でした。理屈どおり媒質の動き(速度)を検出しています。


 次にこのスピーカーをプラスチックの容器に収めて、密閉式のスピーカーに改造します。
 すると今度は、中央の節の位置で出力が大きくなります。

  使うものが同じでも、その構造を変えることで、媒質の速度変化から圧力変化を図ることができるようになったのです。

 既製品のダイナミックスピーカーも多くの場合、円筒の密閉容器の中に磁石とコイルが格納されています。
 外気とは先端部の膜を通して接しているだけです。従ってその構造はむきだしのスピーカーではなくて密閉式スピーカーに近いと思われます。圧力変化に反応するのもそれが原因ではないかと思います。

 スピーカーがマイクとして使えることはよく知られていますが、それをむき出しで使うのか、それとも箱に入れて使うのかで測る量が変わるというのは興味深いですね。

 

 話をまとめると、一ロに音をマイクで測る、といっても媒質の動きを測るのか、それとも圧力変化を測るか、目的によって次のように使い分けることになると思います。

媒質の動きを確かめる時 ろうそくの炎・おがくず(クントの実験) 開放型のスピーカー
圧力変化を確かめる時 コンデンサーマイク・ダイナミックマイク密閉式スピーカー

 ビニール管を耳にあて、他端を箱の各所に動かしてみると、節の部分で音が大きく聞こえます。そこから1/4波長動かすと音は小さく聞こえます。
 人間の耳は圧力変化を感じているようです。構造から推察してもそう思われます。
 別の方法でも確認してみたいものです。

 卓上型光速度測定装置3 (林さん  

 図のように、レンズで集光した光を鏡に当てます。この状態で鏡を回転させると、反射光はどうなると思いますか。

 鏡が 刄ニ 傾くと反射光は 2刄ニ傾くように思いますが、実は反射光はレンズに戻るのです。
 そのわけは、焦点に集まった光が鏡で反射する際、点光源として光を出すからです。 もちろん、実際には完全な1点に光が集中するわけではないので、反射光は暗くなりますが、鏡の向きをレンズの光軸と垂直にしなくても、十分な反射光が得られるということが重要です。
 
 この原理を、光速度測定装置の反射部分に応用しました。
 高価なリフレクターを用意しなくても、安価なレンズと鏡でその役割を果たさせることができるのです。 
 
 
  安価な鏡で十分。   レンズの焦点の位置に鏡を置きます。
 
 合わせて、LEDの光を2分割していたビームスプリッター(ハーフミラー)もただのガラス板に置き換えました。

 リフレクターの不使用およびガラス板の使用で、反射光が弱くなったため、 1/4・λ位相板を使わなくても位相差を検出できることがわかりました。

 これらの改良の結果、装置全体の費用が大幅に減少しました。林さんによると、¥5000程度になるそうです。

 ただし、位相差検出のオシロスコープは当然別です。
  ハーフミラーもただのガラス板に。   それでも位相差はちゃんと検出できます。

 商品化も可能な額になりました。 将来的には、教室で光の速度を測定するの
が普通になるかもしれません。 精度が上がれば、マイケルソン・モーレーの実
験も可能になるかもしれません。

 林さんのたゆまぬ探究心には本当に学ばせられます。

<参考>卓上型光速度測定装置2(林さん)
  右図の回路は、高輝度緑LEDを10MHzで変調して発光させるための回路です。
 
  右図の回路は、フォトダイオードで受光した信号を増幅する回路です。
 受光部とこのアンプのセットを2組使います。
  

 比誘電率を測る (杉本さん  
 アルミ板2枚を向かい合わせてコンデンサを作ります。
 板の間に、各種物質を入れて、空気のときの電気容量との比から、物質の比誘電率を求めます。

 このコンデンサの容量は 210pF でした。
   端にストッパーを置いて、極板間隔が一定になるようにしてあります。
 
 袋に入れた油を間に挟みます。
(ビニールの袋の影響はわずかです)

 容量は 420pF になりました。
 比誘電率は2程度ということになります。

 理科年表などでの数値も一致しています。           
 アルコールを入れて測ると、約7000pFになります。比誘電率は、30程度で、資料の値とほぼ一致します。


 水の比誘電率は、資料では 80 となっています。
 水道水と蒸留水で測定してみると、どちらもほぼ約8000pFで、予想される値の半分程度です。
 どうしてでしょう。


  
 下図の回路を組み、1.5kHzの交流電圧を掛けて、電流の位相とコンデンサ両端の電圧の位相を見てみました。
 位相は約90度ずれていますから、コンデンサの純抵抗は十分小さいと思われます。



   理科年表の値は、十分低い振動数で測定となっています。何Hzぐらいで測定しているのかわかりません。
 私達が使用した容量テスターは1000Hzで測定と記しています。
 数値のずれの原因はこの点にあるのでしょうか。  
   抵抗の両端の電圧(電流の位相)とコンデンサ両端の電圧を比べると、約90度ずれていることがわかります。
 

 自作赤道儀で星を追う (伊藤さん  
 伊藤さんが顧問をしている、向陽高校科学部の生徒たちの作品を紹介してくれました。

 カメラを星に向けて長時間露出の写真を撮ると、星が線になって写ります。
 これは地球の自転によって起こることです。地軸方向を回転軸として、自転の角速度でカメラを回転させてやれば、星は点として写ります。


 
  塩ビパイプを覗いて、パイプの方向を北極星に合わせます。
  
 ちょうつがいの列方向が地軸方向になります。
ジャッキの昇降でカメラ台を回転させます。
 地球の書く速度に合わせてカメラ台が回転します。
  
 使い方は、カメラを台に設置した後、
 (1)塩ビ管を覗いてカメラ台を北極星の方向に合わせます。
    これで管が地軸と平行くになります。管にはちゃんと十字の目印を備えつけています。
 (2) 目標とする星をカメラの視野に収めます。
    シャッターをバルブシャッターにして開放します。
 (3) 必要な露光時間の間、ジャッキを回して、カメラの向きを天球の動きに合わせ、視野の星を固定します。
    補助板に等角度の線が引いてあり、時計を見ながら、柄を回してジャッキを昇降させます。
 (4) シャッターを閉じて撮影完了。
  中心に十字の目印を作ってあります。
 
 
  うまく星を点に撮るには、熟練が必要かもしれませんが、体で地球の自転を、天球の回転を実感できそうですね。
 実際に撮影した写真のいくつかを見せていただきました。
 若いころの星空の写真を記録に残すのも楽しい思い出になりそうですね。


 この装置を作ったのは、1年生の女子4人組だそうです。
 今後は、天体望遠鏡を回せる大型の赤道儀を製作したいということです。意欲的ですね。
 

  いくつかの作品です。
                                                    柄を回してカメラを星に合わせ続けます。
 

 糸電話における音の伝わり方2 伊藤さん  
 糸電話の糸をゴムひもにすると、波が伝わらないので使えません。でも写真のようにすると、ゴムひもでも音が伝わります。
 ところが、ゴムの代わりに水糸で同じようにすると、こんどは伝わりません。普通の糸電話ならちゃんと伝わるのにです。
 どうしてこんなことになるのでしょう。

 向陽高校科学部の生徒が、この疑問を追及しました。

 <参考>糸電話における音の伝わり方 (伊藤さん 
 実験装置は右図のとおり。
 送信側の波形と受信側の波形を測定して、その時間差により音速を求めます。


 
 右図の糸電話で実験します。
 受信側の信号を見ると、Aの波が繰り返し伝わっていることがわかります。
 また、ばねばかりによる張力が大きくなるにつれ速さは大きくなるので、Aの波は横波といえます。


 @の波は振幅が非常に小さいですが、伝播速度は約300m/sでした。 ゴムをはずして、コップだけの測定でも同じ信号を得たので、これは空気中を伝わった波(当然縦波ですね)といえます。                                                       
 

 水糸で同様の糸電話を作り、測定しました。
 今度は、@が伝搬速度約465m/sであることから縦波で、Aが伝搬速度約59m/sで横波と考えられます。つまり、縦波も横波も伝わっていることになります。

 前回の発表では、横波は見つからなかったのですが、今回、振幅は非常に小さいながら、横波が伝わっていることを確認することができました。
  
 
 この結果をまとめると、次のようになります。
 
 ゴムひもに、進行方向に平行な振動を与えた場合、振動を伝えないが、垂直に振動を加えた場合は、横波を伝える。

 水糸に、進行方向に平行な振動を与えた場合、縦波を伝えるが、垂直に振動を加えた場合は、 縦波も横波も伝える。(ただし、横波は減衰が大きい)

 では、どうしてこのような違いが生じるのでしょうか。
  
 
 次のような仮説をたててみました。

仮説
 水糸とゴムひもではヤング率(単位ひずみ当たりの必要な応力)が3桁以上違うので、それが原因である。
 水 糸 : 0.12〜0.29×1010 [N/m2]
 ゴムひも: 1.5 〜 5.0×106  [N/m2]


 このことを確かめるために、ゴムひもと同様に伸び縮みするばねと比べてみることにしました。
 
 バネを伝わる波の波形から、何度も反射していることがわかります。(エコーがかかった音が聞こえます)
速度は約50m/s。 振動方向も、進行方向と平行であり、これは縦波と考えられます。
 (小さい波は空気中を伝わった波と思われます。)

 バネにはゴムひもと違って縦波が伝わるので、ヤング率の違いで説明するのはうまくいきません。
   

 ゴムは伸び縮みすると温かくなったり冷たくなったりします。これはエネルギーの出入りがあるのではないでしょうか。
 この考えの下、第2の仮説を考えました。

仮説2
 ゴムひもはヒステリシス損が大きいため、縦波が伝わらないのではないか。
 ( ヒステリシス損:物体が伸び縮みするときに、そのエネルギーが熱に変わって失われる量。)

 ばねとゴムひもに重りを吊るして伸びを測定し、重りの数を増やすときと減らすときを比較して、ゴムひもにヒステリシスがあるかどうか調べました。

 右のグラフのように、若干のヒステリシスが確認できましたが、これはゆっくり力を加え、除いた場合のヒステリシスです。
 音の波のように、振動数が多い変化については何ともいえません。
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 引き続き、仮説2の検証を進めていく予定です。
 本当にすばらしい研究ですね。
 

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