数対四字熟語の分布  (PDF版107KB

横浜物理サークル・山本明利

■はじめに
 これは全く物理には無縁の記事であることをはじめにお断りしておきます。暇つぶしの随筆と思って読み流してください。
 「数対四字熟語」というのは私の造語で、「三寒四温」のように一対の数字を含む四字熟語をさします。日能研の車内広告で四字熟語の尻取りの問題を見てふと思いつき、このような四字熟語がどのような分布をしているかを調査してみました。第一数字を横に、第二数字を縦にとって表に整理し、分布の法則を探るわけです。職員室の閑話にしたら国語や社会科の先生が面白がって国語大辞典やら日本史大辞典を持ち出してきて夢中で調べてくれました。次のページの表がその結果です。私にはさっぱり意味のわからないものも含まれています。

■蒐集の条件
 蒐集に当たっては第一文字と第三文字に対になる数字をもつ四字熟語であることを条件としました(「二者択一」「海千山千」のみ例外)。したがって「十干十二支」や「五十歩百歩」は除外しました。「一都六県」のように単なる偶然的な数事実を表したものは除きましたが、「五畿七道(日本全国の意)」や「九尺二間(長屋、転じて狭い家の意)」のようにすでに成句化しているものは一応収録しました。「二尺八寸」や「九寸五分」は微妙ですが、あえて収録しませんでした。税率を表す「五公五民」「八公二民」も時期や地域により変化するので取り上げませんでした。
 分布は予想通りかなり偏ったものになりました。一マスに二つの熟語が入っているところはかなりたくさんある部分だと思ってください。例えば(一、一)や(一、千)などのコマは無数にあります。一つしか入っていないのは比較的珍しいものであり、空欄は捜索したもののついに発見できなかったところです。

一喜一憂
一期一会
二者択一 三位一体
三世一身
四分一鑽 五日一石 六町一里
六貫一足
  八紘一宇 九死一生
九牛一毛
十年一日
十年一昔
百人一首
百聞一見
千載一遇
千篇一律
万死一生
万世一系
一石二鳥 二束二把
二百二病
三平二満
三草二木
四衛二府     七言二句   九尺二間        
一読三嘆
一刀三拝
二束三文
二人三脚
三者三様 四才三実
四木三草
  六韜三略
六時三昧
  八幡三所
八町三所
九夏三伏        
一天四海
一木四銘
  三寒四温 四角四面 五音四声 六道四生
六趣四生
  八万四千          
一銭五厘 二汁五菜 三々五々
三令五申
四捨五入
四分五裂
五分五分 六信五行     九重五舎 十風五雨
十語五草
     
    三面六臂
三省六部
  五臓六腑     八面六臂          
    三従七去
三汁七菜
  五幾七道 六賊七害
六順七徳
七縦七檎
七難七福
           
    三殿八役
三汁八菜
四苦八苦
四通八達
五時八教 六斎八王 七転八倒
七転八起
八元八凱
八寒八熱
九山八海 十中八九      
一日九遷   三拝九拝
三跪九叩
    六難九易   八策九丘
八葉九尊
九分九厘 十進九退
十羊九牧
     
一暴十寒
一饋十起
      五風十雨
五代十国
六菖十菊     九分十分 十人十色      
一罰百戒                 十花百覧 百人百様
百発百中
千方百計  
一日千秋
一攫千金
                  百鍛千練 海千山千 万紫千紅
一粒万倍
一事万事
        六度万行       十善万乗   千変万化
千差万別
 


■分布の法則
 表をながめると、次のような分布法則が見えてきます。

(1)単位の法則
とにかく「一」を含むものは多い。基準・最小量としての意味と「小さい、少ない」という形容詞的な意味で多用されるようだ。「十」、「百」 「千」、「万」もある意味では単位であり、逆に「大きい、多い」という意味で対比的に多用される。
(2)倍数比例の法則
二つの数字が2倍または1/2倍の関係を示すものが多い。特に傾き2の線に集中が見られる。(1)の関係を整数倍したものと考えられる。
(3)一目上がりの法則
(一、二)、(二、三)、(三、四)・・・のように第一数字に1を加えたものが第三数字になっているものがかなりある。逆に一目下がりはほとんどなく、対角成分(第一、第三数字が等しい)も意外に弱い。数詞を昇順に発音するときの語呂のよさと縁起担ぎが原因か。

 他にも、三や八が人気度が高いのに対し、二や七が意外に不人気であることなど、由来を探ると面白そうな傾向も見られます。ここに挙げた熟語の多くが仏語であることなどを考えても、こうした分布法則は漢民族ないしは大和民族の心理・信仰と深く結びついていることが推測され、文化人類学的な研究の対象になるかもしれないなどと考えたりしています。

■お礼とお願い
 この記事は、多くの方のご協力によりコレクションを増やしてきました。最近ではYPCの2024年4月例会で、車田浩道さんが「日本名数辞典」「岩波 四字熟語辞典」「数のつく日本語辞典」から多くのコレクションを追加してくださいました。収集にご協力下さった皆様にこの場を借りて心より御礼申し上げます。なお、表の空欄に該当する熟語をご存じの方は右記までご一報ください。→天神の掲示板 

■参考
 旭速算研究塾の「数の入った四字熟語」のページ(「数対」でないものも網羅しています)→http://anchor.main.jp/yojijukugo2.html 


【1997/12/03 YPC(横浜物理サークル)ニュースNo.117初掲】2024/05/01更新 (PDF版107KB


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