ペルチエ熱電池の製作 (PDF413KB)
湘南台高校・山本明利
はじめに
ペルチエ素子はペルチエ効果を利用して、電流と共に熱を輸送し温度差を作り出す半導体素子で、車載用温冷蔵庫やCPUの冷却用として広く使われています。この素子は、両面に外部から温度差を与えると、逆過程のゼーベック効果により起電力を発生します。熱電対と同じ原理です。ペルチエ素子は熱・電気エネルギーの相互変換を示すにはまたとない教材です。ペルチエ素子の形状、特性、入手先については1996年のYPCニュースNo.103でご紹介したところです。1)
特に、後者の効果を用いて熱→電気エネルギーの変換を示す教材としては、中村理科の「熱電気変換実験器TC−100N」(\20000)があり、その自作法についてもすでに1997年のYPCニュースNo.110でご報告してきました。2) 今回はその改良版として、エネルギー変換効率の改善をめざし、より実用的な電源としての「ペルチエ熱電池」を試作しましたのでご報告します。
この試作に使用したペルチエ素子は秋葉原の千石電商で買い求めた1個\1500ほどの普及版で、下図のように1辺約40mmの正方形をしており、厚みは約4mmです。
ペルチエ熱電池の製作法と使い方
製作したペルチエ熱電池は概略右図のような構造です。ペルチエ素子をはさんで高熱源と低熱源があり、熱交換をすみやかにするためにCPU冷却用の放熱フィンを用いて各熱源との接触面積を増してあります。熱源の容器としては試行錯誤の末、図のようにジャムの空きビンを採用しました。ふたのシールがよく水漏れしないこと、加工が比較的容易であることが条件です。
なお、放熱フィンとビンのふたの接合部の接着には、セメダインスーパーXという接着剤を用います。エポキシ系の接着剤は熱湯に弱く、すぐ劣化してしまうからです。スーパーXは硬化に時間がかかりますが、-60〜120℃の温度に耐えます。容器も熱湯に耐えるものでなければなりません。ペルチエ素子と放熱フィンの接着には専用の伝熱両面シールを使いましたが、接着剤を用いてもよいと思います。
使用法は次のとおりです。一つのビンにはあらかじめ8分目ぐらい水を入れて冷凍室で凍らせておき、これに水を足して口きり一杯にし、ペルチエ素子のついたふたをかぶせます。もう一方のビンには熱湯を入れますが、熱膨張で割れるといけないので、前もって少量のお湯を入れて予熱し、その後熱湯を口一杯まで注ぎ、ふたをします。ます。このときなるべく空気を残さないようにするのがこつです。空気が多いと熱接触面積が減るばかりでなく、冷えたとき気体が収縮してふたが開かなくなります。
セットが完了したら、上図のように低熱源を上に、高熱源を下にしておきます。こうすることで、容器内の水の対流により、ペルチエ素子の両側の温度差を大きく保つことができます。
ペルチエ熱電池の特性
両熱源をセットして素子の両面に温度差が生じた瞬間から、起電力が発生します。ペルチエ素子からは2本のリード線が出ていますが、それをモーターなどに接続すると、電流が流れモーターが動き出します。
製作したペルチエ熱電池に、標準負荷として「ゼネコン」をモーターとして接続し、起電力、電流、高熱源の温度を測定した結果を下のグラフに示します。低熱源の氷が融けきることはなかったので、温度はほぼ素子両面の温度差を表しています。
起電力は負荷に取り出す電流によって変化しますが、この測定では60mA弱の電流に対し。数ボルトの起電力が得られています。起電力は温度差と線形関係がありますが、起電力−温度差特性のグラフは原点を通らず、一定のしきい値があることを示します。放熱フィンとペルチエ素子の間にも若干温度差があると思います。
測定は30分間で打ち切りましたが、装置は1時間以上にわたり実用的な電力を発生し続けます。熱源と外気との接触による放熱が相当量あると思われますから、断熱材で装置を覆って保温すれば、持続時間はさらに伸びるものと期待されます。
しかしながら、測定の30分間に高熱源が失った熱エネルギー約38kJに対し、取り出された電力量は約0.23kJにとどまります。保温により熱の損失を抑えたとしても、変換効率は1%程度にしかならないと予想され、熱エネルギーの利用の難しさを再確認させてくれます。
とは言え、この熱電池は、ラジオを鳴らしたり、小型モーターを動かしたり、発光ダイオードを光らたりするせるぐらいの電力は取り出せるので、天然の高・低熱源、例えば雪と温泉に恵まれた地方で、太陽電池が使えないような環境のもとでは実用になるかもしれないと考えます。
【参考文献】
1)「サーモモジュール(ペルチェ素子)」YPCニュースNo.103(Vol.9-P.73)
2)「ペルチエ素子を使った温度差発電機」YPCニュースNo.110(Vol.9-P.225)
3)「天神の研究室」http://www.fin.ne.jp/~tenjin/tenjin.htm
【YPCニュースNo.131('99/02/13)に掲載】 (PDF413KB)