大気圧?の実験                     (PDF版399KB

湘南台高校・山本明利

 以下の実験はぜひ材料を用意して自分でやって見ることをお薦めします。このレポートの後半に結果と考察を載せますが、先に答えを見てしまうと感動が薄れるので、ぜひ予想をたててご自分で実験してみてください。ちなみにこの現象は私の7才(当時)の息子が入浴中に遊んでいて偶然発見し、その後彼のお父さんとYPCが発展させたものです。

【用意するもの】
PETボトル、発泡スチロール球(ボトルの口より若干径が大きいもの)、洗面器または水槽(浴槽でも可)

【実験1と予想】
PETボトルに水を満たし、水を張った洗面器の中に逆さに立てます。もちろんボトル内の水はこぼれません。発泡スチロール球をボトルの口のすぐ下の水中で放します。当然、球は浮き上がろうとしてボトルの口にひっかかります。この状態のまま球には手を触れずにPETボトルを持ちあげて行きます。ボトルの口が洗面器の水面を離れると球とボトル内の水はどうなるでしょうか。

ア.球は水面に残り水はこぼれる   イ.球はボトルについて上がり水はこぼれない

【実験2と予想】
PETボトルに水を盛り上がるくらいなみなみと満たし、口のところの水面に発泡スチロール球を浮かせます。指で触ると球が回転したり振動したりするほど、完全に浮いた状態にしておきます。この状態から、球には手を触れないようにして、空中でボトルをゆっくりと傾けていき逆さまにします。このとき球とボトル内の水はどうなるでしょうか。

ア.球は途中で落下し水はこぼれる   イ.球はボトルの口を離れず水はこぼれない

【実験3と予想】
PETボトルに水を満たし、発泡スチロール球で蓋をして空中で逆さにし、球から手を放します。実験1・2に引き続いて実験してもよいでしょう。PETボトルの腹をそっと指で押して、ボトルの口から水を少しずつ滴らせます。球は口にきつくはまり込んではいないものとします。このとき、球とボトル内の水はどうなるでしょう。

ア.球は落下し水はこぼれる   イ.口から水がたれても球は落ちない

【実験4と予想】
実験3の後、ボトルの腹を押していた力をゆるめると、ボトルの口のところからボトル内に空気が入ります。このとき、球とボトル内の水はどうなるでしょう。

ア.球は落下し水はこぼれる   イ.ボトル内に空気が入っても球は落ちない

【実験5と予想】
実験3・4を慎重に繰り返すと、やがてボトル内の水を全て出してしまうことができます。ボトル内の水がなくなったとき、球はどうなるでしょうか。

ア.球は落下する   イ.球はボトルの口にくっついたままである

【実験6と予想】
PETボトルの底に穴を空けます(完全に底を抜いてもよい)。ボトルの口のところを水で濡らして空中で逆さにし、下から発泡スチロール球をボトルの口につけ、手を放します。このとき球はどうなるでしょうか。

ア.球は落下する   イ.球はボトルの口にくっついたままである

【結果と考察】

実験1の結果 実験1の結果:球はボトルについて上がり、水はこぼれない。

実験3の結果 実験3の結果:口から水がたれても球は落ちない

実験6の結果 実験6の結果:ボトルの底をぬいても、口が水で濡れていれば、球はボトルの口にくっついて落ちない


 さて、実験をしてみてあなたの予想はどこまで当たったでしょうか。大気圧の存在を示す演示としてよく行われる、コップに水を満たしてはがきで蓋をし、逆さにして手を放す、という実験をご存じの方は実験1の結果は容易に予想できたかもしれません。しかし、他の実験は意外な結果だったのではないでしょうか。実験してみると結果は全て「イ」になります。いずれも球は落ちないのです。この結果はどう説明したらよいでしょうか。
 実験2・3・4あたりで観察すると、球は決してボトルの口に吸い付けられたり、強く押し付けられたりはしていないことがわかります。球は自由に回転できるほどですから、実は力はつりあっているのです。上記のコップの実験で、「大気圧による力の方が中の水の重さより大きいから水が落ちない。」と説明したら誤りだということです。やわらかい紙で支えられるほど、内外の圧力には差がないのです。
 上を向けたコップに水を入れればコップの底の水圧は、水の重さを底面積で割った圧力の分だけ大気圧を上回ります。この圧力差はコップの弾性で支えられます。コップを逆さにした場合は、どうでしょうか。逆さにしたコップやボトルの中の水は底の支えを失って下にわずかに「膨張」し、そのために水圧が下がっているはずです。PETボトルでやると、口を上にして立てた時と比べ、側面が内側に向かってへこむのがわかります。下の開いた口の付近はほぼ1気圧、上部の水圧は1気圧以下です。外の大気との圧力差はやはりコップの弾性で支えられます。
 実験5・6では、別の角度からの示唆が与えられます。つまり、ボトルの中も外も空気で、圧力が同じなのに球が落ちない理由は、水のいわゆる「表面張力」(界面張力)にちがいありません。容器や球の表面の分子と水分子との親和力がきいているのです。水がはがきや発泡スチロールの球を吸い付けていることになります。表面張力による圧力差は水の表面の曲率半径に反比例し、ふたとの接触部の外周に比例しますが、大気圧に比べるとごく弱いものです。したがって、この「手品」で、蓋に使うものはある程度水に「濡れ」、表面張力で支えられるくらい軽いものでなければなりません。
 鈴木さんお得意のマジックで、口にネットを張ったコップに水を満たし、はがきで蓋をして逆さにし、さらにはがきを水平に引き抜いて見せるというやつがあります。これも表面張力を利用していますが、水を支えているのはあくまでも大気圧であり、表面張力は水と大気の境界面の安定に寄与しています。

【物理教育通信第83号(1996)、YPCニュースNo.92 95/11/09 掲載 】(PDF版399KB


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