例会速報 2024/10/14 関東学院中・高等学校・Zoomハイブリッド
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YPC例会のもようを写真構成で速報します。写真で紹介できない発表内容もありますので、詳しくは来月発行のYPCニュースで。例会ごとに更新します。過去の例会のアルバムはここ。
授業研究:MetaMojiを使う理科授業 益田さんの発表
MetaMojiは授業支援システムの一つ。アプリを通じて生徒に授業プリントデータを共有でき、教員は生徒の取り組みをリアルタイムに確認することができる。生徒の取り組み度合いを確認しながら授業を展開できる。益田さんの学校では最近、生徒端末がSurfaceGoからiPadに切り替わったが、このシステムはデバイスを選ばないので、SurfaceをiPadの予備機として使うことができる。教員はWindowsPCで使用している。
生徒は配布資料を各自の端末画面にて自由に確認できるため、プロジェクターのように提示した資料が光の関係で見にくいということは起こらない。また、前の資料をもう一度見たい場合などにも対応できる。何より、生徒がプリントを紛失しない、配り忘れがないなど、授業時間が効率よく使えるようになった。アンケート機能もあり、クリッカーのように即時集計できる。インターフェースも工夫されており、手書き入力から文字変換もできる。
例会では、配布資料の著作権についても話題になった。データとして配信する授業資料は、印刷物の著作権と異なる。概要として著作物は生徒が所持している教科書のみ可能であり、配信するプリントはオリジナルの図版が必要となる。詳しくは、SARTRASを検索頂きたい。機能に関して便利ではあるが、使用できる教材に制限があっては困るという意見が多かったが、今後学校現場に導入されていく可能性があるアプリであるため、うまい利用方法を考える必要がある。
酸化と還元 天野さんの発表
インジゴカルミンは「青色2号」として食品添加物にも使われる色素である。塩基性の水溶液に溶かすと還元型の黄色を呈するが、少し酸化されると赤色に、さらに激しく振って空気酸化させると緑色になる。一方、塩基性条件下のブドウ糖は還元作用があり、酸化型インジゴカルミンを徐々に還元型に変化させる。この色変化で酸化・還元の楽しい実験ができる。
まず、海苔の乾燥剤の使用済み粉末(水酸化カルシウム)Ca(OH)2を水に溶かして上澄みをとる(いわゆる石灰水)。これとインジゴカルミンを混ぜると(左図)、当初濃い緑色になる(右図)。塩基性水溶液は水酸化ナトリウムでもよい。
これにブドウ糖を加えてよく振り、数分放置すると、次第に緑色が薄くなり、やがて赤色→オレンジ色→黄色と変化していく。インジゴカルミンが還元されていく様子だ。
黄色くなった液を、ボトルごと少し振ると酸化されて再び赤色が復活する(左図右)。さらに激しく振ると緑色に戻る(右図右)。左のボトルは比較のため振らずに静置したもの。
正しいモーター 曽谷さんの発表
前回例会で発表の「気まぐれモーター」は整流子がないのに気まぐれで回ってしまう。これに対して「教育的に正しい」というモーターの紹介。人間が整流子の役割をして、意識して回すモーターである。水の上に磁石が浮いており、コイルに流す電流をタイミングよく切りかえたり断続したりすると、磁石の回転子が回り続ける。
曽谷さんの製作ノートによると、コイルは 22mm 角で 300 回→ 8 Ω、1.5V 電源で 187 mA、「ネオジムでは回りすぎる、フェライトに変える」と記入されている。小さなフェライト磁石の入手が難しかったため、結局、抵抗
(10Ω 2 本) を入れて対応した。
例会の実演では、セロテープがひっかかってうまく回らないというトラブルが一時あったが、これは「百均の安物セロテープ」がはがれやすいのが原因だったとのこと。「百均の利用は目的を考えて!」というのが教訓だそうだ。
なお、この装置は「科学の祭典・全国大会:2018 年」で子供たちに工作させたものなので「小さく・安く」構成されているが、演示用なら洗面器または盥ぐらいの水槽に、回転子として棒磁石等を浮かべるなど、「大きく」作ってみるのも面白そうだと曽谷さんは提案している。
AMラジオ少年団バージョン 山本の発表
今年の8月例会でおもしろ科学たんけん工房の松本聡さん作の「フラットラジオ」を紹介した。1チップ3端子AMラジオIC・UTC7642を使用したAMラジオ工作である。山本は紙皿スパイダーコイルと、アルミテープ可変コンデンサーのアイデアをいただいて、藤沢市科学少年団の次回電気工作用にアレンジを試みている。藤沢市科学少年団ではハンダ工作が前提なので、まず、電子回路部分は8端子のラグ板に集約して小型化を図る。
スパイダーコイルは松本さんのアイデアをいただいて、直径18cmの紙皿に10mのホルマル線(ポリウレタン線)を20回ほど巻いてつくる。可変コンデンサーはダイソーの「写真袋L版ぴったりサイズ」の表面にアルミテープをはり、この中に袋ぴったりのサイズにカットした工作用紙に同様にアルミテープを貼って差し込み、スライドさせて容量を変える。両電極とも折り返して裏表に貼ることで面積を稼いでいる。一番奥までスライダーをさし込むとNHK第一が、引き抜いていくと次第に高い周波数の局が受信される。出力はダイソーの「イヤホン片耳用」を使うことにし、ドライブ用にトランジスタ2SC1815を1個加えた。電池ボックス(3V)の部分をグリップにして、片手で持ってもう一方の手でスライダーを操作しながら電波を探す。窓際や野外ではAMが明瞭に受信できる。
LANケーブル工作 益田さんの発表
以前、千葉高校の阿部さんが2024年2月例会で紹介してくれた有線LANケーブル機材を、益田さんも自分なりに作成してみた。基板用のケーブル端子用コネクタを使い、コネクタ間の接続を少しずつずらしLANケーブル内の8本の導線が1本の線としてつながるように接続した。杉原和男さんのS-cable(パスカル電線)のような使い方をする。ひとまず試作機として2台作成。半田付けが細かいため量産には工夫(気合?)が必要だが、仕組みが分かりやすいと好評だった。授業での使用も含めて今後の報告に期待しよう。
iPad計算機 益田さんの発表
画面上に書いた手書き文字を認識し、代入計算もしてくれる計算機。iOS18から導入された標準機能である。手書きで書いた数式を計算してくれるだけでもすごいと思うが、代数の機能もある。さらに、ある程度の単位も計算してくれる。iOS18のデモ画像では斜方投射を計算させていたので、水平投射は簡単に再現できた。計算結果の出力が手書きっぽいフォントになっているところも徹底している。
パラメータを与えればグラフも描いてくれる。パラメータを手書きで変更すると、グラフも直ちに変化する。その様子をGIF動画で再現したのが右図である。文字式の計算はまだ再現できないが(一般的な需要があるか疑問ではあるが)、今後の発展が楽しみである。
授業評価途中報告 三宅さんの発表
三宅さんは、1学期実施した授業評価(自己評価)の中間結果を報告した。実施科目は2年物理基礎2クラス(68名)と1年化学基礎3クラス(105名)である。毎時間の授業残り5分程度で実施した。ただし、実験中や授業時間により実施しない回もある。
自己評価の設問は以下の4項目。
・内容が理解できたか 1できた~4できなかった(4段階)
・問題が解けたか 1とけた~4とけなかった(4段階)
・授業で分かったことを書いてください ※例会報告では省略
・小テスト 1点満点
集計方法は、1学期の成績(評定:グラフ奥行き方向)と突き合わせてグラフ化した。延べ人数をグラフ化したもの(左図左側グラフ)と、各評定の合計人数を1人にしたもの(左図右側グラフ)で結果を示した。右図のような分布になれば、評定と回答率に相関があることになる。ただし、因果関係は分からない。
以下、2年物理基礎の結果をグラフで示す。それぞれ右のグラフは上記のように同じ評定内の人数を規格化(1人に揃えた)して比較した図である。
結果として、実施回数はおおよそ評定と回数に相関がみられそうだが、「内容を理解したか」「問題が解けたか」はやや傾向がみられるが相関があると考えられるかは疑問が残る、と分析された。
他方、小テストの点と評定に相関はあまりみられない。実施回数が少なく、たまたま小テストの平均点が高い場合があるからだと思われる。
これらの結果を示して、「授業評価をやる意味が「ないことは無さそう」ということで2学期以降も行う」と生徒には伝えた。今後、最終的に授業評価に意味を見出せたか、生徒へアンケートを実施したいと三宅さんは考えている。
物理学習ボードゲーム 植田さんの発表
「熱力学ワーカーズ」は、東京大学大学院生の新井さんが開発した、熱力学を楽しく学べるボードゲームである。 プレイヤーは圧力と体積を操作して「仕事」を増やし、最初に80ジュール仕事をした人が勝ちとなる。このルールを通じて、「定積変化」「定圧変化」「定温変化」「仕事」といった熱力学の重要な概念を体験的に理解することができる。
盤面にはPVグラフが使用されており、視覚的に概念を捉えることができる。小学校4年生でも設定を少し変更すれば楽しくプレイ可能で、高校生の時に有機化学の反応経路をボードゲーム化して学習していた新井さんの経験から生まれたという。「熱力学ワーカーズ」は、従来の学習方法では難解だった熱力学を、ゲームを通して楽しみながら効果的に学習できる可能性を秘めている。
なお新井さんは12月15日のYPC例会に参加予定とのこと。
植田さん提供の記事はこちら→ https://blog.feel-physics.jp/entry/2024/11/01/203020
AIに高校物理の問題を解かせてみた 植田さんの発表
o1-previewは、OpenAI社が開発した高度な推論能力を持つ次世代AIモデルである。特に数理分野の複雑な問題解決に特化している。植田さんは、実際に高校物理の難問レベルの問題を正確に解く様子を紹介してくれた。
問題は右図のような、斜面上に落下した小球が複数回非弾性衝突を繰り返すという問題である。AIはこれを途中式を示しながら、たちどころに解いていく。高校物理の問題集に載っている程度の問題なら難なく解いてしまうという印象だ。
例会ではその後、このようなAIの登場によって物理教育のあり方が大きく変わる可能性が議論された。生徒がAIに頼って問題を解いてしまうことで、学習効果が薄れる懸念や、AIでは代替できない人間特有の能力の育成が重要になるという意見が出た。
植田さん自身は、3つの能力を育む必要性があると考えている。すなわち、課題設定能力、問題解決がもたらす影響を理解する力、AIに対する批判的思考である。これらの3つの能力は、AIでは代替できない人間特有の能力であると考えられる。物理教育の現場において、これらの能力を育成するための新たなカリキュラムや指導方法の開発や議論が求められるかもしれない。
o1-previewは、実験レポートなども、実験をやってもいないのにもっともらしく考察までつけて仕上げてくる。こうなると、レポートを宿題に出すこともあまり効果がなくなるかもしれない。より詳しい内容はYPCニュースをご覧いただきたい。植田さん提供の動画はこちら→https://youtu.be/Tvxk6KgKCfU
二次会 黄金町駅前「寿司居酒屋 や台ずし」にて
10名が参加してカンパーイ!例会本体には対面で16名、遠隔で10名、計26名の参加があった。 例会の最後に皆で校舎の外に出て、今話題の紫金山・アトラス彗星の観察を試みたが、残念ながら肉眼で見つけるのは厳しかった。その後学校近くのこの店で懇親会となった。
関東学院にお世話になったのは今年2回目である。学校会場を提供していただけることは大変ありがたい。11月以降も会場提供校を募集している。
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