例会速報 2025/08/30 大学セミナーハウス・Zoomハイブリッド


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YPC例会のもようを写真構成で速報します。写真で紹介できない発表内容もありますので、詳しくは来月発行のYPCニュースで。例会ごとに更新します。過去の例会のアルバムここ

夏休みの研修報告 夏休み中の活動や学会で得た成果を報告し合う 
 8月の合宿例会では、いつもの授業研究に代えて、夏休み中に体験したことや各地で取材した情報を交換・共有することになっている。

 古谷さんは、8月に東京で行われた、科学教育研究協議会全国大会の小学校高学年B分科会に参加した。
 その席で印象に残った.参加者のひとりの自己紹介。「この3月まで高校で物理を教えていました。退職するにあたり、大きく環境を変えたいと思い小学校の理科専科をすることにしました。」、「校長さんに呼ばれ、教科書通りにやってくださいと言われました。」
 古谷さんは彼が高校から小学校に職場を変えたことは既に聞いており、思い切ったことをしたものだ、とは思っていた。しかし、経験豊富な彼が指導方法に枠をはめらるようなことを言われたことも大きな驚きだった。そして、かつて「最近学校現場で進んでいる学校スタンダード」について学んだことが記憶によみがえったという。それは簡単にいうと、教育の内容と方法の自由度を極端に規制すると共に、職員にも規制を強めるということで、ある地域を中心に全国的に広がりつつあるという内容だ。ちょうど、教育科学研究会が発行している雑誌「教育」に特集されていたのでその一部を例会当日の資料として抜粋した。
 

 同じ分科会で、.「てこ」についてのレポートもあった。会場での意見交換は活発で、概ね小学校でのてこの学習が支持された印象でした。一方、過去のYPCの例会では「力学におけるてこを学習することの意味はないのでは?」という報告もあった。古谷さんは、「大いに意味がある」という趣旨の意見を述べた。今回の資料には、理科教室が「小中高(大)を見通した力学」と題した特集(2012年2月号)を組んだときの、兵頭俊夫氏(第70代物理学会会長)の冒頭記事が引用されていた。兵藤氏は「てこ」の学習を否定的には扱っていない。古谷さんは、「小学校で基礎を教える」と「基礎から系統的に積み上げる」の文言に意味深さを感じたと述べた。
 

 阪本さんは、今年8月10日に行われた、第3回物理教育若手「夏の学校」という物理の若手教育者向けのイベントに参加した。そこでの企画の一つ「つまずき先生!!「何で?」を集めて解決する実験教室」というディスカッションを通して悩みを解決していく企画について報告してくれた。
 

 当日は物理の若手教員や教育を学ぶ学生37名が集まり、授業の導入方法や単元ごとの教え方など、物理教育の悩みについて話し合った。参加者は6つの班に分かれ、「ふきだしくん」という電子ホワイトボード機能を活用しながら、意見交換を行った。「ふきだしくん」を使ったことで、これまでに出た悩みを一覧で確認しながら話し合いを進めることができ、関連する悩みの解決策が見つかるなど、議論がより深まった。このツールはスマートフォンやPCから直感的に操作できるため、参加者はすぐに使い方を習得し、話し合いに集中することができた。
 

 「ふきだしくん」の無料版は、セキュリティ対策として、AM4:00にボードが自動削除され、現在は保存機能がない。しかし、登録なしですぐに使え、操作も簡単なので、実際に「今後の授業や話し合いでも使ってみたい」と話す参加者もおり、教育現場での活用が期待できる。
 

 伊藤さんは、8月20日水曜日から22日金曜日にかけて、神奈川県教科研究会理科部会の地学研修会に参加した。2024年1月の能登半島地震で起きた地質に関する変化を実際に現地で見た。能登半島の復興は進んでいるが、今回の巡検ではあえて変動の様子が観察しやすい場所を視察した。
 最初の訪問先は能登半島穴水町。穴水高校の被害にあった体育館(左図)やその近くの土俵(右図)を見た。土俵の周りの地面のコンクリートが破損している様子も見られた。
 

 土砂崩れが起きている箇所もいくつか見られた(左図)。穴水町の後は九十九湾に向かった。地震からかなり時間が経ってから次第に沈降し、海水面が迫ってきている箇所(右図)や、道路が水浸しになっている箇所もあった。
 

 輪島市では家屋が倒壊したり、電柱が傾いているところがまだ見られた(左図)。火災があった輪島の朝市は現在は広い空き地になっていた。海岸線が隆起したところも見られた(右図)。
 

 白米千枚田(左図)にも行った。輪島市の西側の海岸線の隆起が激しかった場所も見学した。隆起で生じた新たな土地を舗装して仮復旧した道路から、崩落した岩に埋まった古い道路を見ることができた(右図)。
 

 テトラポットが完全に陸に上がっている海岸(左図)や隆起によって、突堤が根元まで干上がっている港もあった(右図)。隆起によって使えなくなった港を見たときには、大地を変化させる途方もない力を目の当たりにし、教科書や写真だけでは伝わらないパワーを感じた。
 

逆止弁その後 山本の発表
 YPC2025年5月例会で発表した、ペットボトル用の簡易逆止弁(左図)で、中学生に「空気の質量」を測る生徒実験を課し、6月例会で報告した。科教協のお楽しみ広場でも好評だったが、「ダイソーのクリアボビン」がなかなか手に入らないという話も聞く。YPCの情報がもとで買い占められているのだろうか(冗談)。ダイソーの通販でも入手可能だが、キャンドゥやセリアのボビンでは構造上代替できない。
 そこで、もっと一般的な材料で似たような構造が作れないかと、さらに試行錯誤の結果、右図のような、M5×16(またはM5×18)という規格のユニクロメッキワッシャー(厚さ1.6mm)を、光沢面を外側にして瞬間接着剤で2枚貼り合わせたものでも同様の機能を果たせることがわかった。穴が5.3mm程度とやや小さいが、外径7mm、内径4mmのガソリンチューブを「引きばめ」すると厚みの割にはしっかり固定できる。あとは上からビニルテープを貼るだけだ。
 

もうひとつの逆止弁 天野さんの発表
 国内で販売されているペットボトルのふたには2種類のサイズがある。普通サイズと、エビアンやサントリーの天然水に使われている若干直径が大きいものである(左図)。これらはぴったりと重なり、内部に気室ができる。両方のふたに小穴をあけ、この気室に、0.5mm厚のゴムシートを丸く切ったものを入れると、吸・排気両方向逆止弁となる。接着は不要である。
 

 左図は天野さんが説明に使った手書きの断面図。これをペットボトル用じょうごに取り付けるとマグデブルグ半球のできあがり。二つの半球のパッキングは、キッチン用ゴム手袋を輪切りにしたものを使っている。
 

 もう一つ天野さんが開発したのは、ブレンディのポーション(濃縮コーヒー)の空き容器を使った風船用の逆止弁。空気入れのノズルを差し込む穴をあけたスポンジマットを押し込んでおく。これを風船の口にはめ込むと、自転車タイヤの虫ゴムのように、風船のゴムが弁になって、圧入空気の逆流を防ぐ。風船式のホバークラフトに使える部品だ。
 

全反射二重コップその後 鈴木健夫さんの発表
 鈴木さんは2020年9月例会(オンライン例会)で、「全反射二重コップを工作・準備0で行う」を発表している。準備する手間が何もいらないので、授業だけでなく、科教協のお楽しみ広場などでも頻繁に紹介しているが、今夏のお楽しみ広場で紹介していたところ、高校生(実はYPCの菅野さんが連れてきた科学部の生徒)が、間が空気でなく水なら、外の模様は消えないのでは、と提案してきた。素晴らしい!高校生の柔軟な頭は、私達が発想しないことを見事に提案してくれる。お楽しみ広場では、すぐ実施してうまくいくことを、提案した生徒と一緒に確認した。
 2つのプラコップの間を空気にしている普通のバージョン(左図)。内側のコップに水を入れると外側のコップの模様が見えなくなる(右図)。
 

 先に2つのコップの間に水を入れておき、上と同様に内側のコップに水をいれると、そのまま見えているだけ。つまり消えない!生徒各自にやらせてみたい。例会では、間が空気で見えていない状態から、注射器などで水をいれると外側コップの模様が見えてくる、という演出もよいのではないか、という提案もあった。これもやってみたい。
 

第2部開始 20:00より 長期館・共有スペースにて 
 第1部は対面15名、遠隔5名、計20名、第2部は対面15名(宿泊)、遠隔2名、例会全体としてはのべ21名の参加があった。 合宿例会では例会発表は夕食や入浴を挟んで夜も続くので、「二次会」と呼ばずに第2部と呼んでいる。第2部はアルコール解禁で、テーブルを囲んで宴会の余興風に進める。遠隔参加の皆さんと共に「カンパーイ!」。
 この部屋は貸し切りの宿舎の、寝室に囲まれた共有スペースなので、時間や人目を気にせず深夜まで例会を継続できる。

エッシャーに魅せられたこと・やってみたこと 古谷さんの発表
 古谷さんはCD独楽の絵柄に「だまし絵」の要素を取り入れたいと思った。そこで近藤滋著「エッシャー完全解読」みすず書房(左図)を読んだ。古谷さんは、続いて読んだ「スーパーエッシャー展・図録」でマウリッツ・エッシャー氏のただならぬ才能に敬服した。知能というより感性の素晴らしさということか。
 

 さて、メインテーマの「回転するものに貼り付ける絵として何がよいか」の選択に入った。古谷さんは、「1.いくつかの絵を選ぶ。2.円の形に切り抜いてCDに貼り付ける。3.回転させてみる」の作業を繰り返した結果、2種類の絵を選び出した。その中の1種類がストロボ効果があるとして、ほぼ人数分を作成配布してくれたので、参加者は会場で回してみた。しかしながら、古谷家の電灯下、および古谷さんが所持している小型LED懐中電灯の照明下では「回転、逆回転、停止」するように見えた現象が、会場では全く見られなかった。
 会場の照明は蛍光灯型のLED照明だった。LED照明には、LEDを一定周波数で高速に点滅させる「ダイナミック点灯」と、LEDを点灯したままにする「スタティック点灯」の二つの点灯方式がある。古谷家のものは前者、会場のものは後者だったのだろう。ちなみに、小型LED懐中電灯も、昇圧型のものは「ダイナミック点灯」になっている。例会では「スマホの動画モードでは見えた」という観察もあった。
 その場で見て楽しんでもらうという、古谷さんの当初の計画は未達成に終わったが、逆に新たな研究テーマの可能性が生まれた。
 

大気圧どう見せる 市原さんの発表
 2004年2月の例会で紹介されたボウリングの球を大気圧で持ち上げる演示実験セットが、巡り巡って市原さんの手元にやってきた。どうせなら「授業でどう見せたら効果的か」をYPC例会で議論してもらおうと思い、市原さんは例会会場に持ち込んだ。アクリルパイプの内径にあわせるように、ボウリングの球にはラップを巻いてある。そのため遠目にはボウリングの球に見えない。白(銀)色に光って見えるので、発泡スチロールと思われないように、生徒に持たせると良さそう。
 

 ただの大道芸、お遊びにはしたくないので、円柱の直径や内部の気圧などは測定して、数値データを扱うようにしたい。ポイントは、事前に計算したあとに「果たして本当に持ち上がるだろうか。」と実験で締めるのか、それともとりあえず演示実験をしておいて、「なんで持ち上がったのだろうか」と数値データで結果の確認をするのか、どちらの流れが良いだろうか、という相談である。
 先に実験でいいんじゃないの?という声はあったが、議論するほどにはならなかった。わかっていても、実際に持ち上がると歓声が上がる。大気圧は大きいことがよくわかる。
 

大気圧どうなる? 市原さんの発表
 2007年7月の例会で紹介された実験の圧力鍋が、これまた市原さんの手元に巡ってきた。いまや入手も難しくなった発泡スチロール容器を、圧力鍋に入れて加熱すると大きさはどうなるだろうか。実験結果は道具を譲り受けた時に聞かされたが、市原さんは「本当にそうなるの?」と思ったので、合宿例会でやってみようと事前確認の実験もせずに会場に持ってきた。
 ひとまず「どうなるでしょう」とクイズを出したところ、出席者の大半は「小さくなる」と答え、一人だけメタ読みで「市原さんが意外な結果になったと言っているくらいだから大きくなる」と答えた。
 

 実際に鍋の底に少しだけ水を入れて加圧する(左図)。火を止めて大気圧に戻してから取り出した容器は写真のように大きくなっていた(右図)。だいぶ軟化したらしく、ぐにゃぐにゃにゆがんでいる。
 ただ、これが「なぜ」大きくなるのか、の説明は難しい。化学と教育に掲載されている論文でも説明はされているが、単純な圧力の話というよりは、プラスチックの軟化点の性質が大きく関わるようである。会場では「ドライアイスを入れて、高温にせずに加圧すればどうなるのか気になる」という声もあった。
 授業で扱うのならやはり教員は説明できた方が良いだろう、との声もあったので、ただ「面白いね」「不思議だね」だけで終わらせないで、原理を確認しておきたい。
 

準備室のスイッチをちょっと近くに 鈴木駿久さんの発表
 学校の準備室の電気のスイッチが入り口から遠く、また、狭いところにあり不便だったため、鈴木さんは電気のスイッチを出入り口のすぐそばで操作できるようにしようと考えた。電気工事を伴わないよう、サーボモータで物理的に押すという,”物理的な”操作でこれを実装した。動画(MP4ファイル:25.5MB)はここ
 

 仮組みテスト後、サーボモーターは突っ張り棒で固定し、モーター制御の配線を出入り口まで引っ張り、Arduinoとスイッチを出入り口付近の壁に取り付けた(右図)。これにより電気のON・OFFが容易にできるようになり、職場環境の改善につながった。また、このような内容は総合的な探求の授業のテーマなどでも使えそうだ。
 

夏休みの報告・夜の部 越さんの発表
 越さんは、物理オリンピックの合宿期間中に行われるフィジクスライブで、参加した高校生に色々な面白実験をやってもらい、その解説を試みてもらった。その実験の中で、実験者が1万円札を縦長に持ち、チャレンジャーがその下端で2本の指(親指と人差し指、または人差し指と中指)で待ち構え、任意のタイミングで自由落下させた札を掴めたらゲットできるという「1万円ゲット」を行った(左図)。1万円札の長さは16cm、自由落下にかかる時間は0.18s、成人の平均の反射時間(目で見てから指が動くまでの時間)は0.2s、読みを効かせれば何とかゲットできる。それに対して実験者は、「いいですか?」などと声を掛け(注意を逸らし)ている最中に落とすと、まずゲットされない。ところが、今回はある挑戦者にゲットされてしまった。彼女は非常に集中度が高く、越さんの声掛けにも惑わされなかったという訳だ。
 右図は、以前越さんが広島の土肥さんに教えてもらったという「ピンホール」。黒い紙に目の写真やマンガの目を貼り付け、瞳の中心にピンホールを開けておく。これを両目の前に持ち、細かい文字などを近づけて見ると、ピントが合いやすい。ピンホールの直径は1mmと1.5mmの2種類を用意した。直径が小さい方が、より近づけてもピントが合いやすいようだ。実はこの実験は授業で実施した時、先生側から生徒たちを見るのが大変面白いのだ。
 

 また、越さんはこの夏、北海道の山々や島を旅した。例会第二部でその動画の披露があった。写真は利尻岳。天候に恵まれ、とてもよい旅だったそうだ。
 

 活火山の旭岳(左図)に登山の際には、高山植物や蜜を吸う蝶を多数観察できた。右の写真はクジャクチョウ。神奈川県ではレッドリストに載っている蝶だが、北海道ではまだ普通に見られるようだ。
 

 更に、越さん愛用のドローンカメラによる黄金色に実った稲穂の空撮動画(左図)や、ホロスペックスフィルムを用いた夜景(右図)の動画の紹介もあった。走行している自動車のヘッドライトがハート型のホログラム像を作り、ユーモラスに見える。
 

ニュートンの公式 山本の発表
 高等学校の幾何光学ではレンズの式として、左図式(1)のような結像公式を学ぶ。この式は左図式(2)のように変形することもでき、右図からも簡単に証明できる。式(2)は「ニュートンの公式」と呼ばれている。式(2)の形は逆数の和ではなく積の形なので、計算が楽だ。
 

 さらにニュートンの公式はa-bグラフをイメージしやすい。それはa,bの反比例のグラフを、両軸方向にそれぞれ焦点距離fずつ平行移動したものになる(左図)。式を見ればすぐにグラフが浮かぶのは直観的でよい。倍率はM=-(b/a)と定義すると正立像で正、倒立像で負となってわかりやすく、右図のようなグラフになることがニュートンの公式の延長で簡単に導ける。高校の幾何光学でも、この公式とグラフを活用してはいかがだろう。
 例会配付資料(加筆版)(PDFファイル:384KB)はここ
 

写像公式の正負の意味 市江さんの発表
 理科教室2025年5月号の特集で、「小・中・高の幾何光学」と題して、系統立てたカリキュラムが提案されていたのを受け、市江さんは、中・高を無理なく接続する学習案をつくる上で、大切な視点は何かを私も自分なりに考えてみた。
 幾何光学のみならず、電気や力などでも中学理科の学習内容の配列は、見せかけのわかりやすさを重視するあまり、ぶつ切りの知識の羅列ばかりが目立ち、系統的な理解には程遠い状況である。中学の光の学習では、ものが見えるということが、一体どういうことなのかを実験観察と光の道筋の作図を結びつけながら理解していくことに重点を置くべきと考える。具体的には実像と虚像のちがいを観察と作図を通して、像が見えている位置の光の有無で生徒自身が判断できるようになることを目標とする。さらにレンズは光を屈折させるもの、鏡は光を反射させるものという切り口で、それぞれの像の見え方を統一的にとらえさせていく。そのために中学理科においても左図のような球面鏡の作図も扱うべきと市江さんは考えている。(ただし、写像公式は扱わない。)
 そうすることでレンズでは実際に屈折光が進むレンズの後方に実像が、実際には屈折光が進み得ないレンズの前方に虚像ができることが確かめられ、同様に鏡では実際に反射光が進む鏡の前方に実像が、実際に反射光が進み得ない鏡の後方に虚像ができることが、像の位置での光の有無で統一的に生徒に判断させることができる。教材としての幾何光学の学習が優れている点は、実験(観察)と理論(作図・計算)が論理的に閉じた形で生徒が納得できるところにある。より抽象的な計算を必要とする写像公式は高校物理にゆずり、義務教育である中学理科では、実験と作図の関連付けに重点をおき、すべての生徒が科学的ものの見方・考え方を学ぶ機会としたい。中学理科でレンズと球面鏡を同時に扱うことで、高校物理のホイヘンスの原理を持ち出さなくても、光の反射と屈折を光の進み方という視点で、統一的にとらえさせることができるのも大きなメリットである。蛇足であるが、教科書の平面鏡の鏡像の説明についても2020年6月例会の「授業研究:レンズ・球面鏡の授業」を参照されたい。
 高校物理の参考書や問題集には写像公式のaやbの符号について、右図のような表がよく掲載されているが、その理由について系統立てたかつ簡潔な説明を見たことがない。ここでも事実、知識の羅列が目立つ。
 

 下の図は、aが負になる理由を検索したときの「AIによる概要」だが、ひどい解説になっている。実際、某塾のサイトでは組み合わせレンズの虚物体を1枚目のレンズの虚像が2枚目のレンズの物体として振舞うことと説明されていた。中学の段階で、実像と虚像のちがいをその位置での光の有無と結び付けて理解できていれば、組み合わせレンズの虚物体の考え方も無理なく理解することができる。レンズでも鏡でも、a、bともに実際に光がある方を正、無い方を負にしているだけである。レンズのaは、物体が実際に光が入射してくる入射側にあるときに正、入射し得ない屈折側にあるときに負となり、レンズのbも像が実際に光が進む屈折側にあるときに正、光が屈折し得ない入射側にあるときに負となる。鏡の場合も同様に、物体が実際に光が入射してくる入射側にあるときにaが正、入射し得ない鏡の裏側にあるときに負となり、bも像が実際に光が進む反射側にあるときに正、光が反射し得ない鏡の裏側にあるときに負となる。このように光の有無と結び付けて系統立てて正負を説明できれば、組み合わせレンズのaの符号も容易に判別できるようになり、1枚目のレンズの虚像は、2枚目のレンズの物体として振舞うだけであり、虚物体と呼ぶのは不適当であると判断できるようになる。市江さんは、高校生をこの深い理解に導くためにも、ぜひ球面鏡を中学理科で扱い、中・高接続の系統立てた学習案を模索するべきだと考えている。
 

 こちらはおまけで話題にのぼった、球面鏡の実像をスクリーンにうつす実験。これも詳しくは2020年6月例会の「飛行石を使った凹面鏡の実像の実験」を参照のこと。
 

ChatGPTとの力学問答・その後 山本の発表
 2023年2月の例会で、ChatGPTとの「作用反作用問答」について報告した。当時AIは作用反作用と力のつりあいについて典型的な誤概念にとりつかれていた。それから2年余りの間に、AIがどれほど学習を進め理解を深めたか、全く同じ問いを投げかけて反応を見てみた。ただし、前回のやりとりを記憶している可能性があるので、当時のIDではログインせず、とぼけて匿名のフリーユーザーとして問いかけた。
 問いは2年前と同じ「机の上に置いた物体にはたらく重力の反作用は何ですか。」という質問である。最初に返ってきたのは合格点をあげてもよい回答で(左図)、AIが見違えるほど成長していることがわかる。
 

 しかし、その後さらに意地悪をして、2年前の回答を引用して問いただすと、しどろもどろになってボロが出てくる。さらに誤りを指摘して突っ込むと、こんどは平身低頭して謝ってくる。そのようにプログラムされているのだろう。まるで、顧客対応マニュアルの、クレーマー対策を見るようだ。
 有料版ならもう少しましな回答が返ってくるのかもしれないが、AIのこうした限界は承知の上で、回答を鵜呑みにしないように使っていく必要がある。合わせて、こうした問答を通じて、AIを正しい概念理解へと教育することもわれわれの使命なのではなかろうか。
 当日の例会発表資料(PDFファイル:163KB)はここ

ペンギンのアクリルキーホルダー 市原さんの発表
 市原さんは海の日に、博物ふぇすてぃばる、というイベント(左図)に参加してきた。自然科学を中心とした、同人的蒐集ジャンルが一堂に会するイベントである。その中でも、YPCメンバーでもある佐々木さんが「ペンギン大学」というサークル活動をしており、ペンギンとペンギノンの構造式をアクリルキーホルダーにして販売していた(中図)。実在の化合物だが、構造式がペンギンの立ち姿に似ているところからこの名がついたとのこと。
 なかなかペンギノンの構造式を売っているところはレアだとは思う。「よくこれを作りましたね」と佐々木さんに話しかけると、なんときっかけは市原さんのFacebookとのこと。市原さんの長男が分子模型でつくったペンギノンの写真(右図)を投稿したのを見てこんな構造があるのか、と知ったらしい。意外と狭い世界で情報が回っていた。
 

 市原さんは他にも、あとりえ・おすとら さんのグッズでパソコンケース(左図)や、はてのうるま さんのうみほたる発光観察キット(右図)などをgetしてきた。年に1度やっているそうなので、気になる方は来年参加してみてはいかがだろうか。
 

虫よけアイテム? 市原さんの発表
 数年前から虫除けアイテムとして「おにやんまくん」というものが市販されている(左図)。身につけるだけで、アブや蚊が寄ってこないという触れ込みだが、だいぶ怪しい話だ。蝿はともかく、蚊にそれほど視覚情報収取能力があるとは思えないのだが、まだ「捕食する生物を避ける」という理屈は理解できる。
 市原さんはそのシリーズの新製品を見つけた。その名も「オオムラサキちゃん」だ。いったい何の虫に効くのだろうかと見てみると、スズメバチの天敵と書いてある。捕食するわけでもないのに、なぜ天敵とまで言われるのだろう。実際、スズメバチが樹液を舐めているところにオオムラサキが来て追い出す、という動画が youtubeなどでは見つかるが、忌避効果があるほどには思えない。ただの便乗商法のようにも見えるのだが、効果のほどはいかほどなのだろう。とりあえず、大きめの昆虫のおもちゃ(アクセサリー)として買ってみた、とは市原さんの弁。
 

雑貨紹介 加藤さんの発表
 Golden Dragonという中国製の奇妙なおもちゃ。3Dプリンター成形品のようだ。金色をしているが、金属光沢のない樹脂製。
 

 卵のなかからドラゴンが現れる。たくさんの関節があってグニャグニャ曲がる。この長さで、きれいに卵の殻の中に収まっている。
 

 左はフライングLED UFO。ファンが吹き出す風でホバリングし、放るとジャイロ効果で姿勢を保って、けっこう安定して飛ぶ。同様のおもちゃが2023年8月の例会でも紹介されている。マニュアルが無いので、スイッチのオン・オフを自分で見つけないといけない!
 右はビル・カトラーというシカゴの天才が作った傑作パズル、Block Head。箱から4個のキューブを取り出して、元に戻すだけだが、これがとんでもなく難しい!
 

無限にアホになれる話 阿部さんの発表
 阿部さんは、テレビで世界のナベアツを久々に見かけたときに、「もし無限に数を数えたとき、ナベアツはどれほどアホになれるのだろうか?」と疑問に思って計算してみた。同時にインターネットで調べてみたら、既に同じことを考えている人が多数おり、Wiki(右図)や論文まであってびっくりした。
 

 例えば40までの間に、アホになれる数は21個ある(左図)。その領域の数のうち、アホになれる数の個数の割合を「アホ濃度」と定義すると、40までの場合0.525ということになる。Excel等を使ってカウントすると、10万以下のアホ濃度は右図のグラフのように推移した。 

 10^nまでの数のうち、3を含む数は3を含まない数9^nを引いた数である。また、3の倍数は各位の数の和が3割り切れればいいから、3×10^(n-1)通り、などとカウントして、共通部分を差し引けば、一般のアホ濃度を求めることもできる。「後々考えてみれば当然のような気もしたと」阿部さんは言うが、計算してみると整数は3の倍数より3がつく数の方が圧倒的に多く、無限にカウントするとほぼ全てがアホになれる数となる。
 

 さらに阿部さんは2~9のうち「3」以外の数でアホになる場合でも同様に考えてみた。直感では数が大きくなるほど約数が少なくなるので、アホになりにくくなるように感じるが、5だけ例外でアホになりにくい数となる。これも、5で割れる数は下一桁が0か5の場合なので、5で割れる数の半分以上が5のつく数になるからだ。つまり「5の付く数」と「5で割れる数」の共通部分が大きい。
 

 「世界のナベアツは頭を空にして見ても、頭をフルに使ってみても面白いんだなと感心させられた。」とは発表を終わった阿部さんの弁。酔っ払いながらもこの話をまじめに聞いて議論している不思議な集団がそこにあった。

どうやって使うの?これ 菅野さんの質問にこたえて鈴木駿久さんが助け船
 菅野さんは、LC並列の共振回路を黒板用演示回路で実現可能かを試すために、コンデンサーやインダクターを購入した(左図)。
その際、入力信号を増幅するミニアンプモジュール(右図)の配線が設計図を見てもよくわからなかったため例会で助けを求めた。
 

 すると、オンライン参加していた鈴木駿久さんが、まったく同じアンプを用いた工作をしたことがあると、すかさず実験装置の画像(下図)を送ってくれて問題はその場で見事に解決。「行き詰ったときに気軽に例会に相談できる環境が本当にありがたい。」と菅野さんは話していた。
 

高校生による名作問題集 菅野さんの紹介
 菅野さんは、家の物理教材を整理していた時、高校時代に同級生で作った「高校生物理名作問題集」を発見した。合計15題あり、先生になった今見直しても高校生にこんな発想ができるものなのか?と唸る問題が多く普通の問題集には載っていないような問題も多くみられた。「このうちの何問かピックアップして紹介や実験を行いたい」と菅野さんは話す。

朝食 食堂「やまゆり」にて 
 おはようございます。例会会場では午前1時半過ぎまで科学談義が続いたので、付き合っていた人は眠そうだ。宿泊の15人は、7時半からの朝食の後、三々五々自家用車に分乗して解散した。


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