例会速報 2025/02/09 関東学院中学校・高等学校・Zoomハイブリッド
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YPC例会のもようを写真構成で速報します。写真で紹介できない発表内容もありますので、詳しくは来月発行のYPCニュースで。例会ごとに更新します。過去の例会のアルバムはここ。
授業研究:保存則・保存しない則 峯岸さんの発表
峯岸さんは、高校1年生3学期の物理基礎で「運動方程式とは違った見方で運動を見直す」というテーマのもと、運動量や力学的エネルギーを扱った。到達目標は以下の3つ。
(1) 運動量や力学的エネルギーという新しい見方の根本には、運動方程式があることを実感する。
(2) 運動量はどのようなときに保存して、どのようなときに保存しないのかを理解し、適用できる。
(3) 力学的エネルギーはどのようなときに保存して、どのようなときに保存しないのかを理解し、適用できる。
峯岸さんは勝田さんの授業展開(2019年12月例会)を大いに参考にしながら、工夫を凝らしたという。峯岸さんは『「系」の選択の重要性』と『「ダイアグラム」による全体像の把握』を意識した授業を行った。
・「〇〇保存の法則」には適用条件があり、いつどんなときも使っていい法則ではない。「系」を適切に選択し、出入りがないときに適用できる法則であることを理解してほしい。
・系内の〇〇が変化するときはどんなときか、系内の〇〇が変換されるときはどんなときかを理解してほしい。
という意図があるという
峯岸さんは運動量の単元を以下のような展開で行った。
① 「質量×速度」という量には意味がありそう、ということに気づかせ「運動量」と定義する。
② 系を上手に選択すると、なぜか運動量は保存することを経験させる(経験則として、「運動量保存の法則」概念獲得)。
③ 系が「力×時間」(=力積)を受けると、運動量は保存しないことに気づかせる(理論的に、「運動量保存の法則」概念獲得)。
単元最初の問は、生徒が今まで考えてきた「運動方程式」で導けそうな問を提示し、その過程で「運動量」に注目するきっかけを作る(左図)。次の時間では、「運動量」に注目させた実験を行わせた(右図)。例会参加者からは、「そこまで発見学習にこだわるなら、1時間目から実験させて「運動量」を発見させてもよかったのではないか。」との声が。なるほど・・・
3,4時間目は、到達目標(2)に迫りたい授業である。題材は台車の上に坂道を設置した自作の「坂道台車」。坂道の頂上から鉄球が転がると坂道台車も動く、という教材である。峯岸さんのこだわりポイントは、大きくて、斜面のふもとのポケットが取り外し可能で、斜面が曲線であること。斜面が曲線であることは、運動方程式では到底解くことができない絶望感と、「運動量」を考えることで現象を解くことができるというワクワク感を味わうことができる。
【課題1】坂道台車の頂上に鉄球を置き、そっと手をはなすと鉄球は転がる。鉄球が坂道を転がった後、台車はどっち向きに動くか。または静止するか。
【課題2】坂道台車のふもとにポケットを取り付け、転がった鉄球をキャッチできるようにする。鉄球が坂道を転がり、ポケットにキャッチされた後、台車はどっち向きに動くか。または静止するか。
多くの生徒が課題1、2どちらも予想時点で正答はするものの、「運動量は保存するから」ということを前提とした理由を書いていた。系に着目して「なぜ運動量が保存するのか」に言及できている生徒は少数であった。課題1の動画(movファイル:1.2MB)はここ。課題2の動画(movファイル620KB)はここ。
【課題3】ポケットを取り付けた坂道台車の後ろに壁を設置した。鉄球が坂道を転がり、ポケットにキャッチされた後、台車はどっち向きに動くか。または静止するか。
この問になると、生徒は「運動量は保存するのか、しないのか」「どのようなときに保存して、どのようなときに保存しないのか」を主題にグループ討論をするようになる。課題3の動画(movファイル:1.7MB)はここ。実験で決着をつけた後、運動量と力積の関係、運動量保存の法則が成り立つ条件、「坂道台車」で考えていた運動量は水平方向の運動量だけ、をグループ課題として提示し、発見的に概念を獲得させ、最後に運動量のダイアグラムを提示した。
エネルギーの単元への接続、エネルギーの単元の授業展開は、以下のとおりである。
④ 「運動量」だけでは解けない現象があることに気づかせる(例は左図)。
⑤ 現象をまた違った見方、「エネルギー」という見方で捉えようと提案し、これから扱うエネルギーを紹介する。
⑥ エネルギーの変化の原因が「力×力の作用点の変位」であることに気づかせ、「仕事」と定義する。
⑦ 「仕事をされたらエネルギーが変化する」という世界観のもと、力学的エネルギーを定量化する。
⑧ さまざまな現象を通して、「仕事と(力学的)エネルギーの関係」「(力学的)エネルギー保存の法則」を考える。
⑨ 「仕事をされていないのにエネルギーが変化する」現象を目の当たりにして、熱の存在を認知させる(反発係数の導入)。
⑩ 現象を「運動量」と「エネルギー」という観点でもう一度見直す。
まとめとして、峯岸さん自身は次のように語る。「先輩先生の授業実践を参考に、「系」という考え方に向き合う授業展開に挑戦してみた。峯岸の実感としては、生徒の「(分かりそうだから)分かりたい!」という姿勢や心の底から納得して自信に満ち溢れた顔を見ることができたので、根本理解を目指した今回の授業展開は大いにありだと思った。この単元に限らずどの単元でも「根本理解を目指した授業」をしていきたい。「根本理解を目指した授業」ができるように、いち早く先輩先生方に追いつけるように、これからも研究会に参加していきたい。」
偏光板 曽谷さんの発表
ある子供対象のイベントで、「2 枚の偏光板を 90 度偏光面に配置すると、光が通らなくなるが、その間に 3 枚目の偏光板を置くと、光が通るようになる」という現象の説明を求められた。この質問に教員ではないSPC会員は答えられなかった。曽谷さんはこのイベントに参加していなかったが、後日、仲間と討議したときに、
(2枚の偏光板をそれぞれ a、b と呼び、その間にはさむ3 枚目の偏光板を c と呼ぶことにすると)
「a → c が 45度の場合、ある程度の光が偏光板 c を通過する、偏光板 c → b も45度なので、(ある程度の) 光が偏光板 b を通過する」
という説明が提示されたが、曽谷さんはこの説明は (間違いとは言わないが) 適切とも思えなかった。
a 通過で直線偏光となった光が b を通った時に「何が起り」c に到達するのか?偏光の現象を子供に説明するのは非常に難しい。
もうひとつ、「90 度偏光面に配置した 2 枚の偏光板の間の OPP フィルムを挿むと、フィルムの質と厚さに応じて色が付いて見える」(下の写真)の説明もかなり難しい。「光が
OPP フィルムを通過すると光の波長に依存して偏光面が回転するという考え方で良いでしょうか?」と霜田先生に尋ねたところ「(あなたのレベルなら)
それでよいでしょう」との答えをもらった。旋光能という性質である。
曽谷さんが発表中で引用した東大大学院の小芦雅斗先生の講演資料「光の正体と究極の暗号」を見ると45度に傾けて置かれた偏光板を通過した光の偏光面が 45度回転して描かれている。曽谷さんは「3 枚目の偏光板」の場合も、「偏光板に偏光面を
(45 度) 回転させる性質があるから」という言い方の方が子供にはわかりやすいのではないかと考えた。「ベクトルの成分」といった概念を未学習の子供にどう伝えるか、悩ましいところである。。
偏光板を用いた教材 益田さんの発表
4枚のマークを印刷したカードを用意し、偏光板で覆う。4種類のマークは90°回転させても変わらないものであること、はじめは偏光板の向きを揃えておくことが重要。1枚選んだカードをさりげなく90°回転させ、指名した生徒に当てさせるのだが、その生徒には偏光板のついた眼鏡を渡して観察してもらう。一般の生徒には違いがわからないが(左図)、偏光眼鏡をかけた生徒には右図のように見える。
観察前に何を伝えますか 市原さんの発表
授業で演示実験や生徒実験で観察させる場合、生徒にどんな指示をして注目させるのが効果的かという話題である。市原さんは2022年7月例会でも同様の問いかけをした。当時は【事前に注目ポイントとして「色」「形」「大きさ」などを提示しておく】が、とりあえずやることだろう、という話にはなった。
今回の実験は、水圧の実験に「マリオットのビン」と呼ばれる実験を混ぜたものである。観察してほしいことは「水の勢いが時間変化すること」と「水面がストローの先端を越えるまでは勢いが変化しない」ことだった。
ところが生徒の観察結果は「弱かった」や「強かった」だけで、時間変化にともなう観察ができてない、または記述できない者が一定数いた。このとき生徒に事前に伝えたのは「水の勢いはどうなったか」だけだった。だからといって「だんだん勢いが変わるから、どうなるかよく見てね」などと言ったらネタバレになる。どんな指示が適切なのだろう。
市原さんの自己反省としては、もっと色々条件制御の余地を残してあげたかった。たとえば、ストローを上下させて長さを変えることができるようにするとか、タピオカストローにするなどストローの径を変えられるようにする、等である。もちろん、ストローを動かしながら気密性を確保するのが条件的に厳しいのだが。自分で発見する喜びや気づきを残して(奪わないようにして)、観察や実験に向かわせたい。
メトロノーム 越さんの発表
越さんは、生徒に質問されたことをきっかけに、手元にあった機械式メトロノーム(左図)を分解して調べてみた。右図は底面のふたを外したところ。
回転軸の下側に固定された大きな錘と、上側の移動できる小さな錘(可動錘)からなる剛体振り子であることがわかる。ゼンマイを動力とし、振り子が左右に振れるたびに一歯分だけ歯車が回転し、その時に歯車の歯(断面が斜めに切られている)が振り子を外側に蹴り出し、強制振動させている。左図は機械部分のみを取り出し、スタンドに固定し動かしているところ。右図は機械部分を横倒しにしたところ。右手中指が触れている歯車(金色(真鍮))が、振り子を外側に蹴り出す2枚1組の歯車である。
可動錘を上に移動させると、全体の重心が上に移動し、剛体振り子としての回転軸から重心までの距離は短くなる。一方、可動錘を上に移動することにより回転軸の周りの慣性モーメントが大きくなり、こちらの効果の方が大きいので結局周期は長くなる。θが小さくもなく、単振り子のように周期がひもの長さの平方根に比例するといった単純な関係もない。
越さんが例会当日配布した資料はここ。
越さんが参考資料として紹介した、東京都立大学・兵藤哲雄先生の講義資料へのリンクはここ。
探究実験実践報告 吉江さんの発表
吉江さんは、中3の電気分野の授業実践を報告してくれた。基本的にはピア・インストラクションやILDsのスタイルをとって進めてきたが、3学期になって実験室がうまくとれなかったり、教室が遠かったりして、授業スタイル変更を余儀なくされた。先に教える形にはなってしまうが、NHK10minBOXやPhETを活用して、論述課題に取り組む方式にしてみた。
自分たちで実験のしかたなどを考え、後日実験室が確保できたタイミングで実際にやってみる、という進め方にした。学習後の実験にはなるが、自分たちで発展的に工夫ができるので、生徒の動きが活性化したというメリットもあった。実験室が自由に使えないとき、授業時間が不足するときなど、こうして柔軟に対応するのもよさそうだ。
無線HDMI 益田さんの発表
2023年10月例会で天野さんが紹介してくれたものの続報。今回益田さんが紹介したのは、発信側がUSB-Cで仕様に合致する場合、発信側の電源を端末から得るもので、タブレット等に向いている。この例会でも数名がこれを使って発表した。益田さんが利用したAmazonの販売サイトはここ。
YPCのICT関連発表について 植田さんの発表
植田さんは2024年のYPC例会でのICT関連の発表について分析を行った。ICT関連の発表は合計16件あり、それらを植田さんは3つのタイプに分類した(左図)。
【1】持続的な取り組み(従来の個別のやり方を改良するツール) (右図)
6件:スマートカート、スマート望遠鏡、ストップウォッチ、パワーポイント資料、エクセル資料
【2】革新的な取り組み(従来のやり方を大きく置き換えるようなツール)(左図)
6件:iPad計算機アプリ、MetaMoji、3Dプリンター、グラフツール、micro:bit、wifi顕微鏡
【3】効率化の取り組み(自宅実験が可能なツール)(右図)
4件:Phyphox、Physics Toolbox
植田さんによると、これは「イノベーションの3分類」に対応しており、これら3つの分類がバランスよく進むことが理想的なのだそうだ。植田さんはYPCの活動がバランスが取れているため理想的であると結論づけた。植田さんは、この分類が参加者自身の興味関心を整理する一助になることを願っている。
書籍紹介 宮﨑さんの発表
宮﨑さんからは、おすすめの雑誌・書籍の紹介があった。
1)「物理教育」誌は日本物理教育学会の学会誌
会費は正会員8000円 学生4000円、年4回(3月、6月、9月、12月)会誌発行。研究報告も素晴らしいが、特集記事に読むべきものも多い。
例えば、Vol.72 No.4 2024 の特集 『 物理が「わかった」瞬間』の5名の筆者のうち、2名を紹介
•右近修治『わかった体験』 東京学芸大学
内容の一部 小中高でのラジオ工作体験、大学での経験、学位取得後の強烈な体験、物理教育との出会い
•松田卓也『分かっていなかった!』 NPO法人 あいんしゅたいん
内容の一部 電流の水流モデルとその限界、電流のエネルギーは電線の外を流れる!、大論争、回路的見方
2)「ぼくらの鉱石ラジオ」 筑摩書房 3630円(税込)
鉱石ラジオの歴史から理論、製作まで書かれている。右近先生が生徒に指導した経験からラジオ製作を高校の教材にしたいという思いがつのった。
3)「間違いだらけの物理学」 学研科学選書 1540円(税込)
電流のエネルギーは電線を通るのではないことをわかりやすく解説している。下の写真は同書掲載の図。
コンデンサー・日本と英国の比較 山田さんの発表
山田さんは、英国の物理教育事情を日本と比較研究している。今回はコンデンサーの学習の話題だ。日英の違いがはっきり出る単元でもある。日本ではコンデンサーの充放電は直流回路の中で軽く扱うだけで、過渡的応答は指数関数を使わず定性的に扱うだけである。英国では、物理の学習の中で指数関数や対数グラフを使うことはデフォルトになっている。
実験と数学モデルによる計算がリンクしており、電解コンデンサーとデジタルマルチメーターを使った標準的な実験が明示されている。
測定結果は片対数グラフで処理し、時定数を求める。Aレベル試験はこの実験を体験していることが前提となって出題され、頻出問題となっている。
かたや、わが国の高校教科書では、もっぱらコンデンサーの充電ばかり扱い、指数関数や対数を使うことはなく、定性的な説明にとどまる。RC回路の過渡的応答の扱いもない。教科書にはアナログ電流計・電圧計の図が載っていたりする。
山田さんは、コンデンサーの端子電圧の時間変化を測定する標準的な実験条件を下の図のように提案している。電圧計はデジタルマルチメータを用いるのが必須である。その上で、せめて指導書には充放電回路の数学的な扱いを載せ、物理現象と指数関数との関係を指導書では扱うべきだと山田さんは主張する。今のままでは、受験勉強が大学物理の学習につながらない。
ディズニーシーの振り子 鈴木駿久さんの発表
鈴木さんは、3年生が遠足で東京ディズニーシーに行くというので、「物理の課題」と題して、ディズニーシーのフォートレス・エクスプロレーションのエリアにある「フーコーの振り子」(名称はペンドゥラムタワー)を動画撮影するという課題を出した。撮影は好きな時間に行くよう伝えた。なお、鈴木さん自身が引率したわけではない。
後日、生徒から集めた動画を撮影時間順に並べると振り子が回転している様子を見ることができた。大勢で協力して撮影することで、1つの理科の教材が完成するという点が面白い。
今回は事前にあまり指示をしなかったが、撮影のポジションや画角を細かく指定すれば、あとの処理が楽だったと感じた。回転角と緯度の関係の議論もできそうである。
周期表ゲームをブラウザ版に移行中です 今和泉さんの発表
今和泉さんは、2017年にExcel VBAで作った「周期表ゲーム」アプリを公開、APEJなどで発表し、中学校の授業でも活用してきた。だが、あれから7年以上経過した今、一人一台端末の時代に対応する必要を感じ、ブラウザ版への移植を開始した。
もともと今和泉さんは、「スイへーリーベ」だけでなく、マトリックス的にインプットして欲しくてこのゲームアプリを考えた。授業では、個人で練習して、班ごとにタイムトライアルをすると盛り上がる。元素名(左図)だけでなく、元素記号や英語名、リスニングモードがある。また、原子核モードや電子配置モード(右図)もあり、あらかじめ教えなくても、タイムトライアルに勝とうとすると、必然的に最外殻電子に注目することになる仕組み。
まだ開発途上だが、ブラウザ版は左図のようなイメージになる。開発環境はVSコード(右図)。このごろではプログラミングもAIが手伝ってくれる。Microsoft
Copilotと対話しながらコーディングを進めている。
今和泉さんが公開しているブラウザ版はこちら。→Periodic Table Game
こういったデジタルアプリは、ずっと使っていると正解判定を相手(PC)に委ねるようになってしまう危険性があると今和泉さんは思っている。それを防ぐために、最終的には正誤を学習者本人が判定できるように、アプリがたまに正誤判定を間違える機能も今後追加していく予定とのこと。期待しよう。
多機能版のリンクはこちら(近日公開予定)。
二次会 黄金町駅前「寿司居酒屋 や台ずし」にて
13名が参加してカンパーイ!例会本体には対面で18名、オンラインで6名、計24名の参加があった。二次会出席率は7割を越えている。今回は益田さんのおかげで学校会場が確保できた。学校は実験も自由にできるし、時間的にも余裕があるので充実した例会になる。関東学院にお世話になるのは本年度これで3回目である。ご厚意に心から感謝したい。
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