例会速報 2019/10/22 学芸大附属国際中等教育学校


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YPC例会のもようを写真構成で速報します。写真で紹介できない発表内容もありますので、詳しくは月末発行のYPCニュースで。例会ごとに更新します。過去の例会のアルバムここ

授業研究:運動とエネルギー 長倉さんの発表
 長倉さんは、夏休み明けに行った、運動とエネルギー(全8時間)の授業実践報告を行った。普段は物理室で授業を行っているが、エアコンがないため、8・9月は普通教室で授業を行う。昨年は実験をあきらめて講義形式の授業を行ったが、以前の例会で、水上さんの教材平田さんの教材を実際に見て、今年は普通教室での演示実験を積極的に行うことにした。
 

 演示実験用の動滑車は買うと高いので、ボビンとボルト・ナット、ダブルクリップを組み合わせて自作した。
 

 授業では、「力学的エネルギー保存則を、正しく適用できるようになる」ことを目標に実践した。水の抵抗力が仕事をすると、力学的エネルギーは保存しないことや、垂直抗力は仕事をしないことを実験で示しながら、コロラド大のphetを使った演示で、力学的エネルギー保存則成立の条件を探っていくような展開にした。授業資料(PDFファイル167KB)は、ここ
 しかし、“重力のする仕事”と“重力による位置エネルギー”をあいまいなまま展開をしてしまって、問題集に奇問(?)があったこともあり、試験前には生徒をだいぶ混乱させてしまった。
 

 報告後の質疑では、“重力の仕事”や“重力の位置エネルギー”、さらには保存力の授業での扱いについて、活発な議論が交わされた。「地球と物体の2物体の系として、場のエネルギーであることをきちんと指導するべきだ。」「系の概念は、高校生にも理解できる考え方だと思うので、系を意識させる展開も行えるはずだ。」「初学者には系の概念や場の概念は、理解できないと思う。重力による位置エネルギーは、物体が持っているとしてもよいのではないか」「楽しくわかる物理100時間(上)に載っている、“重力ばね”の説明が、シンプルで無理がない展開なのかもしれない」「物体を持ち上げたときにした仕事はどこにいった?という問いから導入してはどうか」などなど...参加者の間でも、重力の位置エネルギーの扱いについては意見が分かれていたようだ。
 

 以下は、発表を終えた長倉さん自身の感想。
「皆さんの議論を聞いていて、自分自身が重力による位置エネルギーについての理解が浅かったということを強く実感した。mghの“公式”を指導するために、こんなにたくさんの方法があることも知らなかった。とても勉強になった、次に物理基礎を教えることがあれば、“重力の仕事”から逃げずに、指導をしたい。」

弾性力のする仕事 武捨さんの発表
 武捨さんは、長倉さんの授業研究に関連して、弾性力のする仕事を定量的に扱う演示実験を紹介した。ばねに押し付けた台車を放したとき、飛び出す速度の大きさから弾性力からされた仕事を調べる。
 授業ではまず、押し付ける距離を2倍にすると、弾性力からされる仕事は何倍になるか考えさせる。用いたのは、大型のばね(直径5.5cm、長さ26cm)とセンサ内蔵の台車(スマートカート)。ばねが自然長の状態で測定を開始し、v-tグラフと位置の値を表示する。位置の値を見ながら台車をばねに押し付けていき、0.050mのところで放したときと比べて、0.100mのところで放したときは、飛び出す速度が2倍となることを確かめる。この結果から、得た運動エネルギー、つまり弾性力にされた仕事が4倍であることがわかる。
 

 さらに、ばねに台車の力センサー(写真左の台車の黒い部分)を押し付けたときのF-xグラフを描かせる(写真右)。このグラフを読み取り、たとえば0.100m押し付けたときのxとkxの値から弾性力のする仕事1/2kx^2を求め、この値から計算した飛び出す速度vが、はじめの実験で測定した飛び出す速度とおおよそ一致することも確かめる。F-xグラフと実際の計算結果とから、なぜ1/2が必要なのかも印象付けられるだろう。以前は、1kgの大型力学台車とビースピを用いて実験していたが、センサ内蔵の台車を用いるようになって、教員にとっては演示しやすくなり、生徒にとってもセンサを用いることによる混乱はほとんどないように感じている。
 

ワイヤレスLED 天野さんの発表
 秋月電子のワイヤレスLEDワイヤレス給電ユニットの紹介。ワイヤレスLEDは直径5mmほどのフェライトコアにコイルを巻いて、LED駆動部の電源としたもの。給電ユニットはDC5~9Vで、60kHzの発振をする回路とドーナツ状コイルがセットになったものである。コイル内に生じる振動磁場で、LED側のコイルに電磁誘導を発生させてエネルギーを供給する。給電コイルの外側ではほとんど光らず、コイルの輪の中で明るく光る。また、LED側のコイルと給電コイルの軸が直交する配置だと全く光らない。磁束の向きが重要であることがわかる。電磁誘導の教材にならないだろうか。お値段は、ワイヤレスLEDが五個セットで250円、給電ユニットは1個430円。LEDの方は大きいものを自作することもできそうだ。
 

LEDで整流回路 勝田さんの発表
 勝田さんは、昨年度から勤め始めた筑波大附属高校で、今年は初めて高3物理(4単位)を持つことになった。静電気と直流回路の授業を一通り終えたところで、勝田さんは次の2つのことで悩んでいた。
・電流-電圧特性や半導体の教材でダイオードを扱うのだから,生徒にダイオードのありがたみを感じてもらえる応用が欲しい
・この次にコンデンサを学ぶのだが,どうしたら授業の流れを保ったまま接続できるだろうか
 そこで、以前APEJの例会で慶應高の武捨さんが報告した、ダイオードとコンデンサで交流を直流に変換する整流回路の次のような演示を思い出した。
・自作手回し発電機で 10 Hz 程度の交流を起こす
・ダイオードブリッジとコンデンサで整流する
・得られた直流を抵抗器に流し,電圧をオシロスコープで測定することで演示
 これをヒントに、LEDを用いてダイオードブリッジを組み、目視で整流の原理がわかるようにした。
 

 交流電源として、1Hz程度の正弦波出力がとれるジェネレータを用意する。LEDにつなぐと点滅が目に見える。PASCOのワイヤレス電圧センサで電圧を測定すると綺麗なサインカーブを描いていて、電圧が正領域の時だけLEDが点灯する。次にLEDでダイオードブリッジを組んで、その出力をLEDにつなぐ。生徒に考えさせ、意見を拾った後に演示する。ダイオードブリッジのLEDは2つずつペアで点滅するのに対し、その出力先のLEDはブリッジのどちらのペアが点灯している時も光っている。電圧センサで測定してみると、電圧の負領域がひっくり返って正領域になっている。これで交流を直流に変換できたことになる。
 

 最後に、授業ではまだ学んでいない謎の物体コンデンサを、出力先LEDに対して並列に接続すると、LEDは点滅でなく光り続ける。コンデンサの効果が理解しやすく演示できる。1Hz で実験を行うと、ブリッジの点滅は目視で確認できる。電圧センサで測定してみると、整流された電圧は完全に一定値とはならずわずかに振動するが、この後にコンデンサの充放電を学んでいくのだから、より教育的な導入である。
 余談だが、ダイオードブリッジをはじめとするすべての部品は、YPCではおなじみの「黒板演示用回路キット」を真似して作っている。このキットは一度使うと、もうそれなしでは回路の授業ができないほど便利で、次々に新しい部品を自分でも作っている。小さいネオジム磁石をアルミテープで包んだものをたくさん用意しておくと電極ターミナルとして使いやすい。是非お試しを。
 

micro:bitとプログラミング教育について 櫻井さんの発表
 櫻井さんは、micro:bitの紹介とプログラミング例、および小学校にてプログラミング教育が必修化することについてCEATEC2019で聴講したカンファレンスの話を交えて発表した。
 micro:bitは英BBC等が開発した教育用マイクロコンピュータで、2016年、イギリスでは11歳、12歳の子ども約100万人に無償提供されたことでも有名である。日本国内では2000円+税で販売されており、スイッチサイエンスや秋月電子で購入可能だ。ブラウザ上でJavaScriptベースのブロックプログラミングができ、PCとUSBケーブルとmicro:bit本体さえあれば簡単に始められるなど、とにかく敷居が低い。櫻井さんが持ち込んだサンプルは、「ハートマークを表示する」「現在の温度を表示する」「サイコロを転がす(イカサマ可能)」のプログラムを搭載したもの(写真)。プログラムを書くのに必要とした時間はそれぞれ3分、3分、30分。最終的には物理の授業で利用できるようなデバイスやプログラムをmicro:bitで作りたいと櫻井さんは考えている。
 

 また、プログラミング教育に関して櫻井さんは、カンファレンスで配布された資料をもとに、教育現場では、プログラミングの重要性を先生も、子どもも、保護者も十分に理解していないこと、情報の専門家は重要性を説くばかりで、現場の教員の状況を理解していないこと、「使うものを自分で作る」という一番面白いところがまるまる無くなっていることなどの問題点を挙げ、諸外国のようなプログラミング教育に追いつくには、まず市民、教員、ITの専門家との相互理解が必要ではないかと述べた。
 

ボイスメモで落下時間測定 鈴木健夫さんの発表
 夏の科教協福岡大会で、石川県の米田雅人さんが発表していた実験の紹介、および鈴木さんによる改善案の報告である。iPhoneやiPadに標準装備のボイスメモ機能は、録音したものを100分の1秒単位で時刻を追える。ものが落下して床や机に衝突する音を録音し、それを分析して落下時間を測ることができる。オリジナルの米田さんの実践は、3階の廊下の窓から地面まで落ちる時間を測定して高さを計算する。「パッ」と発声すると同時に手を離し、「ボテッ」という落ちる音を録音する。時間から高さを計算すると、誤差は数10cmだという。
 

 鈴木さんは、教室内の授業で落差1mで行う実験を企画した。1mものさしで高さを設定し、テニスボールを床に落とす。これを理論値と比較しようというもの。スタートを人間の声で記録すると誤差が大きいので、紙やビニールの切れ端でボールを包んで持っている状態から放すことにした。この「カサッ」という音と床に落ちる「トン」という音を録音。誤差数%の測定となる。例会では理論値0.45sのところ0.48sだった。難点は、教室で生徒にやらせようとすると、雑音が多くどれが自分の音か聞き取れないこと。演示実験向きかもしれない。
 

台北101エレベータのa-tグラフ 西村さんの発表
 西村さんは今年の7月末に、化学教育の国際会議であるNICE(Network for Inter-Asian Chemistry Educator)に参加するため、台湾を訪れた。台湾には台北101という101階建の超高層ビルがあり、観光名所となっている。台北101のエレベーターは2016年まで上りの最高速エレベーターとしてギネス認定されていたそうである。西村さんは、そのエレベーターに乗って、無料のスマホアプリsparkvueで上りと下りの加速度を測定してきた。
 

 ギネス認定されていた上りでは、やはり加速度が大きく、また、他の観光客で混雑していたこともあり、a-tグラフが揺れてしまい、うまく測定できなかったが、下りではうまく測定できた。そのa-tグラフから区分求積でv-tグラフを、v-tグラフから同様にx-tグラフを計算していったところ、かなりきれいなグラフが得られた。教科書によくある演習問題にかなり似ている。超高層ビルということで、加速、等速、減速の区間が明確にわかれているのが良いところだ。グラフから求めた高さも、エレベーター内の表示から算出したものとほぼ一致した。西村さんは、来年の授業でこの教材を使って授業してみたい、と言っていた。
 

城山ダムの緊急放流 山本の発表
 今年は台風15号、19号が相次いで関東・東北を襲った。特に台風19号は猛烈な雨台風で、遠く離れた長野県千曲川流域をはじめとして、関東・東北各県にも大規模な水害をもたらした。神奈川県中央部を流れる相模川も、10月12日夕方から深夜にかけ、最後の砦の城山ダムが、建設以来初の「緊急放流」(満水のダムを守るため、流入量をそのまま放流すること)を行い、「すわ、相模川も氾濫か」と緊張する一幕があった。幸い、相模川の堤防はもちこたえ、流域に大きな被害はなかったが、治水の重要性を改めて認識した出来事だった。そんな城山ダムの当夜のオペレーションを追ってみた。
 台風19号は12日19時前に大型で強い勢力を保ったまま伊豆半島の駿河湾側に上陸し、その後神奈川県に入って小田原、秦野、相模原と小田急線沿いに進み、東京都を横断して北関東に向かった。藤沢の自宅で測定した気圧は20時19分に最低気圧961hPaを記録した(左図)。当日午前から強まっていた雨は、この頃ピークに達したが、実は城山ダムはこの大雨に備えて、前日11日の14時から「予備放流」を始めていた。
 リーフレット「城山ダム」によれば、城山ダムの洪水期制限水位は標高120mで、予備放流前まではこの水位を保っていた。予備放流水位は113mで、ここから、洪水時最高水位(サーチャージ水位)125.5mまでが、洪水調節容量ということになる(右図)。
 

 ダム操作は、大雨が降り出す前の11日14時から始まった。500m3/sで予備放流を行い、増水に備えて水位を下げた。12日午前、予備放流水位113mに達する直前に流入量が増え始め、12日11時には規定の洪水貯留操作開始流量1500m3/sを超えたため、17時から緊急放流を開始すると発表した。この予定時刻は流入量の推移を見ながら、22時開始へといったん延期され、放流上限量3000m3/sでぎりぎりまでもたせたが、21時に異常洪水時防災操作開始水位123.2mを超えたため、急遽21時30分から緊急放流を開始した。台風の中心が過ぎると、雨は急速におさまり、1時15分緊急放流は終了した。ピーク時の放水量は4500m3/sに達し、流域の各地で氾濫危険水位を超えたが、なんとか事なきを得た。
 注目しておきたいことは、これらの操作が、途中までは、上記リーフレットにも掲載されている、「洪水調節図」通り、つまりマニュアル通りだということである(左図)。ピーク雨量が想定を超えたのでやむを得ず初の緊急放流に踏み切ったが、事前に雨を予測し、水位を下げて待ち構えるという洪水調節により、流域の生命と財産が守られていると、改めて認識した。
 細かなことを言えば、予備放流が目標値にわずか達しないうちに増水が始まったから、予備放流量を1500m3/sで開始していれば展開は変わっていたかもしれないが、雨がやんだタイミングがラッキーだったことも含め、結果論だろう。結果的に相模川は氾濫を免れた。機転を利かせた見事なオペレーションだった。作製したグラフの元データは国土交通省「川の防災情報・過去データ(ダム情報)」から取得した。過去1週間分のデータなので、今は消えている。
 なお、国交省「川の防災情報」のサイトや、神奈川県の「雨量水位情報」のサイト(右図)は、肝心の時刻に、アクセスが集中したためか、フリーズしたり、あり得ない水位を表示するなどエラーを出していた。「情報の洪水」対策も急いだ方がよい。当日の発表資料(PDFファイル1.6MB)はここ
 

「ごたく」復活プロジェクト 長倉さんの発表
 長倉さんは、ひょんなことから、ごたくという20年以上前のクイズソフトの存在を知ったが、どうやらwin10ではソフトが動かないらしい。しかし、Vectorなどで検索をすると、ごたく用のクイズデータ(.5tqファイル)が大量にある。しかも、教材向けに作られたものも多数存在する。なんとかしてこの5tqファイルを解凍できないか、と、解凍にチャレンジし、さらに、指定した単元の問題をランダムで選んでGoogle formを作成するスクリプトを開発した。画像は、そのスクリプトで作成した問題。 .5tqファイルを解凍しながら、今も昔も、熱心な先生は日々教材研究に励んでいたんだなあ、と感動したとのこと。
 

後藤道夫先生追悼文集 高橋和光さんの発表
 物理教育に貢献された故・後藤道夫先生の追悼文集ができあがった。高橋さんたちがこの文集を作り始めて、1年半経った。あまり見通しも立てず後藤先生への恩返しのつもりで始めたというが、戦後の理科教育、物理教育に大きく貢献された後藤道夫先生の足跡をどうしても残しておきたいという思いで取り組むと、幸い多くの方の賛同を得て、発行にこぎつけることができた。記事も多く集まり、内容は予想を大きく上回るものになった。理科(物理)に関わる方には読んでいただきたい。
 入手方法など、詳しい案内(PDFファイル98KB)はこちら


豚の心臓の観察 高橋和光さんの発表
 単元は中学校第2分野・生物の教材である。中学校2年生の「動物の身体」の単元で、身体の内臓のしくみ学習がある。高橋さんは、機会があれば豚の内臓を使って授業をしている。今年は、「豚の心臓」を教材にして、班活動として観察をした。実際の動物の身体を皆さんに見てもらいたいと、高橋さんは冷凍保存した豚の心臓の実物を、例会に持参した。実物の内臓はどれをとっても巧妙にできている。
 

 つぶれてはいけない気管は軟骨で丈夫にできており、筋肉で弾力のある食道と手触りが違う。心臓は切り開いてあり、心房と心室、大動脈や僧帽弁などが観察できる。右は、切開部分を閉じて外形を観察しているところ。握り拳ぐらいの大きさで、ちょうど人間の心臓と同じくらいだという。
 

大学の「教養の物理学」実践報告番外編1 内山さんの発表
 今年6月例会7月例会での報告の続編。内山さんは大学の教養の物理で、宇宙をテーマに科学館を活用したアクティブ・ラーニング型授業を取り入れ、教養教育改革に一定の成果をあげた。その一方で内山さんは、小中学校の教員養成課程における、科学教育の現状に危機感をいだいている。
 

二次会大泉学園駅前「山内農場」にて
 14人が参加してカンパーイ。老若男女が集い、和気藹々と科学や教育を語りあう。授業や職場の悩み事も気軽に話してアドバイスがもらえる、そんな気さくな会だ。実は、ここへ来てしゃべるだけでストレス解消になるので、それが目的で例会に参加している人もいる・・・・かもしれない(^^)。


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