例会速報 2025/11/16 藤嶺学園藤沢高等学校・Zoomハイブリッド


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YPC例会のもようを写真構成で速報します。写真で紹介できない発表内容もありますので、詳しくは来月発行のYPCニュースで。例会ごとに更新します。過去の例会のアルバムここ

授業研究:原子分野の授業展開 小澤さんの発表 
 小澤さんは原子分野の導入として、主に光電効果の授業実践を紹介してくれた。まず「光は波である」という立場から出発し、「なぜ光が波とわかるのか」という問いを投げかけ、ヤングの実験を演示するところから授業が始まる。
 続いて、定番の箔検電器を用いた光電効果の実験を班ごとに行う。箔検電器と殺菌灯は班の数用意しておく。例会では、殺菌灯を扱う際には、直接光を見ないように防護めがねを着用させるなど、安全面の配慮が必要であることが指摘された。また、教科書には亜鉛板の例が多いが、実際には他の金属でも光電効果は観察できるため、亜鉛に特別こだわる必要はないという話題もあった。
 

 授業では、古い動画教材「@mic GO! GO!」やCD-ROM教材「実験でたどる原子・原子核の世界」なども活用し、理解を補強している。
 

 光電効果の実験の関連で、光の粒子性を示す身近な例として、蓄光塗料の発光(燐光)が紹介された。紫外や青のLEDの光を当てると強く発光する一方、緑では発光はかなり弱く、赤では発光しない。
 

 物質(原子・分子)に対する光の作用は、光の粒子性を用いると説明ができることを伝える。2003年7月例会における発表「カラーライト」を参考にした(下段左図)。
 

 最後に、LEDに光を当てると電圧が生じる現象を利用した実験の紹介があった。赤外・赤・青のLEDを2個ずつ用意し、発光側と受光側の組み合わせを変えながら、どの条件で電圧が生じるかを調べさせる。受光側よりも発光側の光子のエネルギーが大きいか、あるいは同じ必要があることに気付かせる。右の写真は、同じ色同士の発光・受光LEDをパイプ内で向かい合わせ、デジタルテスターで電圧を測定している様子である。LEDの色を変えて実験し、横軸を振動数、縦軸を電圧としてグラフを描くと、光電効果と似た一次関数となり、プランク定数を求めることができる。原子分野で実施可能な、数少ない生徒実験の一つである。
 

続・液晶テレビの分解 山本の発表
 今年9月の例会で報告した事例の後日談である。古い液晶テレビを分解したところ、液晶板の裏側に「プリズムシート」と呼ばれる樹脂製のシートが配置されていた。顕微鏡で観察すると表側(液晶板に近い側)が0.05mmピッチの直角三角プリズムが並んだような構造になっていた。
 

 表側から光を当てると左図のように二筋の屈折光線が現れる。一方、裏側から同様に光を当てると、光はさえぎられ、入射方向に反射しているように見える。どんな現象が起こっているのか、光の経路を詳しく計算して追跡してみることにした。
 

 図は左側が表(液晶板側)、右側が裏(バックライト側)である。たくさん並んでいる直角三角kプリズム1個のの断面を図に示した。まず表側から裏側に向かう光線の経路を吟味する。図の水平軸を基準として、時計回りに入射角θを定める。屈折率はアクリルやポリカーボネートに近いとみて1.60を採用した。代表的な光線は左図のような経路をたどる。複数回の屈折の結果、裏側に出射する光線の、水平軸からの角度をδとする。 θを横軸に、δを縦軸にとって計算結果をグラフにすると右図のようになる。プリズムは上下対称なので、水平軸の上側から入射する光線は、これと左右対称のグラフになる。こうして二筋の屈折光が説明できる。なお、θが約35°を越えると、光はプリズムの後面で全反射を起こして裏には届かなくなる。
 光線逆進の原理を適用してこの結果を逆に読めば、裏から表に向かう光は、入射角±約10°の範囲を除けば、屈折しながら表側に出てくることになる。
 

 裏から表に向かう光線を追跡してみる。左図のように入射角θを時計回りを正として定めるとき、±約10°の範囲では、右側の直角を成す二つの面で全反射を繰り返して、正確にもと来た方向に送り返される。これはコーナーキューブの原理である。つまり、このシートは真裏から来る光は全反射してしまう。 場合分けをして詳しく計算してみると、θ>約10°の領域では屈折光が比較的小さな屈折角で表に出てくるが、θ<約-10°の光は大きく屈折する結果、隣の山の面にぶつかって、表側で散乱することになる。
 結論として、このプリズムシートは、裏から表に向かうバックライトの光をストレートには通過させず、バックライトの明るいスポットを隠す効果がある。一方で、すぐ後ろの拡散シートで散乱した入射角の大きな光は表側にそろえるように送り出し、一方で散乱して均一化している。つまり、光源となっている背後の導光板のスポットをぼかし、効果的に光を散らして平均化しつつ、無駄なく表側に送り出す役割を担っているわけである。
 

IPPのパズル 加藤さんの発表
 International Puzzle Party(IPP) で交換された新作パズルの一つの紹介。電車(左図)の中に人形を詰め込むというパズル。乗客人形は大人1人と子ども10人(右図)。電車の入り口にある真鍮棒が邪魔して全然入りそうにない。加藤さんは、もしかしたら誰か解いてくれルカもしれないと持参した。例会で回覧すると、子ども3人が電車に入った状態になって戻ってきた。例会中の短時間のうちに、車田さんがこの超難解パズルを解いてくれたのである。とてもすばらしい。でもどうやって出すの?
 

 このパズルとは関係ないが、加藤さんは不要になった未使用のオブラートシート(右図)を持参した。その昔苦い粉薬を飲むために使われていたものである。加藤さんがこのオブラートになにかおもしろい使い方はないかとChat GPTに訪ねたら、これで食べられる風船ができるとのこと。誰かやってみませんか、との呼びかけに車田さんが、貰い受けてくれた。
 

カードマジックと摩擦力 菅野さんの発表
 マジックが得意で、授業にもマジックネタを取り入れている菅野さん、顧問をしている物理部の生徒に請われて技術指導したカードマジックを紹介してくれた。 4種類のマークの6のカードがある。裏は全部赤のように見える。客に好きなマークを指定してもらうと、「実は予知していた」といって、裏を見せたカードをめくっていくと、一枚だけ裏が黒いカードがある。
 

 裏返してみると、客の指定したマークだ。次はハートを指定したら、裏が黒いカードの中から、一枚だけ赤いカードが出てきて、それがハートになっている。
 

 実はカードの裏はもともと赤と黒の二色あって、表のマークの色と同じ2枚ずつなのだが、菅野さんの巧みな手技で、4枚の中に1枚だけ別の色のカードがあるように見せかけていたのである。この時に使っている技が、本年7月例会の授業研究で菅野さんが披露してくれたカードマジックと同様、摩擦を利用して1枚のカードに見せかけながら、実は重ねて2枚動かすという手技なのである。右の写真の後ろの板書にあるように、親指の先で押し出す力加減で重なったカード間の摩擦力をコントロールしているのだという。 物理の授業で学習したばかりの摩擦力の話に結びつけるところはさすがである。
 

藤嶺学園の実験グッズ 菅野さんの発表
 今年度赴任した菅野さんは、実験室で発見した使い方のわからない器具を例会参加者に示して、教えを請うた。左は測量器具のようなものだが、その場にいた人は誰も知らなかった。しかし、参加者の一人がその場でChatGPTに写真を示して問い合わせたところ、たちどころに「平板測量器」の「アリダード」という器具であることがわかった。ChatGPTの回答はこちら。三脚などの付属品もどこかにあるに違いない。
 右はクロメル・アルメル熱電対温度計の計器部分で、熱電対が発生する電圧を温度に換算して読み取る。こちらは使ったことがある人がいた。専用のプローブもどこかにあるはずだ。
 

骨折の力学 曽谷さんの発表
 曽谷さんは、自身が立ち眩みにより意識を失って倒れ、顎を骨折した過程を物理的に顧みた。
 Wikipediaのこちらの項目に人間の「上下・前後・左右」方向Gにへの耐性に関する次のような説明がある。左図は同サイトから。
 「上向き」のG力は、血液を座っている人または立っている人の足に下向きに動かす (より自然に、足と体は床と座席の上向きの力によって、血液の周りを上向きに駆動されていると見なすことができる)。正のG力に対する耐性はさまざまである。 典型的な人は、意識を失う前に約 5 G₀ (49 m/s²) を処理できる (つまり、高Gジェットコースターに乗るときに気絶する人もいるが、場合によってはこのポイントを超える人もいる)。しかし、特別なGスーツと筋肉に負担をかける努力の組み合わせにより、現代のパイロットは通常、持続的な 9G₀ (88m/s²) を処理できる (高 G トレーニングを参照)。
 曽谷さんが自分が立ちあがる場合の加速度をphyphoxで測定したところ13m/s²程度だった(右図)。グラフの左側の台形部分は比較のためエレベータの加速度(1m/s²程度)を測定している。この測定時には意識を失うことはなかったので、事故発生時にはもっと大きなGがかかっていたとして30 m/s²と仮定しても、標準よりも大幅に耐性が低かったようだと自己分析した。
 

 Paul Davidovits著「生物学と医学のための物理学・原著第4版」(共立出版)には、人間の骨が骨折する力の大きさについて、「破断エネルギー」による説明と「撃力」による説明が載っている。前者の説明では物体が落下する直前のポテンシャルエネルギー mgh が骨の圧縮破断強度を越えると骨折することになる。後者の場合は、力積と運動量の関係FΔt=mvのvを自由落下速度√2ghとして、Δt を適当に決めて計算する。いずれの場合も「足首・膝を曲げずに、両足で着地」した場合には 40から50 cm の落差で脚の骨が折れる計算だそうだ。
 

英国科学博物館 益田さんの発表
 益田さんは職場のイギリス短期留学の引率で、ロンドン郊外のイートンを訪れた。そのうちの1日、団体行動を別にし科学博物館を訪ねた。博物館の入口には蒸気機関の実物大の展示があり、そのまま進むと展示ケースに、物理の教科書に載っているような実験器具が陳列されていた。
 

 ファラデーが作成した電池(上段右図)、ハーシェルが使用した反射望遠鏡(左図)、J.J.トムソンが比電荷測定に使用した放電管(右図)、ヘルツの電磁波実験装置(下段左図)は興味を引く展示だった。
 

 フロアを変えると、人体の解剖学についてまとめた展示があり、レーウェンフックの顕微鏡(右図)やワトソン、クリックのDNA二重らせんのモデルがあった。2時間程度の駆け足の見学だったがどの展示も科学への興味が湧く展示だったとのこと。
 

放射線影響研究所(広島) 益田さんの発表
 益田さんは修学旅行の引率で、広島の放射線影響研究所を訪問した。施設の見学はほぼなく、講義室での講義だったが、放影研が放射線の人体への影響の研究を徹底して行ったことがよく分かる内容で、被爆者のデータをもとに様々な放射線の人体影響指標を作成した研究所であることは非常に驚きだった。
 

 下図はいただいた要覧に掲載されていた、広島(左図)と長崎(右図)の爆心地付近での人体の被曝量を示す図。色のついた一点一点がそれぞれの被爆者の被爆位置と推定被曝線量を示す。科学技術の進歩による検査方法の更新を見越し、被爆者の血液と尿を採取年代ごとに冷凍保存しているなど、研究所の科学的役割を再認識する施設だった。
 

「社会に出たら理科は不要」だけ? 古谷さんの発表
 「社会に出たら理科は不要」と聞いて、古谷さんは理科教育に関わってきた者として少なからずショックを受けた。基本的に、理科の授業の計画にあたっては子ども達の笑顔を思い浮かべ、興味関心をいかに引き出すかといった観点で工夫を凝らしてきた。それは、将来「理科の中で学んだこと」を社会生活の中で活用して欲しい、といった願いが潜んでいるからであろうと思う。そうした教師の願いや期待を裏切るような見出しであった。
 「理科は不要」論を掘り下げた内容の報告が掲載されていたのは「理科教室 11月号」。筆者の村上聡氏は高校生を対象に行ったアンケート「生徒が希望する学習活動」紹介している。この記事で生徒は総じて、体験的な学習活動、体験的な学習を希望していることが分かる。また、「他の国で概ね同様のことが言える」の言葉を添えて、「自然体験の重要性」として3項目(動植物・人体・天文)が高校生の関心の高い領域として紹介されている。また、最後の「結び」の中(一部分)には「『五感を使い、自然を体験的に学ぶ』機会も確保する必要」とある。理科の授業の経験者として、古谷さんも十分に納得できた。
 さて、ここで古谷さんは問題意識を述べる。「自然現象を対象に『規則性や法則性』を見いだす」、自然を読み解くことに主眼を置いた「物理教育」は高校生が関心を寄せる領域では少し低いレベルにある。逆に言えば、だからこそ「分かりやすく、正確な実験方法」の開発がYPCのようなサークルの主要なテーマを占めていると理解している。しかしながら、「五感を使い」をどう解釈するのか。特に「匂い」は?古谷さんは不可思議な自然現象について、生徒達が実験によって納得できる結果を得たときの「空気感」がそのひとつではないだろうかと思っている。
 

おもしろいぞ植物生理学 古谷さんの発表
 古谷さんは「日本植物生理学会監修」の本を読み、納得感が得られた。植物の世界で「○○の法則」として有名な学者の多くは植物(花々)と触れ合う生活を営んできたという事実を改めて知った。自然の中の不思議に関心をもち、植物相互の関係性について研究(実験)の道を進んでいく上で多くの植物を対象とした事は必然であったと思う。
 

 花を愛でる、野菜の栽培で苦労をする、そうしたことが日常生活だ。動物のような感覚器官を持たない植物がまるで目で見ているかのような変化(動き)をする。植物の体をかじる昆虫等からの防御方法。植物が生命を維持する様々な世界を知ることは、動物を理解することにもつながっているのではないだろうか。だから「植物生理学」の分野は面白い、と古谷さんは熱弁した。
 

 古谷さん自身の体験事例からも1件紹介があった。長い期間栽培している「月下美人」という名のサボテン。その花は見た目も、香りも魅惑的である。本来開花は夜間(深夜)だが、複数回朝方に開花することがあり、今年も夜間から気温が低下した翌朝に咲くという出来事があった。古谷さんはその謎を解明しようと研究し始めた。今回は時間切れのため、詳しくは次回の例会で追加報告することになった。
 

書籍紹介 市原さんの発表
  斎藤恭一・浅井志保著『地味な元素のはなし』朝倉書店(2,640 円税込)の紹介。
 例えば、「アンチモンという元素に馴染みがある」と言える人は少数派だだろう。ところが、ペットボトルやスマホなど、身近なところで利用されている。そのような、少しマイナーな元素に光を当てた一冊だ。市原さんは、初めは授業の小ネタ収集程度に読んでみたが、多岐にわたって手広く扱っており、そこまで専門用語も多いわけでもないので、取っ付きやすいとのこと。広く浅くで、やや雑学に近い部分もあるが、深掘りするきっかけにはなるだろう。手元に置いておいても悪くない一冊である。

二次会 藤沢駅北口「餃子酒場カノウ 藤沢オニカイ店」にて 
 13名が参加してカンパーイ!例会本体には対面で21名、オンラインで8名、計29名が参加した。本日の会場は藤沢の観光名所の一つ、時宗総本山・通称「遊行寺」の境内にある。初めての会場とあって、観光を兼ねて参加した方も。こうして、色々な学校を見て歩くのもとても参考になる。ぜひ会場の立候補をお願いしたい。


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