例会速報 2000/05/17 慶應義塾高校


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スーパーボールのドアストッパー 「伊藤家の食卓」より、喜多さんの紹介

 テレビの人気番組「伊藤家の食卓」で、こんな裏ワザが紹介されていた。自動的にしまってしまうドアのドアストッパーにスーパーボールが有効、というものだ。ただドアの前に置くだけで見事に止まる。転がってしまいそうに思うが、手で引いてもびくともしない。なかなか意外性のある現象だ。解説画面の「横に押した力が中心から下向きの力に変わる」はいただけないが、おちついて力とモーメントのつり合いを考えていくと、この現象は力学的に矛盾なく説明できる。摩擦係数がきわめて大きい球体であることが重要だな条件だ。


 例会ではさっそく検証実験が始まった。「なるほど止まるねえ!」「板が浮かないように上から押さえつけないとダメだな。」「ドアが止まるなら台車をぶつけたら止まるかな。」「おもりを乗せて浮かないようにすればいいんじゃない。」次々とアイデアが飛び出す。


 円柱形の物体をそっと転がしてぶつけてみる。ぶつけかたに多少コツがいるが、ボールは動かず、円柱がはねかえってくる状況を実現できる。まるで運動量保存則を無視しているかのようだ。右の写真のように、丸い物体2個が斜面上で何の支えもなく静止するという、一見奇妙な状態を作り出すこともできる。スーパーボールのドアストッパーは第一級の大発見である。


訓蒙窮理図解より 喜多さんの発表

 窮理学は物理学の旧称。福沢論吉が慶応四年に著した「訓蒙窮理図解」は、自然現象一般を通俗的に解説した良書で、当時小学校の教科書にも使用された。福沢諭吉全集に収録されている。紹介されている実験の中には、今日でもわれわれが教室で行っているものが少なくない。

 喜多さんは、窮理図解の実験のいくつかを追試して見せてくれた。写真は茶碗が吸盤のように手のひらに吸い付く実験。

 霧吹きの原理も載っている。喜多さんは、これをヒントに霧吹きの管口での圧力差を演示する簡単な装置を作った(左図)。

 窮理図解には面白実験の原点と思われる実験が多数収録されている。われわれはこのような古典にも目を通しておくべきだと思う。

クインケ管と説明モデル 水上さんの発表

 水上さんの音波の干渉の実験シリーズ。まず、小手調べは、二つの波源による音波の干渉。ブザーの音源からの音が、塩ビ管の二つの穴から出てくる。装置をゆっくりと回していくと、聞いている人には音が強めあったり弱めあったりするのが聞こえる。

 次に、同じ音源を、塩ビ管で作った下のようなクインケ管にセットして、スライド管をゆっくりと引き出していく。右の経路の長さが変わるにつれて、合流する音の位相がずれ、出口から聞こえてくる音波に強弱が生じる。


 こちらはクインケ管の原理を説明する装置。音波の位相を表した2枚のシートをあわせ、管の部分をスライドするにつれ、位相が一致したりずれたりするようすを観察する。なかなかわかりやすいが、本体部分を透明にすべきだとか、実験用クインケ管と同じものを使って説明できないかとか、その場で次々と改良案が出された。

ゴム動力ヘリコプター 堀さんの発表

 NHK「やってみようなんでも実験」の制作会社、オフィスラフトの堀さんが、次回放映予定の番組ネタを一足先に披露してくれた。ゴム動力で舞い上がるヘリコプターの製作だ。基本的な構造は下の写真のとおり。逆転することで同じ向きに揚力を生み出す二つのプロペラを模型飛行機のようにゴム動力で回転させる。右の写真は、番組で使用した実機。実験名人の藤原瑞吉さんが製作したもの。ウルトラライトプレーンの技法を用いて、全重量はわずか1.9gしかない。


 ゴムを巻いて手を離すと、プロペラがゆっくりと回転し、機体は上昇して天井につきあたった。先端が爪楊枝のようになっているのは、つきあたっても回転し続けられるようにという心憎い細工だ。ゆっくりと回転しながら天井にへばりついて舞うさまは、まるでガガンポかウスバカゲロウのようだ。番組は6/2と6/3にNHK教育で放送される。乞うご期待。


オフィスラフトの放出品

 堀さんのお土産は、番組で実際に使用したこともある中古実験器具。回転水槽や空気砲はYPCがもらい受けてイベント用に活用することとなった。ほかにも、工作材料が配布され、出席者たちは奪い合うようにして持ち帰った。

授業実践報告・その1 鈴木健夫さんの発表

 鈴木さんは総合理科の授業で、生徒にブーメランの製作を課した。いろいろなタイプのブーメランの型紙を雛型として与え、うまく飛んで戻ってくるように各自に工夫をさせる。鈴木さんも予想をしなかったような発想をする生徒もいて、なかなか楽しい授業だったようだ。写真はすべて生徒作品で評価対象。


CDによる虹・シースルーバージョン 渡辺さんの発表

 CD−Rをバルク買いすると両面の保護材として、メッキされていない透明なCDがついてくることがある。この透明円盤もちゃんとピット処理されていて透過型円形回折格子として使える。渡辺さんは中村理科製の白色発光ダイオードの光源装置を利用して、透過光の円形スペクトルが観察できる装置を考案した。軸の上方に目を置いてのぞき込むと、下の写真のような美しい色の同心円が見える。二次のスペクトルも見えている。

反射型回折格子による虹 渡辺さんの発表

 これも中村理科の取扱商品、反射型回折格子シート。こんな利用法もある。

 白色光源の強い光をシートで反射させ、反射光を天井に投影する。四方に虹色のスペクトル帯が現れるが、シートを丸く湾曲させると、そのうちの一つの帯を虹のアーチのように広げて投影することができる。明るくて大きくてきれいな虹だ。ディスプレイに有効な技法かもしれない。


授業実践報告・その2 小河原さんの発表

 小河原さんも、授業でブーメランを取り上げた。「ブーメランの旋回半径を大きくするにはどうすればよいか」という問いかけをしたところ、

・ブーメランの機体を重くする
・大型にする
・羽根の枚数を増やす
・初速を大きくして並進速度を上げる
・回転を少なくするように投げる
・折り目の角度や面積を減らし、揚力を小さくする
・翼のそりを調節する
・空気の薄いところで飛ばす
・ヘリウムなど分子量の小さな気体中で飛ばす

などのアイデアが飛び出し、小河原さんの用意した答えはほとんど出尽くしてしまった。他に思いついた人は小河原さんに知らせてあげよう。

 小河原さんからは「生徒の個人発表を通じたコラボレーション型教育」についての実践報告もあった。生徒が輪番でミニ発表を行い、聴衆の生徒が銘々これを評価してコメントを渡すというシステムだ。発表を聞く態度も育てる優れた授業法だ。

授業実践報告・その3 小沢さんの発表

 小沢さんの高校2年生の授業の導入部分を綴った授業報告のプリントが配布された。その中の話題のひとつ。

 弦の振動の単元で、割り箸のモノコード製作を課し、作品提出と曲(チューリップ)の演奏を義務づけた。生徒は自主的にいろいろ工夫をしてきたが、写真は中でも秀逸だったギター型の共鳴胴を装備した作品。後世畏るべし。

 振動モーターを使った弦定常波の実験は、つまむ位置を変えてうまく腹ができるところをさがし、波長が変わらないことを示して、同じ時間に行う気柱共鳴の実験と対比させる。なかなかうまい展開だ。

電子レンジでハンカチが燃えた 鈴木亨さんの発表

 これは実験ではなく「実話」である。ある日鈴木さんが、お弁当を温めようと、弁当箱をハンカチで包んだまま電子レンジにかけた。取り出してみると何やら焦げ臭い。結び目をほどくとご覧のとおり、ハンカチが焦げていた。

 マイクロ波加熱は誘電損失分のエネルギーが熱エネルギーに変わるわけだが、誘電損失は水以外の物質でも多少は起こる。紙や、布や、ナイロン、油もそれぞれの誘電損失係数に応じて温度上昇する。ハンカチの結び目は特に熱がこもりやすかったものと思われる。ともかく電子レンジで食品以外のものを加熱してはいけない。

 レンジで使用できる加熱容器としては、ポリプロピレン、パイレックス、陶磁器など、誘電損失係数が桁違いに小さい物質が使われる。

海洋科学技術センターのおみやげ 車田さんの報告

 横須賀にある海洋科学技術センターの一般公開を見学してきた車田さんの報告。「しんかい6500」など、わが国がほこる深海探査艇の基地である。

 左の写真は高圧試験装置が発生する深海に匹敵する高い水圧により押しつぶされてミニチュアサイズに縮んだラーメンカップ。見学者に配布されたものだが、車田さんは一つ余分にもらってきてくれた。

 さっそくジャンケン争奪戦が始まる。YPCでは見慣れた光景だ。一斉にジャンケンをして提供者に勝った人だけが勝ち残る。あいこと負けは資格を失う。YPCルールは効率のよい選抜方法だ。

二次会 日吉駅浜銀通り龍竹酒家にて

 今夜の二次会も12人が集った。お疲れさま、カンパーイ。


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