例会速報 2003/10/18 県立新城高校

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授業研究:理科基礎の電気単元 右近さんの発表
 新課程の「理科基礎」を担当することになった右近さんは、得意の科学史で魅惑的な授業を展開している。生徒に混じって聴講させてもらいたい内容である。以下、右近さん自身によるコメントを掲載する。

 理科基礎の電気分野の授業実践報告です.新しく始まった「理科基礎」は科学と科学史が融合した,やり方によっては面白くなる教科だと思います.私の目指す教科「理科基礎」は,科学史を追って,その中に登場する有名な実験のいくつかを再現していく,というだけではなく,同時に生徒が例えば電気についての認識を深めていく過程として科学史を構成できないか,というものです.科学的認識の深まりの過程と実際の科学史の展開が,うまく対応しているな事例はそう多くはありませんが,17世紀から,19世紀初頭にかけての電気の歴史では,そうしたことが可能に思えます.

 おそらく静電気は生徒にとってその原理がまるで理解できない不思議な現象でしょう.これは17世紀や18世紀の人々も同様です.そこで,彼らがどのようなアプローチをして静電気を解明していったかを学び,それを手がかりとして,電気を学習します.

 古代人がコハクが小物体を引き付けることに対する驚きから始まり,ギルバートによる磁力と電気力は異なるという,はっきりとした認識,そして彼が考案したヴェルソリウム(versorium)を紹介します.実はヴェルソリウムはとっくの昔から理科の教師が使っているもので,方位磁針を乗せる台の針の先端に中心に穴を開けた絶縁体棒を置き,平面内で自由に回転できるようにしたものです.帯電体を近づけると棒は回転して振れます.その後電気には樹脂電気とガラス電気の違いがあること,物体には絶縁体と導体の区別があり,電気は導体を遠くまで伝わっていくことができること,電気はためることができること,ガラス電気と樹脂電気は正電気,負電気とした方がふさわしいこと,等をグレイ,ミッセンブロック,ダフィー,ノレ,フランクリン,らの実験や考え方を紹介しながら進めていきます.特にグレイの導体を伝わる電気の実験は,生徒にとって大変興味深いようです.ちなみにグレイは濡れた麻紐を乾燥した絹紐で吊るして,800フィートまで伝えることができましたが,導線と絶縁用のペットボトルを使ってその実験を再現しました.

 現在進行中の「理科基礎」の授業は有名なJ.B.Conantによる"HARVARD CASEHISTORIES IN EXPERIMENTAL SCIENCE"(1966年)にある"The Development of the Concept of Electric Charge"から影響を受けています.科学史と科学教育の融合という視点は今一度見直してもよいのではないでしょうか.
 
 熱っぽく授業を語る右近さん(左)
 ヴェルソリウムを使ったステファン・グレイの実験を、現代版の装置で実演(右)

体感する力学的エネルギー保存 鈴木健夫さんの発表
 2000年8月に浦和で行われた、「物理サークル交流会」(全国の物理サークルが集まって教材の交流等をした)で、愛知物理サークルの方が紹介したボウリング球の巨大な振り子。鈴木さんと喜多さんが一つずつを購入していた。あまりに重くて、持ち出せないので、他の会場ではできないため、今回新城高校で例会初登場となった。

 ボウリング用の球にドリルで穴を開けてがっちりとしたアイボルトをねじ込んである。ひもは、φ15mm程度。両方向から織り込んでいてよじれないものを購入する。残念ながらひもの商品名は失念してしまったとのことだ。これを教室入り口の梁にしばりつけて振り子にし、横に持ち上げて顔の高さの位置に持って、そのまま振り子状態で一往復させる。顔の位置を動かさなければ、顔の寸前まで戻ってくる。言葉で書くとどうということはないが、実際にやってみると、寄ってくるボールにはかなり恐怖感を覚える。でも力学的エネルギー保存の法則を信じていれば絶対にぶつかるはずはない。40人相手でやるのはきびしいが、選択の授業などで少人数なら、演示して体感させるのに最適な教材だ。

 例会では、最初はしゃがんだときの顔の位置からやっていたが、その後、立った位置から始めると、恐怖感は格段の違いだということに気がついた。水野さんは、この例会後に自分でボウリングのボールにドリルで穴を開けてさっそく自作したそうだ。さらには、複数の振り子を作って衝突させることにも挑戦中だとか。今後の発表に期待しよう。(持ってくるのが大変そう。)
 

3種のモデルカー 水野さんの発表
 経済産業省・資源エネルギー庁が全国の中学校に「エネルギー教育用教材キット」を無償で配布するということで、水野さんは早速応募した。送られてきたものは以下の4点だ。
  1)「エネルギー理解促進ボードゲーム」(開発・作成:株式会社三菱総合研究所)
  2)「燃料電池自動車キット」(開発・作成:大同メタル工業株式会社)
  3)「水素エネルギーキット」(開発・作成:株式会社鈴木商館)
  4)「光合成型太陽電池キット」(開発・作成:西野田電工株式会社)

 水野さんはこれらのうち2)と3)を今回の例会で披露してくれた。

 2)のモデルカーは燃料電池自動車「ピュー」として中村理科から\19800で発売されているものだ。経産省は気前がいい。水素を充填すると、燃料電池ユニットが発電した電流でモーターが回り、車が走り出す。ただし、1回に充填できる水素の量が僅かなため走行距離はあまり長くはない。
 

 2)の燃料電池自動車(写真中央)と比較する意味で、同じモデルカーを使ったソーラーカー(写真左)と、乾電池駆動のもの(写真右)と並べて、作動させてみた。水素が供給されていれば、燃料電池車のパワーは他に比べて遜色はない。

 ちなみに使用した燃料電池は、固体高分子型の3セル構造で、説明書によると出力は以下の通り。
単セル 出力0.6〜0.7V 0.15〜0.2W
2セル 出力1.2〜1.4V 0.3〜0.4W
3セル 出力1.8〜2.1v 0.45〜0.6W
 この燃料電池は大同メタル工業株式会社で、1万円(水素ガス缶1本付き、消費税別)で販売されている。

エコハウスモデル 水野さんの発表
 上の発表の続きである。3)の「水素エネルギーキット」の本体は、いわゆるエコハウスだ。屋根に設置した太陽電池で発電し、その電流で水の電気分解をおこなって水素を発生させ、上と同じ燃料電池ユニットに導いて発電し、室内のプロペラを回すという装置です。例会では、太陽の代わりに500W電球の光を太陽電池に当てて発電させたが、やや光量不足のようだった。やはり太陽は偉大である。
 

ハニカム構造 車田さんの発表
 夏休みに、日本科学未来館にて「夢化学21」という実験コーナーのイベントで出展していた「昭和飛行機」が、ハニカム構造の高剛性・衝撃吸収性・整流性・散光製の特徴を示すハニカムの紙細工を来館者に配布していた。未来館のボランティアスタッフでもある車田さんは、これを大量に仕入れてきて、例会で配布してくれた。

 イベント終了後に分けてもらったという展示物の一部、アラッミッド紙を使ったハニカム構造と、アルミ製のハニカム構造のサンドイッチパネルも見せてくれた。ハニカムをガラス繊維の板でサンドイッチすると、軽いのに驚くほど強靱な板ができる。その優れた特性を生かして、飛行機の床・壁材のほか、鉄道車両のドア、パラボラアンテナの構造材、レーシングカーやヨットのボディ、スキー板など身近なところでもたくさん使われている。やはり実物は教育的である。

 詳しくは、昭和飛行機のHPを参照されたい。
http://www.showa-aircraft.co.jp/products/honeycomb/index.html

 

簡単モーター2 市江さんの発表
 市江さんは、前回、佐藤さんが発表した簡単モーターにさっそく改良を加えてみた。材料に画びょうを1つ加えるだけで作製が一段と簡単になる。磁石が電池と画びょうを磁化するので、落下防止にもなるのだ。左の写真は鎌倉学園科学同好会の中学生の作品。バランスよく作るのがちょっと難しいが、いろいろなバリエーションが期待できる。右の写真は高校生の作品。フィルムケースを使ったもので、比較的再現性が高く小さい子供でも容易に作れる。アルミはくをコの字型に貼り、左右ともに下を10mm程度余らせてブラシにする。上から画びょうを刺して本体を支える。(このとき画びょうをみがいて接触を良くしておくのがポイント。)磁石はフィルムケースの径に合った直径30mm、厚さ10mmのフェライト磁石(二六製作所で1個¥70)をアルミはくできれいに包んで使う。
 このモーターは、ほとんどショート回路と同じなので、電池の発熱には十分注意する必要がある。写真ではアルカリ電池を使用しているが、例会の議論では、発熱の危険性が大きいので、マンガン電池に換えるべきだという指摘があった。
 両タイプとも12月23日に行われる「湘南台・科学お楽しみ広場」に出展の予定だとのこと。

 

腰掛け人生 渡辺さんの発表
 前の人が後ろの人の膝の上に腰をかけて、その膝の上にまた前の人が腰をかけて・・・・これをずーっと繰り返していって、一周して輪にすると、全員が後ろの人に体重をあずけて、椅子がなくても助け合って腰掛けることができる。これをパズルのようにして製品化したおもちゃがある。名付けて「腰掛け人生」。なんともユーモラスだが、力学の教材になるだろうか。何か授業利用の名案は?むしろ道徳の教材かも・・・という声もあった。 

 
 なんでもすぐにやって見たがるYPC、さっそくその場で「人体実験」。人数が少ないと結構つらいということもわかった。大勢で助け合うことが大切なんだね。

スプーン曲げの力 渡辺さんの発表
 超能力の古典ワザともいえる「スプーン曲げ」。「実はてこの原理」と説明されるが、定量的にはどういう力関係になっているのだろう。いままでだれもちゃんとやっては見なかった測定に渡辺さんがイージーセンスと力(ちから)センサを使って挑んだ。左の写真のように力点・支点・作用点(上から順に仮にそう呼ぶことにする)の三箇所に力センサを置き、スプーンが曲がる瞬間の力の変化を自動記録して分析した。座屈(バックリング)が生じるとき、力点20N、支点34N、作用点13Nの力が加わっていることがわかった。力点+作用点=支点というのはセオリー通りだ。
 スプーンの柄の先を右手の小指で支えることにより、指の負担を減らしつつ曲げのモーメントをかせいでいるわけだが、同じモーメントを小指を使わずに作り出そうとすると、支点からの距離の違いにより、中指で加えなければならない力は小指の場合の10倍近くになる。支点の親指への負担もその分増えるわけだから、指が力に耐えられなくなるのである。これがスプーン曲げの力学的ヒミツだったわけだ。
 写真右はスプーン曲げの力学について熱心に議論するYPCの面々。
 

簡単!安い!静か!シャボン玉発生器 越さんの発表
 野田高校の文化祭のために作った自動シャボン玉発生器。文化祭当日は、実物大トトロが正門内でシャボン玉を吹き出しながら来場者を出迎えた。女子高生が作ったトトロもよい出来で一緒に記念写真をとったり、トトロに抱きついている生徒もいたという。
 シャボン玉発生器の方は三本松高校のホームページ(http://www.kagawa-edu.takamatsu.kagawa.jp/sankoh01/)で紹介されていたものに、野田高の青木先生が改良を加えたものである。使用したボックス扇風機は楽天市場で880円で購入したもの。材料費は全部で2000円以内、製作時間も90分くらいだという。模型用のギヤーボックスなどを使用していないので音も静かだ。
 

迫力の3D投影 越さんの発表・紹介
 金沢の工房ヒゲキタの北村さんが科学の祭典でやっていた3Dプラネタリウムには衝撃を受けた人が少なからずいるだろう。赤青のセロファンをかぶせた二個の豆電球で立体物の影をドームやスクリーンに投影し、これを赤青セロファンのメガネで両眼視すると、影の部分が立体的に見え、まるで自分がその立体物の中にいるような錯覚をおぼえるというものだ。
 これに感動した越さんは、北村さんと連絡をとり、さっそく投影器と立体を自作し、内容を多少アレンジして野田高の文化祭、天文部でやってみた。出し物は 結晶格子の中に入る、恐怖の手、巨人の足、スターウォーズオープニング、恐怖のジュラシックパーク、迫りくるJAWS、など。プラネタリウムのドームスクリーン一杯に広がる3D映像に観客は大喜びだった。
 


 写真左は立体映像を見て素直にはしゃぐYPCの面々。例会では教室内のスクリーンに投影したが、家庭でも広めの白っぽい壁や天井に投影すれば大迫力3Dが楽しめる。なお、北村さんは3Dプラネタリウムの宅配や自然工作教室もやっている。詳しくはhttp://homepage2.nifty.com/ikebon/higekita1.htmを参照されたい。

何かに使えないでしょうか? 益田さんの発表
 「ゆびのりピピ」という玩具。東急ハンズ等で¥680円(税別)山ほど売られている。懐かしいと感じる向きもあろう。
裏側に電極が2つあり、皮膚に接触して通電があると「ピピ」と何回か鳴く。接触回数によっては歌を歌ってくれる。種類によりレパートリーはいろいろ。
 益田さんは、化学で電解質の見分け方などに使用できるかと思ったそうだが、感度が良すぎて水道水でも鳴いてしまう。皮膚でOKなのだから当然と言えば当然。高感度導通チェッカーの機能は、何かに使えないだろうか。

都産業技術研での展示 大谷さんの発表
 大谷さんは、科学が実際にどう使われているのか知りたくて、産業技術研を見学してきた。
 大谷さんが手にしているのはいわゆる「熱転写プリント」。ただの転写ではなく実際に布地が染まるのだという。染料で模様が印刷されている紙を布にあて、アイロン(約180度)、30秒程でこすると、かなりきれいに染まる。紙なので、蝶の形など、好きな形にできる。 アイロンが使えるよう、180℃付近を、染料の「融点」にしてあるということか。
 他に見た展示は、「超音波」を使って、クリアファイルの接着(40kHz)。半導体洗浄(1M〜2MHz)。流速計や風速計への応用。超音波モーター(試作品)など。
 「微小サイズの測定」では、0.1ミクロンの精度の測定機器。「静電気を使った植毛」(人形表面やカメラケースの裏用)、からくり人形、火山灰利用など。それでもまだ半分も見ていないそうだ。各ブースの説明は大変丁寧だったという。

二次会 武蔵新城駅前「和民」にて
 先月の横浜桜陽に続き、新城高校もはじめての例会会場だった。新しい会場のときは、二次会の飲み屋もあらたに開拓されるので楽しみである。今夜も15名が参加してカンパーイ。明日の授業へのエネルギーを蓄えよう。


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