例会速報 2011/05/15 横浜サイエンスフロンティア高校


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授業研究:平面上の2力の合成と合力 水野さんの発表
 水野さんが3月に中1で行った「平面上の2力の合成と合力」の授業(生徒実験)のビデオ記録を見た。「力の平行四辺形の法則」を生徒が実験を通して発見することを目的にした授業である。多くの生徒が実験によって2力の合力が、2力を2辺とする平行四辺形の対角線になることを発見し、そのことに不思議だとか驚きの感想をレポートに書いていたので、授業のねらいは多くの生徒に受けとめられたのではないかと思う。
 使用したばねは島津の「ばね振り子 SS-2」のつるまきまばね(部品番号190905)で、2本組3200円(税抜き)。
 


 この次の授業で見せたという水野さん自作の「力の平行四辺形の法則実験器」(写真下)はこの法則を理解させるのには良い教具だと評判が高かった。例会では授業の方法や、装置の技術的な改良などについて建設的な改善意見が出た。
 

分度湯呑 水野さんの発表
 小田原の報徳博物館(二宮尊徳に関する資料が展示してある)の土産物コーナで入手したもの。湯呑の八分目までは水を入れられるが、口までいっぱいに入れると下の穴からすべて漏れてしまう代物。「分度」という語は尊徳の造語だそうで、「何事もほどほどに、生活の限度をわきまえよ」ということらしい。 98年9月の例会で紹介された沖縄・石垣島で売られている教訓茶碗(腹八分目医者泣かせ)と同じサイホンの原理である。ただしドレーンパイプが湯呑の壁面の中に隠されていて、一見すると普通の湯呑に見える。実はこの分度湯呑も同じ石垣市で作られていて新川焼という。値段は1680円。一回り小さい「分度盃(ぐいのみ)」同じ値段。報徳博物館に電話で注文したところ、学校なら送料は頂きません、とのこと。
 

体操人形 加藤俊さんの発表
 鉄棒競技のようなアクロバティックな動きをするおもちゃ。運動はカオス的である。足もとの銀色の部分に磁石があり、振り子運動をすると動きが増幅される。黒い台座を分解すると右の写真のような回路が現れる。中央のボビンは鉄心入りの二重コイルになっていて、磁石の動きで一次コイルに生じる電磁誘導をトランジスタ回路で増幅して二次コイルに正帰還を加えるしくみだ。「永久コマ」「トップシークレット」などの名称で売られている電磁コマも同じ原理で回転を加速する。
 

由美かおる展 加藤俊さんの紹介
 女優の由美かおるさんの個展、「花、星、そして愛~忍者からはり絵師へ」が、数学者の秋山仁さんの「ジオメトリカルアート~幾何学の美」展と併催で5月9日~21日に銀座吉井画廊で開かれた。エッシャーのだまし絵のような貼り絵細工の作品に、エッセィが添えられている。多芸多才に改めて感嘆した。
 

授業で使える力学映像 水上さんの発表
 演示実験の映像を黒板貼り付け式スクリーンに投影する。注目するところをコマ送りしながら位置や力など物理的な情報を直接書き込んでいく。水上さん得意の授業スタイルだ。今回は力学編。写真はいずれもスクリーンを撮影したものである。
 下は木ネジをつけて電磁石に付くようにしたゴルフボールが自由落下する様子の高速映像である。左は装置の様子,右は毎秒600コマの高速映像を20コマ間隔(⊿t=1/30秒)でキャプチャーし,「花子」(描画ソフト)に貼り付けて落下距離を測定している様子である(右が上)。重力加速度の計算値の測定値が「9.4→10.5・・・」と不安定なので解析方法を検討する必要がある。
 

 作用反作用の法則の学習で利用する毎秒300コマの高速映像である。押された右側の台車だけでなく,押した方の左側の台車も同じ速度で動くことが分かる。(両者の移動距離が等しい)

 こんどは左側の台車に付けたフェライト磁石が右側の台車を引くときの毎秒300コマの高速映像である。スペーサー(DVカセットケース)を素早く抜き取ると両者は引き合い、それぞれ等距離移動して合体することを示す。 

 2個の衝突球の毎秒300コマの高速映像である。衝突した球は静止し,衝突された方は動き出す。これも作用反作用の法則を学ぶ際に利用する。

 力学的エネルギー保存則演示用の普通速映像と毎秒300コマの高速映像である。普通速では適宜静止させながら解説を加える。高速映像はコマ送りにより同じ高さに戻ったときの速さが等しいことを確認する。 

YSFHの物理コーナー紹介 市原さんの発表
 会場校のサイエンスフロンティア高校の廊下の一画に市原さんが開設した物理コーナーがある。以下、市原さんのコメントから。

 「YPCで教えて頂いたものを生徒に還元する場として、昨年末くらいから始めたコーナーで、松戸高校(越先生)の物理室を見学させてもらい、参考にさせていただきました。休み時間には、しょっちゅう音速ムチやサウンドホースの音が聞こえてきます。数学物理部の生徒が作ったコインの選別器なども展示しています。体感できる、物理に触れられる場として、良いコーナーかなと思っています。」

 下の写真は展示物のひとつ。一辺3cm、4cm、5cmの立方体を分解して組み替えると6cm四方の立方体ができあがるというパズル。「四立方の定理」とでも言いたいようなきれいな関係だ。

 

密度の測定 市江さんの発表
 中学理科1分野の教科書では、密度の記述はあるものの、発展扱いで、計算の仕方と浮き沈みについて簡単に書いてあるだけである。市江さんは、入学したての中学1年生相手に器具の使い方と測定の仕方に関連づけて密度の授業を行った。鉄、銅、アルミニウムでできた大きさ、形の異なる金属片の質量を上皿てんびんで、体積をメスシリンダーの水に入れて測らせた。
 結果をクラス毎、あるいは学年全体で平均しエクセルでグラフにして見せた。写真にはないがアルミニウムの結果が資料集の値に近く、比較的きれいな直線にのった。誤差の原因としては、アルミニウムに比べ、鉄や銅の金属片には体積の小さいものがいくつかあり、メスシリンダーの水の体積増加をはかる際の精度が大きく影響しているものと思われた。最小目盛りの10分の1まで正確に読むという行為とこのずれとを結びつけて説明すると、単にルールだと思っていた生徒は「なるほど!」と声を上げて納得してくれた。
 

待機電力2 伊藤さんの発表
 前回の例会でのレポートの続編。待機電力が生じるのはトランスの二次側で回路を切断しても、一次側の回路が閉じていると誘導ロスによりわずかにエネルギーを消費するからと考えられる。ノートパソコンの電源などに使われるいわゆる「ACアダプタ」は通常スイッチがないので、出力プラグがオープンになっていても待機電力を消費する可能性がある。伊藤さんは手近にある「ACアダプタ」を片っ端から測ってみた。その結果は・・・
 

 同じように見えるACアダプタでも、結果ははっきり二つのタイプに分かれた。待機時1~数ワットを消費するタイプと、ほとんど0のタイプである。後者はサイリスタ制御のトランスレス変圧器かもしれないなどと憶測されたが真相はまだ不明である。比較的最近のものは低待機電力型になっているようだ。 

ミツバチの羽音と地球の回転 越さんの紹介
 この2月より渋谷ユーロスペースなどで上映され話題となっている鎌仲ひとみ監督の「ヒバクシャ」、「六ヶ所村ラプソディー」に続く長編ドキュメンタリー映画。http://888earth.net/index.html 

 山口県上関原発の反対運動~スウェーデンの自然エネルギー~日本の再生可能エネルギーの将来などが描かれているが、現場の人々の言葉は強く重い。環境エネルギー政策研究所 飯田哲也氏の言葉など、福島原発事故後の日本のエネルギー政策を考える上で一つの選択肢を提示してくれる。

原発事故関連本 越さんの紹介
 原子炉時限爆弾広瀬隆 著(ダイヤモンド社ISBN978-4-478-01359-5)。日本のような地震多発地帯に多数の原子力発電所抱えている現状は、セットされた時間がわからない時限爆弾を抱えているようなものだと、広瀬氏は強く警告を発する。
 昨年8月に発行された本著では、浜岡原発を中心に話が進められているが、本年5月発行の「福島原発メルトダウン」(朝日新書ISBN978-4-02-273398-6)では、阪神大震災後、「地震激動期」に入った日本列島で次を防ぐ手はあるのか、と氏は更なる熱弁をふるう。

 (左)原発と日本人 AERA増刊号(2011.5.15号)。福島県双葉町、南相馬市民ら証言の証言と、太田昌秀、勝間和代、鎌田慧、小池百合子、中曽根康弘、福島瑞穂、柳田邦男、飯田哲也氏など様々の立場の著名人の提言が掲載されていて読み応えがある。また掲載された図版から、プレート境界の地震多発地帯で原子力発電所が多数設置されているのは、世界中で日本だけである事がわかる。
 (右)NEWTON 2011年6月号。 今回の東日本大震災、津波、原発事故について科学的なデータや図版が豊富に掲載されている。 

日常の疑問を物理で解き明かす 越さんの紹介
 原康男・右近修治著(サイエンス・アイ新書 ISBN978-4-7973-5593-2)。YPCメンバーでもある右近さんの近刊だ。「スカイツリーの展望台からどこまで見える?」、「洗いたての髪にドライヤーで風をあてるとすぐに乾くのはなぜか?」など、身近な疑問が物理的な視点でわかりやすく、しかも正確に解説されている。全ページカラーで読みやすい。

パエトーン 越さんの紹介
 山岸 凉子 著(潮出版社ISBN978-4-267-90536-0)「夏の寓話」に収録されているチェルノブイリ原発事故を扱った漫画。1988年に発表されたものでデータや単位など古いが、基本的な解説もあり読みやすい。無料WEBコミックのページはここ
 

高校物理雑記帳 越さんの紹介
 村田 憲治 著 (工学社 ISBN978-4-7775-1585-1)。岐阜物理サークルの村田さんが授業の中で行った実験や工作のアイデアをまとめた本。「ローレンツ力と誘導電場」など、授業をする上で背景として理解しておきたい事柄についても、わかり易く解説されている。

ミニ万華鏡 越さんの発表
 生徒が遠足のお土産に浅草で買ってきてくれたミニ万華鏡。直径25mm、反対側ののぞき窓に凸レンズがあり、こんなに短くてもピントが合った状態で中を見る事ができて、なかなかのスグレ物。
 

日本のエネルギー4つの選択 竹内さんの紹介
 JST理事長の北澤宏一氏は学術会議の震災対策委エネルギー政策担当委員長である。竹内さんはその講演会に参加しレポートしてくれた。
 すでに30%を原発に依存する現在の日本の電力需給を今後どうしていくべきかの検討が行われ、4つの政策シナリオが提案されている。
 1案では全ての原発を直ちに停止、当面我慢をするが、逆に省エネ技術を新たな成長の基盤にする。2案では5年後の脱原発をめざす。対外投資を国内に振り向け、代替エネルギーへの転換をはかる。国内誘致がうまくいくかが鍵だ。3案は20年後の脱原発をめざし、地道に自然エネルギーを導入していく。4案は安全性を確保して原発最先進国をめざすというものだ。地震国日本でのフェイルセーフとして「竜宮城」型も話題に上る。さて、わが国はどれを選択するのだろうか。
 

二次会 鶴見駅前「さくら水産」にて
 13人が参加してカンパーイ!引き続き原発・エネルギー論議などをしながら熱く語り合う。酒を飲んでもどこまでもまじめな、心底科学を愛する集団なのだ。若いメンバーも気兼ねなく参加できる雰囲気もいい。なお、二次会は院生も含め「学生無料」のYPCルールが適用される。


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