例会速報 2012/02/19 関東学院中学校・高等学校


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授業研究:2時間でする原子力の授業 鈴木健夫さんの発表
 今回の発表者は鈴木健夫さん。震災後重い課題を背負った「原子力」単元の授業報告だ。以下、鈴木さん自身のコメントを掲載する。

 昨年4月の例会で原発・原子力に関する実践交流をした。今回は必修の「理科総合A」で年度末に2時間確保して行うこととなり、その実施前のプランを議論していただいた。2時間中1時間は、霧箱の実験を予定し、実質的に1時間+α。そこで何を教えるかを提示した。やはり、原子核の構造から放射線の実体と特徴、危険性などを科学的に押さえながら授業するのが大事だと考える。
 


 写真はBB弾で作った原子核模型。小さいもの二つはHe原子核。右上は炭素12。そして大きな塊はウラン235だ。緑が中性子で赤が陽子。兵庫の森本雄一さんがビー玉で作っているのを真似たものだ。ウランは炭素に比べると大きいが、3次元なので20倍の個数の核子があるとは一見思えない。でも、こんなものが安定するのは難しいということがイメージできる。
 例会では、押さえるべきポイントや連鎖反応の扱いなどを議論した。また、原発に対するスタンスをどう授業で扱うかなども議論になり、文科省の新しい放射線副読本(右写真)も話題になった。詳しくは、YPCニュースをご覧いただきたい。この例会後すぐ授業を行った。実際の授業展開はまたの機会に報告したい。

ミシン糸でリングキャッチャー 水野さんの発表
 1月例会で、チェーン以外の太めのゴム、刺繍糸などでもリングキャッチャーになることを実験したが、そのときは、まだ細い糸でできる確信はなかった。その後、水野さんはミシン糸でやってみたところ成功し、2月例会で披露してくれた。動画(8.5MB)はここ。1月例会で水野さんは「この実験はリングの落とし方にかかっている」と報告したが、それを証明する実験だ。ただし、エナメル線やテグスなど、リングが落下したとき変形しにくい材質ではリングキャッチャーは難しい。


ガスバーナーの注意点 車田さんの発表
 都理研の研修で都立小石川中等教育学校の久保田裕人先生に教えていただいたガスバーナーの仕組みと安全講習の伝達。まず、ガスバーナーを分解して、仕組みを観察し、組み立てながらガスに火をつける。ノズル部だけだと酸素不足でオレンジ色の炎になる。


 ガスバーナーを消火するとき、ガス調節ネジと元栓をきちんと締めないと、火がガスバーナーの燃焼管の中に落ち込んで燃え続けていることがある。燃焼管を透明にしたガスバーナーで観察するとよく分かる。車田さんは久保田裕人先生にならって自分でも透明ガスバーナーを作って再現して見せてくれた。
 透明ガスバーナーは試験管をガスバーナーの燃焼管と同じくらいの長さに切り、接続部分にはシリコ-ンのゴム栓を使う。燃焼管の中に火が落ちたとき、しばらく加熱に耐えることができるからだ。

 ゆっくりとガスを絞っていくと、あるところで火がすとんと燃焼管の底に落ち、そのまま細々と燃え続ける。動画(21.8MB)はここ。気付かずにいると燃焼管が加熱されて危ない。この状態で炎口部に火を近づけると再着火する。
 普通に燃焼しているときでも、空気調節ネジを開きすぎると同様の現象が起きることがあり、バックファイヤーと呼ばれる。

ローレンツ力 石井さんの発表
 はじめに高圧電源で帯電させた電気振り子で電場について演示する。平行平板コンデンサーによる電場も同様に示す。次に大型フェライト磁石の上に銅のレールを置き、乾電池につないで線分導線を渡してフレミングの左手の法則を演示する。電流、磁束、力の3つのベクトルが3次元の関係になることに感動させたい。


 同じ装置で乾電池に代えて、左の写真の右上に見えている検流計につなぎ、線分導線を手で滑り動かすと電流が流れることを演示する。導線中の電荷が空間を移動して「電流」となり、磁束から力を受けて「ローレンツ電流」となる、と石井さんは説明する。
 一方、見方を変えて動く線分導線に乗って観察した場合を想像してみる。この観測者にとって導線中の電荷は移動していないのに力を受けるのだから、そこにあるのは電場である。移動する磁束場が電場に変化したのだ。「ファインマン物理学」ではローレンツ力をF=q(E+v×B)と表記している。第二項は静止した観測者にとってはiBlに、導線と共に動く観測者にとってはqE’となる。「磁力線を横切ると電場が見える」とはマクスウェルの言葉。

磁力線はどうなっているのか 田代さんの発表
 かつてサントリーのおまけで「ピクリンの回転舞踏会」というおもちゃがあった。YPCではそれ以前の平野さんの命名により通称「ネコ回るシステム」とも呼ばれている。12月のナリカ例会で浅井さんに譲っていただいた、底が球面状になっている手作り磁石で、このおもちゃのモデルを作ってみた。
 底部が球面の磁石Aにもう一方の磁石Bを少し斜めにして近づけるとAが回転する。AとBは互いに斥力をおよぼし合うが、Bを傾けるとAは逆向きに傾く。これによりAとテーブルの接地点はAの中心からずれ、斥力の作用点が接地点と一致しなくなるのでトルクを生じ、接地点を中心に回転が始まる。


 一方の磁石を傾けると他方が逆向きに傾く現象を不思議に思った田代さんは、そのとき磁力線は2つの磁石の間を「8の字」のように結んでいると考え、モデルを使って説明した(写真左)。サラダオイルに鉄粉(ボンスターをきざんだ粉)を混ぜ、容器に入れたもので磁力線が観察できないか挑戦してみたが、残念ながらうまくいかなかった。磁界観察槽をお持ちの方はお試しいただきたい。

エアカウンターS 山本の発表
 前回の例会で竹内さんから紹介があった線量計「エアカウンター」のエステー化学が改良型後継機の販売を2月上旬から開始した。名付けて「エアカウンターS」。ドラッグストア、ホームセンターなどの販売店およびインターネット通販を通じて大量販売されており比較的入手しやすい。希望小売価格は7900円だが、amazonでは5300円程度、5000円を切る通販店もある。
 センサーとしてシリコンフォトダイオードを使用、γ線カウント数を10秒ごとに移動平均をとり、Cs137基準の換算式でμSv/h単位に換算し表示している。γ線を検出するたびにピッという音が鳴る。測定範囲は0.05μSv/h~9.99μSv/h。感度が低く、食品検査用には使えない。あくまでも環境測定用だ。試みにトリウム入りのランタンマントルにかざしてみると数μSv/hを示した。
 スリムなスティック状のデザインが斬新でオシャレである。震災後品薄に乗じて粗悪なGMカウンターが高値で販売されたことを振り返ると、最低限の機能ながら本機のような良心的な測定器が安価に提供されることは歓迎すべきである。体温計と同じ感覚で各家庭に常備したい。


投射運動の映像 水上さんの発表
(1)鉛直投射の映像
 鉛直投射された鉄球を毎秒300コマで撮影した。授業進行は以下の通りである。
①スクリーンに物差しを貼り付け,映像が実寸の2倍(映像中の20㎝が物差しの40㎝)になるように投影する。(ズーム機能+プロジェクター自体の位置を動かす…ズームだけの微調整は難しい)
②15コマ(0.05秒)ごとの位置をスクリーン上に細ペンで描き,物差し上の座標を読む。
③エクセルのシート(データを入力すればグラフが描かれていく)に②の数値を入力し,この運動のυ-t図が傾き約-9.8〔m/s2〕の直線になることを見せる。(生徒にワークシート上で作業させても良い)
④この直線を表す式として,鉛直投射の公式υ=υ0-gtを導く。


(2)自由落下の映像
 自由落下する物体を毎秒300コマで撮影した。電磁石と並列に接続したネオン管(写真中の「⇒」)がスイッチを切るときの逆起電力で発光し,落下開始のコマが分かる。授業進行は以下の通り。
①スクリーンに物差しを貼り付け,映像の目盛りが2ないし3倍になるように投影する。
②初めの位置(y=0)および落下開始から30コマごとの位置(t=0.1sと0.2s)を細ペンで描く。
③物差し上の位置を読み取り,1/2ないし1/3倍して真の落下距離を求める。
④y=1/2gt2に代入してgを求める。(g=9.8~10m/s2になる。) 。

科学の鉄人 車田さんの紹介
 2012年2月12日に日本科学未来館にて「科学の鉄人」コンテストが開催された。今回は新人はおらず、過去の鉄人2名をまじえての、ベテランの鉄人大会になった。結果は、三浦市立初声中学の教頭・益田孝彦さんが3回目の鉄人を獲得した。詳細はhttp://www.sci-fest.org/へ。

 今回は、観客が審査員となった。未来館ホールはICT機器の環境が充実しており、それぞれの鉄人候補はプロジェクターなどICT機器を存分に活用していたが、益田さんはICT機器は一切使わず、生の実験だけで勝負した。分かりやすい解説と見せ方が評価されての受賞だったと思う。

サイエンスインカレより 車田さんの紹介
 車田さんは文部科学省が企画したサイエンスインカレを見学し、報告をしてくれた。サイエンスインカレは大学生・高等専門学校生が研究内容のポスター発表する大会である。ストップウォッチを持った審査員が学生のプレゼンを各ブースで審査していた。詳細はhttp://www.science-i.jp/へ。
 電気通信大学の学生のリングキャッチャーを研究発表が車田さんの目にとまった。リングキャッチャーのチェーンの長さをどんどん長くしていくと・・・・というシミュレーションをしていた。もちろんCASIOのハイスピードカメラの映像を使ってのプレゼンだった。


ドリンクホルダー 益田さんの紹介
 以前の例会でも発表があった、吸盤式PETボトルホルダーがスポーツ用品店で投げ売り(?)されていた。PETボトルを中央の穴に無理矢理差し込み、滑らかな平面上に立てると、吸盤のように吸い付いてとしてボトルが倒れない。ドリンクホルダーという本来の用途として販売されていたのだが、物理教具として光を当てたい。

新課程の物理選択者 鈴木亨さんの発表
 文科省のまとめによると新課程の教科書採択数は左下の写真のとおりである。物理の39万冊、科学と人間生活の32万冊を多いと見るか少ないと見るかは意見が分かれるところだろう。今年度の現行課程の採択数は右下の写真のとおりなので他科目に比べ物理基礎は伸びている。


 2年生以上の学年が使用する旧課程の教科書需要は左下の写真の通りである。全体的に見て理科総合A、物理I、化学Iの減少数よりも物理・化学基礎の合計の方が20万部少なく、逆に生物・地学基礎は合計で25万部伸びているとも読める。物化から生地への移動があるのだろうか。

CP2012より 佐々木さんの紹介
 2月9日~12日 パシフィコ横浜にて、カメラと写真映像産業の展示イベント「CP+ 2012」が開催された。
 先ずは、CASIOブースの紹介。ハイスピード機能の紹介は「FC200S」がメインであった。ゴルフのフォームチェック用にライン表示ができるモデルだが、ラインを動かすことができるので、様々な競技に対応でき、実は弓道でも密かに人気がある。TVにつなげば映像とラインがそのまま表示されるので、授業や部活でも使える。スポーツに限らず、物理実験の基準線としても活用できそう。


 また、最近のCASIOは、写真のデジタル加工にも力を入れている。専用サイトで様々なタッチの絵画調に変換することができ、後々は半立体モデルを「プリント」するサービスも検討しているようだ。
 他では、5月の金環日食に向けた、撮影グッズ、日食グラスなども目立った。

 次に、9月の例会で紹介したPENTAXのカメラについて、後継機の「Optio WG‐2」が発表されていた。理科分野で使える各機能がさらに充実し、120fpsながらハイスピード機能までついた。これ以上のハイスピード機能の拡充については、画像が小さくなるので否定的であったが、「上がってくる声には順次応えている」という開発スタンスは印象的だった。同じく例会で紹介したドアスコープ魚眼レンズのフィットの出展もあった。

NHK技術展より 佐々木さんの紹介
 2月11日~14日 渋谷の放送センターにて、NHK番組技術展が開催された。技術局や各地方局のアイデア機器の展示の中から、一部を紹介する。
 「仮想対決カメラシステム」は、スポーツ番組で選手Aと選手Bを重ねて表示したり、選手Aの1回目、2回目を重ねて表示したりできるシステム。最初のカメラワークを記憶させ、透明度を調整して同時に表示することで、正確に比較ができる。物理の比較実験に使うには、まだまだ高価すぎるかもしれない。
 一方で、市販品を活用して低価格で実現したシステムもあった。「CG描画合成システム」は、Wiiリモコン1台と、LEDライトを仕込んだ指し棒を使い、液晶TVをお天気ボードにしてしまうもの。工夫次第でTVを電子黒板化できそう。

からくり記念館 竹内さんの紹介
 自前のミニエクスプロラトリアム展をたずさえて全国行脚する竹内さんから、石川県の「からくり記念館」の紹介があった。江戸時代のからくり師大野弁吉にちなむ博物館である。竹内さんは同館の体験イベントに協力している。
 展示物等の紹介は同館HPへ。http://www.ohno-karakuri.jp/

日食グラスの共同購入計画 佐々木さんの発表
 5~6月の天文イベントに向けて、日食グラスの調達方法の提案。
 100個単位以上でのまとめ買いで、安く調達できるもの(写真下)があるので、まだ購入を決めていない学校・団体・個人分の取りまとめを行った。大手メーカーのもの(写真上)より小ぶりだが、スペック的には問題なさそうで、メガネの上からでもかけられることなども確認できた。価格は大手メーカーの1/5以下を目指す。

二次会 黄金町駅前「華の舞」にて
 11人が参加してカンパーイ!毎回恒例となっている二次会。気さくな雰囲気の中、活発な科学談義がかわされる。これを一番の楽しみに例会に出てくる人もいるほどだ。今回は常連さんばかりだったが、初参加の方も歓迎。年齢層が幅広く、若い方も多いのがYPCの強みである。


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