例会速報 2012/05/27 横浜サイエンスフロンティア高等学校


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自己紹介と日食観測報告 みんなの発表
 例会のはじめは毎回自己紹介から始まるが、今回ははからずも金環日食の観測報告会になった。5/21の朝、神奈川県内はあいにくの空模様だったが、金環の中心時刻の前後に雲が切れて晴れ間がのぞき、「奇跡的に」観察できたという報告が多かった。ひょっとすると食が深くなって日射量が減り、上昇気流がおさまって一斉に雲が薄くなったのかもしれない。一方、東京から北関東ではきれいな金環食が観察できたようだ。

授業研究:イージーセンスを用いた生徒実験 市原さんの発表
 サイエンスフロンティア高校には、イージーセンス(Narika)が生徒実験できる台数あるので、市原さんは今年から積極的に使っている。1年生の物理2単位(物理基礎に相当)は、週1回95分で展開しており、生徒実験の回と、データを解析する回を交互に繰り返して授業を進めている。生徒には実験ごとにレポートの提出を課しており、その評価を成績に反映させる。全員必修なので、2週間に1度、240人分のレポートに目を通すのが大変である。
 今回の発表では、摩擦係数の測定実験について報告があった。ベニヤ板の上にコルクブロックを載せ、イージーセンスの力センサで引っ張り、最大静止摩擦力や動摩擦力を計測する。従来は、ばねばかりなどで計測していたため紙の上におもりを載せていたが、力センサは50Nまで計れるので、ある程度摩擦力が大きい方が計測しやすい。コルクブロックの上に500g刻みでおもりを載せていき、最大静止摩擦力Fを測定し、F-Nグラフをかかせる。この傾きがμになる。また、摩擦角の測定も行い、μとの比較も行う。

 例会では、結果と考察はどこで線引きをするのか、という質問が出た。今回でいえばμを求めるところまでを結果とさせるのか、最大静止摩擦の測定値までを結果とするのか、という疑問である。現時点では、中学卒業してすぐの1年生に対して行う授業なので、測定値を結果、そこから計算等で求めるものは考察、という線引きをしている。その線引きも、生徒の実情に応じて検討していきたい。
 また、実験を組み立て、予備実験をし、手順書を作り、レポートに目を通しと、授業時間外の準備時間が非常に多いが、どう時間をやりくりしているのか、という質問もあった。ほぼ自転車操業になっているので、もう少し計画的にやらなくてはいけないと思っている。
 また、1年生の実験なので、2年生の時に同じ実験を再度やらせてみてもいいだろう、というコメントや、参考にできそうなレポートはコピーを取っておいて後輩に見せれるようにストックしておくと良いだろうというコメントがあった。

スティックボム 海後さんの発表
 海後さんは、アメリカ発の、ドミノ倒しを派手にしたようなStick Bombに興味を持ち、昨夏来安価な素材を探していた。輸入品のスティックボムの寸法は1×18×150mm(板厚×幅×長さ)だ。ホームセンターやダイソーなどで色々な素材を探して実験した結果、単価1円の工作用アイス棒や板厚2.3mmのプラベニア、園芸用名札などではうまく弾けなかった。
 うまく弾けたのは工作用のヒノキ材で1×8幅の素材を130mmに切断したもので、単価は4円程度。蛇が鎌首を持ち上げているかのようなスティックの弾け方が面白くて興味深いので、より高いポイントでゆっくりと弾けるようなスティックボムの素材と寸法を研究してみようと考えている。
 スティックの組み方は右下の写真を参照のこと。互い違いに編み上げるような感じで組んでいく。
 リアルタイム動画(AVIファイル3.5MB)はここ。ハイスピードカメラによる動画(AVIファイル17.7MB)はここ

 

リングキャッチャーのスゴ技 海後さんの発表
 YPCではおなじみのリングキャッチャーだが、海後さんはYPCでも初めてのリングキャッチャーの秘技を披露してくれた。まずは手を使わない「フリーハンドキャッチ」。首にかけたチェーンにリングを通して喉で挟んでおき、アゴを上げてリングを落とすと高い確率でキャッチできる。
 

 お次は「3連キャッチ」。3個のリングをチェーンに通した状態で、リングを1個ずつ素早く落としていくと、いつの間にかチェーンの両端にリングが結ばれた状態になっている。チェーンを持つ手元をもう一方の手で隠して演示すると不思議さが増す。動画(AVIファイル10.9MB)はここ

 他にも幾つかネタがあるそうだが、次回以降のお楽しみ。

スプーンラトルバック 海後さんの発表
 「角運動量を保存しないように見える動き」が興味深い玩具としてYPCにもたびたび登場しているラトルバック。海後さんはダイソーの健康器具「踏圧棒」が少し加工するだけという「科学的コマを作る」の雑記帳記事 http://www.geocities.jp/tippetop/zakki2031.html を参考にして自作したラトルバックを披露。接地面積が最小になるように研磨してあるので、条件が良いと反転してから7回転以上回る。動画(AVIファイル3.0MB)はここ
 そのほか、そのままラトルバックになる釣り用の疑似餌やスプーン型キーホルダーなどを発見したと紹介があった。底面が非球面形状のものならば、どちらかに回転させるとラトルバックのように反転する確率が高いので、いろいろな雑貨を回してみると面白いと思うとのこと。
 

 上記雑記帳の別な記事には変わりダネのスプーンラトルバックが紹介されている。http://www.geocities.jp/tippetop/rattleback.html
 ほかにも、自称スプーンラトルバック反転回数世界記録保持者の米ジョージ・ミラー氏の動画 http://www.youtube.com/watch?v=5Jg2SXTTgEg に刺激されて色々なスプーンを購入して実験している。1度だけ7回反転に成功したが、重心の調整が難しくてなかなか再現できないという。 

 このスプーンの反転運動を見ていたら、一端にオモリを付けたバネを振り子運動させたときの振動方向が変化するのと同様な運動ではないかと思い、左の写真のような装置も自作してみた。

スマートフォンで測定 小河原さんの発表
 小河原さんが、3月に購入したスマートフォン(以下スマホ)での測定を紹介してくれた。そもそも、授業に使えると考えて購入したわけではなかったが、購入後にセンサーが10種類ほど内蔵されていることを知り、各センサー用の無料アプリをダウンロードして授業で使ってみたとのこと。
 高2物理Ⅰでは、ビデオ映像の台車加速度を予想させ、スクリーン上で映像解析してa=3.2 m/s^2という解答を得た後、台車に載せてあったスマホの加速度センサーの値を表示した。すると、3軸のうちY軸方向に3.1~3.2 m/s^2という値で、映像と近い結果が得られた。台車+スマホと引いたおもりの各質量から計算した理論値は3.4 m/s^2だったが、X軸やZ軸の値も0ではないため、若干小さい値なのだろう。
 高3物理Ⅱでは、円運動の加速度、単振動の加速度、単振り子の加速度測定に利用した。単振動と単振り子の加速度では原点での加速度が0になっていないが、加速度-時間グラフの振幅からはまずまずの値が得られていた。
 

 静止中の加速度データが時には値を持つことがあったり、測定の時間間隔が厳密に一定でなかったりといった欠点もあるが、本体0円で購入して家族割で基本料もないらしいので、測定できるだけでも相当なコストパフォーマンスだと言える。
 また、加速度以外に圧力センサーも使えそうだという。右は気圧計のフリーソフト画面。 

 真空調理器はかなり減圧可能で、今までは1.8リットル容器中の抜かれた空気質量から真空度を0.1気圧弱と測定していたが、今年からはスマホに表示される気圧計の表示でも確認できるとのこと。センサーの測定範囲は300 hPa以上だが、それ以下でも測定できているように見える。例会では車田さんがつけていた気圧計腕時計も真空調理器に入れて試してみたところ、200hPa台でアンダーフローした。同じようなセンサーが使われているのかも知れない。
 小河原さんのスマホにはこの他にもセンサーがあるので、今後また使ったら報告してくれるとのことだった。楽しみである。

ガリレオ温度計の中味 小河原さんの発表
 米国駐在中に家族から誕生日プレゼントとして贈られたガリレオ温度計が、昨日破損してしまったということで、その中身を持参して見せてくれた。透明な液体は油のようなにおいで、同じペットボトルに同量ほど水を入れてみたところ、水379 gに対して液体は306 gだった。後日検索した結果、パラフィンオイルではないかとのこと。密度の温度係数が比較的大きい液体であるはずだ。温度が上がる→液体の密度が低下→浮力が減る→浮きが沈む、という原理であろう。
 温度を表記した札をぶら下げた浮きは6.3 gから6.9 gと様々だが、温度との規則性は見られない。最終的には、上部突起部分を削って手作業で微調整しているのではないだろうか。手作業なら、高価なのもうなずける。
 

エアカウンターS 海後さんの発表
 海後さんは2月例会速報で紹介されていたエアカウンターSの性能記事を参考にして3月に購入。ちょうど良いサイズだったダイソーの合皮製ペンケースに入れて持ち歩いている。自宅周辺のほか、勤務先や知人宅などで測定した結果、地上1mではどこでも測定下限~0.2μSv/h程度に測定されて皆安心した様子だった。
 しかし、よくニュースになっていた雨樋の下を測定してみると、常陸太田市自宅の北東雨樋下1cmで1.09μSv/h(写真右)、日立市勤務先の北東雨樋下1cmでは3.62μSv/h(6月の現時点でも3.38μSv/h)もの高い数値が測定された。建物の他の方角にある雨樋下での数値は北東側の4~5分の1程度だったので、放射性プルームが北東方向から流れてきたことが確認できた。海後さんはエアカウンターSの購入によって、身近にホットスポットが多い事と、地域住人の無知や無関心さを知り、とても驚いている。
 

ほこ×たて 佐々木さんの発表
 フジTV「ほこ×たて」は、故事成語「矛盾」を最先端技術や職人芸などの対決として実証する(?)番組。過剰なまでの対決姿勢の演出や、知識人による予想などもあり、毎回楽しめる内容。2月の特番では、CASIOのハイスピードカメラとピッチングマシンの対決があったので、紹介する。
 対決内容は、ピッチングマシンの時速370kmの豪速球がワイングラスを割る瞬間を、カメラでブレずに撮影できるか、というもの。カメラはCASIOのEX-ZR200(最高シャッタースピード1/25,000)、パスト連写(30枚/秒)で狙う。シャッタースピードが1/25,000とすれば、その間のボールの移動は4mm程度のため、ブレはわずかとなる。一方で、ボールは撮影間隔の1/30秒の間に3.4m程度移動するので、シャッターが切れた瞬間にボールがフレーム内に入っている可能性は低く、かなり分が悪い。
 

 結果は、奇跡的にボールがグラスを割った瞬間をカメラが捉えたものの、ボールが斜めに長く延びた形となり、ピッチングマシンの勝利。対決当日の天気は雪で、特に照明もなかったため、シャッタースピードでは最高速を出すのが難しく、ブレ(変形)が大きくなったようだ。実は、カメラのCMOSセンサーの特性上、高速で移動する被写体は変形してしまう。ライン露光順次読み出しという方式で、上から下へ1列ずつ順に走査していくイメージ。そのため、水平方向に高速移動する場合は斜めに変形する。晴天下の好条件で何回もトライすれば、またはハイスピード動画であれば、捉えられるかもしれない。リベンジマッチにも期待したい。

カメラ用小物 佐々木さんの発表
 カメラ三脚メーカー、マンフロット社のユニークな商品の紹介。1台で3種類の使い方ができる。
「ショルダーサポート」・・・パッドを肩に当てて安定させ、ブレを軽減できる。(写真右)
 

「動画用スタビライザー」・・・やじろべえのようにバランスをとり、移動撮影(歩きながら等)で振動を軽減できる。(写真左)
「テーブル三脚」(四脚?)・・・アーム部分をグリップとして角度を調整でき、手元実験等のフレーミングがしやすい。(写真右)
 コンパクトデジカメ、ミラーレス一眼、ホームビデオ用ではあるが、小型のデジタル一眼くらいまでは対応できそう。アマゾンで8,500円前後。SONY、Canonのビデオカメラ用にはリモコンスイッチのオプションもある。

金環日食時のデータ 伊藤さんの発表
 伊藤さんは5月21日朝の金環日食の際、照度と気温を測定した。照度(左)の方は雲の影響もあって前半が欠けたデータとなったが、気温(右)の方はちょうど金環食の時刻を谷底にして気温が下がるのが観測された。
 

しんかい6500の改造 車田さんの発表
 車田さんは日本科学未来館のボランティア研修でJAMSTECに行き、「しんかい6500」の改造にたずさわった小椋さん(元しんかい6500パイロット)の講義と実機を前にしたレクチャーを受けてきた。
 写真左は、「しんかい2000」のコックピット。すでに現役引退し、このたび「新江の島水族館」に展示されることが決まり、輸送のため船主部分のコックピットを本体から切断分離している所を見学できた。
 「しんかい6500」は後継機の計画がなく、改造を加えることでなんとか世界のトップレベルを維持している。機動性を上げる改造は、尾翼付近にサイドスラスタを新設し(このため尾翼が低くなった)、真横に移動できるようになった(写真右)。
 

 後部の大きなメインスラスタをはずし、両側に中型のスラスターをつけ、左右方向に曲がる機動力がついた(写真左)。また、操縦用のコントローラも従来のボリューム式に、ジョイスティック式が新たに加わった(写真右)。ベテランのパイロットさんたちにはなじまないようだが、現在女性パイロット候補の池田瞳さんが副操縦士になったということで、ゲーム世代の若いエンジニアのジョイスティック操作による活躍に期待したい。

少年写真新聞社の本2冊 加藤さんの紹介
 学校向け壁新聞でおなじみの少年写真新聞社は、昨年と今年の春に、小中学校の教員向けの書籍を発行した。

●『授業で使える! 博物館活用ガイド』(国立科学博物館 編著/2000円+税)は、国立科学博物館ほか、全国の博物館や動物園、水族館、植物園、科学館が、授業で博物館を活用できるよう開発した15の学習プログラムを紹介している。「イルカの全身骨格を組み立てる」「土の絵の具を作る」など、教材を借りて生徒に体験させて、博物館の豊富な資源を学習に活かすコツが満載だ。
 http://www.schoolpress.co.jp/book/hakubutsu/hakubutsukan.html

●『基礎から始める! 理科実験ガイド』(片江安巳 著/1800円+税)は、実験に苦手意識を持つ小学校教員に向けて、「ちょっとやってみようかな」という気持ちで実験を始めてもらうための手引きとして製作された。アルコールランプやガスバーナーの使い方といった基本操作から、実際に授業や部活動で行う実験の紹介まで、300点以上に及ぶ写真で丁寧に説明している。
 http://www.schoolpress.co.jp/book/rikajitken/rikajitken.htm

 

科学者の肖像画 越さんの発表
 最近の教科書には科学者の写真や肖像画が多く掲載されるようになったが、越さんは単位に名前を残す物理学者、ニュートンやジュールなどの画像をA4版サイズで印刷・ラミネートし、授業で用いている。例えば[N]の単位を説明する時に、板書しながら左手でニュートンの肖像画を生徒に示す。すると生徒も顔を上げ、単位と科学者の顔が同時に印象付けられる。その後は理科室の壁に掲示しておくようにしている。
 自身が中学生の時、音楽室に掲示してあった作曲家の名前と顔を今でも覚えているという経験から、越さんは理科の授業でもこの方法は有効だと考えている。
 今年は地学の授業も担当しているので、ケプラー、コペルニクス、エラトステネス、デカルト(地球の形状について、ニュートンらと論争)、ガリレオらの肖像も授業で簡単に紹介しているそうだ。

ここまでわかった新・太陽系 越さんの紹介
 「ここまでわかった新・太陽系」(サイエンスアイ新書)井田 茂、中本泰史著 定価:1000円(税込み) ISBN:978-4-7973-5070-8
 太陽系の誕生や、月の誕生(ジャイアントインパクト説)、各惑星の特徴から、太陽系外惑星についてまで、多数のカラー図版を用い、最新の知見が平易な言葉でわかり易く解説されている。地学分野は数年単位で新しい内容に更新され、勉強していて大変興味深い。

二次会 鶴見駅前「テング酒場」にて
 15人が参加してカンパーイ!YPCの例会には、現役の教員のみならず、エンジニア、出版業界の方、メディア関係の方など幅広い人材が集まってくる。年齢層も学生、新採用から定年後を楽しむ悠々自適組まで厚みがある。共通していることはそれぞれがサイエンスを心から楽しんでいることだ。酒の肴も科学の話題である。


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