例会速報 2014/07/13 慶應義塾高校
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授業研究:Tutorials実践報告 勝田さん・岸さんの発表
勝田さんたちは、ワシントン大でL. Mcdermott らによって開発された「Tutorials in Introductory Physics」の幾何光学分野を勤務校の中3に対して実践した。
課題提示→予想・議論→実験→振り返りというプロセスを何度も繰り返していくことにより、素朴概念と実験概念が矛盾するという認知的葛藤に生徒を持ち込み、話し合いにより解決して概念獲得を目指す。討論班には数班にひとりずつファシリテータがつく。
授業内容は、現行の中学課程における(レンズなどの)幾何光学よりも、もっと基礎的な内容の実践である。光の直進性を用いて光経路を考えていくのだが、生徒からは数多くの素朴概念が現れ、光分野における生徒のつまづきは、教科書の内容よりももっと根本的なところにあるのだと改めて感じた。
非常によく出来たプログラムではあるが、事前・事後テスト及び生徒のアンケートやインタビューからは改善すべき点も多そうだ。例会では活発な意見が飛び交った。次の武捨さんからも同じ単元の実践報告があり、充分な時間を取ってひとつひとつの課題について議論できた。さらに改善して次の実践に臨みたいと勝田さんは語った。
Tutorials実践報告・2 武捨さんの発表
武捨さんもTutorialを実践している。名古屋大学で行われたワークショップや職場の同僚の実践を参考に、内容を1時間分に精選し、中学2年生を対象に行った。実験器具が1セットしかなかったことと、時間短縮のため、あらかじめ課題と実験の様子をまとめたスライドを準備した。
勝田さんと同様、点光源のあと、線光源に拡張する。右の写真は点光源と線光源を並べたときのスクリーン上の像。
武捨さんからは線光源が点光源の集合であることを示すのに、LEDアレイ(多数のLEDが直線状に並んだ光源・写真左)を使用して有効だったとの報告があった。写真右はLEDアレイを光源に、三角形のマスクを通したときの、スクリーン上の像。多数の三角形の重なりとして、上の台形が形成される様子がよくわかる。
立ったまま止まるコマ 海後さんの発表
回転が止まっても倒れない不思議な「不倒コマ」の紹介。JAXAの「倒れない独楽」sciboxの「不思議な独楽」などの倒れない秘密は、軸の接地面が2~3㎜程度平らになっている為で、回さなくても立つ。回転中は、紙など摩擦のある面でないと、軸先の面のエッヂが滑ってしまい、軸を引き起こすトルクが働かず倒れてしまう点が興味深い。ところが、念のためにシリコ-ンスプレーでツルツルにした凹面鏡で実験したところ倒れずに止まってしまう現象を発見した。動画(movファイル)はここ。シリコ-ンの液体のわずかな粘性摩擦でも求心力が働くのは意外だった。
次に、軸の接地面が球面でも、そのR半径がコマの重心高さ以上あれば、起き上がりこぼし効果で立ったまま止まるのではないかと予想し、JAXAのコマのつまみ側を旋盤加工により正確に球面仕上げ加工を施して実験したところ、接地面の摩擦に関係なくどこでも立ったまま止まるようになり、より不思議さが際立つコマとなった(写真右)。動画(movファイル)はここ。
メロディーパイプからの実験展開 海後さんの発表
ホームセンターの電設資材コーナーで、内径14~16㎜の「フレキ」というジャバラチューブが30~100円ほどで入手できて、メロディーパイプの実験に利用できる。チューブの外側は角張っているが内側はきれいな波型で、値段の高いものは柔らかくて振り回しやすい。しかし、普通に振り回しても一定の倍音を鳴らしたり、より大きな音を出すのは難しい。
ちなみに、一端を口にくわえて息を吹き込んでも鳴らせるが、直ぐに苦しくなる。そこで海後さんは、エアーダスターの圧縮空気を吹き込めば、狙った倍音を一定圧で鳴らし続けられると思い付いた。
さらに、折り畳み式のポリタンクを膨らませてチューブを繋ぎ、タンクを一定の力で押して空気を流すと楽に実験できるようになった(写真左)。エアーコンプレッサーに接続すればより正確に空気圧を調整して実験できる。
また、楽にチューブを回転させる方法として、無段変速ドリルでチューブを回すことを思い付いた。しかし、例会では偏心が大きくドリル本体が大きく振動してしまったので、例会発表後に2本のチューブを対向させて回す方法に改良して、より安定した高速回転の実験ができるようにした(写真右)。動画(movファイル)はここ。
早速、車田さんが持参した周波数を測定出来るタブレットで計測してみると約4kHz。このときポリタンクに繋いだチューブは長さ2.5mだが、観測された周波数は60cmの気柱の共鳴と同じ程度。かなり高次の倍音が出ている。このチューブは閉管にして瓶の口を吹くように吹くと、低周波のヘルムホルツ共鳴も鳴らせる。海後さんが例会後に調べたところ、直管に笛を付けても気柱共鳴の倍音を鳴らせるとの事なので試作してみようと思っているとのことだ。続報に期待しよう。
CoSign 水野さんの発表
アーステックという会社が製造販売している「コ・サイン」という商品。透明アクリル板の上に水性マーカーで文字等を書くとLEDの照明で黒バックに文字が浮き上がる。
透明アクリル板の下の台座に高輝度LEDが配置されアクリル板の底面を照らす構造だ。アクリル板の上に何も書かなければ全反射で光は漏れてこない。アクリル板の上に水性マーカーで文字等を書くと、そこだけ全反射しなくなりLEDの光が漏れてくるらしい。
お店のカラフルに光る看板として使用できる。水野さんが先日秋葉原の千石通商に立ち寄った際、これが実際に使われていたという。水野さんが今回例会に持参したものは卓上用A4サイズだったが、A2サイズの大判もある。値段はA4サイズで約19,000円、A2サイズになると50,000円近くになる。
水野さんはさっそく自作にチャレンジしている。下はその試作品。今年の文化祭で理化部が「光と色」というテーマで研究発表するので、そのとき使おうとかんがえているそうだ。
カシオEXILIM EX10 海後さんの発表
海後さんはハイスピード撮影の必要性からEXILIMを愛用し、FH100、ZR1000に次いで、このたび3台目を購入した。買い替えの理由はメカトラブルによる使用不能で「ハードな扱いも有ったとは思うけれど、カシオのカメラにはメカの精度に不安を感じている。」とは海後さんの弁。このEX10でもズームギアがスリップしたまま操作不能になって、バッテリーの抜き差しで復帰したこともあり、販売店の5年保証を付けた。とはいえ、カメラの性能機能はすばらしく、とっさにシャッターを押しても綺麗に撮れる便利さには重宝している、とのこと。
LED表示灯ネオソーラー 海後さんの発表
セイフティコーンの上に取り付ける赤色点滅の工事灯。ボディーが全て透明ポリカーボネイトなのでシンプルな構造がよく分かる。縦横2種類のプリズムでLEDを囲み、その光を前後方向にのみ誘導して高輝度に光らせる構造が興味深い。ソーラーパネルは3.5V72mAで、日中はバッテリーを充電、暗くなって発電量が1.8V以下になるとLEDが自動点灯する。24時間でフル充電され、無日照でも90時間連続点灯する優れもの。ちなみに、ボディーは超音波溶着なので壊さないと分解できないようになっている。
道路標識に見える虹 海後さんの発表
昨年、海後さんの家の近所にできたバイパス道路の標識が虹色に光っているのに気づき撮影。よく見るとベースが網目模様になっている。調べてみると再帰性の高輝度反射シートで、微細なガラスビーズやプリズムが敷き詰められていて、角度によっては虹色に輝いて見える。何かの光学実験に使えそうだが、現在は相当高価なので手が出ない。
参考情報:http://www.kowa-sangyo.jp/road_sign_07.html
手のレントゲン写真 海後さんの発表
海後さんは、両手の関節が慢性的に痛むので専門のクリニックでレントゲン撮影してもらったところ異常なしだったが、以前に骨折した部分を見たいので画像が欲しいと先生に頼んだところ今はフィルムレスの時代で、PDIビュアー付の画像をCDで出してくれた。
近いうちにはCDも無くなって、パスワードだけもらってネットで見る時代になるのだろうか?ちなみに骨折部分は太くなっているので分かるが、右手の親指と左手の人差し指。
授業での取組から 車田さんの発表
車田さんから、勤務校の3年の選択授業「サイエンス」の実践報告があった。今年から週2時間が月曜日と水曜日に分割され、連続での実験が困難になってしまったそうだ。
まずは、エッグドロップコンテスト。事前学習として月曜日に説明と過去のビデオ解説と材料(コピーペーパーB4を3枚)、実際に入れる卵を配布し、デザインを考えさせて終了。水曜日に卵を一つずつサランラップに包み、エッグドロッププロテクター(生卵落下装置)ができた順に校舎の4Fベランダから落下実験。安全確保しつつ、本来なら一人ずつみんなで見守る中で実施したかったが40分という短縮授業の2~3人同時に落下実施。18名中8名無傷、6名ひび、4名失敗という成績だった。
下の写真の30番のエッグドロッププロテクターは昨年の「エッグドロップ甲子園」の作品だ。学校では予算の関係から、安い卵(Mサイズ)で実験したが、競技会はLLサイズと一回り以上大きな卵、殻が大きさの割に薄いようで結果は簡単に割れてしまったそうだ。
次のテーマは電気パン。交流電流計を回路に組みこみ、パンケーキミックス+砂糖+水を牛乳パックに入れ、ステンレス板を電極として、交流電流を流してジュール熱でパンを焼くという定番の実験だ。パンが膨らみ湯気が出てくると、電流計の測定を忘れる班がちらほら。最後は解体して、うまく焼けたか味見をする。食べる実験は評判がよい。
最後にストロークレーンコンテスト。ストロー50本を4人一組の班に与え、トレイを土台にしてストローでクレーンを作る競技だ。接着用にセロテープを各班に1巻与える。クレーンの先端の高さ[cm]、台からせり出した幅[cm]、吊るしたおもりの質量[g]の3つの量の積の大きさを競う。バランスが悪いとトレイごとひっくりかえってしまう。土台作りと重心位置の配慮がコツのようだ。
有効数字 武捨さんの発表
武捨さんは中学1年生を今年度はじめて担当している。実験(密度測定)と関連して有効数字を扱ったところ、現象そのものよりも有効数字を考慮した計算に執着する生徒が出てきてしまった。有効数字について中学生あるいは高校生にどの程度まで伝えるべきか、考えていきたい。みなさんはどのようにされているだろうか。
スコットランド実習紹介 萩谷さんの発表
萩谷さんは今年も学生を連れて、近代地質学発祥の地、スコットランド実習を実施した。2011年から3回実施し、これまでにのべ21名の学生が参加した。
スコットランドの東部海岸ある岬、シッカーポイントは、「地質学の父」とたたえられる、ジェームズ・ハットンが彼の地質理論である斉一説を着想したという、有名な「ハットンの不整合」
がある場所である(写真右)。彼は聖書のいう6000年よりは桁違いに長い時間をかけて地球は形成されたと主張した。
絶対温度の単位に名を残すケルビン(ウィリアム・トムソン)は、熱力学の計算から灼熱の火の玉地球が自然放熱により現在の温度まで冷えるのには1000万年あれば十分だと主張したが、地質学者達は地球はそんなに若くないと反論した。当時は、まだ放射性元素の壊変により発生する熱については知られていなかったのである。
20世紀に入り放射性同位体を用いた年代測定法が開発、改良されるにつれ、地球の推定年齢は次第に延びていった。
萩谷さんは、こうした発見や科学論争の舞台になったスコットランドで、学生たちに地球の歴史と、科学史上の熱い戦いを肌で感じてほしいと考えて、この海外研修を企画している。大学の寮を宿舎に提供してもらうなどして経費をきわめて低く抑えて、コストパフォーマンスの高い実習としている。
シャッター街のまちなか科学館 竹内さんの発表
石川県河北郡津幡町は商店街の空き店舗に「まちなか科学館」(仮称)を整備し、子どもたちが 科学の楽しさに触れることができる実験室を設ける(写真左)。10月オープン予定。
竹内さんは、ミニ・エクスプロラトリアムを全国に出前している。右は中越地震で被害にあった長岡市立中野俣小学校での実践紹介。
二次会 日吉駅前浜銀通り「小青蓮」にて
14人が参加してカンパーイ!かつて、慶応で例会があるとよく寄ったおなじみの「龍行酒家」に久しぶりに集った。今は店の名前が変わっているが、なつかしいスタッフさんの顔があった。お気に入りの紹興酒「女児紅」が品切れだったのは残念。
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