例会速報 2016/06/12 関東学院中学校・高等学校


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授業研究1:理科教育方法論の授業から 山本の発表
 今回は山本と鈴木亨さんが報告することになった。たまたまだが大学の教職課程特集となった。
 山本の発表は、例会前日に行った「理科教育方法論」の講義を再現した。ちょうどこの時期は、人類が素朴概念をいかに乗り越えて、科学を築いてきたか、科学史をたどりながら考えている。今回は生物学史編。
 生物学の最初のブレイクスルーはなんと言っても顕微鏡の発明だ。1600年代後半に、レーウェンフックとロバート・フックが相次いで独立に顕微鏡を発明して、細胞・微生物の世界への扉を開いた。現在用いられている光学顕微鏡は2レンズ式のロバート・フック型だ。彼の観察記録は有名な細密画集「ミクログラフィア」として残っている。
 レーウェンフックの顕微鏡は小さなガラス球を1個だけ使った単眼式のもので、その後廃れたが、近年、「スマホ顕微鏡」「タブレット顕微鏡」として教育界によみがえった。YPCのメンバーでもある防府市青少年科学館「ソラール」の寺田勉館長から情報をいただき、このたび講義に取り入れることにした。


 学生には一人1セットずつ材料を配り、自分のスマホ・タブレットを使って、その場で制作してもらった。以下、現代のレーウェンフック型顕微鏡の作り方は下のスライドのとおり。
 レンズに当たる直径3mmのガラス玉の入手先はここ。→http://www.sweet-apple-pie.com/SHOP/ANBD-01.html
 レンズホルダーは厚さ2mmのスチレンパーパー(黒:ダイソー「カラーボード5色」108円)。適当な大きさにカットして2枚用意し、一方には両面粘着テープを貼っておく。二枚とも中央に「スクリューポンチ」で2mmの穴を開ける。ここにレンズのガラス玉がはまる。
 

 スマホ・タブレットの「インカメラ(自撮りカメラ)」を起動し、画像を見ながら、そのレンズ部に上で製作したレンズホルダーを両面テープで固定する。ガラス玉を通った丸い光が画面中央に来るようにうまく貼るのがコツ。これで顕微鏡は完成。画像の周辺収差はひどいが、倍率は結構高い。スマホでそのまま写真や動画の撮影ができ、ズームも自由自在だ。何しろ簡単に作れて(製作時間10分)、材料が安い(一人10円以下)というスグレモノ教材だ。学校の生物の授業でぜひ取り入れたい。彼ら学生が教員になる頃には定番の教科書実験になっているかもしれない。
 講義ではテッポウユリの花粉をセロハンテープで固定したプレパラートや、綿棒をほぐした綿の繊維、ポリ袋に入れた生きたミジンコなどを観察してもらった。「本物のミジンコを初めて見た!」という学生も少なくない。この講義は大好評だった。
 なお、スマホ顕微鏡の発明者は永山國昭、伊藤俊幸両氏で、特許出願中。寺田さんらが活動しているLife is small Project(考案者の永山國昭さんが代表)のHPには、各種有用情報や素晴らしい写真作品が公開されている。→http://www.life-is-small.com/
■スマホ顕微鏡についての展示・イベント等のクレジットは、発明者の永山さん(Life is small. Company)に相談のメールを送ってほしいとのこと。
※その後、寺田さんから改良の続報が届いている。詳しくは寺田さんのブログへ。→https://sites.google.com/site/sumahokenbi/
 

授業研究2:「力と運動」の始め 鈴木亨さんの発表
 鈴木亨さんは、教育実習などで教職課程の学生を指導する。「運動」とは何かとたずねると、高校生ばかりか、理工系大学生でもほぼ全滅である。「時間」の経過に伴って、物体の「位置」が変化することだとはじめにしっかり確認させたい。
 

 では「静止」とは?「鉛直投射の最高点では物体は一瞬静止する」とつい言ってしまいそうだが、「一瞬静止」はナンセンスな表現だ。それは、最高点では「一瞬力が0になる」という素朴概念に結びつく。
 

 次に「速さ」と「速度」の問題。「ベクトル」「大きさ」「成分」をはっきり使い分けたい。「速度と速さは異なる量である」などという物理学的な意味は全くない。運動には向きがあり、速度は向きを意識することが大切だと認識したい。そして、加速度やその向きをはっきりとらえられるようにしたいのである。
 

 「一直線上(一次元)の運動では速度はvのように矢印を省略して表すことが多い」と記述した教科書があり、広がりを見せていることが懸念される。一次元の速度はもともとスカラーのはずだ。
 鈴木さんは教育実習生には、「意図を持って授業を組み立てる」「教材を批判的に検討する」「自分の理解も疑ってかかる」ように指導している。
 

タッパーの修復 加藤俊さんの発表
 加藤俊さんがfacebookに公開している記事。タッパーウエアなどのシール容器のふたが、レンジなどで加熱後変形してしまうことがある。これを修理する簡単な方法がある。ふただけをレンジに入れ、針金を蚊取り線香のように渦巻き状に巻いてふたの上に乗せた状態でチンするである。適当な時間(経験的に見つける)レンジ加熱して、そのまま冷えるまでレンジ内で放置すると。平らに修復できる(多少針金の跡がつくが・・・)。レンジに負荷がかからないように茶碗の水を一杯入れておくこと。
 

Two Bubbles 加藤俊さんと宮崎さんの発表
 たまたま、二人の発表ネタがかぶるという、珍しいケースで、加藤さんが問題を紹介し、宮崎さんが解説してくれた。問題はこうだ。
 「もし、全宇宙が水で満たされていて、その中にふたつの泡があるとしたら、このふたつの泡はどう動くか。 a)離れる  b)全く動かない  c)互いに近づく 」
 加藤さんは「a」だと主張したが、宮崎さんは岐阜物理サークルのニュースで紹介があった元のタネ本を持っていて、解説してくれた。正解はc)だという。
 解説はあえてここには掲載しない。議論を楽しんでいただきたい。

球面上の直角二等辺三角形の面積 加藤俊さんの発表
 加藤俊さんがfacebook上で紹介している数学パズル。
 図のような寸法の直角二等辺三角形が「球面上に」描かれている。さてその面積は?
1) 30cm2より小さい。
2) 30cm2より大きい。
3) ちょうど30cm2。
 球面上の図形であることにご注意。頂角90°でこの寸法の三角形は平面上には描けない。

ナリカの新型力学台車 山本の発表
 おなじみのナリカの力学台車DY-3が進化した。今年発売になった新型力学台車DY-5だ。改良されたポイントを紹介しよう。
 左の写真、緑が従来型のDY-3、青が新型のDY-5だ。いろいろなパーツが台車の裏側に格納されている。右の写真は反発ばねをのばしたところ。使わない時は本体にねじ込んでおく。縮めてストッパーをセットしてたたくとばねが飛び出る仕組み。運動量保存の実験などに使う。上に出ている円柱状のものは、イージーセンスシリーズの力センサーなどを取り付ける支持金具で、これも裏面に収納可能。台車上の金具はばねはかり固定用。
 

 これが、ばねはかりを固定したところ(写真左)。定力で引く実験や、斜面上のつりあいの実験に便利。台車上に転がり止めのストッパーのノブが見える。実験中に台車が誤って走り出して実験台から転落しないようにという、心憎い配慮だ。斜面上に止めておくこともできる。
 右の写真は紙テープ取り付け部の様子。上のボタンを押しながら下のスリットにテープを差し込めばよい。ちょっとしたアイデアだが、気が利いている。
 

 マニュアルにも書かれていないが、台車の裏側にワッシャーが何枚か重ねて固定してあった(写真左)。どうやら質量微調節用らしい。1枚2g。二枚はずしたら全質量がぴったり1kgになった。ネジ径・ピッチがちょうどカメラネジに合わせてあるので、カメラを載せるのも簡単(写真右)。相対運動の比較等に使えそうだ。人気のあった旧型のデザインを継承しつつ、シンプルながらかゆいところに手が届くような親切設計。現場の声が反映されているようだ。他の台車と組み合わせた演示の動画映像(movファイル33MB)はここ
 

力学台車を引く時の張力 市原さんの発表
 写真左の図のように装置を組み、動滑車で力学台車を弾きながら、バネばかり(市原さんが指さしている)で張力を測定する。静止状態と、運動中を比べると、運動中の張力は小さくなるはずだが、張力が大きくなったという話を聞いて、追試してみた。
 

 イージーセンスの力センサを使って、調べてみると下のようなグラフが得られる。確かにやや大きくなっているようにも見えるが、振動が大きくてよくわからない。(この振動自体も興味がある。)
 

 例会の会場でも実際にやってみたところ、確かに張力は大きくなっていたようだ。
実験の際のハイスピード動画記録(movファイル29MB)はここ
動滑車のみを手で上げ下げする時の動画(movファイル1.3MB)はここ
 かつて動滑車について研究したことがある例会出席者によると、動滑車の重さや糸の種類が効いているためにそういうことも起こり得る、という話だった。さらに追求してみたい。

LEDズームライト 天野さんの発表
 天野さんは、ダイソーのズームライト(写真左)の面白い利用法を思いついた。このライトは単4乾電池3本で、1個の高輝度白色発光ダイオードを光らせている。その発光部は正方形の発光体だ。レンズ部分が前後にスライドするようになっていて、距離に合わせてビームを絞ることができる。調節して「ピント」を合わせると、正方形の発光部の像がくっきりと黒板に映る。もちろん正方形をしている。
 

 像の正方形を黒板上でトレースして、黒板とライトの距離を2倍にして、同じく「ピント」を合わせる。すると像の一辺は2倍に、面積は4倍になっていることがわかる(写真左)。同様に距離を3倍にすると一辺は3倍、面積は9倍である(写真右)。光が照らす面積と、距離の関係、つまり照度が距離の二乗に反比例することがわかりやすく演示できる。
 

消臭ビーズ 天野さんの発表
 これもダイソーネタである。ハイドロゲルの球が詰まった消臭剤。消臭効果のほどはともかくとして、透明ゲルを取り出して水の中に入れると、消える。屈折率が水と同じなので(というか、水を吸ったビーズはほとんど水なので)、光が水とゲル球の境目で屈折せず、そのまま直進するため素通しになる。色つきビーズは見えているが、透明ビーズは水と同化してしまう。
 

色つきビーズを1個だけ入れてみた。まわりには透明ビーズがたくさんあるのだが、見えない。水を減らしていくと確かに透明ビーズがあったことがわかる。
 

コーラのビンを水槽に入れると? 市原さんの発表
 光の屈折ネタをもうひとつ。コカコーラのガラスビンは、空気中で見ると、ガラスが結構薄く見える。しかし、よりガラスとの屈折率の近い水の中でみると、思いのほかガラスが厚いことがわかる。ガラスと同じ屈折率の食用油などに入れると、本当の内容量がわかるだろう。屈折の教材に使えるとは思うが、最近はビンのコーラを見なくなったので、見かけたら2本は買っておいてもいいかもしれない。
 

EZ Cast(AppleTVの代わりに) 車田さんの発表
 iPhone、iPadが、iOS7からはApple純正品しかつながらなくなり、車田さんはAppleTVをテザリングしてつないでいた。AppleTVの最新機種は昨年後半に出された第4世代で、WiFi環境がなくてもiPhone、iPadをミラーリングできるが、価格が約2万円前後と高価である。また、電源がコンセントを必要とするので持ち運びもかさばる。・・・と悩んでいた車田さんは、とある研究会でこんなミラーリングの情報を入手した。
 Amazonで、異なるメーカーのものを2つ購入した(写真)。どちらも3000円前後。EZCastで検索すると同じようなものがいくつもでてくる。どれもHDMI 端子にさし、USBで電源供給してネット環境がなくてもWiFiでつながりミラーリングがでる。Apple製品はAirplayが入っていればすぐにつながる。AndroidとPCはアプリをダウンロードする必要がある。
 正式に日本語対応のもとしては「EZCastPRO」という製品が12900円で販売されている。
 

 例会では、プロジェクターのUSBから電源供給できなかったので携帯の充電バッテリーを利用した。WiFi接続画面に表示されるパスワードを入力すると簡単につながる。ただし、1対1の対応で、後から接続した機種が割り込んで接続される。WiFi環境のない場所でコードレスでつながり、持ち運びが便利なのでおすすめだ。車田さんの勤務校でもWiFi環境がないのでiPadを利用するときに使っている。
 

目玉モデル 宮崎さんの発表
 宮崎さんは先月に引き続き、岐阜の村田さんの製作記事を読んで「目玉モデル」を自作した。
 ダイソーのミニルーペ(写真左)を分解、レンズを取り出す。ガチャガチャのケースのフタの方にレンズ大の穴を開け、ホットボンドでレンズを固定する。ケースの透明な方にくもりガラススプレーをスプレーしてはめこめばできあがり。
 

 焦点距離がちょうどよいらしく、向こうの景色がケースの底にくっきり逆さまに映る。これが網膜というわけだ。

 なお、くもりガラス仕上げのスプレーを使用するときには注意が必要。換気のよいところで作業すること。特にプラスチックレンズのメガネをしたまま作業をしてはいけない。

二次会伊勢佐木モール「北京楼」にて
 10人が参加してカンパーイ!。伊勢佐木モールの阪東橋側の入口に近い小さな中華料理屋。YPCでは初めての店だ。お休みにもかかわらず店を開けていただいた。リーズナブルなお値段でたらふく中華を楽しんだ。


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