例会速報 2016/08/27 八王子セミナーハウス


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合宿例会スタート 八王子セミナーハウス交友館セミナー室Aにて
 8月の例会は、すっかり恒例になった「合宿例会」。今年も会場は「八王子セミナーハウス」。八王子郊外の、山林に囲まれた静かな合宿施設である。時節柄学生の利用が多い。定員30人の研修室に29人が集まっての例会、うち19名が宿泊という、合宿例会としては過去最高の盛会となった。

シン・ゴジラからの全反射実験器 海後さんの発表
 海後さんは、スプレーの半球形キャップを原型にしてレジン成型を試した。φ35㎜の半球内にφ25の黄鉄鉱を浮かべることに成功。屈折のため黄鉄鉱が半球一杯の大きさに見えるが(写真左)、平らな面から見ると実際には隙間が空いて浮いているのがわかる。その隙間を平らな面から赤いフィルターを付けたLEDライトで照らすと(写真右)、半球面内側で全反射した赤い光が、まるで鉱石内部からの発光のように見えて、まさにリアルシン・ゴジラ。
 

 さらにレーザーポインターで平らな面から半球面内側すれすれを照らすと、まるでレーザー光線が曲線を描いてUターンするように全反射して見えた。それを不思議に思い実験器を考えた。5㎜厚の蛍光板を半円形に切断して、丁寧に切り口を磨いて光らせた板を作製。さらに板に水平にレーザーポインターを当てられるアクリルパイプのアダプターも作製して全反射実験器とした(写真右)。作製した実験器でUターンするレーザーの曲線を観察してみると、ビームを壁に近づけるにつれ、全反射により非常に細かい内接多角形の光路となることが判った。
 

タリーズのオマケLED 海後さんの発表
 6月例会での天野さんの発表の記事を見て、海後さんは5年ぐらい前のコンビニ缶コーヒーのおまけを思い出した。ダイソーのLEDズームライトでは壁から任意の距離で発光部にピントが合うが、タリーズのおまけLEDでは、タリーズのロゴが壁からの距離におよそ関係なく、常にピントが合ったまま投影されるように見える。ピンホール現象のようにも思えるがレンズが使われているので構造を考えるのが面白そうだ。やはり分解かな。
 

運動の法則の授業プリントと模擬授業 水上さんの発表
 水上さんは、夏休み明けの授業の予行として模擬授業風に発表してくれた。
 水上さんが本当に伝えたいことは以下の3点だ。
『教科書を読む→現象(今回は映像)の観察→教科書の記述を納得する』
『現象の観察→データを取得→分析して法則化』
『データの分析にエクセルを使って授業時間の短縮をはかる』
 例会の模擬授業は以下のような流れだった。
①慣性の法則:教科書を読み、等速直線運動する鉄球(写真左)、終端速度で落下する薄紙(写真右)の動画を見せて物体に働く力を描かせ、教科書の記述を納得させる。
 

②運動の法則(運動の第2法則):水平な面上の台車に糸をつけ、面の端に固定した滑車に通して他端におもりをつけて手をはなす動画(シーンはおもり1個、おもり2個、おもり1個で台車に砂袋を乗せるの3つ)を見せ、生徒に以下のことに気づかせる。
「一定の力Fを加え続けると等加速度直線運動をし、加速度aが生じる」
「力Fが大きくなると加速度aも大きくなる」
「質量mが大きくなると加速度aは小さくなる」
 次に教科書(数研出版『物理基礎』)記載のストロボ写真のデータ(位置は数値表記あり)をエクセルで解析し、以下のことに気づかせる。
『質量mが一定の場合、加速度aは力Fに正比例(式はa=k1F)』
『力Fが一定の場合、加速度aは質量mに反比例する(式はa=k2/m)』
 

③問題練習:『板の上に乗せた質量mの物体を鉛直上向きに加速度aで加速するとき、物体が板から受ける力Fはどうなるか』
 エレベーター内で人が体重計に乗るときの表示の変化の映像(理科ねっとわーく)で、「体重計→板、人→物体、体重計の表示×9.8→物体が板から受ける力」に気づかせ、問題をとらえやすくしている。
 

横立ち独楽 田代さんの発表
 「液体ブルーレット置くだけ」の空容器。口の突起の部分を独楽の軸のようにして指でつまんで回すと、回転しているうちに最初の回転軸とは直交する回転軸に移行する。「逆立ち独楽」ならぬ「横立ち独楽」というわけだ。なぜこうなるのだろう。回転するゆで玉子と同じかな?意外と奥が深いかもしれない。
 

銅パイプを用いた仕事と熱の実験器の製作 平野さんの工作会
 今年の合宿例会では、2部制で工作会を行った。第1部では、今年の5月例会で平野さんが紹介した「銅パイプを用いた仕事と熱の実験器」の改良型を製作した。片側が閉じられた銅パイプに水を入れ、側面を太いたこ糸などで摩擦することで、仕事と熱の関係を演示する装置である。
 右の写真は平野さんが用意してくれた材料・工具一式。いずれも百均やホームセンターで入手できる。しかしながら、これを参加者の人数分用意するのは大変だっただろうと思う。平野さんに感謝!
 

 親切丁寧な製作マニュアル付き。しかもパワーポイントで微に入り細にわたった説明があり、全員が間違いなく工作を進めることができた。誰にでも作れるレベルまで、工程を落とし込むのがこうした工作会のポイントだと思った。右の写真は完成した実験器具。これをC型クランプで机に固定し、銅パイプの部分に、注射器のような道具で水を入れて、太いたこ糸で強くこする。
 

 一生懸命こすれば、銅パイプの中の水が沸騰して、25cmほどの高さに水滴が飛び上がり、湯気も見える。摩擦熱が散逸していく前に水を沸騰させるには、仕事率が大きくなければならないことが実感できた。たこ糸の巻き数は、掲載された写真や動画より1回多くするとよい。動画(movファイル3.2MB)はここ
 

夕食 八王子セミナーハウス食堂にて
 18時からは夕食と入浴のため2時間休憩。食事付き日帰りの人も加えて賑やかに夕食。メニューはちょっと寂しかったが、第二部の工作に備えて、一応お酒は我慢。まわりは夏の合宿の学生さんが多い中、この一角だけ平均年齢が高い。


動滑車を用いた仕事の原理の実験器の製作 平野さんの工作会
 例会第二部のスタートは平野さんのご指導による工作会第二弾。「動滑車を用いた仕事の原理の実験器」を製作した。戸車を動滑車・定滑車として用いた装置である。右の写真は工作材料。このほかにC型クランプが必要だが、それは第1部の工作と兼用する。
 

 左は戸車で製作した動滑車。たこ糸をハンドルとして持ち上げたり、たこ糸部分におもりをつるしたりできる。右は定滑車。L字金具の部分をクランプではさんで机に固定する。ポリ容器には水を入れておもりとする。水の量で質量を自由に変えられる。これらを組み合わせて、何種類もの実験ができる。
 

 中学校の教科書には、「動滑車を用いると力の大きさが半分になる」という記述があるが、もちろん、動滑車の使い方によっては力の大きさが2倍になることもある。まさに、仕事の原理が実感できた。

乾杯! 交友館研修室Aにて
 夜9時。第二部の工作会が終了したところでカンパーイ!ここから先は宿泊者だけ残ってエンドレスモードに突入していく。飲み、食い、談笑しながら、実験や科学談義を楽しむのだ。これこそ合宿例会の醍醐味。

北電ワンダーラボ・科学実験フェスタから 山本のレポート
 8月13、14日に富山市の北電ワンダーラボで開催された「科学実験フェスタ」にYPC関係者4名が出展した。お客は主に小学生、10分でできる工作を、というお題をいただいてそれぞれ工夫されたブースが並んだ。自分たちの出展品はさておき(越さんのブース紹介はあとでご本人から報告がある)、他のブースの出展で目にとまったものをご紹介する。
 鳥取環境大学の足利裕人さんのブースは「ミニパラグライダーを飛ばそう」。アルソミトラに似た薄い発泡スチロールの翼に糸をつけ、小さなフィギュアをおもりとしてぶら下げる。高い位置でつまんでいた指を放すだけで、空中を滑るように飛ぶ。
 詳しくは「ashiさんの部屋」URL: http://space.geocities.jp/ashix58/ へ。
 

 カミカラ(紙のからくり)を主宰する中村開己さんのブースでは、「びっくりダイオウイカ」のペーパークラフト。押しつぶしてスルメのようにしたもの(左)を机の上に立て、ゆびでちよんと仰向けに倒すと、跳ね上がり、空中でくるんと一回転して正立する(右)。動画(movファイル1.0MB)はここ。これは秀逸。さすがプロ!中村さんはこうしたペーパークラフトを集めた本も出版している。
 

 福井県の月僧秀弥さんの「紙コップカメラで光を調べよう」のブース。大小の紙コップ、スチレンコップを組み合わせ、カメラを作る。半透明なスチレンコップの底がスクリーンになっている。レンズはフレネルレンズと針穴の交換式。材料費は安価、子どもでも短時間で工作できる。
 

聞く猿 舩田さんの発表
 舩田さんは昨年「見守っている羊」を発表した際、「干支を使った」と紹介したら、今年は「猿なので猿を…」とリクエストされたので、3猿を描いてもらった。その一つ「聞く猿」である。片眼で見ると凹んでいる顔が普通に(凸に)見える。凸に見えた後、見る位置を変えると常にこちらを見つめ聞き耳を立てているように見える。
 

1Nの力 舩田さんの発表
 物理基礎で力の単位としてNが登場する。中学校でも学習しているはずだが、ピンとこない生徒が多いので実際に体験してもらった。100gのおもりにはたらく重力がおよそ1Nに相当する。
 打点式記録タイマーと組み合わせると弦の定常波を観測できる。タイマーの振動方向を縦から横に変えると波長が2倍になることが観測される。部屋を暗くしてLEDストロボで静止させることが可能である。振動数が50ヘルツなので波長を観測すると伝わる速度が求められ、線密度を計算することができる。
 

L字電流その2 田代さんの発表
 田代さんは、今回もL字型電流にこだわった。注目しているL字部分以外の導線が立方体の稜線上の磁場に悪影響をするので、それをなくしたい。必要以外の導線を数多くのWクリップを連続してトンネルのように被ったりもしたが、大きくは改善しなかった。思いついたのが数本ループ状に巻いたコイルの1本を8の字状にすることだった。期待する結果になるように導線1本を近づけるので、いんちきくさい面もあるが、いい値になる。
 

 田代さんはL字型電流にこだわるが、この測定に使っている「交流磁場ピックアップ」の方に注目する人もいる。むしろ、このピックアップを使って磁場の大きさを探ることの方に重きをおいても興味ある実験ができるのではないかという意見が出された。
 

熱線を通すもの通さないもの(サーモグラフィー2) 高橋さんの発表
 前回紹介したスマホ用サーモグラフィーを使って、熱線(赤外線)を通すものと通さないものを比較してみた。プラスチック板は薄いもの(0.25 mm)はある程度通すが、0.4 mmになると殆ど通さない(写真左)。黒いビニール袋をかぶっても、サーモグラフィーでははっきりと顔が写る(写真右)。黒いかどうかは可視光の問題なので関係ないのだが、デモ効果はある。
 

 鏡に映った自分を撮影してみる。ガラスの鏡(左)とポリカミラー(右)での微妙な違いは、材質や厚みの違いだろうか。鏡はガラスの裏面に金属膜がコーティングしてあるので、光がガラスを往復通過することになる。
 

DVDで丸い虹 越さんの発表
 越さんが2015年8月、12月のYPC例会で紹介したものの改良版。8月の北電ワンダーラボ・科学実験フェスタに出展した。今回のものは電池ホルダーを「ホワイトカード」と呼ばれる厚紙で自作した。これは厚さ0.5mm程度の白い厚紙で、インクジェットプリンターで印刷でき、浅草橋の「シモジマ」で購入できる。「工作用紙」よりも厚く、両面白色なので、用途が広い。
 電池ホルダーの電極としては、銅箔テープを用い、LEDをはんだ付けしておく。側面の周りを輪ゴムで」留めておくが、スイッチを切るときは輪ゴムを外し、LED側の側面を開けばよい。
 写真左では、左側がレーベル面、右側が記録面。そのうち、半透明の記録面を透過型兼反射型の回折格子として用いる。ディスクの貼り合わせ面の間にカッターの刃を少し入れられれば、後は親指の爪を差し込み、ディスクを回しながら指を次第に奥に差し込むことによって、記録面とレーベル面をきれいに剥がすことができる。
 

 1辺が1cmの木の立方体を電池ホルダーの底面の中心より少しディスク側に両面テープで貼り付けておく。こうすると、3通りの角度で机上に置くことができ、ちょっとした卓上のイルミネーションになる。
 写真右は、レインボーシートを付けた眼鏡で、フルカラーイルミネーションLEDを観察しているところ。
 

ZeeBeez 越さんの発表
 ゴム製の半球殻を裏返し(写真左)、吸盤のような形のまま、中央のつまみを持ち自由落下させると、床に衝突した時の衝撃で元に戻り、(元の高さより高く、)1.8mくらいまで跳ね上がるジャンピングトーイ。つまみを回転させながら落とすと、ジャイロ効果により、底面が水平を保ち落下し、鉛直上方に跳ね上がり易くなる。アマゾンなどで540円。動画(movファイル2.5MB)はここ
 

新デザインバランス工作 成見さんの発表
 成見さんは、この夏、科学博物館の物理教室の講師をした際に、参加した子供たちへのお土産としてオリジナルの重心工作を用意した。子供たちが好きなキャラクターとピサの斜塔と割りばしでうまくバランスをとるようにしている。絵のデザイン含め、1枚の紙にすべておさめることや、裏表を正確に位置合わせして印刷することなどなかなか手間のかかる作業たったが、夫がせっせと作ってくれたそうだ。子供たちにも好評だったので、いずれ図案を変えて仮説社で販売予定とのこと。
 

イチゴジャムPC 天野さんの発表
 1700円の価格で昔のFM8やPC8801同等以上の性能を持つPC「イチゴジャム」の紹介。若干のハンダ付け作業有り。AV端子付きTVと古いキーボードが別に必要。Bacis言語で動く。本体のLSIは、ソフトバンクが買収したARMのLPC1114で、これに日本の福野氏がBasic言語で動く細工をした。
 

 TV画面でのゲームも簡単にできるが、凄いのは「in&outポート」があり、サーボモーターを、簡単に制御できることだ。
10 FOR I=1 TO 5
20 PWM2,10:WAIT60
30 PWM2,200:WAIT60
40 NEXT
 こんな短いブログラムでサーボモーターが動く。左の写真はレーザー光線をプラコップ底面の薄膜に貼った鏡に当て、その反射光線をこのサーボモーターに取り付けたもう一枚の鏡に導いて壁面にオシロスコープのような振動波形を投影しているところ。
 天野さん曰く、「60おじさんは、Basic言語で、大喜びだ~」

科教協ニュースでの議論から抗力を弾性で説明することの問題性 鈴木健夫さんの発表
 鈴木健夫さんは科教協ニュースで論争中の「抗力を弾性で説明することの問題性」をレポートした。東京物理サークルの合宿にも持って行ったが、人により解釈が違い、議論がすれ違うまま経緯しているそうだ。YPCでは同意が得られるが、他の場ではまとまらないという。「科教協ニュース」での論争は続くので、ぜひそれをご覧いただきたい。「科教協ニュース」10月号にも最新の論説が載るはずだ。
 もうひとつ、力に関する議論の中で得られた関連情報だが、中学校の指導書に右の写真のような記述(傍線部)があるという情報提供があった。教科書の記述には誤りはないが、指導書には検定がないのでこのような誤りがすりぬけてしまう。都立高入試の例の誤りの件も記憶に新しい。誤った概念が公然と流布されるのは困ったことだ。
 

科教協静岡大会報告・力と運動 武捨さんの発表
 武捨さんは2016年7月例会で発表した「力と運動」の授業報告を科教協でもレポートしてきた。合宿例会の締めくくりとしてその報告があった。科教協での討議の様子はYPCニュースを参照のこと。
 

 科教協でもそうだったが、YPCでも用語の捉え方はひと(教員)それぞれである。慣性についての議論は、宿泊室での3次会に場所を移して深夜3時まで続いた…。
 

朝食 食堂にて
 0時で研修室での例会を終了した後も、部屋に戻って物理談義は延々と続いたらしい。その後のことは取材者もほとんど記憶がない。
 一夜明けて、7時半からの朝食では、こころなしかみんな元気がない。幸い、若手の参加も増えてきたとはいうものの、もう、お世辞にも若いとは言えない方々は無理は禁物。体をいたわりながら科学を楽しもう!世代交代を真剣に考える時が来ているかな。


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