例会速報 2019/04/21 鎌倉学園中・高等学校


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授業研究:授業開き みんなの発表
 市江さんの授業開きでは、今年から担当することになった中学3年生に向けて、これまでも何度か例会で紹介のあった「血液型性格判断」の授業を行った。生徒に性格特性と血液型をアンケートの形で聞き、クラス全体の結果を表にまとめ、その関連性を考えさせる。結果は十中八九、写真のように性格と血液型がほぼ一致する。一応の結論を得た後に、用いたアンケートはあらかじめ性格特性と血液型を入れかえてあることを公表し、それにもかかわらず、性格と血液型が一致してしまうのはなぜかをあらためて考えさせる。この授業を通して、生徒に暗示による思い込みや先入観を排除することの難しさや、科学的な考察には懐疑心が大切であることを伝えたいと市江さんは考えている。
 

 武捨さんの授業開きは、YPCで以前教えてもらった「運動」の意味を考えさせる質問からはじめた。「動くこと」「移動すること」の他、「力」や「エネルギー」を用いた考えが多いが、生徒からは「時間の経過」に言及する考えはほとんど出てこなかった。さらに、2種類のストロボ写真を見比べさせることで、運動を知るためには「時間の経過」と「位置の変化」の両方を考える必要があることを伝えた。
 

 また、運動の表し方の教材として、おなじみの電車の運動を扱った。速度計の映像からv-tグラフを描くだけでなく、そのv-tグラフの面積からx-tグラフを描いたり、x-tグラフの接線の傾きが瞬間の速度を表すことを確かめたり、実際の運動を題材に基本的な事項を導入するよう心掛けた。
 

 山本の教育方法論の授業開きは教職課程の学生に向けて「授業開きってこうやるんだよ」というネタ紹介で始まる。YPCで仕入れた他のメンバーのネタも紹介している。自分自身が高校で教えていた頃は、どの科目を担当しても、チャールズ&レイ・イームズ夫妻の9分間の短編映画「Powers of Ten」(写真左)を最初の時間に見せていた。宇宙や物質の階層構造と共に、ミクロとマクロの世界、物質と生命の深遠なつながりを暗示する、科学の入口にはもってこいの内容である。1977年の作品なのでもう42年前の映画だが、CGも使わずに作ったとは思えない映像である。今の学生には現代版の同趣旨の作品「Cosmic Eye」(写真右)も合わせて見せるが、ナレーションがない上にズームのスピードが速すぎて(3分間)これだけでは使いにくい。「Powers of Ten」は不朽の名作で、今でもこれを超えるものはないと思う。大学の教員でもいまだに使っている人が少なくない。
 

 喜多さんのさんの授業開きは「8つのマグネット」。この2月に「はやぶさ2」のニュースがあったので、小惑星「リュウグウ」の位置がどのあたりかを予想してもらった。
 『8つのマグネットはあるものの位置関係を表している。何か予想してみよう。』(写真左)
 大体誰かが太陽系の惑星の位置と当ててくれる。その後、『リュウグウはどの辺りかな』と、二・三人にマグネットを渡して予想するところにマグネットをつけてもらう。クラスに一人くらいは地球と火星の間だと正解してくれる。その後、写真右の新聞記事を配布する。記事をよく読んでもらって、この記事がいつ発行されたか考えてもらう。答えは2018年6月28日である。記事の中に「はやぶさ2」が「3年半かけて32億キロを飛行。リュウグウから20キロ離れた探査拠点に着いた。」とある。そこで「平均の速さを計算してみよう」と。皆さんも計算してみてほしい。
 「はやぶさ2」は現在は太陽を隔てた向こう側にいて、人工クレーターを作る運用に成功し、間もなく2回目のタッチダウンに挑む。
 

   関連して市原さんからの情報提供。 アメリカの科学紹介サイトUniversal-Sciが、 タイムリーに先週紹介していた動画(gifアニメ)である。小惑星が、大質量の木星に引っ張られることで 内惑星側に落下して地球に衝突することが防がれている。地球が木星に守られている、とも言える。こんなことまでわかる時代になったんだ。

 伊藤さんの授業開きは「ペーパータワー作り」。今年度の物理の授業は9人で活動している。その授業の中で班で活動することが多くなりそうなので仲間つくりをさせるためにペーパータワーを作らせ、班で競争させることを取り入れた。3人1組の班を指定し、より高いペーパータワーを作るためにはどうすればいいのか各班で作戦を立てさせ、実際にタワーを作らせるというサイクルを2回行った。
 一番高くできた班は最終的に120㎝の高さのタワーを作ることができた(写真右)。生徒は主体的に活動し、生徒に書かせた感想からは「楽しかった」という言葉が多く見られた。次も機会があったら授業に取り入れたいと伊藤さんは思っている。
 なお、今回のペーパータワー作りは、岐阜県教育委員会の「『みんなで子育てIV』家庭教育プログラム次世代編」の指導案「2 仲間と協力しよう」を参考にしている。
 

ストロー笛 天野さんの発表
 河原にある竹で竹笛をつくることは昔はよく行われていた。天野さんは、竹の代わりにストローでできないかと考えた。できれば廉価で筒の長さを変え気柱共鳴の実験ができる。ここではプラスチックストローを用いたが、昨今はマイクロプラスチックの環境問題が取りざたされるので、紙のストロー(筒状のもの)でも試してみたいと、天野さんは思っている。
 

気柱共鳴 水上さんの発表
 水上さんは、気柱共鳴の授業プランを披露した。用意したのは内径13㎜の塩ビパイプで、長さ33.0㎝の管Aと10.5㎝の管Bである。
 授業の進行はこうだ。
① 黒板にセットしたデジタル温度計は「26.4℃」(左の写真の黒板に磁石で貼り付けてある)
② 管Aの長さを巻き尺で測定(33.0㎝)
③ 一端を掌でふさいで閉管とし、他端に唇を押し当てて弱く息を吹き込むと「ボー」と255Hzの音が出た。(低周波発振器ソフト(JSTの『発音』)が出す音と比較して参加者全員で特定)
④ 息を強くすると765Hzの音が出た。(プリントを投影した白板スクリーンに手書きで書き込んでいく)
⑤ 教科書の記述「空気が動けない管底は節、自由に振動できる管口は自由端になる。よって気柱内部の定在波は管底が節、開口端(管口)は腹になる。」を確認して③と④の管内の定常波の様子を想像する。
⑥ 同じように短い方の管Bを鳴らすと④と同じ765Hzの音が出た。ところが管Bの長さを測定すると、10.4㎝しかない。(⑤と⑥は上段左側の写真)→⑤で想像した図は事実と違う。
 

⑦ これまでの作業①~⑥を再検討する。→ウェーブマシンの定常波の写真を見つけた。→節と自由端の距離は節~節の長さの半分より短い。→「⑤の開口端は腹になる」がおかしい。(腹は開口端より内側あるいは外側?)
⑧ 管Bの長さ(10.8㎝)は管Aの長さ(33.0㎝)の3分の1より短い。→「腹が開口端の外側にあれば」つじつまが合う。→教科書の「開口端補正」に関する記述を確認する。
⑨ 本日の実験より管内の空気中における音速を計算できる。管Aが3倍振動(f3=765Hz)しているとき、管内の定常波の節~節の長さλ/2=(管Aの長さ33.0㎝)-(管Bの長さ10.8㎝)=22.6㎝になるので、波長λ=45.2㎝=0.452m。したがって、音速V=fλ=765×0.452=346m/s
⑩ この時点で黒板の温度計は26.6℃を示していたので、実験中の気温は(26.4+26.6)/2=26.5℃とする。教科書中の音速の式V=331.5+0.6tより、音速V=331.5+0.6×26.5=347.4m/sとなるので、⑨と⑩の相対誤差は{(347.4-346)/347.4}×100=0.40%である。
 

ダイソーの注射器 山本の発表
 百円ショップ・ダイソーのおもちゃ売り場で「おもしろ!注射器」を見つけて、試しに購入してみた。fake syringeとは書いてあるが、使ってみたところ、まぎれもない50mLのディスポーザブル注射器である。おそらく滅菌処理していないだけだろう。
 つまり、物理工作の素材としては全く問題がないということだ。簡易真空ポンプなどの材料として活用しよう。本物は200~300円はするから、108円は格安だ。

箔検電器の箔はなぜ開く? 山本の論文紹介
 昨秋と今春の物理学会で新潟大学のグループから発表された話題を紹介した。
 箔検電気のガラス容器はわずかな導電性を示し箔が開く原因の主要な部分を占める。したがって、箔に溜まった電荷同士の反発力によって箔が開くとする、従来の説明は不適切で、少なくとも十分ではない、という主張である。教科書の記述を改めなければならないかもしれない。
 発表者の小栗美香さんらは、数々の実験や詳細な理論的計算によりこのことを追求してきた。高等学校の課題研究でも取り扱えそうな話題なので、追試を試みてはいかがだろう。
 参考資料は以下の通り。
小栗美香他「箔検電器のコンデンサー構造と動作原理」物理教育(2019)Vol.67,No.1
i伊藤克美他「物理教育の話題:箔検電器実験による電位概念の形成とその教材化」新潟大学教育学部紀要・10(2)
小栗美香他「箔検電器の動作原理を解明する一連の実験」新潟大学教育学部紀要・11(2)
小栗美香他「導体系理論でみた箔検電器の動作」新潟大学教育学部紀要」・11(2)

青森県の高校入試問題をめぐって 山本の発表
 この春の青森県の高校入試の理科の問題に、浮力に関する出題(左)があった。同県教育庁は(2)イにおいて複数の正答があるとして、実施後二度にわたって採点基準を修正した(右)。二つの答えが一致しないのはずさんな作問だったが、正答に至る複数の道筋があること自体は何の問題もない。むしろ考える力を育む意味では推奨されるべきだろう。しかし、問題点はそんなことではない。
 当該問題は「図3のとき,容器の底面が物体Bを上向きに押す力は何Nか」という問いである。理科教育MLでは着底した物体に浮力がはたらくかどうかが話題になった。N氏が問い合わせたところ、電話に出た指導主事は「浮力は存在するが隙間に水はなく、密着しているとして解く問題」だと答えたという。さらにF氏の問い合わせには「物体の下側に水があるかどうかは関係ありません」と回答したというのだ。物体の下面に本当に水がないなら、浮力がはたらくわけはない。ずさんな出題以上に、無知な電話回答で担当指導主事は墓穴を掘ったことになる。
 

 現実の問題としては、本問のように水の中に沈めていった物体の下面に入り込む水を排除することはほぼ不可能である。たとえ着底しても物体と容器の底との間に薄い水の層があり、浮力はちゃんとはたらく。しかも、物体や容器の底は完全に滑らかではないからところどころ接触があって、垂直抗力もはたらくのである。中学生向けの出題とは言えないが、問題としては成立する。指導主事は「薄い水の層が必ずあります。しかも容器の底とも接触しています。」と言い切ればよかったのだ。とはいえ、大人でも正しく理解できないこんな現象を、出題すべきではなかった。
 ところで、「下に液体が入り込まなければ浮力は生じない」ことを示すのに、従来よく行われてきた演示実験として、「水槽の底にパラフィンブロックを置いて、上から水を注ぐと浮いてこない」実験や、「容器の底に鉄などのおもりを置き、上から水銀を注ぐと浮いてこない」実験(写真)がある。いずれも振動を与えて下に液体が入り込むと浮かぶ、というオチがある。前者は水をはじくパラフィン、後者は水銀に濡れないガラスや金属という特殊な組み合わせを作り、あとから液体を注ぐのがミソである。表面張力が重要な働きをしている。
 

 さて、ここからが本発表の問題提起である。後者の水銀の実験をやりながら、周囲を真空引きしてみよう。そう、水銀の上にはずっしりと大気圧が加わっているのだ。水銀柱にして76cm分もの圧力だ。それを除くとどうなるか。なんと、沈んでいたおもりが自然と浮き上がってくる。動画(movファイル3.0MB)はここ
 おもりと容器の隙間にあったわずかの空気層が膨張しておもりを押し上げたのだろうか。隙間が広がってそこへ水銀が入り込んだのは間違いない。さて、ここで問題。浮かぶ前のおもりは下の空気からどんな力を受けていただろう。その力は「浮力」と呼ぶべきだろうか。
 一般に、二つの流体が境を接する境界に浮いているような物体についての「浮力」の議論はややこしい。そういえば空気も流体だから・・・
 この問題は大変奥深いので、皆さんにもじっくりと考えていただきたい。本日はここまで。
 

動画解析ソフトKinovea 益田さんの発表
 スポーツ用の解析ソフトだが、物理の運動の解析にも使えそうだ。フリーのソフトで、Windows、Macどちらにも対応している。
詳しくは、こちらのサイトを→ https://www.kinovea.org/
 

 動画内の対象物の軌跡を二次元で記録し、時刻、x座標、y座標のデータをExcel形式で書き出してくれる。速度の大きな運動の場合には、ハイスピード動画での解析がお勧め。
 iPhoneのハイスピード動画でも十分に解析できたとのこと。平面の運動の解析に効果がありそうだ。課題研究や探求活動にも使えるソフトだ。みんなで使ってみて活用例を共有したいものだ。

二次会鎌倉駅前小町通り「あじたろう鎌倉店」にて
 11人が参加してカンパーイ!大型連休も間近、トップシーズンを迎える日曜の鎌倉の目抜き通りはさすがに混んでいた。昼間は歩くのも大変だったことだろう。鎌倉学園で例会の後は、いつも「あじたろう大船店」を贔屓にしていたのだが、閉店してしまったので、初めて鎌倉店を使ってみた。新年度を迎え、まもなく元号も改まる。新たな気持ちで今年も授業にがんばろー。


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