例会速報 2022/05/15 Zoomによるオンラインミーティング


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授業研究:いつ教えるか、物理のお作法 櫻井さんの発表
 櫻井さんは、高2物理基礎(週3回)の授業初めに「物理のお作法」に関する授業を7回分実施したことについて発表した。
 具体的には「五感を通して観察をすること」「単位や有効数字を正しく扱うこと」「正しくデータを取り扱うこと」「精度よく手際よく測定実験を行うよう心がけ、手技を磨くこと」「研究不正にあたる行為を行わないこと」など、物理学をやるために必要なことをあの手この手で身につけさせるものである。
 

 実際に、単位の正しい表記や有効数字の扱いは、できれば習慣づけることで特段意識せずにできるようにさせたいところだが、これが中々難しく、1年間あっても身につかない生徒が多く出てくるのが現状である。それならば、思い切って最初に全部説明しておき、後で出てきたら参照できるようにしておくのはどうか、というのがこの授業の企図であった。

 例会参加者から、こういったことを教えるタイミングとして最も適しているのは、それが必要になったときだろうという指摘もあった。確かに「必要だから学ぶ」というモチベーションは重要である。そのためには、どこで学ばせるかをきちんと定め、授業や生徒実験をさらに工夫して、それが必要になる場面をお膳立てする必要があると櫻井さんは感じた。
 また、「不確かさを含むデータの取り扱い」には特に疑問や意見が多く集まった。繰り返し測定を行って平均を取る理由の説明を行い、必要なことであると信じてもらうことがこの授業のゴールであるが、それにしては難解な統計学をとり上げすぎであり、そもそも生徒が物理基礎の学習自体を諦めてしまうのではないか、という厳しい指摘もあった。
 

 物理を学ぶ、授業すると一言に言っても、授業のゴールや1年のゴールをどのように設定するか……例えば「物理が好きであること」「物理学を学びたいと思うこと」「物理学が科学的に誠実であると信頼できること」「妥当な物理概念を獲得すること」「物理学実験に必要な能力を身につけていること」「物理学を自律学習できること」は同じようで全く違う。ゴールを何にするか、何を重視するかによって、取り扱うことや授業のやり方も変わってくるし、なかなか両立が難しい目標もある。授業って難しいなあと、櫻井さんは改めて感じている。
 

比例 菅野さんの発表 
 YPC二次会で、生徒たちは比例についてわかっていないという話が出た。
 菅野さんも化学を受け持ったことがあるが、化学ははじめから比例計算で教えていく習慣がある。倍数比例の法則・定比例の法則とか、始めから比例を使うという感じがする。菅野さんは「化学は比例計算が多いからね!」と言いながら教えていた。
 そんな中、昨年、気体分子運動で一定時間に分子が衝突する回数・・・逆数を取ればいいよね?と説明していたところ、生徒達から「まったくピンときません」言われたことがある。これを比例計算で
 1回:2L/vx[s]=x〔回〕:t〔s〕だからx〔回〕=vxt/2L
と説明したら納得してもらえた。生徒は比例計算には慣れているようだ。
 特に比例を意識して物理の教科書を見直したとき、比例の出番はどんなところにあるだろうか。
・y=ax これは1:a=x:y つまり比例は直線関係を示している。
・速度計算:72km/hは何m/sか。 72×1000:3600s=v:1s
・静止している物体が2つに分裂するとき。速さとエネルギーが質量に逆比例。
 運動方程式は複比例、モーメントは逆比例に当たる。菅野さんがリストアップしたメモ(PDFファイル36KB)はここ

 もちろん、何でも比例計算で解けるわけではない。複雑なものは微分方程式になり、関数関係も直線ではなくなる場合もあるのだが。

 受験で必要なため、物理と化学を選択する生徒が多い。つまり化学で比例計算に慣れている生徒が多いことから、(物理は)ディメンションから教えることが本質と思いながらも、理解の一助になるのであれば、物理でも比例が使える所は比例で教えてもいいのかも知れないと菅野さんは思った。

 おまけとして紹介された資料。日本初の国定教科書として編纂された通称「黒表紙」である。尋常小学校の教科書では、第六学年で比例計算がたくさん扱われている。昔の教科書は、比例計算の大切さを意識していたのであろうか。


ふしぎな「タマゴこま」の紹介 舩田さんの発表 
 舩田さんが紹介してくれたのは、タマゴの形のこまのおもちゃ。横になった状態で回転させると、途中で起き上がって縦の状態での回転となる。回転のエネルギーが大きくて位置エネルギーが小さい状態から、回転のエネルギーが減り位置エネルギーが増えた状態に自然に移行する。この後は位置エネルギーも回転のエネルギーも減少していき両方なくなったときに止まる。
 物理おもちゃとして有名な「逆立ちごま」の挙動に通じるものがある。
 大人のためのおもちゃサロン「TOIQUE(トイーク)」で入手可能。写真も同サイトから借用した。動画もある。

5月頃に起こる化学実験の事故 山本による市原さんの代理発表 
 学校行事の日程変更のため予定していた発表ができなくなった市原さんに代わって、山本が代理発表した。
 毎年5月頃になると、全国各地で理科の実験中の硫化水素の事故が話題になる。中学2年の化学分野で、この時期に鉄と硫黄の反応実験を行うからだ。学習指導要領解説に例示されており、教科書にも載っている定番実験だ。この実験では鉄と硫黄の粉末混合物を二つの試験管に取り分け、一方は加熱して硫化鉄を得る。この過程でも硫黄と酸素の反応により若干の二酸化硫黄が発生し、これにも刺激臭がある。その後未反応の混合物と、加熱して硫化鉄となったものに、それぞれ少量の希塩酸を加えて反応の違いを見る。このとき後者で発生するのが硫化水素である。希薄な硫化水素はよく「腐った玉子の臭い」とか「温泉の硫黄臭」などと表現される独特の臭いを感じる。単体の硫黄は無臭なので、「硫黄臭」は硫化水素臭と呼ぶのが正しい。濃厚な場合、死亡事故もある危険なガスであるが、身近で危険だからこそしっかり学習させたい教材でもある。
 この実験で毎年のように事故が報じられるのは、生徒実験(班実験)でやると、量を多く発生させてしまうのだろうか。市原さんは実際に自分で実験を指導する段になり、過去の教科書にも遡って、この実験に関して調べてみたら、記載されている試薬の分量に変遷があることがわかった。
 

 今から15年ほど前の教科書では「鉄粉14gと硫黄8gを混ぜる」と書かれている。ところが、そこから5〜6年経つと半分の分量になり、最新版では4分の1になる。別の会社の教科書では、鉄粉1.4gと硫黄0.8gと書かれ、10分の1である。
 分量を減らしても、それでもまだ全国的に事故が起こるということは、実験の安全管理には注力しなければならない。かといって、これが「実験をしないようにしよう」という方向には行ってほしくない。事故を起こさないように気をつけつつ、生徒の体験・経験の機会を摘まないよう工夫したい。
 この話題では小中学校の理科を担当したことのある参加者からたくさんの情報提供があり、大変盛り上がった。この実験はできればドラフト設備のある実験室で行い、反応後速やかにドラフトに入れることを指示したいが、残念ながら小中学校の理科室の設置基準にはドラフトは含まれていないのだそうだ(特に希望して設置されている学校はある)。生徒にはあらかじめ臭いがあること、過敏な人は咳が出たり気持ちが悪くなったりする場合があることなどを予告し、深く吸い込まないことはもちろん、不快に感じたらすぐに廊下に出るなど退避行動を取るよう指示しているとの実践報告があった。また、鉄と硫黄の混合物は加熱しなくても固体表面で反応し、発熱反応のため温度が上昇して、忘れた頃に急速に反応が進むことがあるので、混合物を長時間放置することは危険だとの指摘もあった。
 

観点別評価について 櫻井さんの問題提起と討論 
 櫻井さんから、今年度から高校でも正式に導入されることになった「観点別評価」について未だに納得できない点があると問題提起があった。今回の例会では発表項目が少なく時間に余裕があったため、このことについて例会参加者でオンライン討論をした。
 櫻井さんが感じている最も大きな問題点は「成績資料から観点別評価のABCを決定し、観点別評価のABCから評定をつけると、もとの成績資料からの合計点に対して評定が逆転することがある。そのようにしてつけられた評定によって生徒の推薦や内申、進級か原級留置かをつけてよいのか?」ということである。他にもたくさんの疑問の投げかけがあり、それらについて皆で議論した。
 今、日本の教育評価は大きく変わろうとしている。今日までの観点別評価に関する議論や、これまでの文科省・自治体の教育委員会により発表されている評価法の振り返りや解釈、既に観点別評価が実施されている小・中学校でも悩みながら進めていること、観点別評価を入力するだけで勝手に評定を決定するシステムが導入されていること等、たくさんの議論や情報交換が為された。そもそも学力の「測定」としての100点満点のテストの精度・誤差範囲はどのくらいだろうという投げかけもあった。
 YPCでこのような議論をしたのは初めてであるが、まとまった時間を討論に当てることができて、有意義なひとときだった。
 

二次会 Zoomによるオンライン二次会
 例会本体には24名が参加、二次会には11名の参加があった。二次会はドリンク持参でフリートーク。例会の話題が尾を引くこともある。
 高等学校は今年度入学生から新学習指導要領がスタートしている。新課程の教科書の変更点なども情報交換された。物理には大きな変更はないが、来年素スタートする四単位の「化学」では従来の「熱化学方程式」(日本ローカルだった)が廃止になり、国際標準の「エンタルピー」を用いた説明に変わる。下図は「学習指導要領解説」の該当部分の抜粋。
 そのほか、夏から海外青年協力隊に参加するメンバーに対し、派遣経験者からのアドバイスもあった。現地でどんな実験が可能かなど、みんなでアイデアを出し合った。YPCの国際色が感じられた夜だった。
 


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