例会速報 2022/09/23 川崎市高津市民館・Zoomハイブリッド


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授業研究:製作した定力装置を使った運動方程式の導出実験櫻井さんの発表 
 櫻井さんは、自作の定力装置を用いた運動方程式の導出実験授業について発表した。以下、櫻井さん自身のレポート。
 運動方程式を導出する、あるいは慣性質量を測定する生徒実験を実施したいとき、ばねばかりを用いて力学台車を引き、記録テープを用いて運動を記録し、測定値から加速度を求めるのが一般的なやり方の1つであろう。その際にばねばかりを使って台車を一定の力で引く必要があるが、その精度は生徒の手技に大きく左右されてしまうものだった。
 定力装置が生徒数、グループ数だけあれば改善できるが、ひとつ17000円と高価なものをたくさん揃えるのは、予算的に望ましくない。しかしよくよく調べてみると、定力装置に使われている「定荷重ばね」は、電車の窓やプロジェクターのスクリーン、取り出すと前に出てくる商品陳列棚などに利用されている部品であり、例えばモノタロウで「定荷重ばね」と検索すると、販売されている商品がヒットする。0.49N、0.98N、1.96N、3.92Nの定荷重ばねを購入して使い、さらにプラスチック滑車を使って引く力を1/2倍力、1/3倍力に変更したものも作り、引く力6〜7種類の定力装置を作り、運動方程式を導くための生徒実験に利用した。
 

 注意すべき点としては、既にヤガミの定力装置でも指摘されていたことではあるが、応力にヒステリシスがある。すなわち、伸びるときと縮むときで引く力が異なる。台車を引かせるときには定荷重ばねが戻るので、カタログの値通りの力で引いているとは考えてはいけない。戻るときの力の大きさを別途測定しておく必要がある。
 運動を記録する側には、2021年6月に発表したレーザー式測距記録デバイスを利用する。測定された時間と距離のデータはレーザー距離計で計測され、自動的にmicroSDに記録される仕組みだ。複数回の繰り返し測定も、短時間で実施できる。例会では、この実験を実演した。
 

 例会に参加した先生方からは、構造が単純明快で教材として望ましいという、よい評価を頂いた。また、滑車を使った倍力装置部分は、長さを調整してコンパクトにできるだろう、あるいは滑車を使って向きを変え、装置をより短く仕上げることができるのでは、という改善案を頂いた。
 

 櫻井さん提供の授業の資料はこちら→https://www.dropbox.com/t/HD34gnZhxrU5yZPl
 

上橋さんからいただいたおもちゃ 市原さん親子の紹介(上橋さんも応援)
 市原さん一家は夏休みに姫路に寄った際に、上橋さんのご自宅にうかがい、Webにも公開されている工作品の数々を見せてもらった。そのときにお土産としてたくさんのおもちゃ(作品)をいただいた。市原さんの長男さんは手慣れた手つきで演示・説明し、オンラインで参加していた製作者の上橋さんも、解説で応援してくれた。
 まずは太陽光で発電するモーター。ソーラーパネルにコイルを貼り付けてソーラーパネル自体が回転するモーター。特定方向に面が向いた時だけ電流が流れるので、それ自体が整流子としての役割をはたしている。シンプルであり原理むき出しの教材になる。
 

 左の写真は洗濯バサミ鳥。100均のクリップに3Dプリンタで作製した鳥やギミックを取り付け、洗濯バサミをひらくと水を飲む仕草をする。可愛らしい動きで何度も開いたり閉じたりしてしまう。
 右の写真はペンライトを改造したもので、赤・緑・青の3色が高速点滅している三色LED。静止していると白色に見えるが、ライトを手で振ると色が別れて見える。
 

 マブチモーターを手回し発電機にして、ロボットを歩かせるおもちゃ。ハンドルを逆回転させると後退するが、このときLEDの目の色が変わるように作られている。NHK Eテレの朝の番組0655に出てくる「歩くの歌」のロボットを模したクランク機構の動きがユーモラスでおもしろい。
 

 下は赤外線で障害物を把握する「絶対衝突しない車」。照射した赤外線の反射を感知すると車が停まる仕組みで、障害物となる壁が、アルミ箔、白い紙、黒い紙でとまる距離が違う。
 


 白または黒の紙は乱反射になるので、壁に正対してなくても停車するが、アルミ箔の壁の場合は、壁が斜めを向いていると反射光が車の方に戻らないため静止しないで近づいてしまう。中高の光の単元の演示教材としても使えそうだ。

光の波長より小さい超微細孔のフィルターによる円環模様 夏目さんの発表 
 夏目さんは「孔が光の波長より小さい超微細孔フィルターのレーザー光通過による円環模様を探求~新作教材を目指して」と題して、この夏の物理学会での発表内容を紹介してくれた。
 加速器から出る粒子線を使って均質な内径の孔を貫通させる技術が進展している。孔の内径が0.2~0.8μmのものが作製可能になっている。実際、化学/生物学実験用のフィルター商品(商品名:トラックエッチドメンブレン、ARBROWN Co )になっている。図1の写真に示したように、樹脂の平板上に均質なきれいな孔が開いている。現在、これを100枚セットで数万円で購入出来るようになったので1枚数百円の教材として使える。
 ここでは、本来の微粒子の濾過(識別)としてではなく物理の光学教材として使ってみた。図2の写真のように、自室で手持ちのレーザーポインターを使って、内径0.2μmの孔の開いている板へあててみた。そして、板の表面へ降ろした垂線から20°ずらした。スクリーンには、直進した部分が明るく丸く光るのは当然として、それを含むようにして円環模様ができた。夏目さんは文献を調べてみたがこれは自明な現象では無いようで「新発見」だと思ったという。
 

 そこで、夏目さんは大学の研究室の協力を得て、きちんとした装置(左図)で実験をした。その結果が図3である。青(に近い)光(波長0.355μm)、緑の光(波長0.532μm)でほぼ同じ半径の円環が得られた。ただし構成している円環の幅は緑の方が広くなっている。夏目さんはこの現象の理論的解析を現在進めている。
 

 図4に示したように、光は媒質中から孔(真空/空気)に出る壁で全反射を起こすが、わずかに浸透するトンネル成分(エバネッセント光)がある。そのような「孔内減衰波」と、結果的に孔の外での「伝播波」で作られる円環模様の形成とのつながりをきちんと説明する問題が残されていると夏目さんは考えている。
 本研究の共同研究者は小出功史(QuantumPointContact)である。この内容は日本物理学会2022年秋(東工大 大岡山)物理教育分野で原著講演(13pW321-11)をした。
 

「チコちゃんに叱られる」出演こぼれ話 櫻井さんの発表 
 櫻井さんは9月16日本放送のNHK「チコちゃんに叱られる!」に、東京理科大の川村康文教授と一緒に出演した。テーマは「風にあたると(常温のはずなのに)なぜ涼しいのか」であった。
 原理は、空気の熱伝導率が低いため、体表付近の空気の温度が体表面温度とほぼ同じになり(境界層)、体表から離れる方向に温度勾配を生じ、風が吹くとその空気が入れ換えられ、温度勾配が急峻になることで体表から外への熱伝達が激しくなり、涼しいと感じるということだ。
(画像はNHKの番組紹介サイトから)


 例会では、日本機械学会の「伝熱工学」テキスト(画像はAmazonのサイトから)が現象の説明にとても役立ったこと、撮影時に借りたサーモトレーサーが2018年12月の放送で登場したものと同じものであること、舞台設備としては一般的なオイルスモークを利用し、油滴からの黒体放射を見ることでサーモに気温を映していること、手の表面に生じる境界層だけでなく全身の境界層を見ようとしてうまくいかなかったことなどの裏話がレポートされた。以下、櫻井さんからのメッセージ。
 「いろいろ大変でしたが、地上波はやはり影響力が大きく、多くの人に見てもらえたことが伝わってきました。見てくださった皆様、ありがとうございました。」

職場の紹介(ガーナから) 伊藤さんの発表 
 伊藤さんは青年海外協力隊として2022年7月末よりガーナに赴いている。8月例会に続き、ガーナからのオンライン参加で現地の所属先の様子を写真で報告してくれた。
 伊藤さんは地域の中学生が理科の授業を受けに来る公立の施設に所属している。地域の公立学校は理科の道具を揃えていない。生徒達は理科の授業のためにこの施設を訪れる。1クラスは8人から40人程度でバラツキがある。
 

 施設にはヨーロッパから提供された実験道具などが保管されている。日本では見慣れない実験器具もある。文房具などは商店で手に入るが、日本の「百均」に相当するような何でも手に入る店はないそうで、実験・工作材料の調達には苦労しそうだという。
 

 着任した伊藤さんの最初の仕事は「実験室の整理」だった。まずはじめに薬品の瓶などが置かれていた教卓の上を片付け、準備室に薬品を集めるとともに教卓の上に物を置かないようにした。できるだけ生徒が授業に集中できるようにするためだ。伊藤さんはさらに準備室の整理をしたいと考えている。
 番外編として、日本大使公邸を訪問したときの様子(写真右)も報告があった。現地での研究中に黄熱病に倒れた、野口英世の顕微鏡が展示されていたという。
 伊藤さんの発表資料はここからダウンロードできる。
 

二次会 Zoomによるオンライン二次会 
 例会参加者は対面11名、遠隔14名、計25名だった。慎重を期して二次会は帰宅後の20時からZoomのオンラインで行われ、10名の参加があった。
 二次会では各自ドリンク持参で気楽に語り合う。いろいろな話が飛び交うが、例会の発表テーマとの関連で、上橋さんの新作「ダンシング・チコちゃん」の披露があった。市販の「踊る!猫田係長」を改造したもの。
 改造記事と上橋さんが公開している動画はここ:https://eneene7.blogspot.com/2022/09/blog-post.html


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