2015年7月4日(土)愛知工業高校での例会の記録です。


 金属中の電子の運動 パチンコ台モデルと雨粒モデル (飯田さん)  

 

 電気抵抗の式R=ρl/Sをミクロな視点で説明する記述が教科書にあります。
 何十年か前に問題があると指摘されていたパチンコ台モデルでの電気抵抗の導入ですが、飯田さんの倉庫に眠っていた十数年前の教科書に記載されていました。そこで、パチンコ台モデルの問題点について検討した結果を紹介してくれました。

 パチンコ台モデルとは、電子(パチンコ玉)が電場から一定の力を受けて等加速度運動し、熱運動している陽イオン(釘)に衝突することで抵抗を受け、陽イオンは熱運動(振動)しないというモデルです。
 この教科書のモデルでは、実際には衝突と衝突の間隔はまちまちなものの、簡単のためこれを平均すると、どの電子(パチンコ玉)も時間tごとに衝突しながら進むものと仮定しています。
 また、自由電子は陽イオンと衝突するたび、そのまでに電場から得たエネルギーを失う(速度0となる)との仮定もあります。
 教科書を見て驚いたという飯田さん。
 飯田さんは、電子の平均移動速度が教科書のモデルではeEt/2m(∵ma=eEより、a=eE/m v=eEt/m)なのに、大学の教科書等はeEt/mとなっていることに強い疑問を感じ、教科書のパチンコ玉モデルを検討しました。

 飯田さんは、電場から受ける加速度は一定のため、衝突直前の最終速度が速い電子は衝突間隔が長くなり、遅い電子は衝突間隔が短くなることを考慮していないこと仮定としてがまずいのではと指摘がありました。

 山岡さんとの帰りの立ち話の中で、今はどの教科書でもこのモデルは使用されておらず、雨粒モデルだけが記載ことが確認されました。

 物理には近似や仮定がよく用いられますが、どこまでがいいかの判断は、やはり非常に繊細でセンスが求められますね。
 確かにこの教科書(写真下)のモデルは仮定が現実離れしています。


 投射運動の軌跡 (前田さん)  

 これまでもよく知られてきた実験ですが、初速度が変化しても同様の結果が得られることを確認できるように、初速度方向に伸縮できるように工夫しました。

 仕組みはプラスチックばねを同じ長さに切り紐で引っ張ることで、張力によって各々のばねを同じだけ伸ばすというものです。伸ばし終わったら、ばねの伸び具合を確認し微調整し、紐を巻き付け固定します。
 レールも磁石で固定してあるので、角度の融通がある程度効きます。
 今までのものも素晴らしかったですが、さらに有意義な改良が加わりました。
 


投げ上げと最高点の高さ(前田さん)  

 鉛直投げ上げの初速度V0[m/s]と最高点までの上昇距離H[m]の関係を確認する実験をやりたいと、風量が調節できる安価なブロワーを使って、打ち出し式の装置を考えました。
 パイプ径に近いスーパーボールを飛ばし、初速度は塩ビ管の内側にアクリル管を差し込み、そのアクリル管にビースピを取り付けることで、測っています。
 ブロワーで打ち上げます。


 実際に実験を行うと、ビースピで計測した初速度に対して、高さが理論値より随分大きくなりました。

 ビースピ通過後もブロワーの風で押されているからではとの声があり、実際に筒の出口に手を当ててみると、かなりの風を感じました。どうもこの風の影響のようです。

 前田さんは、この結論にガックリでしたが、周りからはなぜ、理論値より高くまであがるかを考える探究的な活動に使えばいいという意見もありました。
 理論通りとはいかず、かなり高くまで上がってしまいましたが、その原因は?


埃に含まれる放射線(林さん)  

 埃を集める際は、掃除機にマスクをフィルターにして吸引し、薄めのポリエチレンラップ(厚み10μm)で包み、霧箱で観察します。

 なお、電離作用が大きく、紙1枚で 遮断できると言われるα線ですが、林さんによると薄いラップは透過できるそうです。

 霧箱で観察すると飛跡が太くて長いものがα線、細くて短いものがβ線と見分けることができるそうです。これは、電離作用の大きさで飛跡の太さが決まるためです。
 掃除機にビニールカップとフィルター(マスク)が着いています。
 参加者一同、最初は形状に違いを見分けるのに苦労しましたが、観察している内に不思議とコツをつかむことができ、α線とβ線の区別を認識できるようになりました。

 また、林さんが単位時間あたりの飛跡の総数(崩壊数)をカウントし、半減期を求めると20分となりました。αもβも観測される核種としてウラン系列のビスマス(Bi214)が考えられます。Bi214は半減期20分でβ壊変してポロニウム(Po214)に変わりますが、Poはわずか0.164μsでα壊変して鉛(Pb210)となります。
 このα粒子のエネルギーは7.69MeV なので、空気中の飛程はおよそ6.7cmとなります。

 例会では掃除機で集めた元素は何か議論になりました。ゴミに着いているのは固体であろうからポロニウムではないかとの意見もありましたが、結論は出ませんでした。
 ラップで線源を包むのは、これまでにない素晴らしいアイデアですね。


 波の受け渡し(林さん(石川さん)  

 石川さんが先日の先進科学塾で置き土産として置いていってくれた、波の伝搬を考える装置を紹介してくれました。
 
 ばねの両端を木枠の中央に取り付けたヒートンに固定し、さらにばねのほぼ中央に上下からばねが連結してあります。
 はじめに、連結点の左にあるばねを振動させると、右側は振動が起こりませんが、しばらくして振動が減衰するにつれ、連結点の右側が振動が強くなってきます。
 そして、右側の振動が極大になったとき、左側は振動が起こりません。

 まるで、左右でエネルギーをやり取りしているような不思議な現象にしばし見とれてしましました。
 実にユニークな現象です
 なぜ、石川さんはこの装置を思いついたのかという感嘆の言葉も漏れていましたが、もっと簡単にできないか早速実験してみました。

 石川さんも装置の調整が大変だったという話を外に、できる限りシンプルにということで、長いばねの中央あたりに2つのばねを直に連結し、やってみました。
 すると、同じ現象が見えたように思いますが、やはり石川さんの作品には全然及びませんでした。

 ただ、注意すべきポイントを掴めば、剥き出しのばねのみでできるかもしれないようにも思えました。
 より簡単にできないかチャレンジしました。

 ヘリウムで大実験(井階さん  

 愛工の工業の先生から思いがけず、ヘリウムボンベを譲り受けた井階さん。
 これだけあれば、贅沢に普段はなかなかできないような実験を行えます。

 ヘリウムによる声の変化の理由ですが、Heの音速は空気の3倍ほどなので、「発声するさい口腔は管楽器と見なせるため、ヘリウムガスを吸うとより高音で共鳴する」との説を見聞きします。井階さんは、この説明について、筋肉の動きが媒質だけにより声帯の振動数が変わるのは不自然だと腑に落ちずにいました。
 他にも、媒質が変わることで粘性が変化するので、楽器等の固有振動数が変化するのではとの意見もありました。
 この原因を調べるため、まずは、スピーカーの周りをヘリウムで満たす実験を行いました。
 
 自腹ではやれないような豪快な実験です。
 スピーカーから出る音の変化を調べましたが、音色が変わっているというふうに感じた人は数人いましたが、井階さんの予想通り、音の高さが変わっているようには聞こえませんでした。

 次に、開管のメロディーパイプにヘリウムを送って鳴らしてみましたが、どこまでヘリウムで満たされているのか推定できないため、ドレミパイプを閉管にし、内側にヘリウムを入れたとき、音の高さが変化するか調べました。

   
 行きついたのは閉管のドレミパイプです。
     もともと131Hzの音を出していたのが、Heで満たした袋で鳴らした音を袋の外のマイクで拾うと180Hzほどになり、いくらか高くなり、波形も変化しているようでした。

 井階さんは媒質が変化すると共鳴体が共鳴するモードが変わり固有振動数が変化するため、音が変化して聞こえるのではないかとの意見ですが、音は回り込み、屈折し、干渉します。マイクで果たして何を拾っているのか、論理の検証は容易ではありません。  
 ドレミパイプをヘリウムで満たした袋に入れて、鳴らしました。


 ゲーム機で音の観察 (奥村さん  

 音の任天堂DSiサウンドというものだそうです。音の波形が観察できます。

 参加者によるとスマートフォンのアプリ等にもこのようなソフトがあるそうで、遊びながら学ぶこともできます。    
 身近にもこのようなソフトが増えてきているようですね。


 小型高圧電源 (市川さん  

 海外から輸入したという3Vを400kVに昇圧できる装置を紹介してくれました。

 電源が乾電池にも関わらず、かなり強力な放電がみられましたが、その様子に危険を感じ、周りから短時間で実験にストップがかかりました。

 この装置、非常に小型で、海外の通販サイトやebay等のオークションでは類似品を含め、安価に売られているそうです。  
 高電圧といえば、市川さんのグラウンドです。


 光合成色素の蛍光 (井階さん  

 新課程が始まってから「科学と人間生活」で継続的に光合成を実験を交えて教えてきた井階さん。

 今年は、最後に蛍光実験を行いました。

 部屋をある程度暗くし、光源装置から出た白熱電球の光を抽出液に当て、様々な角度から観察します。

 反射光は赤色に見えますが、透過光は緑色に見えます。  
 抽出した植物の種類に関わらず、反射光は赤く見えます。
     
 一方、透過光は緑色に見えますが...


 本の紹介 (井階さん  
 光合成関連で「光合成の科学」、「植物の体の中では何が起こっているか」の2冊の紹介がありました。

 また、以前にも言及のあった放射能汚染の度合いを可視化した「放射線像」という本を紹介してくれました。
 この本は「オートラジオグラフィ―」という手法で、黒が濃い箇所が汚染がひどいことを表しています。

 生物のどこに蓄積されるのかが分かるとともに、原発事故がなかったなら、見ることのできない記録です。    
 常に学ぶ姿勢を忘れない井階さんです。