26 / Feb / 2000
第44回 プリマーテス研究会
愛知県蒲郡市立中央小学校
小 田 泰 史
第1セッション
「がい骨とあく手・小学校理科での事例」
1. 模型に対する子どもたちの意識
多くの学校の理科室(準備室)には、人体の骨格模型や解剖模型があります。子どもたちと話をしていると、
同じ模型なのに,このふたつには大きな意識の差があることに気づきます。
骨格模型 … かわいらしい
解剖模型 … 気持ち悪い
不適当な表現かもしれませんが,これが,子どもたちの素直な表現です。低学年から高学年まで,この意識
に大きな差はないようです。
子どもたちが描く理科室の表示には「がい骨」が登場します。1年生が「がっこうたんけん」として学校を歩くと
き,理科室で骨格模型を見ることを楽しみにしています。
小学校の子どもたちにとって,「がい骨」はずいぶんと身近に感じているものです。
それで,骨格模型は準備室(施錠してあります)の廊下に向けて置いてあります。戸をあけなくても見ることが
できる位置です。隣の音楽室への行き来の途中に見ていく子がずいぶんいます。
2. 手に触れるということ
小学校でも,コンピュータが導入され,インターネットやデジタル図鑑などが利用できるようになってきました。
使い方に慣れると共に,手にいれることのできる資料も多くなってきます。
しかし,それらの資料は,あくまで平面的な資料です。これまで多方面で話題になっていた「体験」とは違った
方向になっています。もちろん,それぞれによいところがあるわけですから,それを生かすことを考えていくこと
が大切だと思います。
本日の研究会のテーマからいうと,
標本にふれることを大切にしたい
ということです。手で触ってみる。これ以上具体的な体験はありません。
昨年度,小学校3年生で「がい骨とあく手」というテーマで理科の1時間を過ごしました。この時の授業について
本日お話する機会をいただきました。
そのときのようすをまず紹介させていただきます。
3.授業の紹介
学級だより「アンダンテ」 No.155 1999/03/02 より
<がいこつと あく手>
理科の教科書の最後のページ(単元)は「わたしたちのからだをしらべよう」です。
ここでは大きく4つのことをみていきます。
(1) 目のはたらき
(2) 耳のはたらき
(3) ひふのはたらき
(4) からだをうごかすしくみ
今日は,この中で(4)の体を動かすしくみということで,「がいこつと あく手」をしてきました。
手のひらの中でまがるところにシールをはっていくなど,いくつかの定番の導入の方法があります。
今回は,部分ではなく,全体をみる方向でなにかできないかと思っていました。心配していたのは,「骨」をこわが
る子がいないかどうかということです。
昨日,骨の模型はドイツから来たこと。握手をするときはあいさつがつきもの。どんな言葉であいさつしようかと話し
ました。
今日,骨格模型を準備室から理科室へ持ってきました。(先日の授業参観のときのように)子どもたちを前に集めて,
しばらく,ご対面の時間。じっとみつめていました。「歯がおかしい!」あごがずれていることをみつけた子もいました。子
どもたちの様子をみてみると,怖がっているようすの子が3人いました。
さて,握手です。怖い人は無理に握手をしなくてもよいことを話してから,名簿順に並んで握手をしていきました。終
わりに近くなってくると,初め怖がっていた子達が,並んでいました。そんなわけで,全員,がい骨と握手しました。
がい骨と自分たちの体を比べながら,体がまがるしくみ,(骨と関節)をみていきました。
子どもたちが驚いていたことのひとつ・・・頭の骨が,とても薄いこと。自転車に乗るときはヘルメットをかぶらないとい
けないんだね!
4. 授業の中のひとくふう
ここで紹介させていただいた授業は,「研究授業」とか「授業参観」ではありません。ごく普通の,普段の授業
業です。その中に,どんな留意点や工夫があるのか,見直してみることにします。
(1)機会の平等
学校教育の中でしばしば指摘されることに「平等」ということがあります。公教育においては,特に重要でしょう。
ここで,平等には2種類あると考えておきます。
機会の平等
結果の平等
です。
全ての子どもに同じ結果が要求されるとしたら,学校教育は成り立ちません。子ども自身も,まいってしまいま
す。たとえば,全員が100m泳げなければならない。全員が算数で100点を取らなければならない。これは大変な
ことです。しかし,それに取り組む機会は平等に用意されなくてはなりません。
「機会の平等」というのは,実験や観察という活動においても,気を配らなければならないことだと思います。
「結果の平等」という見方をすると,全員が「がい骨とあく手」しなくてはならないことになってしまいます。怖がって
いる子の気持ちを思うと,これは避けたほうがよいと思いました。
(2)誰もがもつ思い
子供は,年齢が低ければ低いほど,人と同じことをしたいと思っています。このことは,わかっていながら,なか
なか対応してあげることが難しいのが実態です。だからこそ「機会の平等」を意識していかなくてはならないと思い
ます。
(3)はじめに見ること … 具体的に把握
この時間でもっとも気になっていたのは,「骨をこわがる子はいないか」ということです。それも,具体的にとらえ
ていきたいと思います。
「こわがっている子がいそうだな」ではなくて,「こわがっている子が3人いる。誰と誰と誰だ」というように,子どもを
見るときにはできるだけ具体的にとらえていきます。
見ただけではわからないことは,話をしながらとらえていきます。
(4)具対物の魅力
模型をもってきて「さあ,骨を見てみましょう」といっても,戸惑ってしまうかと思います。でも,みんな,じっと見てい
ます。授業にモノをもちこむことの効果は何度となく教えられ,何度となく見てきました。写真でもいいのですが,やは
り,モノにまさるものはありません。
色々な方向から見ることができる。ここに,大きな力があるように思います。
おまけのはなし … ルーブル美術館でミロのヴィーナスを見ている人を見ていました。どの国のどの世代の人も。男性
も女性も,皆必ず一回りしていました。絵画や写真ではできない,立体ならではの行動でしょうか。
(5)ワクワクして待つ授業
子どもたちは,テレビマンガの予告編を楽しみにしています。次のことを少し知るだけなのですが,それでワクワクします。
授業の中でも,そんな気持ちをもたせたいと思うのですが,なかなか魅力的なネタがありません。でも,それを探すことが私
たちにとっては「楽しみ」なのかもしれません。
がい骨の話のとき,この「予告」をしたわけです。子ども達は期待してまってくれました。
(6)指導者のもちもの
指導者の オドロキ,発見,なるほど! を授業の中にどんどん入れていきます。
ここでは,手のひらの上向き,下向きのことです。手首のところをもう片方の手ではさむようにおさえると向きがかわらない
ことを知ったときは驚きました。はたからみれば些細なことでも,授業の味付けには役立ちます。子どもたちの関心が集まる
のは,このようなところであることが多いようです。
手のひらを上に向ける 下に向ける
「感動体験」は,指導者の大切なもちものです。
どうしてそうなっているのかという理由よりも,その事実に子どもたちは関心をもちます。私たちにしても,理由を教えようとせ
ず,興味深い事実をたくさん示してあげることができるように発想をかえていくことが必要だと思います。
いいな,という授業には,指導者自身の感動があるように思います。それは,子どもの感動につながり,家庭への「おみやげ
話」になっていきます。
(7)がい骨との出逢い … 別な見方をしてみると
骨の学習をするときに「骨をみなさい」ということは避けました。 特にこの1時間では
骨格模型に親しませたい
骨格の全体を見せたい
という目的をもっていました。それで,どのように対象と出逢わせるかということがとても大切なことになってきます。
親しみをもつ → あく手
というように,見方をかえてみます。
でも,これだけでは,握手をする必然性がありません。ここは,もうすこし「お話」をつくっていきたいと考えました。
このクラスには,ブラジル籍の子が二人いました。初めて会う人とは,しっかりと握手をするということをクラスの子どもたち
に話してくれました。そして,骨の模型はドイツからきたということになれば,これはもう,握手しかありません。なかには,言
葉はどうしよう,という子も出てきます。"Guten Tag."くらいを教えたりすると,ずいぶん調子に乗ってきした。
5.教科書の中の「人のからだ」の学習
平成10年12月14日に告示された学習指導要領は,平成14年4月1日から施行されます。12,13年度の2年間は移行期間
としていくつかの内容が「省略」されます。
今回,せっかく取り上げていただいた
小学校3年生での学習「わたしたちのからだをしらべよう」
・め,耳,皮膚のはたらき
・骨と筋肉のはたらき
は,12年度から省略ということになっています。
4,5,6年生の「人のからだ」の学習も多くは中学校へ統合,または削除されます。
今後は「総合的な学習の時間」の中で,「福祉・健康」に関わって,自分自身を知る学習として取り上げていくこともできると
思います。
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