■シンポジウム記録■
「科学教育ボランティアの意義と役割」
■発表者 後藤道夫 元工学院高等学校教諭 古田豊  立教新座中学校・高等学校教諭  川村康文 京都教育大学附属高等学校教諭  山田善春 大阪市立高等学校教諭  河野晃  「あおぞら教室」主宰(中学校教諭) 森裕美子 「なるほどの森」発行人(主婦
■司会 左巻健男 京都工芸繊維大学アドミッションセンター教授

動画の記録はこちら(Windows Media Player形式2.13MB)

 司会の左巻の開会により,はじめに山田大会実行委員長から,開催までの経緯や趣旨,ボランティア活動への援助を受けた「アジレントテクノロジー社」の紹介,大会協賛企業(「ケニス(株)」,「中村理科工業(株)」,「島津理化器械(株)」,「大阪ガス(株)」,「(株)ワオ・コーポレーション」)の紹介と謝辞が述べられた。
 左巻より,発表者が20歳台から70歳台まで,また活動分野も多岐にわたることなど,発表者の紹介の後,発表に入った。

後藤
科学教育ボランティア活動は,10数年前に読売新聞社主催で日本で開催された「ロイヤルソサエティー・クリスマスレクチャー」に深い感銘を受けたことがきっかけとなった。
何かできないかを模索して始めたのが「中学・高校生のための科学実験講座」(当時高校3年生であった毛利綾さん作製のポスターを掲示)で,その企画が好評で次年度より科学技術庁(当時)の主催で「青少年のための科学の祭典」が始まった。
当初は出展者を集めるために全国を回って呼びかけたが,現在では全国70ヶ所あまりで開かれ,科学を広めたいという目的は達成できた。
3年前より,故郷の長野県飯田市において「巡回科学実験教室」を開催している。この教室は教育委員会の協力を得て,65種類の実験道具を小学校に保管し,小学校から要望のあった実験を巡回して開くものである。
この教室を通して,子どもたちの創造性の豊かさを実感するとともに,活動を知った市民ボランティアが集まって「おもしろ科学工房(23名)」ができて指導者として育ち,各地域での深まりも進んでいる。

古田
ガリレオ工房は,15年程前に滝川,米村らによって始まった「物理教育実践検討サークル」を母体とし,1990年代の半ば,本の出版を契機に名称を「ガリレオ工房」に変更した。
主な活動は,例会,本の出版,サイエンスショー,理科カリキュラムの検討である。
例会は,月1回3時間で,毎回20〜50名の参加があり,報告書を作成している。
当初から授業と教材の研究や工夫を主なテーマとし,「胸に落ちる授業」を目指して授業組み立ての科学に取り組んでおり,一人一人が「グイグイ」やる環境の中で,1990年から「科学の祭典」にも広くかかわっている。
現在では,素材(例えば,ホース,洗剤,ポリ袋など)を決めてそれにかかわる実験を考えて,検討するというスタイルである。
本は,新聞や雑誌などへの連載から発展し,全国20名くらいのメンバーの得意な実験を集めて「物理がおもしろい」として出版した。情報の蓄積やオリジナリティーを重視し,出典をちゃんと書こうという方針であり,韓国語への翻訳もされている。
サイエンスショーは,省エネルギーの広報の一環としての活動であり,エネルギーを考えるサイエンスライブショーは既に6年目に入っている。
今年のテーマは「地球電池」。カリキュラムについては,地域を生かしたカリキュラムの作成を目指し,「理科カリキュラムを考える会」として行っている。
また,「科学未来館」の立ち上げにもかかわり,最先端の科学技術の紹介に携わった。

川村
サイエンスEネットは,ガリレオ工房のライブショーやONSENの活動に触発され,1997年に京都で行われた地球温暖化防止京都会議(COP3)をきっかけとして,地球環境のために何かできることはないかということで設立された。
ダンゴ三兄弟にたとえると,「ガリレオ工房」が長男,「ONSEN」が次男,そして「サイエンスEネット」が三男ということになる。
メーリングリストやホームページ,実験教室を中心に活動しているが,教員養成や教育実習生への指導も視野に入れ,「学ぶ」は「真似る」からと,ホームページで学習指導案を公開して成果の蓄積を図っている。
また,大学と連携した公開講座(小学生向け)や大人向けの「クリスマス京都レクチャー」(3回目),小中高生のためのML「ヤングスターズ」を立ち上げて質問などに答えることを始めている。

山田
科学教育ボランティア活動には,学校教育からのもの,社会からのもの,家庭からのものの大きく分けて3つの流れがある。
現在,学校教育現場での問題点は,遊び場や遊ぶ時間を奪われた子どもたちの激変,受験を中心としたエリート教育がある中での教員の資質と学校教育の限界などであり,未来を反映しないカリキュラムのもとで子どもたちの感動体験が欠如してきている。
そこを補えないかということで,感性を揺さぶることを意図した参加体験型の授業を実践してきているが,生徒の感想にも成果が読める。
感動体験を広げるためには,学校,社会,家庭教育の連携が不可欠であるが,教育と行政とが分断された実態の中で,ボランティア活動が発生し,その役割は連携の中心になることとなっている。
オンライン自然科学教育ネットワーク(ONSEN)は,5年前に設立され,メーリングリストで情報・意見交換しながら,例会や実験教室,ホームページを中心に活動し,実験教室は年間100回くらいになってきている。
ONSENの活動を通じて明らかになったことは,連携の難しさや活動の健全性であり,特に国関係との連携には、予算や手続きの問題などまだまだ改善の余地が残されている。
これからはボランティアと企業の連携がますます重要になると考えられる。
科学ボランティアは理科教育の基盤を支える重要な役割がある。
多くの教員,社会人,特に若者たちのあふれるエネルギーの結集を呼びかけたい。

河野
あおぞら実験教室は,「通りがかりの人に理科の楽しさ,おもしろさを伝えたい」ということで1999年4月からはじめ,29回を数える。毎月第1日曜,井の頭公園にて通りがかりの人を対象に,毎月異なるテーマでショーまたは参加形式で開いている(ビデオ映像で紹介)。
費用はカンパで主催事務局(Cappa)メンバーは約20名,毎回10名くらいが参加する。
あおぞら実験教室開催のきっかけは,「科学の祭典」に関る中で,その参加者は科学に興味関心のある層が大多数であり,不特定多数のいろいろな人に対して訴えたいと思い始めたことである。
実際の参加者は,子どもが中心で親が巻き込まれる場合が多いが,若者やカップル,大人が見ていくこともある。
これからの取り組みとしては,解説のビラやホームページの充実,常連カードを作って常連さんにお楽しみお土産を渡したり,達成度を競うサイエンスランキングのような展開,公園の中でのあおぞら観察会,実施場所を全国あちらこちらに広げることなどを考えている。
この教室を通じて得たボランティア活動雑感として,「一人でできることとみんなでできることに違いがある」のでたくさんの仲間と進める。
「イベントやネットワークの大きさ」から,同じ志を持つ人たちと世界を広げていくこと。
さらに「活動を継続していくことは大変」なので,大変なときこそ息抜きをして取り組むこと。
最後に,まずは一人でも動いてみること。などがある。


「科学遊び伝道師」と称する三児の母親です。最近,実験教室などの依頼の仕事が増え,ボランティア活動と仕事の境界が不鮮明になり,両者の兼ね合いとしての「伝道師」として活動している。
「なるほどの森」は,家庭でできる理科実験の紹介ということでA4版1枚の表裏に印刷したミニコミ誌として始まった。
はじめの3年間は毎月1回,その後は隔月発行し,7年間で60号を数え先月完結した。ボランティアという特別な意識はなく,俳句や短歌などを誌上発表するのと同じような感覚,個人が自分の自己表現としてやってきた。
しかし,久米ら協力者によるホームページ化によって,反響が大きくなり,メディアからの取材も増えこれが相乗効果となって,本の出版や,教科書の執筆,TVへの出演など,「なるほどの森」によってライフスタイルが大きく変わった。
苦労したことは,印刷で,安く上げるために幼稚園や小学校など場所を転々とし,また周囲に気を使いながらの作業は大変であった。
また,ミニコミ誌の配布において,公民館や図書館に置かせてもらう際,グループだと許されるが個人であると許されないなどの不合理も感じた。
自己表現としてやってきたわけであるが,「なるほどの森」を見た人から見ればボランティアなのかなと思う。
「なるほどの森」全60号はCD-ROM化されている。


*****休憩の後,質疑に入った*****

井戸
後藤先生に,巡回教室における受け入れ側の教員の反応や,ボランティア参加への秘訣などは?

後藤
地域社会や教育委員会との連携がもっとも大切なことだが,もっと大切なのは「子どものことを考える」ということ。
生徒を中心に学校全体で要望を出してもらい,希望や人数に合わせたテーマを持っていく,実験教室が学校全体のこともあるし,クラスのこともある。
これまで,200教室2万人くらいが参加している。
一人ずつの生徒が考えることを主眼に,例えば発光ダイオードを使った「割り箸テスター」は一人ずつに作らせ,完成させる喜びとともに,学校だけではなく家庭に持って帰っても使えるということで興味を継続させる。
他に,ゴム風船の「サッカーボール」や「紙ロケット」(実物を示しながら)も一人ずつが作りながら進めていく。
「紙ロケット」は100mくらい飛び,パラシュートが開く形式になっているが,現在でも軌道や形式など,研究改善を行っている。
また,先生を対象にした実験教室も開いている。
実験教室では教えるだけではなく,子どもたちから教えられることもあるが,子どもたちが持っている科学への興味を最も強く感じている。

東郷
河野さんへ,科学への興味関心のない人を対象として,実験教室を開催されているわけだが,回を重ねると違ってこないか?
また,時と場所をゲリラ的に開くのはどうか?

河野
(常連カードの実物を示しながら)1日の実験教室は大体100名くらいの参加者があり,このうちの10名くらいが常連さんになってきている。
しかし,常連にあまりこだわってきているわけではない。

左巻
古田さんへ,ボランティアの広がりという点ではどうでしょうか?

古田
今日も,有馬先生の実験教室を受講後,高橋和光さんのグループに加わって活動している4名の学生さんが参加しています(立ち上がって紹介)。
また理科教育法の受講生との交流や,学校での実験教室の場合はPTA活動を通じて横のつながりができるとともに,保護者のブースを作ると,子どもたちの発達段階に応じた興味を知っているせいか好評であり,継続性も出てくる。

左巻
戸田さんへ,富山での活動はどうでしょうか?

戸田
後藤先生とご同郷の富山大学教育学部の市瀬先生を中心に,「おもしろ科学実験in富山」ということで,富山の4地区を年一回巡回する形で行っている。
北陸電力エネルギーランドのバックアップもあり活動は順調である。

左巻
川村さんへ,京都での活動はどうでしょうか?

川村
サイレンスレンジャーや科学の祭典に参加するメンバーが,補助から慣れて自立してきている。
今後とも,教員を目指す大学生のサポートが不可欠である。

左巻
山田さんへ,ONSENの活動確立までの苦労は?

山田
ボランティア活動では,家族の理解が大切である。土日がない状態が続くので,家族同伴で参加して理解を得ることも重要である。
また,保護者との連携が重要で,小学校では教員が引いていたり,また,お金がつくと手伝いも少なくなるなどの問題もある。
手作りで参加するという感覚も大切である。
さらに,来年度からの週休二日制導入は,チャンスと考えている。
ボランティア活動で児童・生徒をもらっちゃおう。

森本
岡山笠岡での活動を報告すると,笠岡子ども劇場を中心にこれまで科学教室を2回実施している。
予算は200万円であり,特徴は中高大生のボランティアが増えていることである。
ただ,所帯が広がると運営が難しくなる面もあるので,ボランティアの人達に教えてから,教室を開いている。

左巻
河野さんへ,若い人達への広がりということで,河野さんたちのグループのメンバーはどうなのでしょうか?

河野
活動のエネルギーは,他の人や他のグループとの交流から出てきている。そこからできることを見つけて始めるというスタイル。
グループのメンバーはバラエティーに富んでいるが,話のしやすい人からグループの輪が広がっていった。

古田
原点は「でき立てのおいしい料理を食べさせたい」ということで,お見せします。プラスチックばねを使った「波の振動モード」の演示。現在3倍モードまで確立,
4倍へ挑戦中。時計とトランジスタラジオを使った「マイクでは聞こえないけどラジオでは聞こえる秒針の音」の演示。

左巻
山田さんへ,「科学ボランティア研究大会」はこれからも続くのでしょうか?

山田
今回の大会も京都を中心とした実行委員の労力があった。また,開催にあたっては企業からの資金面の協力は不可欠である。
このような会のニーズはいろんな面で感じていて,人的な交流や活動の質の向上,ボランティアの連携を目指して取り組んでいきたい。

左巻
「今日は始まりに過ぎない。これから全国に広く作っていく。」ということでシンポジウムを閉じたいと思います。
ありがとうございました。

      この記録は、当日の聞き書き原稿をもとに、本大会の実行委員会で検討したもので、
       内容の責任は実行委員会にあります。


先頭へ
2001年度大会TOPページへ戻る
SEVRCのページへ戻る


(C)YAKATA chiaki 2001

ONLINE NATURAL SCIENCE EDUCATION NETWORK


このページのイラスト・ロゴデザインは作者に帰属しています。
 刊行物、CD-ROM等に転載するばあいは admin@sevrc.office.ne.jpにご連絡ください。