「物性科学セミナー」東大物性研究所見学 98/05/30
「物理の未来を考える会」主催のセミナーに参加し、東京大学物性研究所の極限環境物性研究部門
の研究室を見学してきた。岩波映画「極限の世界」で紹介されている「超強磁場」「超低温」「超高圧」の最先端研究を垣間見た。
左は港区六本木の乃木坂駅近くにある物性研の本館。1957年の創設以来、世界の物性研究をリードしてきた最前線である。しかし、40年の風雪を経て、さすがに老朽化が目立つ。現在、柏に新施設を建設中で2000年3月までには全施設が移転する予定。この建物ももう見納めだ。
超強磁場 三浦研究室
電磁濃縮法による超強磁場500テスラを実現する装置。この強磁場が実現できるのは世界でこの装置だけだ。左の写真の保護壁で覆われた中に右の写真の装置がある。装置の前に立つのは解説してくださった三浦登先生。
一巻きのコイルの中に銅製の金属円筒(ライナー)を挿入し、コイルに瞬間的に400万アンペアの大電流を流すと、電磁力によってライナーが急激に押し縮められる。あらかじめ円筒の中に弱い初期磁場を入れておくと初期磁場の磁束が円筒によって圧縮され、最終的に超強磁場が発生する。頑丈なコイルもライナーも一回で破壊してしまうのですべて使い捨てだ。
実験室の中には破壊されたコイルや、くしゃくしゃにつぶれたライナーの残骸がそこかしこに転がっている。保護壁の内側には生々しい傷跡があり、アクリルの観察窓が割れていた。窓も毎回交換するのだという。もちろん観察は高速カメラによって行う。
400万アンペアの電流を生み出すコンデンサー(蓄電器)。「この部屋全部がコンデンサーです。」という三浦先生の説明に一同絶句。
超低温
マイクロケルビンの世界にせまるクライオスタット(低温恒温漕)全景。中央の青い円筒の中に測定部がある。外部からの振動や電波がすべて熱源となってしまうため、4トンの装置全体をエアークッション(緑の柱の上に見える黒い部分)で宙づりにし、測定装置はすべて金属箱で覆って電磁波からシールドしてある。
超流動ヘリウム4の中へヘリウム3が拡散していく際の冷却を利用した希釈冷凍法でおよそ10^-3K、2段の核断熱消磁法を併用して10^-5Kを実現する。
(左)核断熱消磁に使用する冷媒。核磁気常磁性体として銅の核スピンを用いる。銅の束の下端にサンプルホルダが取り付けられる。(右)超低温をどうやって測定するかも大きな課題だ。写真は「核帯磁率温度計」。核スピンの歳差運動をピックアップして温度を測定する(らしい)。
超高圧 八木研究室
八木先生の研究テーマは惑星中心部のような超高温・超高圧下での物性だ。八木先生のうしろの装置が700気圧の油圧プレス。右はその中心部。
(左)プレスの力を試料に伝える炭化タングステンのアンビル。タングステンだけあってずっしりと重い。
(右)焼結ダイヤモンドのアンビル。さらに高圧に耐える。これ1個で三十数万円だとか。
現在到達可能な最も高い圧力160万気圧を実現できるのが顕微鏡のステージ上のこの装置。驚くほど簡単な装置だ。一対のダイヤモンドアンビルで金属ガスケットの小さな穴に入れた試料をサンドイッチしててこで加圧する。右の写真の中央に見えるのがダイヤモンドアンビル。ダイヤモンドは透明なのでここを通して試料を直接観察できる。超高圧水の実験を目の前で見せていただいた。
試料の加熱には赤外線レーザーを使う。上記のダイヤモンドアンビルセルを光路の途中に置く。