警告!!レーザーポインター事故急増中

神奈川県立湘南台高等学校・YPC(横浜物理サークル) 山本明利

 2000年12月4日夜、NHKクローズアップ現代は「レーザー光線があなたを狙う」と題してレーザーポインターによる網膜熱傷の症例が急増していることを訴えていました。朝日新聞も11月7日に同様のことを報じていました。

 番組によれば、おもちゃとして数百円で売られているレーザーポインターの出力を実測してみると、クラス3B相当のものがあるとのことで、JISに適合する製品では、保護回路が組み込まれていて出力をクラス3A相当(5mW以下)に制限しているが安物にはそれがないという説明でした。Made in Chinaなどの輸入販売でJISの適用を受けない形で野放しになっているようです。JIS規格で管理された製品であればクラス3A以下なので、偶発的に目に入る程度なら、多くの場合反射的にまばたきをすることによって障害は回避されるはずですが、クラス3B以上は保護眼鏡を着用しないと危険なレベルで、一瞬の曝露でも障害を招きます。

 強い光によって目に障害を受けるケースはレーザーに限りません。そういう意味では太陽光線も十分に危険です。「日食網膜症」という病名があるぐらいで、裸眼で故意に太陽を見つめることで網膜を損傷する人は少なからずいるのです。ましてや望遠鏡や虫眼鏡を通して太陽を見てはいけないことは子供にも周知されていることです。

 ところでレーザーポインターは、その本来の用途からして、スライドプロジェクターやOHPの画面の明るさに負けない輝度を持っていなければなりません。太陽定数1.4kW/m2をもとにして考えてみますと、地表ではその半分程度のエネルギーになっているとして、1mm角あたりで0.7mWというのが地表での太陽光の明るさになります。安全とされるクラス3Aのレーザーでもエネルギー密度は太陽光を上回るということがわかります。レーザーポインターは「もともと明るい」わけです。

 太陽光線とレーザービームのエネルギー密度を比較するために次のような実験をしてみましょう。まず、レーザーポインターを数メートルの距離から壁に照射して、スポットの大きさを測ります。ビームの周囲には回折により広がっていく部分がありますが、今はビーム中心のエネルギー密度のピーク値が知りたいのでそこは除外して、中心の最も輝度の高い部分だけをはかります。せいぜい1〜2mmの直径です。

 次に、B4サイズぐらいの紙の中央に上で測ったのと同じぐらいの直径の穴をあけます。これを陽の当たる窓ガラスにはってください。他の部分はカーテンなどで光線を遮るとより観察しやすいでしょう。穴をピンホールにして太陽の像が床または壁にできます。距離にもよりますが太陽像はかなり大きくて暗いものです。これでは光が拡がってしまってレーザー光線と勝負になりません。そこで凸レンズを使ってこのピンホール光線を一点に収束させます。光点が最も小さくなったとき、窓ガラスや紙の像も周囲にできているのがわかります。この光点はピンホールの像なのです。レーザービーム径と同じ大きさの穴で受けた太陽光が再び一点に(正確には一点ではないが)収束しています。スクリーンとレンズの位置を適当に選ぶと、等倍の像を作ることもできます。このピンホールの像とレーザーポインターで照射した光点を並べてその明るさを比べます。レーザーポインターの赤い光(波長650nm前後)に対しては人間の網膜の感度が低いので、白色光と一概に比較できないという問題はありますが、穴の大きさが適正にあけてあれば、レーザー光は赤の単色ながら太陽光に負けていないことが感覚的にもわかります。

 さらに、射出されたレーザー光線は平行光線になっており、10m以上離れても、出口と変わらないエネルギー密度を保っています。この平行性が「ポインター」として使われる理由でもあります。目に入ったレーザー光線は水晶体というレンズで収束して網膜状の一点に焦点を結び、そこを損傷することになります。当然ながら、熱損傷を受けた網膜は回復しません。無知な子供のいたずらにより、取り返しのつかない視力障害を受けた被害者は児童・生徒にとどまらず、教員にも及んでいるとの報道でした。

 格安レーザーポインターを教具としてお使いの方も多いと思いますが、上記のような危険性についてよく理解した上でお使いになるようおすすめします。レーザーを使用するときは光路を終端する措置を施し、故意にのぞき込むこともできないような配慮をすべきです。具体的には光源を固定して不用意に人に向かって発射されないような工夫をし、ついたてをほどこしたり、生徒の背丈より上を光線が通過するように光路を配置するなどの対策が考えられます。当然、危険性の理解できない児童・生徒に操作をさせるべきではありません。

 現在、子供達の間で流行っている遊び方は、まさに人を、特に目をねらったりする最も危険な遊び方です。事の重大さを知らずにやっていることだとは思いますが、それが危険な遊びであることを原理をふまえてきちんと教えて警告していくのは教育(ことに理科教育)のつとめであると思います。おもちゃとしての使用は禁ずるべきでしょう。レーザーポインター遊びはすでに流行してしまっていますから、事は急を要します。行政の対応はきっと後手に回るでしょう。ここはわれわれ教育関係者の出番ではないでしょうか。授業などを通じ、折にふれ子供達にアピールしていかなければならないと思います。

 なお、理科の授業で使うものの中には、危険薬品、高電圧電源、刃物など、取り扱いを誤れば命にかかわるものも少なくありません。レーザーが危険だからといって、ただちにポインターとしての本来の用途や理科教育目的での使用までもがとがめられるものではないと思います。要は、使用する側がその危険性をよく理解して、事故回避の対策を施し、生徒にものことをきちんと解説してやればよいのだと思います。それでこそ教育といえるのではないでしょうか。

 読者の皆様には、くれぐれもおびえて情緒的になることなく、冷静に対応してくださるようお願いしたいと思います。

(2000/12 kyositu.comニュース、@nifty FKYOIKUS【理科の部屋】掲載の記事をリライト)

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