簡単に作れるトリチェリーの実験装置
神奈川県立湘南台高校 山本明利(横浜物理サークル) トリチェリーの実験は物理でも化学でも一度は見せたいものですが、市販品は 高価な上、いまひとつ見栄えがしません。そこで、加工しやすいアクリル材料を 使って、安価で手軽な割には見やすくて生徒ウケしそうな装置を作ってみました。
【材料】
アクリルパイプ(内径9mm、外径15mm程度の肉厚のもの、長さ90〜100cm)×1 PC六角ボルト・ナット(ネジ部太さ8mm、長さ20mm)×2 (注:PC=ポリカーボネート、透明なプラスチック) ゴムパッキンまたはOリング(内径8mm)×2 調理用計量カップ(200〜250ml用)×1 (PC樹脂などの透明な硬質プラスチック製品) 以上で大体1000円余り。東急ハンズなどで入手します。 このほかに水銀1500〜2000g(500gびん×3〜4本)を用意します。
【製作】
(1)アクリルパイプの両端にPCナットを接着します(図1)。「ボンドアロン アルファ:プラスチック用瞬間」などの接着剤を用い、ネジ部にはみ出さな いよう丁寧につけます。アクリルやPCは接着しない接着剤も多いので注意 します。 (2)PC六角ボルトの1本を、ネジ部10mm程度に切ります。もちろん、最初から その長さのものを購入してもよいのですが・・・ (3)(2)のPC六角ボルトを調理用計量カップの底の中央にネジ部を上にして接着 します(図2)。ネジ部に接着剤がつかないように注意します。ここもある 程度の強度が必要です。ポリエチレンなどの軟質プラスチックには接着剤が きかないので計量カップも材質を選ぶ必要があります。 (4)(3)のPC六角ボルトともう1本の六角ボルトにゴムパッキンをはめます。![]()
【実験】
(1)図3のように両端にナットを接着したアクリルパイプを計量カップのボルト にねじこみ、スタンドなどに軽く固定しておきます。この際、こぼれた水銀 が散らないように、下にバットなどを受け皿としてしいておきます。 (2)パイプの上端から、小型の漏斗などを用いて、水銀を静かに流し込みます。 途中、ときどき管壁につく気泡を指ではじくなどして浮上させます。 (3)パイプの上端のナット近くまで水銀を満たしたら、上端のナットにボルトを ゆっくりねじこみます。水銀がネジのすき間からあふれたり、下のパッキン から漏れたりしますが、構わずねじこみます。あふれた水銀は計量カップ内 にたまります。水銀には直接手を触れないように注意します。 (4)残りの水銀を全部下の計量カップにあけます。カップ内のボルトが完全に隠 れるくらいの量が必要です。 (5)スタンドのクランプをゆるめ、パイプ全体を上から見て反時計まわりに回転 させ、下のボルトからパイプを抜きます。水銀柱がしだいに降下して、液面 から76cmぐらいの所で止まるはずです(図4)。止まらない場合は、上のボ ルト部の気密が十分でないと考えられます。 (6)パイプを斜めにして実験することもできます。 (7)上のボルトをゆるめれば水銀は全部下の計量カップに降下します。計量カッ プは回収容器を兼ねています。水銀を散らさないように注意しながら、試薬 壜にもどします。
【実験の写真】
パイプを下の計量カップにねじこみ、スタンドに固定する。上から漏斗で水銀を流し込む。
パイプに水銀を満たしたら上からボルトをねじこみ水銀をあふれさせる。あふれた水銀は水銀受けにたまる。
残りの水銀は下の計量カップへ。
上は気密にしたままパイプをゆっくりねじって下のボルトからはずすと水銀柱は76cm付近まで降下する。中の気泡を完全に追い出すのが難しいため、1cm位低くなることが多いが演示には十分。
【オプション】
上端の六角ボルトにドリルで3mm程度の穴を貫通させ、真空ゴム管に接続でき るようなコネクターを接着します(下図)。真空ポンプで水銀を吸い上げると、 上記の実験と同じ高さで水銀柱が静止します。あたりまえなのですが、実際に目 前で見ると素朴な喜びを感じます。 10cmほどのアクリルパイプで同様の装置を作り、上記の手順で水銀柱を立てた 後(当然真空部はできない)、装置全体を真空デシケータに入れて排気します。 わずか10cmの水銀柱も見事に降下し、水銀柱を持ち上げていたのがまわりの大気 だったことがはっきり示されます。空気を戻せば水銀柱も回復します。
真空ポンプオプション
言うまでもないことですが、水銀は猛毒 で環境汚染物質です。取り扱いには十 分注意しましょう。長時間蒸気を吸ったり、触れたりしないようにしてください。 こぼれた水銀は必ず回収しましょう。水銀ばさみという回収用具があります。実 験はあくまでも演示にとどめ、生徒には扱わせないのが賢明です。 また、アクリルはアルコール類などの有機溶媒に弱い ので、これらを管内に注 がないように注意します。アクリル管がもろくなり破断するおそれがあります。