例会速報 2025/10/19 早稲田大学高等学院・Zoomハイブリッド
YPCホームページへ| 天神のページへ| 他のサークル・団体等へのリンク| 次回例会のご案内
YPC例会のもようを写真構成で速報します。写真で紹介できない発表内容もありますので、詳しくは来月発行のYPCニュースで。例会ごとに更新します。過去の例会のアルバムはここ。
授業研究:運動における保存量 勝田さんの発表
勝田さんは今年度から学校を移り、前任校では3単位で2年生に教えていた物理基礎を、2単位で1年生にやることになり、時間数と数学知識の制限に悩みながら、ギリギリまで内容を絞って授業を組み立てている。現勤務校でも前任校と同様、運動量を物理基礎で扱っている。質量と速度を試しに掛け算してみよう、なんて考える生徒はいるわけないし、2
kg の 3 m/s 倍なんて意味がわからない、と生徒は感じるだろう。「p=mv」という量を、現象から見出し、その意味を味わえるような授業を作りたいと勝田さんは考えた。
そこでまず、運動量 mv という式を見出すために、静止した2台のスマートカートを、マグネットバンパーの磁力で互いに反発するように向き合わせ、糸で繋ぐ。糸をハサミで切れば、2台が初速ゼロから動き出す。違いの質量比を変えて、実験を繰り返すと、2台の速さの比が質量の逆比になっていることはすぐに気づく。動画(movファイル1.2MB)はここ。
この糸をカートに結ぶのに時間が取られ、授業のテンポが悪くなるので、何かフックのようなものを取り付けた道具を作って、すぐにやり直せるようにしたり、磁力を受けないようにセラミックの鋏を使ってはどうか、というアドバイスが例会ではあった。「実は、そういう道具を作ろうと、100円ショップに行って材料を探したことはあるのだが、なかなかうまいものが思いつかず、誰か発明してくれないかなーと期待している(笑)。」とは勝田さんの言葉。

「では、運動中にも同じ規則が成り立つか?」と問いかけ、初速を持った状態で糸をハサミで切り、分裂させる。その時の値を見ると、分裂後の速さの比は、質量の逆比とは程遠い。「ではどう考えれば、静止中も運動中も同じ法則が成り立つと解釈できるか。」と生徒に投げかけ、議論してもらう。すると、「速度の変化の比が逆比になっている」という考えが出てくる。動画(movファイル93MB)はここ。
これは、2台の台車の v-t グラフをスクリーンに表示してあるので、割とすんなり生徒から出てくる。そこから式をたてて整理していくと、運動前後で2台の台車の質量×速度が一定に保たれている、という展開である。

この「意味のありそうな量」の「質量×速度」を新たな物理量「運動量」として定義し、注目していくことにする。次の時間からも、数理的な導出は後回しにして、とりあえずこの量が保存することを確かめていく。
質量の異なる2台の台車をゴムで繋ぎ、引っ張って離すと衝突する。どこで出会うか予想させると、質量の逆比の内分点になる。今度はマジックテープで衝突後にくっつくようにし、合体後にどちら向きに動くか、止まるか考えさせる。予想した位置でピッタリとまる。これは直感に反すると感じた生徒が多かったようで、重い方が勝つ、という予想が多く、驚いていた。動画(movファイル1.4MB)はここ。

勝田さんの勤務校には共通のテキストがあるが、勝田さんはほぼ使っていない。共通問題の試験もあるので、とりあえず全範囲をカバーするようにはしているが、2次元の運動量保存は軽く触れるだけにする。それよりも、1次元で運動量の概念獲得(というより誤概念克服)に限られた時間を充当したいと勝田さんは考えている。
次に、台車に斜面を取り付け(パスカートに、ポスター用の段ボール箱を取り付けて作った)、斜面に鉄球を転がす課題を考える。まず、斜面から台車が滑り落ちるようにすると、鉄球と逆向きに台車は運動する。ところが、鉄球が斜面の下でキャッチされるようにしてやると、台車はピタッと止まる。これはどちらの課題も意見がわれ、さらに演示実験もピタッと決まるので、授業は盛り上がった。運動量保存則の説明は理解できても、それでも台車が止まるのは気持ち悪い、と感じる生徒も少なくなかった。

ここまできてようやく、運動量保存則を、運動方程式と作用反作用の法則から導出する。そのときに、運動量の変化は力×時間の分だけ変化することが見出されるので、これを「力積」と名づける。その後、前時で扱った、鉄球が斜面下でキャッチされる台車を用いて課題を出す。今度は、台車が壁に接していて、鉄球と逆向きには動けなくする。鉄球が滑っている間、「台車+鉄球」系にとっては外力である壁からの力を受けるので、運動量は保存せず、鉄球がキャッチされた後は、台車は走り出す。動画(movファイル1.7MB)はここ。
とりあえずここまで4時間を授業研究とし、運動量保存則を扱った。この後は反発係数の扱いに進んでいく。

パッキングをゴム手袋にしたマグデブルグ半球 天野さんの発表
天野さんは、自作の逆止弁を使った簡易圧力実験装置の改良に継続的に取り組んでいる。以前に製造・頒布していた百均のプラスチック茶碗の「マグデブルグ半球」に、前回例会で紹介した「ゴム手袋のパッキング」を採用してみた。逆止弁の部分は、2016年4月に開発・例会発表した薄いゴムシートを採用している。

減圧ポンプは前回も紹介のあった、セリアの「食品圧縮用手動ポンプ」を使用する。容器が肉厚でしっかりしていて、かなり大きな力を加えてもゆがまないのでマグデブルグ半球の実験に適している。

新幹線のトンネルと気圧 鈴木駿久さんの発表
鈴木さんは修学旅行引率で栃木から京都・大阪方面に行くときに、新幹線がトンネルに入る前後の気圧を測定した。1回目の測定(東京→広島)では、入った直後から圧力が下降した。

気圧が上がると思っていた鈴木さんは、帰路、再度測定した。2回目の測定(広島→大阪)では、入った直後に圧力が上昇し、その後下降した。

鈴木さんは、この違いは乗車位置が異なることが原因ではないかと考えた(こちらの論文にも記載がある)。1回目の測定時は最後尾近く、2回目の測定時は先頭車両に乗っていた。

例会参加者からは、「傾斜の影響ではないか」「そもそもこの気圧は、新幹線外部の気圧を測定しているのか」「トンネルから出る直前に一瞬圧力が上がるのはなぜか」など様々な質問が出た。そのため今回の測定のみでは新幹線の乗車位置によるトンネルに入った際の気圧の関係を断定することはできない。追実験を行うことが必要だと鈴木さんは考えている。早くも次の修学旅行引率が楽しみである。

力学的エネルギーの問題 山本による宮田さんの代理発表

某K林館の物理基礎の教科書の章末問題にこんなのがある。滑らかで水平な各レールの左端から、同じ初速度で小物体を運動させる。②と③にはアップ、ダウンがある。右端に到着するまでの時間が最も短いのはどれか、という問題である。正解は③。あまり考えないで直感的に考えれば易しい問題だ。
しかし、宮田さんはふと気になり、山本に相談した。斜面部分の長さによっては必ずしも③が早いとは限らないのではないか。速度の水平成分には斜面の傾きのcosがかかるので、斜面区間が短いと時間的に得にならないこともあるだろう。2人はそう結論した。
ところがよく見てみると、問題文には「同じ長さのレール」とあり、図の右端の位置は一致していない。つまり、②③のコースは「遠回り」ではないのである。2人はまんまと引っかかったわけだ。「下を通るコースではスピードアップするので、遠回りでも早く着く」というところが意外性があって面白い課題で、演示実験器具も市販されているが、その場合は右端が同じ位置で、複数の球の着順を観察するのである。なまじそういう実験を見慣れていて、考えすぎるとひっかかるという意地悪問題だと感じた。
ポスター制作課題 市原さん、植松さんの発表
市原さんは、中学1年生の夏休みの課題として、科学者ポスターの制作を課した。生徒には次のように伝えた。
「世界を変えた科学者のポスターを作る。理科系であれば分野は問わず。過去の偉人でなくても、存命の人物でもよい。その科学者の業績を簡単にまとめ、紹介するポスターにしてほしい。」

提出されたポスターは写真のように廊下に一覧で展示した。種類でいうと65人の科学者のポスターが揃った。植松さんに整理をお願いしたところ、誰のポスターが何枚あるかを集計してくれて「中学1年生がピックアップしようと思う偉人の人気」が可視化できた。
1位はニュートンで32枚、2位がガリレオで23枚と、概ね予想通りではないだろうか。アインシュタインが1枚しかなかったのは、見本で提示したからだろう。3位は進化論のダーウィンで21枚。4位がマリー・キュリーで14枚と続く。手書きよりもPCでの作成が圧倒的に多く、小学校から使い慣れていることもうかがえる。興味関心を持つきっかけになったらよいな、と市原さん達は考えている。

アルミカップ落下の実験をやってみた 峯岸さんの発表



ローレンツ力の反作用 小河原さんの発表
2025年7月例会で、小河原さんが故鈴木亨さんとのやりとりを思い出して、ローレンツ力の反作用について故霜田先生の論文を読んだとの発表があった。7月は、霜田論文の前段階の説明があったが、小河原さんによると「あとは霜田論文を参照してください」と結ぶのはあまりにも不親切だと思い返したそうだ。そういえば、YPC草創期からのメンバーである超ベテランのMさんでさえ、「その論文は何度読んでもわからなかった」とこぼしていた。
そこで、霜田論文についてざっくりと解説してみようということで、若手の峯岸さんにその場で逐一確認しながら論文の内容を追いかけてみた。当該論文は、以下のURLのJ-Stageからダウンロードできる。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/pesj/25/3/25_KJ00005894241/_pdf/-char/ja
§4正解の章を読むと、要するに移動する正の荷電粒子が作る電場の時間変化∂E/∂tを図示し、そのベクトルと電流が作る磁場ベクトルの外積を考えれば、それが電磁場が受ける力f'につながるらしい。作図してみると、確かに板書の通りf'はローレンツ力fと正反対向きとなっている。詳細な展開は、ぜひ霜田論文を参照し、また霜田論文を引用した以下のURLの鈴木亨論文で触れている「教員採用試験での作用反作用分野の出題ミス」を確認した上で、鈴木亨さんが口にしていた「作用反作用は奥が深い」という言葉を味わっていただきたいとのことである。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/pesj/56/4/56_KJ00005897014/_pdf/-char/ja

AIを用いたアウトプットアプリの研究 中田さん、佐野さんの発表


職業意識の中の「教職」 古谷さんの発表
古谷さんは、教育について語り会いたいというある市民団体からの要請があり、その資料を集める作業の中で知ったことを基にしてレポートした。
資料の中に、子どもの職業志望の中で教員を志望する子が多いことを示すアンケート結果があった。古谷さんにとっては実に意外なことだった。今、教員は本来の仕事である教えることに関わる時間以外の、所謂雑用に費やす時間が多いことが問題となっている。小中学校の教師の勤務時間が海外との比較でも圧倒的な差をつけて1位であることが最近の新聞にも掲載されていた。また、中高では部活動の顧問として引率をしなければならず、休日に開催されるサークルへの出席もできないという現実もある。そうしたことを背景に、教員志望者の減少が起こり、「教職はブラック」とさえ言われるようになっているのが現状だ。その一方、小中高生が教職を将来の職業としてどう見ているかは興味のあるところだ。
最初にみたアンケートによると、小中高生では教職は1位だった。また、別のアンケート結果によると、1位ではないにしても年々教職の順位が上がっていることが分かった。

以上のことから、古谷さんはふと思いだしたことがあるという。元教師だった今年93歳となる姉の言葉だ。「母に幼い頃から『女教師になりなさい』と言われ続けた。後になって、女性にとって教職は男性と賃金が同等だからというのがその論拠であることを知った。」と。
なるほど、男女別のアンケートの結果では、女子の教職希望の比率がより高い傾向だった。経済的な事情がその背景にあるのは今も昔も変わらないように思う。
古谷さんは最後にこう語った。「個人的には、高校の同期会の場で、小中高を共に過ごした女の子たちに『古谷君、どうしてあんな大学(教員養成)に行ったの』と問われ、即座に答えられなかったことが忘れられません。教員の社会的な評価や自らの仕事への誇り、そうした点について振り返ってみることは意味あることではないでしょうか、あらためて感じたところです。」

大阪万博行ってきました 喜多さんの発表
喜多さんは、閉幕間際の大阪万博に行ってきた。元々は行く気がなかったのだが、9月のブラタモリの「三十三間堂」の放送で、万博の【大屋根リング】がその時点で世界最大の木造建築としてギネスに載ったと知り、何故か行く気スイッチが入り、スマホでの登録作業を経て、10月2日の12時からの入場を果たすことができた。
Googleマップで「大屋根リング」、「大阪万博 夢洲」で検索すると、まだ工事中の画像(左図)が表示される(2025年11月3日時点)。右図はその一部を拡大したものである。行ってみて初めて知った事実。大屋根リングは二重構造だった!

喜多さんの行く前のイメージは一つの平らな円のリングであった。実際は高さ12mで水平な幅3m程度内側の円形リングと、最高の高さが20mで8m高低差がある外側の円形リングからできている。さらにストリートビューをクリックすると、4月の時点で撮影された画像が表示される。実際に行かれた方は、想い出の場所を確認できるのではないか。
高さ12mの内側のリングにはエスカレーター(左図)で上る。そこからは歩いてなだらかなスロープにそって上っていくことにより外側のリングに行くことができる。右図は歩いていて見つけたルアンドロ・エルリッヒ氏の展示、「無限の庭園 祝福された多様性」。平行に置かれた平面鏡の間を歩いて森の中にいるような無限鏡像を見ることができる。

翌日、喜多さんは、1970年万博の会場だった「万博記念公園」を訪ねた(左図)。今回の万博より敷地面積は圧倒的に広い。展望台に上ってみると、まわりはうっそうとした森林になっていて「展望」などまるでない。55年の歳月を実感した。右図は万博記念公園の中にあった「森の集音器」。森の中での鳥の声、風の音などを聞くための反射板である。展望の代わりに自然の音をお楽しみくださいというわけだ。

二次会 上石神井駅前「八剣伝 上石神井店」にて
18名が参加してカンパーイ!例会本体には対面で28名、オンラインで7名、計35名が参加した。例会本体の対面参加は今年一番、二次会参加は、コロナ禍以降最多の人数となった。早稲田大学高等学院は初めての会場だが交通の便もよく、勝田さんの勤務校とあって参加者の関心が高かったようだ。二次会の幹事も引き受けていただいた勝田さんからは以下のメッセージをいただいた。
「久しぶりにYPC例会に参加でき、新たな勤務校に多くの方が集まってくださり、大変嬉しかったです。2次会も楽しかった!3次会も同じ店でやりました。また遊びに来てください〜〜〜。」
YPCホームページへ| 天神のページへ| 他のサークル・団体等へのリンク| 次回例会のご案内