例会速報 2025/06/22 鎌倉学園中・高等学校・Zoomハイブリッド


前の月の例会例会アルバム目次次の月の例会


YPCホームページへ天神のページへ他のサークル・団体等へのリンク次回例会のご案内


ただいま工事中につき、タイトルのみの未完成記事があります。近日正式公開予定。

YPC例会のもようを写真構成で速報します。写真で紹介できない発表内容もありますので、詳しくは来月発行のYPCニュースで。例会ごとに更新します。過去の例会のアルバムここ

授業研究:力と運動の正しい認識のための力の導入原案 市江さんの発表 
 市江さんは、中学・高校の両方に通じる「力の導入」について提案した。以下、市江さん自身のレポートと課題提起を掲載する。
 中学生はもとより、力学の学習を終えた高校生でも、飛んでいるボールにはたらく力を図示させて説明させると、「飛んでいく力」、「推進力」、「動く力」など呼び方は様々ではあるが、進む向きに力の矢印を書く生徒が必ずいる。物理を学ぶのであれば、運動方程式をしっかり扱えるようになってほしいと、かつては運動方程式の使い方ばかりに時間を割いてしまっていたが、今は「力とは何ぞや」という素朴な疑問に対して、もっと真正面から生徒に向き合わせる時間が必要だと感じている。
 「力のはたらき」の説明として、どの中学、高校の教科書にも左図のような記述がある。①の「ものを支える」が高校物理の教科書で省かれているのはさておき、こうした導入を受けて力の学習を終えた生徒たちに、「力とは何か。どんなはたらきをするものか、例を挙げて自分の言葉で説明しなさい。」と発問したときに、丸暗記の言葉合わせではなく、自分の言葉で説明できる生徒がどれだけいるか、とても不安になる。
 問いが難しすぎると言われるかもしれないが、だからこそそれに対する明確なアンサーを我々物理教師はしっかり用意しておくべきではないだろうか。そうした視点に立って①②③の力のはたらきについて再考してみると、力の本質をとらえる上で最優先すべきは、③の「運動のようすを変化させる」であると考える。もちろん、①は中学生に垂直抗力を見つけやすくするためには有用であるし、高校物理で力を定量的に同定するためには②も必要であることに異論はないが、これらを③と並列に扱うことにはかなりの抵抗を覚える。生徒にとってもいきなり3つの場合分けは酷すぎる。
 力の本質についての私なりのアンサーは、「力とは、物体の運動を変化させるはたらき」である。速度や加速度を学習した後なら、「物体の速度を変化させるはたらき」や「物体に加速度を生じさせるはたらき」と言い換えてもよい。さらにそれだけでは不十分なので、以下のようにとても大切な補足を必ず付け加えるようにしている。
「力のはたらきは、物体の運動を変化させるだけであり、物体を運動させるのに力は必要ない。」
 この説明はいささか乱暴な説明のように感じるかもしれないが、決して誤った説明ではなく、むしろ力の本質をとらえた簡潔な説明だと考えている。しかし、これをいきなり説明しても生徒も困ってしまうので、私は導入で力のはたらきを説明することはせずに、このアンサーに到達させることを目標に、現在試行錯誤中の1or2時間程度の以下のような力の導入授業を提案したい。
1.力とは何か。力の本質についてみんなで考えようと呼びかける。
2.いきなり力の図示の問題を解答させる。(1)バットで打たれて飛んでいるボール (2)机の上に静止している本 (3)糸でつるされているおもり
 

3.2の解答解説をしながら、以下のA~Cについても説明する。ただし、(1)は飛ばす。
 A.力の分類(遠隔力・近接力)※重力以外の近接力は、触れ合ってはじめて力を及ぼし合うことができる。
 B.力の見つけ方(重力以外は接触物に注目して見つける)
 C.2力のつりあい(①の力のはたらきについては説明する必要なし)
  ※これらは目に見えない力を把握するために最低限必要なスキル
4.(1)の「動く力」(誤答する生徒は必ずいる)を取り上げ、上のABCのスキルでは見つけられない力であることを確認する。
5.物体が動くのに力は必要であるか?と発問する。???答えは保留
6.止まっている物体を動・か・すのに力が必要なことを確認する。
7.机の上を滑っている物体が止まるときに力は必要か。その力は何か。→摩擦力(必ず答えてくれる)
8.6.7を踏まえて、運動の変化に注目させる。
9.摩擦がないときに物体はどんな運動をするのかをエアートラックの実験で検証する。
 (滑走体を手で押している間と手から離れたあとの力を図示させ、運動が変化しているときと持続しているときを明確に区別することを意識させる。)
10.慣性の法則を確認し、この法則は、物体を運動(等速直線運動)させるのに力は必要ないことを私達に教えてくれていることを生徒に強調する。つまり、「力は物体の運動を変化させるときのみ必要であり、運動を維持させるのに力は必要ない。」とまとめる。

 ここで授業を締めくくっても良いが、欲張ってエアートラックを使った質量と重さ(重力)のちがいを示す実験もぜひ行いたい。下の図は平成10年発行実教出版教科書「物理IB」の問から(残念ながら現行の教科書にはない・・・)
 

 滑走体にはたらく力を図示させて、重力が垂直抗力で打ち消されていることを確認する。誤答を誘う誘導になってしまうのだが、「滑走体の重さ(重力)は、垂直抗力で打ち消されているので、この滑走体はレールに沿った直線上に限っては、宇宙空間と同じ運動をする。」と補足してから予想を立ててもらう。この誘導のお陰で生徒の予想が割れて、この実験の争点をより浮き彫りにすることができる。
 実験では、滑走体の質量にもよるが、加速度が大きくなりすぎないように、おもりは5g程度、糸はポリ水糸等の軽いものを使う。実験結果を受けて、「重さは打ち消されても質量はなくならない。」とまとめる。質量は物質そのものの量であると同時に、動きにくさ、止まりにくさ(慣性)の大小を表す物理量であることを申し添える。
 高校物理授業のバイブル「たのしくわかる物理100時間」に書かれている力の原理にそった力の授業が、YPCでも評価を得ているのは承知しているが、「物体の運動に力は必要ない。」という立場で眺めると、その功罪が見えてくる。この原理が初学者にとって一定の指針になることは間違いないが、簡単な条件下の力の振る舞いだけを扱ったこの説明を力の原理と称して初学者に提示し、力と物体の運動を安易に結びつけて考えさせるため、かえって慣性の法則の理解の妨げになりはしないか心配になる。「力の原理」は原理なのに動いている物体にはたらく力については何の指針も与えない。
 

 上の1~10の手順で力の学習を行えば、早い段階で生徒に力の本質について考えさせることができ、どんなときにも通用する明確な指針も得られる。速度と加速度のちがいや運動方程式の学習を終えた段階では、さらに以下のような説明もでき、より強固な認識へと導くこともできると考えている。
  力と速度は直接的には無関係
  力と直接関係しているのは加速度!!
  なぜなら、F=ma この式の中に速度vはない。力によって生じるのは、速度ではなく、加速度(運動の変化)である。
 人は「運動=速度」と考えがちなので、このような表現の方が初学者にもその後の弊害もなく、力と運動の関係を正しく伝えられると考える。今後も力と運動の正しい認識のためにどんな授業が効果的かYPCのメンバーと模索してゆきたい。
 

2枚重ねの一円玉を水に浮かせる 山本の発表
 5月例会で「水に浮く一円玉」の論文を紹介したところ、MLでも話題が続き、2枚重ねの一円玉を水に浮かせられることが明らかになった。MLで加藤俊博さんが提案した、「皿の上に一円玉を2枚重ねて置いて、後から周りに静かに水を注ぐ」という方法(右図)が成功率が高いことがわかった。その報告である。用意するものは透明な浅い皿(時計皿、シャーレなど)と洗浄びんなど、静かに少しずつ水を注ぐことができる道具、そして、皮脂でしっかりコーティングされたよく使われた一円玉である。水をはじくことが大切だ。
 

 浮いている一円玉の下側も観察するために、皿の下に鏡を斜めに置いて実験を行った。下に空気があってそれで浮いているとの反論を封じるためだ。実のところ底面に気泡が残らないようにするのは容易ではないが、この方法で確認することはできる。右は2枚重ねで浮いている様子。かなり水面がへこんでいるのがわかる。一円玉の半径は1cmで、質量は1枚1gなので、アルミニウムの密度、2.7g/cm3を用いると2枚重ね(2g)の体積を計算することができる。実際の一円玉は表裏にレリーフが施されているので2枚重ねると3mmほどの厚みになるが、凹凸のない円柱だとすると、2.36mmの厚さに相当する。
 

 5月例会で紹介した論文では、計算上の限界厚みは2.3mmとされている。つまり2枚重ねの一円玉は、水に浮くアルミの限界なのである。真横から観察した左の写真では2枚重ねで浮いている様子がわかる。表面張力で湾曲した水面が見える。2枚のすきまに水が入り込むと下の一円玉だけ分離して沈んでしまう。右の写真は2枚重ねで複数組を同時に浮かせた様子。1枚で浮かせたときと同じく、互いに引き合うように集合してしまう。
 

定在波 曽谷さんの発表
 曽谷さんは、気柱が共鳴している時に内部の定在波(定常波)の音圧 がどのように分布しているかを視覚化する工夫をしてみた。棒に2cmほどの等間隔でコンデンサーマイクとLEDが並んでおり、音圧の大きい部分(定在波の節)でLEDが明るく光る(写真右)。
 

 左は回路部分の拡大。かなり根気のいるはんだづけが必要のようだ。
 もう一つ曽谷さんが製作したのは、LEDとマイクが先端に1個だけついているタイプ。音圧が大きい所でLEDが明るくなるのは同じだが・・・
 

棒の部分が管になっていて、聴診器の耳管と導管を取り付けることができる。プローブを気柱内で動かしながら、耳に当てた耳管で音を聞くと、LEDが明るくともる部分では音が大きく聞こえることがわかる。「実はLEDなんていらなかった」と曽谷さんは言うが、視覚と聴覚を両方使って納得できる優れた実験器具だと思う。
 

テンセグリティ 喜多さんの発表
 埼玉の湯口さんからアルミのワイヤで作ったテンセグリティをいただいた喜多さんは、湯口さんから「作ってみると力の関係が分かりますよ」といわれ、早速ダイソーにいき、適当な材料を物色した。最終的に、商品名「ウォールナット 4枚 (WM-5)」突板MDF 100mm✕100mcm✕6mm を購入し、試作すること4回目で今回のものに辿り着いた。簡単に組み立て、分解できるようにしたところがウリである。
 左図は、準備するもので、L形パーツ2個、板2枚、タコ糸長さ約15cmに切ったもの5本である。L形パーツは1枚の板からバンドソー(糸鋸盤でも可)で切り出したものである。また、L形パーツと板とを組み合わせるために、それぞれに幅6mm、長さ15mmくらいの溝を作った。右図は板2枚の四隅をタコ糸でつなぎ、上の板を持っているところ。
 

 次に上下の板に、L型パーツを差し込む(左図)。このL型パーツで上下の力関係を逆転するところがこの構造のミソ。上の板と組まれたL形パーツを下の板のL型パーツでつり上げれば構造は完成する。右図はまだつる糸が緩んだ状態。
 

 2つのL形パーツ間の糸の長さと張力を調整して(左図)、全ての糸がテンションを持つようになると完成(右図)。
 

簡単に雲をつくる 天野さんの発表
 ペットボトルと手だけで簡単に雲(霧)を作る実験の紹介。手で握りつぶせる薄手のペットボトルを準備する。この中にアトマイザーで消毒用アルコールを2~3回噴霧する。キャップをしっかり閉めたら両手で持って、雑巾を絞るようにねじって握りつぶす。内部の気体に圧力が加わると共に手から熱が伝わる。
 

 力一杯ねじって潰したら、手を放す。「ポン」という音と共にペットボトルは復元し、断熱膨張で急激に気体の温度が下がって、中に濃い白い霧(雲)が発生するのが観察できる。黒い背景を用意すると見やすい。再びねじって圧力を加えると霧は消え、何度でも再現できる。大変お手軽で演示効果の高い実験だ。動画(movファイル:6.2MB)はここ
 

チャットアプリと知識グラフ 中田さんの発表
 
 

 
 

 
 

 詳しくは、株式会社オシロビジョンのサイトで問い合わせができる。
 

負の加速度 市江さんの発表
 
 

 動画(movファイル:2.4MB)はここ
 

 動画(movファイル:5.7MB)はここ
 

空気の質量を測る 山本の発表
 5月例会で発表した簡易逆止弁をとりつけたペットボトルと、50mLのディスポ注射器の圧入ポンプを使って、空気の質量を測る実験を、中学2年生に生徒実験として課した。生徒実験では容器は500mLの炭酸飲料用ペットボトルを用いた。50mLの注射器ポンプで10回ポンピングして500mLを圧入する。これによって増えた容器の質量を、圧入前の容器の質量と比べれば、500mL分の空気の質量が求まる。ラフな実験なので測定値のばらつきはかなり大きいが、5クラス49班の測定データを集計すると、空気の密度の平均値は1.15g/Lとなった。この日の気温、気圧、湿度から予測した密度は1.16g/Lなので、偶然かも知れないがかなりよい一致で、妥当な結果と評価している。測定データの一覧表(PDFファイル:207KB)はここ
 なお、事前の予備実験で、50mL×10回のポンピング後、水上置換で圧入した空気の体積を確認したところほぼ500mLだったので、生徒実験では水上置換の手続きを省略し、注射器の目盛りを信じる簡易実験とした。
 

ホンダの再使用ロケット動画 天野さんの紹介
 2025年6月17日、本田技研は北海道大樹町で、自社開発の再利用型ロケットの離着陸実験に成功した。その紹介。およそ300mまで上昇した機体は約1分後、発射台付近に安定した着陸を行った。画像は同社発表の動画からキャプチャした。
 

 同社の発表文はこちら。動画はこちら→本田技研:再使用型ロケット実験機の離着陸実験 
 

AIにケプラーの第三法則を発見させる 鈴木さんの発表
 鈴木さんは、ケプラーの第三法則(惑星の公転周期Tの2乗と楕円軌道の半長軸aの3乗が比例)を授業するとき、惑星のデータから、この複雑だが「調和的」な関係を見いだすのがいかにすごいことか、ということをいつも強調している。そこで口が滑って、君たちはこのデータからこういう関数関係を見いだせるか、と言ってしまう。2007年6月例会では、生徒に両対数グラフにプロットさせて2/3乗に比例していることを確認する小河原さんの授業展開が紹介されている。元は喜多さんの実践だそうだ。鈴木さんはこの例会以降、同じ実践を授業でしている。
 そこで鈴木さんは、AIならこの関数関係を発見するだろうか、と興味が湧いて、やらせてみた。使ったのは鈴木さんのスマホの「copilot」。Webから惑星の周期と軌道半径の表を取り出して、xとyという変数だけの表にしてcopilotに貼り付け、「xとyの関係は?」とだけ質問した(左図)。すると、1分ほどで写真のように「y=x^(2/3)」と答えてきた。何かを参照するといけないので、このデータが惑星のものであるとか、ケプラーの名前などはいっさい与えていない。単純に対数を取って関係性を見ていって関数関係を見出したようだ。AI恐るべし!
 

エベレストの高さ 車田浩道さんの発表
 化学を教えている車田さんは、「外圧と沸点」の単元で、「化学(第一学習社)」のP16では、エベレストの標高が8849mと記載されていることに気が付いた。従来の値より1m増えている。2020年にネパールと中国が共同で再測量を行い、8848.86mと発表した結果、四捨五入で8849mとなった。この教科書は2023年(令和5年)に改訂された教科書である。地学の教科書(啓林館)には記載がなく、数研出版の地学図録はまだ8848mとなっている。
 

本の紹介 鈴木さんの書籍紹介
 「ひのえうま」吉川徹著 光文社新書(2025年2月初版)の紹介。2026年は干支で丙午(ひのえうま)にあたる。江戸初期から60年に1回の丙午では、この年に生まれた女は夫を食い殺すなどという非合理極まりない迷信をもとに、その年の出生率が前後の年より下がるという現象が続いてきた。この本は、社会学者である著者が、その時代ごとにその現象を分析し、次の(つまり来年の)ひのえうまがどうなるかを考察している。俗説の蔓延の仕方や圧力のかかり方や手段(産み控えや女児だった場合の「間引き」つまり嬰児殺しや出生日の日付の操作など)が時代ごとに違い、それを詳細に分析していて、とても興味深い。
 そして来年はどうなるか。ネタバレになるが、著者は2026年の「ひのえうま」は出生率の減少は起こらない、と7つの理由を上げて予言する。2026年までという期間限定になってしまう本だが、そこまでにぜひ読んでおくべき本として鈴木さんは推薦した。それ以降も、迷信などの俗説の分析として読む価値は十分残ると思うが。
 

発見を教える シャネルさんの発表
 シャネルさんはこの9月から大学生になる。コロナ禍の時の体験から教育のありかたに課題意識を持つようになったという。例会では、立派なプレゼンを披露してくれた。以下はシャネルさん自身による要約ある。原文のまま掲載する。

 この発表では、優れた教師は単に知識を伝えるだけでなく、広大な知の海を生涯かけて航海するための「コンパス」と「船」を生徒に授ける存在であることを強調しています。
 

 その核心にあるのは「問いを立てる習慣」です。この習慣がなければ、知識はしばしば表面的で脆く、元の文脈から外れた途端に崩れてしまいます。「ガイディング・クエスチョン(導きの問い)」を活用することで、教師は生徒が真の発見と革新を生み出すための思考習慣を育むことができます。
 

 これらの問いは、好奇心・批判的思考・内省的思考を育て、歴史上の大きな理解の飛躍を支えてきた「発見のヒューリスティクス(発見の方法論)」と同じものなのです。
 

二次会 鎌倉駅前「養老乃瀧」にて 
 13名が参加してカンパーイ!例会本体には対面で19名、オンラインで4名、計23名の参加があった。例会参加者の半数以上が二次会にも参加している。今回の会場は北鎌倉の建長寺に隣接している。「あじさい寺」として有名な明月院なども近い。ちょうど見頃とあって、周辺は観光客でごった返していた。インバウンド需要の高まりを受けて、外国からの観光客も大変多い。そんな中、居酒屋の二階で物理を語るこの大集団は極めて異質だ。


前の月の例会例会アルバム目次次の月の例会


YPCホームページへ天神のページへ他のサークル・団体等へのリンク次回例会のご案内