例会速報 2024/11/24 筑波大学附属高等学校・Zoomハイブリッド
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YPC例会のもようを写真構成で速報します。写真で紹介できない発表内容もありますので、詳しくは来月発行のYPCニュースで。例会ごとに更新します。過去の例会のアルバムはここ。
授業研究:物理基礎「力学」~FCIの結果を添えて~ 峯岸さんの発表
峯岸さんは、高校1年生の物理基礎で「生徒と意図を共有する」(本年4月例会)を意識しながら、「動力学から運動学」「まずは徹底的に1次元の運動」(本年7月例会)というカリキュラムで1学期を終えた。2学期は「2次元の運動学・動力学」というカリキュラムのもと、
(1) 2次元の運動(位置・速度・加速度)や力を任意の2方向に分解でき、分解した物理量から他の物理量を求めることができる。
(2) 2次元の運動(位置・速度・加速度)や力をベクトルで表すことができ、ベクトルで表した物理量から他の物理量を求めることができる。
という到達目標を掲げ、授業を行った。
到達目標①を実感させるために、まずは水平投射を扱った。水平投射の水平方向は等速か?鉛直方向は自由落下か?をグループ議論課題として提示し、実験で決着をつけた。その後、水平方向と鉛直方向に運動を分解したあとに、軌跡を描かせる活動を行わせた。「なんで運動を2つの方向に分解していいのかは分からないけど、分解しても差し支えがない」が1時間目の着地点だろう。
生徒の「なんで」は即座に回収しないと、生徒のストレスが積み重なり、ついてこなくなる。「力を分解してよいなら、力が原因で生じる運動も分解してよい」という実感を持たせるために、下図のようなグループ討論課題を提示した。例会参加者からは、『【課題1】(左図)で「ななめになるとより伸びる」と考えた生徒は、【課題2】(右図)で「bの方が長い」と答える生徒がいてもいいのでは?』「【課題2】を考えさせる前に「これは実現可能か」ということを聞いた方がよい」「【課題2】ではばねの上端にはひもをくくりつけた方がよい」というコメントがあった。生徒が気づいてない場合は、教師から発問するべきだったと峯岸さんは反省している。
次に峯岸さんは、到達目標(2)を実感させるために、サッカーパスを題材にしたグループ討論課題を提示した。ほとんどの生徒が左下図のような直線の軌道を予想した。サッカーボールでは生徒実験ができないので、テニスボールをデコピンする、という生徒実験を行わせた。すると生徒から「来るボールの速さとか蹴る強さによっては、蹴った方向にボールが転がるのでは?」という疑問が。右下図のように、力ベクトルから加速度ベクトル、加速度ベクトルから速度ベクトル、という流れで現象を説明すると、生徒から「だからか!」という声が。
「生徒と意図を共有する」「動力学から運動学」「まずは徹底的に1次元の運動」「2次元の運動学・動力学を分解とベクトルの両アプローチで」というカリキュラムを遂行した結果、FCIの規格化ゲインは0.39となった。峯岸さんは「生徒が物理を学ぼうとしてくれたおかげ。生徒が学びたくなるような授業を今後も提供したい。」と述べている。
身近なコイルのL 山本の発表
子ども向け手作りラジオの設計中に、身近なコイルや手作りコイルが実際どの程度のインダクタンス値Lになるのか、秋月電子のLCメータで実測してみた。安い計測器だが、回路素子のコイルを測ってみるとほぼ表示値と同じ妥当な値を示す(左図)。
手始めにナリカのコイルセットのコイルを測定した(右図)。空芯だと200回巻きで168μH、400回巻きで757μHだった。ソレノイドのLは巻数の2乗に比例するので巻数依存性は妥当だ。付属の鉄芯を入れるとそれぞれのLは6~7倍になる。
20mのホルマル線(左図右)をリールのまま測ると1163μHだった。サイズから巻数を推定すると約90回となる。ポリウレタン線をミシン用ボビンに巻いた自作の空芯コイル(左図右)は、300回、500回、1000回巻きでそれぞれ、752μH、2040μH、8540μHだった。サイズはほぼ同じだから、巻数の2乗に比例の傾向を示している。右の写真は開発中のAMラジオ教材の紙皿スパイダーコイル。左の円形が113μH、右の四角が100μHである。同じ長さ(10m)のホルマル線(エナメル線)を巻いているので、面積が大きくなれば巻数が減るため、両方の効果が相殺してあまり大きな違いが出ない。
コイル面積の依存性はこんな実験で調べられる。細いビニル導線(0.12φ、10m)を束をほどかないままでLを測定すると、つぶれているときは150μH前後、四角く広げると180μH前後の値を示す。面積に比例とまでは行かないが、増加関数的な依存性があることはわかる。
大まかに言って、この程度の手作り的コイルのLはざっと0.1~10mHのオーダーだった。巻数はソレノイドでは2乗で効いてくるので、Lを増やすにはたくさん巻くことが効果的のようだ。例会で配布した測定データ(PDFファイル72KB)はここ。磁気回路関係の公式集(PDFファイル110KB)はここ。
鈴木さんの綱引き+α 峯岸さんの発表
峯岸さんも以前までは4足歩行の熊のおもちゃ(左図)を使って、綱引きの授業を行っていた。しかし、ぜんまいが壊れてしまい、今年度の授業をどうしようか困っていた。そこで8月の科教協全国大会で鈴木さんが販売していた「ぜんまいおもちゃ」(本年8月例会でも紹介)(右図)を見つけ即購入。おもりを乗せたぜんまいおもちゃは最大摩擦力が増し、綱引きに勝てるという教材である。
峯岸さんは「ななめに引っ張ることで垂直抗力が変化し、最大摩擦力が変化するということにも気づかせたい。」と考え、鈴木さんの「ぜんまいおもちゃ」のひもをななめにしてみた。ひもが高い位置にあるとぜんまいおもちゃは転倒してしまい、低い位置にあると勝敗が分かりにくい。いい感じのところを探して綱引きをさせてみると・・・ 峯岸さんは摩擦角を測定する摩擦台とぜんまいおもちゃの足裏との組み合わせがいい感じだったと語る。摩擦が絡む実験は、最適な組み合わせを見つけるのが教材研究である。
ガスコンロ熱気球実験 古谷さんの発表
古谷さんは以前に小学校四年生の授業で「熱気球」を扱った。その授業の目標の一つは「グループ内の全員が参加して行う実験」だった。ポリ袋の上方を持つ者、下方をつかむ者(2)、ガスコンロを操作する者、といった具合でひとり一役を基本に、全員が呼吸を合わせて行う実験だった。古谷さんはこの実験を科教協関ブロ千葉大会の化学分科会で報告することになり、事前に神奈川理科サークルで提案した。いくつかの意見や感想の中で、「ポリ袋を自立させる支え」のようなものがあると気球が垂直に上昇し易いのではないかという意見があり、古谷さんは、「支持台=ランチャー」なるものを作成してみた。
縦棒の材料はアナログ時代のテレビアンテナの素子(アルミ製)を使用、2mm径の針金で4本の棒を繋いだ。製作途中で持ち運びの際に縦棒がバックからはみ出すことを避けるため、2段~3段にし、その接合部に工夫を凝らした。少々支持台としての安定性に欠けてはいたが、気球の打ち上げを支持する道具としては有効だった。動画(movファイル2.7MB)はここ。
ロールペーパー芯のスポットライト 天野さんの発表
天野さんは2018年1月例会でLEDトーチRGBのセロファンを用いた光の三原色実験を発表しているが、スマホのライトを使ってもっと手軽に三原色の実験ができる方法を紹介した。テレビでカラオケボックスでスポットライトに使えると言っていたのを聞いて思いついた。用意するものはトイレットペーパーの芯3本とRGBのセロファンだけ。スマホ3台でLEDライトを光らせ、その前に左図のようにセロファンを筒口に貼り付けたペーパー芯をつけるだけ。白壁に投影すると光の加法混色ができる。光量は三台のスマホの距離を適当に変えればよい。
ダイソーの700円電池エアーポンプ 天野さんの発表
ダイソーの釣り具コーナーに「エアーポンプ」(\770税込)が登場した。釣りマニアにはなかなか便利なアイテムらしい。天野さんはこれを50mLディスポーザブル注射器に接続して、空気圧シリンダとして使い、力を発生させることを試みた。ポンプを駆動すると注射器のピストンが押し出されていく。この力で何かを強く押す機構が作れる。
天野さんは本年8月例会でチャレンジした、ピンポン球投射器の板バネを押すトリガー部にこの機構を取り付けてみた。銀色の球がしっかり射出された(写真)。繰り返し射出するには、注射器内の空気を排出する仕組みが必要で、まだ開発途上だが、今後発展が期待できる素材だ。動画(movファイル4.9MB)はここ。
喜多さんの抵抗の実験+黒上質紙導通性の現状 鈴木さんの発表
導通性のある黒画用紙や黒ラシャ紙は、等電位線の実験や抵抗の実験などで重宝する貴重な素材である。鈴木さんは、1990年ころの例会で喜多さんが発表した実験を、ずっと生徒実験として実施してきた。黒ラシャ紙をいろいろな形にしてその抵抗値を測り、抵抗の合成や断面積との反比例の関係を確認する実験である。
2015年4月例会では100円ショップの黒画用紙の中で導通性のあるものは何かなどが話題になった。鈴木さんは今回この実験素材を補充しようと、100円ショップをいくつか回り(ダイソー・キャンドゥ・セリア)、黒画用紙を買って回ったが、なぜかすべて導通性がなく、導体紙として使えないことがわかった。仕方がないので、東急ハンズに出向き、画用紙コーナーで黒い紙をすべて購入し、導通性を調べた。その結果、これらの色画用紙には、導通性のあるものがいくつかあった。おすすめは、右下図の二重丸の「ミューズマーメイド110kg
黒 47円」とその上の「ミューズ色画用紙 厚口78kgA4黒」というものだ。ただ、ネットではナリカの導体紙(100枚セット)が入手できるので、大量に必要な場合は、それが最適だろう。ちなみにネットで「導体紙」と検索するとナリカの商品の次に、「天神のページ」の黒画用紙の導通性を確認するなつかしい方法がヒットする。
磁束の閉じ込め 勝田さんの発表
高3物理で変圧器の原理を説明する際に、「鉄芯は磁束を外に逃さず、1次コイルと2次コイルで貫く磁束は共通」であることを仮定しなければならない。高校物理の範囲では理論的な説明はできないが、勝田さんは何かしらの根拠を生徒に与えたいと思い、簡易的な実験を行った。
U字型のアルニコ磁石で、500 g の鉄製おもりを持ち上げる(左図)。その状態で、両磁極を鉄板で繋げると、おもりが落下する。両磁極を鉄板で繋げた磁石をおもりに再度近づけても、もうくっつかない。非常に簡単な実験で、授業中の思いつきでやっただけなのだが、生徒からの反応が驚くほど良かったので紹介したという。動画(movファイル1.3MB)はここ。
ヒモがいらないダイナビー 越さんの発表
越さんは、ヒモがいらないゼンマイ式のダイナビー(パワーボール)を紹介した。始めに指でボールを2回転程逆向きに回してゼンマイを巻き、手を離すと順方向にボールが回転しだす。あとは全体を掴み手首を頂点として円錐を描くように回し、ボールを加速する。高速で回転するとLEDが点灯し、見た目がキレイだ。
分解してみるとドーナツ型の6極の磁石と2つのコイルによる発電機とR、G、Bと白色2つ、計5個のLEDが組み込まれていた。商品名は「ぐる玉」でドンキホーテのスポーツ用品コーナーで999円(+税)と格安で販売中。
ダイナビーの原理については
「ダイナビーの力学・Part1」https://www2.hamajima.co.jp/~tenjin/labo/dynabee.htm
「同・Part2」https://www2.hamajima.co.jp/~tenjin/labo/dynabee2.htm
を参照のこと。
手こぎボートのてこ 西尾さんの発表
理科教室10月号の小学校の実践記録「てこのはたらき」で、手こぎボートのオールが、栓抜きなどと一緒に「作用点が支点と力点の間にあるてこ」に分類されていた。つまり、支点は水をかくブレードで、作用点がオールとボートの接点であるクラッチだという。どうやらこのような解釈が小学校では一般的で、中学入試の定番の問題でもあるようだし、その解釈の説明は「移動しないのが支点」や「ボートを動かす結果となるのが作用点」などというものらしい。またYPCでも、2014年10月例会や2018年6月例会で、水野さんが繰り返して問題提起をされていることもわかった。
「移動するかどうか」は座標系によるし、「人がオールに与えた力で、人が乗ったボートを動かす」という力学的説明は、物体系の重心を内力で動かすという誤解につながる。てことして説明するのなら、支点はクラッチ、作用点はブレードにして、ブレードが水を押す力の反作用でボートが動くとすべきだろう。
西尾さんは「そもそも手こぎボートをてこの例として取り上げることを止めるべきである。また、小学校で、てこの3種類の分類を判定させたり、力点・支点・作用点の判別をさせたりする問題を扱うこと自体にも疑問を感じる。」と訴えた。
ボードゲームDAIGAKUの宣伝 菅野さんの発表
毎年春秋に開催されているアナログゲーム専門のゲームマーケットで、菅野さんは10月例会で植田さんが紹介していた「熱力学ワーカーズ」を探したついでに気になるゲームを見つけたので購入してみた。
「DAIGAKU」は大阪大学のサークルが中心となり開発されたもので、大学生活を体感できる新しい内容のボードゲームとなっている。当時はまだ公式発売前で、現地でのみ入手可能だった。
プレイ時間は初見でも50分程度と1時間の授業内に収まる内容で、ハプニングを乗り越えながら大学生活をどう楽しく送るかを学べるゲームである。プレイ人数は4人が最大となっているが、内容的には2人一組の8人でもプレイ可能となっている。ボドゲブームの折、生徒にもウケそうなこのゲーム、ぜひお手にとってみてはいかがだろう。
物理の日 喜多さんの発表
喜多さんは2学期の期末試験の最後の問いとして、以下を問うた。
問い:日本物理学会は現在「何月何日を『物理の日』とするべきか」の提案を募集しています。貴君が推す日はいつですか。
118人中、74人が解答してくれた。その結果が右の図である。9月8日が圧倒的に多かった。重力加速度の語呂合わせだろう。一人、アインシュタインの誕生日(1879年3月14日)と答えた生徒がいたので、ついでに、ニュートンと湯川秀樹の誕生日も検索してみた(右図下)。
ちなみに、この試験の問題用紙に記載されていた定数は以下の3つであった。
重力加速度:9.8 m/s2
クーロンの法則の比例定数:9.0×109 N・m2/C2
電気素量: 1.60×10-19 C
物理基礎に物理Ⅰの内容を取り入れる提案 内山さんの発表
内山さんは、高校の物理基礎の授業で「仕事」を扱った際、「その公式は中学で習っています」と言われて驚いた。中学と高校物理基礎の教科書を見比べてみて、物理基礎は中学理科の復習+公式を記号を用いて表したに過ぎないと感じた。今の物理基礎はいわゆる「ゆとり教育時代」の高校生よりレベルが低いのではないかと考え、中高の理科教員に聞き取りを行った。その結果、多くの理科教員が、一般市民の科学リテラシーや日本の技術や経済の将来について危機意識を抱いていることがわかった。その結果、疑似科学に騙される人が増えることも懸念されると、内山さんは感じている。
危機意識を持っているのは現場の理科教師と教育学部の一部の教員だけで、文科省は物理基礎の低レベル化を推進していると内山さんは訴える。内山さんとしては、中学理科との重複部分を削除して、物理基礎の内容を充実させるよう見直しを進めるべきだと考えている。
一方、会場の参加者からは、理科に限らず学習は発達段階に応じて繰り返して行うもの(スパイラル学習)であり、知っているからといって概念理解に達しているとは言えないので、重複には意味があるという意見もあり、物理基礎の導入で、理科二科目時代に比べ物理を学習する人が格段に増えたことは評価すべきだとの意見も出た。また高校数学と物理の教育課程の不整合(例えばベクトルが数C)には問題があり、全体を見渡した教材配列の見直しは必要かも知れないとの意見もあった。教育予算の少なさを嘆く声もあり、話は発散気味だった。大きな問題なので引き続き考えていきたい。
英国Aレベル物理・続き 山田さんの発表
1年前の2023年11月例会の発表に続き、英国の物理教育課程についての報告である。英国では理系大学進学者のほぼ全員が統一の物理テストを受けなければならない。試験はPaper1~3の3種類で合計250点。試験時間はPaper1・2合わせて2時間、Paper3で2時間である。前者の一部が多肢選択問題であるほかは全部記述式で、特にPaper3は実験スキルとデータ分析のリテラシーを問われるような論述式問題で、統計的処理も含めて、かなりレベルが高い説明を求められる。
例えば、自由落下の実験による重力加速度の測定は教科書に必ず載っている必修の実験だが、その過程から類推して剛体振り子と自由落下を組み合わせた実験を想定して考察するような問題が出題されている(左図)。原子炉やその放射性廃棄物に関する長文の論述を求める問題も例示されており、webには詳しい採点基準も公開されている(右図)。
2016年にオクスフォード大学日本事務所のアリソン・ピール氏が、採点体制も含めた大学入学統一試験についてフォーラムで報告している。記述・論述試験は採点に手間がかかるが、英国ではそれをあえて行っている。試験の実施機関が大量の採点官をパートで雇い、厳格な採用プロセス、研修を経て、人海戦術で2カ月ほどかけて採点を行う。
山田さんは、共通テストのような場で記述・論述試験を行うには、相当なマンパワーを投入する覚悟が必要だと語る。日本の高校物理ではとりわけ実験関連のコンテンツが貧弱で、実験ベースの記述・論述式問題を出題する妨げになっている。実験レポート提出とその添削などの効果的指導も、40人学級では教員の負担になる。わが国で実験スキル問題を実現するには、まだまだハードルが多い。
二次会 護国寺駅前「インドレストラン シルザナ」にて
15名が参加してカンパーイ!例会本体には対面で20名、オンラインで7名の参加があった。このお店は4月例会でもお世話になった。今回はだいぶ人数が増えている。二次会の盛り上がりも復活してきたか?本格インド料理で楽しいひととき。安くてうまいので、つい飲み過ぎた人もいたようだ。
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