例会速報 2002/12/07 中村理科工業自由実験室
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アデステーション 佐藤さんのデモ
佐藤さんがお勤めのアデスト・テクノベーション株式会社は、シンガポールのメーカーである。今回紹介してくれたのは、同社の「アデステーション」というパソコンを使った教育ツール。パソコン計測を主体とした実験キットだが、特徴はたいていのパソコンに標準装備されているサウンドボードをインターフェースとして利用しているので、汎用性が高く比較的安価であること。センサーとのデータ入出力とディスプレイ処理を行うソフトウエアとセットになっている。
物理、化学、生物などの各教科用モジュールが用意されており、さらに高学年用のWISE(Wave,Induction,Sound,Electromagnetic)モジュールもあって、各種センサーも豊富に用意されている。シンガポールではアデステーションを利用した科学教育の教程が整備されている。
写真はパルスサウンドで音速を測定する実験の処理画面(左)と、光センサ(右)。
乱視用レンズ 加藤さんの発表
乱視用の眼鏡レンズ。シリンドリカルレンズの成分が加わって非球面レンズになっている。このため、遠目に見ると向こうの景色がゆがんで見える。加藤さんは知り合いの眼鏡屋さんに傷物のレンズを分けてもらうという。
電磁誘導で光るLEDつきコイル 近藤さんの発表
電磁誘導を示す自作教具。左はコイルの筒の中に円柱形のサマリウムコバルト磁石を入れて振るタイプ。右はフェライトリング磁石とこすりあわせるように動かして発電するタイプ。いずれも電流の方向がLEDの発光色で識別できる。LEDのアイデアは大石乾詞さんからいただいたとのこと。工作の腕前が抜群で注目を集めた。近藤さんから提供していただいたデータは次の通り。
材料:導線の線径0.2mm、巻数2152回、旋盤で溝を切ったアクリル円盤に内径φ26mm
外径φ30mmのアクリルパイプをはめ込んだもの
サマリウムコバルト磁石0.8T 21300円は株式会社光洋で購入。
LCRメーターによる特性測定:縦長タイプR=124.7Ω L=77mH、幅広タイプR=201Ω
L=272mH
シャカシャカライト 渡辺さんの発表
こちらは同じ原理の懐中電灯。グリップの中央にコイル(銅色)があり、振るとアルニコ磁石(銀色)が往復して発電する。整流後大容量コンデンサーに電荷を蓄え、ライトを点灯することができる実用品。その名もシャカシャカライト。電池がなくても使えるのでアウトドアや非常用にいいかも。スケルトンで中身もじっくり見ることができて教材向け。。
お求めは中村理科工業:シャカシャカライト(S77-1700-01 5,000円)
風力発電機 淺井さんの発表
これも大がかりな実用タイプ。風が吹くとファンの軸に取り付けられたアクリル円盤が回転する。アクリル円盤上には多数のフェライト磁石が貼り付けてあり、これと向かい合わせにコイルを取り付けた板(右)を配置する。起電力が同位相になるように並列または直列に接続して、適当な電圧・電流を得る。
弦の振動 近藤さんの発表
前の例会の大谷さんの問題提起に答える演示用具が登場。弦の振動を天井から鉛直につるしたプラスチック製つるまきばね(配線保護用具)で演示する。水平だと中央がたれてしまうが縦にすると自然にまっすぐになる。これすなわち垂直思考。さらに天井の取り付け部に注目。蛍光灯のシェードにマグネットで貼り付けてあるのはカーテンレールだ。こうして一端をスライドさせることにより「自由端」を実現する。反射による自由端・固定端の位相の変化が見せられるわけだ。
カーテンレールを用いるアイデアは、電気通信大学物理教室の高田亨先生から頂いたとのことだがすばらしいアイデアである。
近藤さんからいただいたデータ:プラスチック製ばね 420円、カーテンレール
810円、カーテンレールをころがる車 車輪のφ=11.6mm 値段不明、「粘着テープつきソフトマグネットシール30」
380円
磁石で遊ぼう 淺井さんの発表
知り合いからたくさんの磁石を入手した淺井さんは、磁石を使ったさまざまな教具を工夫している。右は細く切った紙をフェライト磁石で裏表からはさんだだけの簡単な実験器具。ちゃんと南北を指す。磁界の方向が観察できるわけだ。
互いに反発する向きに串刺しにしたフェライトリング磁石。磁石の反発力での浮遊や、下に行くほど間が詰まることに注目して、作用反作用の教具としても使えるが、こんな実験もできる(右)。水平にして自由落下させるのである。棒と磁石は一瞬無重力状態になるので、摩擦がきかなくなって磁石はばらけて飛び出してくる。逆にすればくっつくのも観察できる。
名付けて「磁力浮回転子」。レボリューションや回転バランスの商品名で販売されているオブジェの原理を示す実験だ。磁石の反発力で浮き上がった回転子はほぼ摩擦なく長時間回転し続ける。
人肌発電 黒柳さんの発表
ペルチエ素子は電流を通じると表裏に温度差を生じる熱輸送素子で、CPUのクーラーや車載用の温冷蔵庫に使われている。これを逆利用すると熱起電力により発電素子として使える。黒柳さんの左腕に乗っている白い板がそれ。下面を人肌であたため、上面に氷を押しつけるとご覧の通りモーターを回すほどの電力を発生する。
関連記事:ペルチエ熱電池の製作へ
マグネットベース 山本の発表
長野県の桜井達雄先生から提供していただいた話題のご紹介。
マグネットベースとかマグネットブロックとよばれるこの道具は、丸い鉄材などを加工するときに固定する器具で、工業方面ではよく用いられる。赤い線にそって鉄材を磁石で吸い付けるわけだが、手前のレバー(写真では取り外してある)を90度回すと、磁力が消えて材料を楽に取り外すことができる。その仕組みを考えてほしいというのがYPCへの依頼だった。
中でレバーとともに回転するのは強い磁石である。この磁石が写真のように横倒しだと材料が吸い付けられる。外側のブロックは鉄でできており、赤い線のところとその反対側が数mmの厚さの非磁性体をサンドイッチして接いである。
写真の状態では内部の磁石の左右の磁極から出た磁力線はブロック内部を通って赤い線の両側のV字の部分から外に出てくる。下左の写真はそのようすを磁界観察パックで見ているところ。赤い線の両側に磁極が出ているのがわかる。
磁石を90度回して立てると、下右の図のようになり、磁力線はブロック内部に閉じこめられる。赤い線の両サイドは同極になるので磁力線は現れない。こうして磁気回路を切り換えて、鉄材を吸い付けたりはずしたりしているのだ。
ラミジップとクリップシーラー 渡辺さんの発表
上で使った磁界観察パッドは実は渡辺さんの自作品。グリセリンにスチールウールを混ぜてシールパックしたもの。
チャック付きの厚手の袋は「ラミジップ」という商品名。「クリップシーラー」という電熱器具で口を熱で溶かして完全に閉じることができる。どちらも東急ハンズなどで入手可能。
液体を使った実験で、完全に口を閉じる場合などには最適な道具である。使い捨てないカイロの自作なども可能。
タイミングモーター 山本の紹介
これも長野の桜井達雄先生から送っていただいたもののご披露。
左側のPETボトルの中ほどに釘にエナメル線を巻いた電磁石が差し込んである。右は3つのマグネットをとりつけた回転子。竹串の上に乗っていて、ほぼ摩擦なく回転する。指先でつまんでいるのがリードスイッチとよばれる小さな回路素子で、このモーターの心臓部である。なお、ボトル内の白いものは重石のための小石である。
リードスイッチはガラス管の中に小さな二つの電極が封入してあり、磁石が近づくとこれらが磁力で接触し、電磁石に電流が流れるしくみだ。リードスイッチの位置をうまく調整すると、磁力のはたらくタイミングが磁石の運動とうまく位相が合って、回転子がしだいに加速されていく。
神奈川県の田中義朗先生の「タイミングディスクモーター」のアイデアに、静岡県総合教育センターの鈴木敏博先生が改良を加えたもの。
ジャンピングエンジン 山本の紹介
11月の科教協関東ブロック大会(水戸)で、土浦工業高校の小林義行先生に教わったスターリングエンジンの追試をしてみた。まずコーヒーなどのスチール缶のふたをくりぬき、焼いて内外の塗装を除去する。これにスチールウールを缶内にゆるくはまる程度にまるめてつめ、脱落防止の木の棒を口にはめ、最後にゴム風船をかぶせ、輪ゴムできつくとめる。これでできあがり。
風船の方を下にして、缶の底(写真では上)をトーチバーナーで赤熱し、風船がちょっと膨らんだところで落下させると、ポンポンと上手にはずみながら床の上をはね回る。動きはリズミカルでユーモラスでもある。
缶の中ではスチールウールのディスプレーサが往復運動している。これが下に移動すると、内部の空気が熱い部分に触れて膨張し、スチールウールが上に移動すると、下に移った空気は冷やされて縮む。これを自動的に繰り返すフリーピストン式のエンジンである。
小林先生と土浦工高の理科研究部は、この原理を応用した各種のスターリングエンジンを開発し、スターリングテクノラリーで輝かしい成果をあげている。詳細は下記のリンクへ。
小林義行先生のWebページ:http://members.jcom.home.ne.jp/kobysh/
土浦工業高校理科研究部のページ:http://members.jcom.home.ne.jp/rikaken/
水がこせない茶こし&水がはね返るカード 岩沢さんの発表
前回の例会で紹介させていただいた超撥水塗料(水の接触角が150度程度の塗膜を形成)と同様な塗料を茶漉しにスプレー塗装したもの。中に入れた水が大きな水玉状となり、網の目を通過できない(左)。洗剤などの界面活性剤を一滴添加すると、水が通過するようになる(右)。でも洗えばまた元どおり水をはじく。
上と同じ塗料をプラスチックカード上に塗装したもの。スポイトで水を落とすと、水玉が跳ねたり転がったりする。水を入れたコップに入れると正面からは書かれた蛙が見えるが斜めから見ると水とカードの間に空気の層が出来るため見えなくなる(空気と水界面での全反射)。
以上2件はNTTアドバンステクノロジー(株)よりアイデアおよび試料を提供していただいた。エアゾール型の塗料は釣具のダイワ精工より「超撥水DRYパウダー」インターラインスプレーとして発売されている(取り寄せ商品)1本 定価3000円。
この塗料は、工業的にはパラボラアンテナの着雪防止や降雨後に水膜ができるのを防止するのにりようされている。アンテナが傾斜しているために水膜厚が不均一となり干渉を起こし通信不良の原因となるのだそうだ。データ通信や今後のデジタルTVでは大きな問題になることが予想されるという。
ショックセンサー(ゴルフ腕前診断紙) 岩沢さんの発表
衝撃を受けるとマイクロカプセルが破壊され化学反応により赤く発色するシート。ゴルフクラブヘッドに貼りボールを打つと、ボールをヒットした場所と衝撃力の大きさを評価でき、ショットの癖などを判断できる。富士フィルム(富山科学工業)より発売されている。
物理と文化祭 越さんの発表
前任の千葉県立柏高校で、この10年ほどの間文化祭で取り組んだクラス企画「モノ作り」の発表について、越さんがプレゼンテーションで紹介してくれた。
写真は越さん提供。左から2人乗りホバークラフト、直径8メートル熱気球、エアーホッケー。他に過激なジェットコースターなども。苦難の連続だったが、その分たくさんの思い出や、モノ作りのノウハウ、経験が残ったという。野田高校へ転勤後も取り組みは続けられている。
大山光晴先生がひいたレールを越さん達が引き継いだ物だそうだが、ユニークな伝統行事として今後も続けていってほしいものだ。詳細は野田高校、越さんへ。
メカニズムを物理に 右近さんの発表
右近さんは4時間枠の1年総合学習「多様な講座」で「メカニズムを考える」という講座を開講した。全部で20講座ほどある中のひとつで、他には映画鑑賞やゴルフ、そば打ち、紙芝居を作る・・・などなど。「メカニズム」の参加者は240名中3人だけだったが、次のような充実した内容だった。
まずはじめにフライング・ピッグ(http://www.flying-pig.co.jp/)という、ペーパークラフトキットを販売しているメーカーのサイトでさまざまなメカニズムの動きを学習し、カムを利用した、面白い動きを見せる羊を作った。
これをヒントにカムによる波動伝播モデルのキットを作成し、生徒に作らせた。箱の中の軸棒を回すと,垂直棒が上下に単振動し、波動が伝播していく様子がわかる。さらに生徒にはオリジナルメカニズムの作成にも挑戦した。
物理の授業でも3Dの波動伝播グラフモデルなどを作成しているが、こうした動く伝播モデルの作成を取り入れれば、各媒質の位置による位相のずれの意味などもよくわかるのではないかと思う。
ブルネオペーパー 渡辺さんの発表
現像液などを使用しない熱現像方式の青焼きの紙。日光写真や箱カメラなどに利用して、現像はアイロンなどでおこなえます。非常に簡単に扱えるので日光写真をやったことがない人でも簡単に使える素材。
下左はトラペンシートに字を書いて露光しているところ。下右はドライヤーで熱現像しているところ。
PhysicsEducation論文募集 亀田さんの発表
IOP(英国物理学会)は、本年9月に東京事務所をオープンした。物理教育関係では、『Physics
Education』誌(写真)を発行している。本日の例会で発表された実験のいくつかは同誌にも原理の紹介があった。雑誌のスコープも中高生の物理課程で、日常生活に結びつけて物理現象を取り上げたり、簡単な実験も紹介している。
さて、『Physics Education』誌では日本からも論文の投稿を期待している。英語で書くというハードルはあるものの、例会で当日紹介されていたような実験は、皆レベルが高く、論文の体裁に整えれば直ぐにでも投稿可能だそうだ。YPCの活動自身も日本における物理教育の取り組みを紹介する記事として、投稿する価値があるとか。誰か、英語の得意な人チャレンジしてみませんか?
また、Advancing Physics コースの研究に関しても、英国の関係者との連絡に東京事務所がお役にてるという。東京事務所のemailアドレスは→iopp-tokyo@iop.org
【関連リンク】
IOPのWebページ:http://www.iop.org/
『Physics Education』誌のページ:http://www.iop.org/EJ/S/UNREG/V7lneoqzEUBXHscVI6HmwA/journal/PhysEd
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Advancing Physicsのページ:http://advancingphysics.iop.org/
二次会 中村理科の向かいの「いはち」にて
24名が参加して今宵もカンパーイ!この人数は過去最多かも。会場が東京というアクセスの良さが一因かな。大いに盛り上がって2002年を締めくくった。
すたさんが余興にお得意の「超能力マジック」を披露。力を加えないのにスプーンが曲がる(ように見える)スプーン曲げの新バージョンだ。いつもながら鮮やかな手さばきに拍手!
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