例会速報 2010/02/21 慶應高校


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授業研究:中学校の力の単元で大切にしたいこと 市江さんの発表
 2月例会で鈴木健夫さんに「垂直抗力を弾性力で説明してはならない。」と言われ、「少しくらいいいんじゃないの?」と反論した市江さんは、議論を深めるたたき台になればと、普段中学の授業で力の学習をどのように扱っているかを披露してくれた。以下、市江さん自身のコメントを紹介する。

 高校物理の学習内容を見据えて、次のような内容、順番で授業を行っている。
1時間目:「見えない力をどう見つけるか」という切り口で物体に触れているものから力を見つけさせ、水平に飛んでいるボールには飛んでいく方向に力は必要ないことを認識させる。
2時間目:運動方向に必ずしも力が必要でないことは、慣性の法則で保証されていることを説明し、エアートラックの実験で確認する。さらに滑車を通して滑走体に繋がれたおもりと、何も繋がれていない同じおもりを同時に落下させ、その様子のちがいから、滑走体の重さは、エアートラックからの垂直抗力で相殺されていても、動きにくさである質量(慣性質量)は打ち消されることがないことを実感させる。ここではじめて生徒は質量と重さを明確に区別する必要があることを認識できる。
3、4時間目:力の合成・分解。精密滑車と使った3力のつりあいの演示実験
5時間目:フックの法則。さらに糸で繋がれた2つのばねが及ぼしあう力を扱う中で、作用反作用の関係とつりあいの関係のちがいを説明する。
6時間目:糸の張力と垂直抗力。これらの力をつりあいの関係から求める。
 授業では、垂直抗力をつりあいの関係から導き、弾性力では説明をしていないが、つかみ所のない垂直抗力に質問や疑問を持つ生徒には、机の上に置かれた物体が受ける垂直抗力の正体が床の弾性力であるという説明をしている。これは生徒を騙していることになるのだろうか。そのことについていろいろな意見が交わされた。弾性力があたかもすべての力の原因であるかのような授業展開は論外だが、状況説明として弾性力を持ち出してもよいかという点については意見が分かれた。相互作用の結果として物体に変形が生じるのであって、変形によって弾性力が生じるという考え方自体が誤りなので、説明になっていないという意見や、力学的な現象をどう捉えて考えていくかという物理の根幹に関わる問題なので、曖昧さの残る弾性力を持ち出すべきではないという意見など、否定的な意見が優勢な中、あらゆる場合に成り立つもの以外、説明に用いてはいけないとなると、化学変化や化学結合はどう説明したらよいのかなど、後半には擁護する意見も見られた。いずれにしても根深い問題ゆえ、全会一致の落とし所は見出せなかったが、問題認識を共有することができ、有意義な時間となった。

「張力抗力を弾性力で教える」の反論文案をめぐって 鈴木健夫さんの発表
 鈴木さんは『理科教室』2月号に掲載された、東京のAさんの「糸の張力と机の垂直抗力を弾性力で教える」という実践記録への反論の文案を、例会で揉んでもらうことにした。
 鈴木さんは張力や抗力を弾性で教えることに疑問を持つ。そもそも張力や抗力は,弾性が原因だろうか。「伸びたり縮んだりするから弾性力つまり張力や抗力が生じる」と考える人が多いが、ではなぜ物体が伸びたり縮んだりするのか。因果関係を追及すると、ここで矛盾を生じる。また、ひもが弾性でおもりを「引っ張り返す」という論理なら、おもりもひもを弾性で「引っ張り返す」。その二つが同じ大きさ(つまり作用反作用)になるのは、なぜなのか。説明不能に陥る。
 これらの矛盾点を認めながらも「生徒の理解のためには弾性で教えたほうがよい」という立場がありえる。しかし、それは嘘を教えることになるのではないか。理由・原因を突き詰めていくのではなく、力の存在に気付かせるという授業でよい。それが鈴木さんの主張である。
 YPCのメンバーの多くはこれと同意見だが、それでも例会では議論百出。問題の奥深さが浮き彫りになった。この矛盾点に疑問を持たない人も多いようだ。その点の議論はまだまだ必要だ。

力の概念についての認知的考察 鈴木亨さんの発表
 物理教育56-4(2008)に「作用反作用の法則の説明論理に観られる誤概念の起源」を寄稿した鈴木亨さんも、この議論に参加するため例会に駆けつけた。「机の上の物体にはたらく重力の反作用」が「垂直抗力」であるとする誤りは、某県の中学校教員採用試験にもみられ、当該教委は指摘されてもその誤りを認めなかったという。この試験をパスした教員により誤解は拡大再生産される恐れがある。
 

 「弾性力派批判」についても報告・意見陳述があった。以下、鈴木さん自身のコメントを引用する。

 理科教室の記事をめぐる議論をきっかけに、あらためて考えてみました。「垂直抗力を弾性力で説明する」というのは、最近になって中学校理科の教科書で広まっています。生徒が引っかかるのは「じっとしている物体が押せるとは思えない」というところにあるようです。「机に弾性があるから押せる」で「わかった」という生徒は、机の上の物体も弾性力で押しているとは思わず、「重力が(物体でなく)机に働いている」という素朴概念が保持されている可能性があります。 

ダイオード・トランジスタを削る 喜多さんの発表
 トランジスタの説明に使われる構造図は、真中にベースがあって、それをエミッターとコレクターがはさんでいる。しかしながら、巷に多く出回っているトランジスタの三本足の真中はコレクターである。喜多さんは中の構造が気になって先ずは削ってみた。さらに、チップ保護のためまわりを覆っているモールドレジンの樹脂を燃やして金属部分だけにしてみた。
 下の写真左はトランジスタの燃やしたものと、片側を削ったもの。右はLEDを燃やしたもの。
 

 さらに、下の写真左は、ダイオードの燃やしたもの、片側を削ったもの。削ったダイオードをオシロスコープにつなぎ、中央に光を当てると電圧が生じることが確かめられる。LEDの逆過程、太陽電池の原理だ。
 写真右は、8本足のICの表を削ったものと、燃やしたもの。下に見える小さな四角の部分がダイ(ICチップ)を載せるサブストレート基板である。 

落ちないリンゴ 石井さんの発表
 1月例会で車田さんが紹介した塚平恒雄さん考案の実験「ふわーとハート」の条件を変えていろいろに遊んだ。石井さんの改変点は
(1)回転を速くするには軽く、ゆったりと回転を持続させるためには重くする。(相反する要求)
(2)ローターが落ちないように待ち針を軸にし、電池にホックをはんだ付けした。
(3)ローターの重心を高くするために待ち針の上部に磁石や粘土のおもりをつけた。
(4)電流を強くするためには太い銅線を使い、アルカリ電池を使い、接触面を磨く。さらに磁場を強くして力を増す。
 塚平恒雄さん命名の「ふわーと状態」に入るためには、ある程度回転が速く、慣性が大きく、重心が高くて支点に近く、安定しているが不安定に近いことが必要だ。
 石井さんは改良版がリンゴに似ているところからペットネームを「落ちないリンゴ(ring go)」とした。時節がら、合格祈願のラッキーアイテムとしてはいかが?動画(7.9MB)はここ

南京結び 田代さんの発表
 荷物をしっかりトラックに固定するロープワークに南京結びがある。その動画結び方PDF資料がネットに紹介されている。田代さんは写真のようなモデルを使って南京結びのポイントを解説してくれた。フックが定滑車、ロープを中心にロープが回る所が動滑車に相当する。右の写真で田代さんの手が引いている力は、動滑車と定滑車を通じ、ひも3本分の張力となって上の部分を引く。ロープの適当な場所とプラスチックの枠にマークを付けておくと、荷物を締め付けるロープを長さL動かすには、手がロープを3L引くことがわかる。つまりおよそ3倍の力で強く荷物を締め付けることができる。
 結ぶには簡単で確実な方法が別にあるのだがほどくのに手間がかかる。大工さんや土建屋さんの間では簡単にほどける方を重視し、結び方の難しい方法が伝承されている。
 

いろいろな衝撃波 海後さんの発表
 サーカスの猛獣使いが打ち鳴らす鞭の音は「衝撃波(ソニックブーム)」だという。ひも状のものをしかるべき振り方ですばやく振ると、その先端のスピードは比較的簡単に空気中の音速を越え、衝撃波を発生するのだそうだ。それがあの「パチン」という音のもとになる。海後さんは写真のような自作の鞭をいろいろ作って試してみた。例会では実際にその腕前も披露された。リアルタイム動画(10.6MB)スロー動画(9.7MB)でも観察してほしい。
 

 写真下左は米国海軍研究所が撮影したシュリーレン写真。衝撃波の発生がとらえられている。高山和喜氏の「衝撃波の科学」に関連記事が載っている。ナイロンのひもで実験すると鞭の先端が融けたようになる。激しい断熱圧縮により温度が上がったためだという。さらに、力学的な解説を試みたこんな参考文献(英文)その続編(英文)もある。 

FUN SNAPS 海後さんの発表
 ネット販売で入手したという「かんしゃく玉」。右のような直径5mmほどの紙包みを床に投げつけると大きな炸裂音がする。箱には「踏んづける「投げつける」「落っことす」「包みのまま、一粒ずつ使うこと」などと書かれているが、ネット上にはこれを多数束ねて爆発させる、指につまんでひねりつぶして炸裂させるなど危険な遊び方が紹介されているという。子供達がまねをしないようご注意を!
 

フーコーの回転鏡法による光速の測定 山本の発表
 生徒が課題研究で光速の直接測定をしてみたいというので、いろいろな方法を検討した末、慶應高校地学教室が所有している装置をお借りして、「フーコーの回転鏡法」による測定に挑戦してみた。装置はPASCO社の製品である。マニュアルはネットに公開されている(ただし英文)。
 レーザー光源からの光は毎秒1500回転する回転鏡で反射し、十数メートル離れた固定鏡との間を往復するが、その1千万分の1秒ほどの間に回転鏡の向きがわずかに変わるので、戻った光はわずかにずれて像を結ぶ。その1mm足らずのずれを顕微鏡で測定して光速を割り出すのだ。
 

 グラフのように、回転鏡の回転数を増すと、光点の変位はそれに比例して増す。時計回りと反時計回りのフルスピードで測定して差を取ることで測定精度を上げる工夫もされている。6回の測定を行ったが、秒速30万kmに極めて近い良好な結果が得られた。

回転座標系における慣性力 小河原さんの発表
 3年の物理Uは、理工学部進学に必要な科目で、基本的には真面目な生徒が履修している。しかし、教科書を板書するだけでは、どうしても眠くなってしまうこともある。そこで、今年度は遠心力のついでに、その他2つの慣性力についてもビデオ撮影した映像で紹介してみた。大学に行くと、この2つも出てくるよと定性的に説明すると、興味深そうに聞く生徒が多かったとのこと。詳しくは、次号YPCニュースの記事を参照してほしい。
 

水面波の干渉 鈴木健夫さんの発表
 水面波の干渉を見せるのは、小さくても生徒の机で個別に観察させた方が効果が大きい。 かつて鈴木さんの授業で活躍していたのが、ダイソーの100円マッサージ器(写真左)。以前小沢さんが例会で紹介したが、今回は、その改良案と代替案。改良案は、押す部分を取り去り、そこに口径の合うストローを1本ずつ(2本)差し込む。すると、ちょうど遠いところから2つの振動源をたたくことができて、実験をやりやすくなった。
 ところがこの型の100円マッサージ器は今は店頭から消えている。そこで見つけた代替案が100円の電動歯ブラシ。歯ブラシ部分を取り、そこに接着剤でストローを取り付け、先端部分を二つに裂いて適当な間隔の二つの振動源になるようにする。これできれいな水面波の干渉を見せる装置の出来上がり。振動源の距離を変えることができるので、単純な装置の割には効果的な実験ができる。
 

レンズのパワーポイント教材 水上さんの発表
 「レンズの性質」の授業で使用するパワーポイント教材が披露された。
 ファイルの内容は,「1.凸レンズと凹レンズ,2.レンズの中心と光軸,3.焦点Fと焦点距離 f,4.屈折光の逆進性→光軸と平行に出ていく光 ,5.レンズの中心を通る光,6.作図のルールまとめ 7.クイズ a)凸レンズの焦点に別のレンズの中心を置くと?,b)レンズを水中に沈めるとき焦点距離の変化は?」いずれの節も『写真提示→用語や公式として抽象化』の流れになっている。
 

 下は「凸レンズの焦点に別のレンズの中心を置くと?」(写真左)、「レンズを水中に沈めるとき焦点距離の変化は?」(写真右)の説明画面。どのシーンも水上さん自身が実際に実験して撮影した写真で構成されているのがすばらしい。 

ステラナビゲータでプラネタリウム 小林さんの発表
 教室でプラネタリウムを実現する手軽な方法の紹介である。ステラナビゲータなどの天文シミュレーションソフトで、全天を円形に表示する「星座早見モード」(写真左)を選択し、液晶プロジェクターを垂直に立ててドームの天井に向かって投影する。その際、プロジェクターのレンズの上に魚眼コンバージョンレンズ(カメラの標準レンズの前に取り付けて魚眼レンズに変換するコンバーター:写真右)を乗せると、ドーム内に180°の視野で投影され、プラネタリウム専用の投影器で投影したようになる。ネジ径が合わなくてもただ乗せるだけでよい。ドームがなくてもボール紙などで半球形または1/4球形の曲面を作れば十分使用に耐えるという。
 

LED電球を活用した天体教材 小林さんの発表
 白熱電球を太陽に見立てて月や金星の満ち欠けをモデル実験することはよく行われているが、白熱電球は表面がかなり熱くなるため、やけどや発泡スチロール球と接触して融かす恐れなどがあり、生徒に扱わせるにはためらいがあった。そこで小林さんが思いついたのはLED電球である。最近は小型で高輝度のものが入手でき、発熱もそれほどでない。クリプトン球用のソケットにねじ込めるタイプがよいという。
 

 地球からの視点を意識させるにはデジカメを使う。画素数は少ないものでよいので安価品を班の数だけそろえて写真左のように実験させる。その場で観察できることに加え、カメラの液晶画面がフレームを意識させる意味でも、コントラストを上げる意味でも好都合だそうだ。新しい素材の活用で天文教育は変わりつつある。

動画の利用 堀内さんの発表
 Youtubeをはじめとする画像共有サイト上にはさまざまな動画が公開されており、その中には物理の授業で活用したいものも多数含まれる。これらの動画を授業の中でスムーズに使うためには、ダウンロードし動画ファイルとして保存しておく必要がある。 しかし、動画ファイルにはさまざまな形式があることに加え、適切に再生するためにはコーデックの取得が必要となり、大変煩雑である。堀内さんは、動画ファイルのダウンロードの仕方と、さまざまな形式の動画を再生できるフリーソフトを紹介してくれた。紹介されたものはいずれも、無料で利用できるのでありがたい。
 

 1)動画ファイルのダウンロードの仕方
RealPlayer SP をインストールする
RealPlayer SP をインストールすると、動画の右上にダウンロードのタグがでるので、クリックする。すると、マイドキュメント内のマイビデオ内RealPlayerダウンロードというフォルダーにファイルが保存される。
youtube ダウンロードを利用する
ホームページにアクセスし、動画のURLをフレーム内に入力し、動画形式を選択して(MP4がおすすめです)検索を押すと、ダウンロードできる状態になる。「Youtube 動画をダウンロード」をおせば、マイドキュメント内のダウンロードというフォルダー内に保存される。
2)動画再生ソフト
ダウンロードしたファイルを再生するにはGOM PLAYER【ゴムプレイヤー】が便利。コーデック内蔵型でさまざまな動画形式に対応しているので、ダウンロードしたファイルを手軽に再生できる。
 
 例会で紹介された動画は、二点波源の干渉のシミュレーション(上左)、タコマ橋の崩落(上右)、弦の振動のシミュレーション(左)。

本の宣伝 鈴木健夫さん、長谷川さんの発表
 立命館大学の安斎育郎さん編著の書籍「これってホントに科学?」、「ホントにあるの?ホントにいるの?」の二冊がかもがわ出版より2月末に発売された。本を紹介した二人も、分担で「「虫の知らせ」ってホントにあるの?」や「宇宙人はホントにいるの?」などのテーマを執筆している。超常現象や超能力、ニセ科学などについて子どもの目線で解き明かしている。小学生や中学生向きの本だが、高校生や教員にもぜひ読んでいただきたい。
 詳しい目次は、「これってホントに科学?」は、ここ、「ホントにあるの?ホントにいるの?」は、ここを参照のこと。

二次会 日吉駅前「わっしょい」にて
 21人が参加してカンパーイ!。例会本体には38名が参加。力と作用反作用の議論に熱が入って、時間が足りず、エントリーした発表が一部持ち越しとなった。二次会の席でもさらに議論が続いた。


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