例会速報 2012/03/18 県立西湘高校


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授業研究:西湘高校のSSH理数課題研究 佐良土さんの発表
 本日の授業研究は会場校の佐良土(さろうど)さんの実践報告である。西湘高校はSSH校で、1学年8クラスのうち1クラスを理数コース(普通科専門コース)として募集している。理数コースの生徒は総合的な学習の時間に代えて「SSH理数課題研究」という科目が、各学年1単位ずつ必履修となっている。
 理数課題研究では、1学年時に基本的な実験・観察のスキルを学び、文献検索などをして各自がテーマ探しを行う。原則として一人1テーマの課題を設け、2年から3年にかけて、教員や大学院生のTAの助言を受けながら、継続して研究に取り組む。毎年10月と3月に校内発表会があり、2年で2回、3年で1回、全員にポスター発表が義務づけられている。さらに2年の3月と、3年の10月の発表会では、校内予選会を勝ち抜いた生徒が体育館ステージに登壇して口頭発表を行う。

 物理関連のテーマを選んだ生徒の取組例が紹介された。写真は紙飛行機の飛び方の研究をした生徒が自作したカタパルト。紙飛行機の発射条件を一定にするために非常に苦労をしたという。 

 佐良土さんが持っているのは、粘性流体中の落下運動を研究した生徒の実験装置(写真左)。アクリルの円筒内に液体を満たし、落下する物体の運動をハイスピードカメラで撮影して測定した。写真右はガウス加速器の研究をした生徒の実験装置。磁力による位置エネルギーの見積もりを精密に行い、ガウス加速器の射出速度がちゃんと運動量及びエネルギー保存の法則を満たしていることを証明した。この研究は、平成23年度SSH全国生徒発表会でポスター発表賞を獲得している。ガウス加速器の動画(AVIファイル5.5MB)はここ 

 自分で課題を発見し、その解決方法を模索し、自分で工夫をしながら探究してレポートにまとめ、さらに他人にわかるように説明するという、非常に要求水準の高いプログラムだ。しかし、この取組のおかげで生徒は大きく能力を伸ばし、自信をつけ、結果として高い進路実現の実績を残す。スタンスとして「教員の研究を生徒が手伝う」というやらせの形にだけはしないように心がけている。
 学校の課題としては、3学年120人が個別のテーマに取り組むので、TAを加えても指導の手が足りないのが実情。少数の指導者でいかに効率よく多人数を指導するかが教員側の研究テーマでもある。理科に負担が集中するのもどのSSH校も抱える課題である。学校全体としてサポートする態勢を築きたい。 

Miniスペクトル線量計TA100U 佐良土さんと山本の発表
 西湘高校は平成23年度のSSH予算で、Miniスペクトル線量計TA100Uを購入した。製造元はテクノエーピー株式会社、販売元はMEASURE WORKS株式会社、実売価格20万円ほどである。小型線量計としては高価に感じるが、本機はγ線のエネルギースペクトルを計測することができる。スペクトロメータとしては破格のお値段で、競合他社も絶賛するほどだ。検出部には10mm×10mm×1mmのCdTe(カドミウムテルル)半導体センサを搭載、計数率は800cpm/μSv/hとまずまずの感度。1.5MeVまでのエネルギーレンジを512チャンネルに分解して、本体の有機ELディスプレイにスペクトル表示できる。型番の末尾のUはPCとのUSB 接続を意味し、線量率の連続ロギングや、エネルギースペクトルの表示がPC上でできる。
 

 いくつかの放射性鉱物でスペクトルを比べてみた。閃ウラン鉱、ユークセン石、ウランパイロクロアはいずれもウラン238に特徴的な共通のピークを示し、放射性の起源が同じであることがわかる。ランタンマントル(トリウム232を含む)と比べてみると、ピークの出方が明らかに違うのがわかる。こうして、線源となる放射性核種を同定できるのがスペクトロメータの本領発揮である。最近注目されるセシウム134,137など原発由来の代表的核種についてはピーク位置を記憶しており、自動判定してくれる。

エアカウンターSによる測定例 山本の発表
 前回例会でも紹介したエステー株式会社の、家庭用線量計「エアカウンターS」で、線量の距離依存性を測定してみた。線源としてはできるだけ点線源に近いものが望ましいので、閃ウラン鉱の10mm×20mmほどのかけらを用いた。線源からの距離を5cm~70cm程度まで変化させると、ほぼ距離の二乗に反比例する結果が得られた。グラフは両対数表示で、横軸が距離、縦軸が線量である。直線は距離の二乗に反比例の理論値を示す補助線である。0.10μSv/hを下回るあたりから直線をはずれるのは、環境放射線のバックグラウンドが0.05μSv/hほどあるからで、この先はどれほど離れてもほぼ一定値となる。「エアカウンターS」は感度が低いので、移動平均が安定するまで5分程度待って測定するのがコツである。詳しい報告はここ
エステー株式会社エアカウンターのページ:http://www.st-c.co.jp/air-counter/
エアカウンターSのプレスリリース:http://www.st-c.co.jp/topics/2011/000412.html
価格comマガジン:http://magazine.kakaku.com/mag/kaden/id=669/
 

ハイスピードカメラ 市原さんの発表
 1月例会で市原さんが紹介していたハイスピードカメラの実物が披露された。横浜サイエンスフロンティア高校が開発元の明伸工機という会社からデモ機として借りているものだ。ハイスピード撮影の映像に重ねて音や電圧などのグラフも同時に表示できる。もともとは工業用カメラだが、教材に活用するアイデアを募集中である。例会では早速テスト撮影会が始まった。
 

 越さんは輪ゴムのバックスピンの撮影に挑戦(写真左)。車田さんはリングキャッチャーの撮影を試みた(写真右)。高速度撮影には明るい光源が必要だ。蛍光灯はフリッカーが入るので好ましくない。スポットライトや写真用のフラッドランプなど白熱灯が適しているが・・・暑い。

 シャボン玉が割れる瞬間の撮影にも挑戦するが、なかなかタイミングを捕まえるのが難しい。この他、越さんはワイン入りのガラス瓶をハンマーにぶつけてたたき割る過激なシーンの撮影にも挑戦した。普通のデジカメで撮ったワイン割りのスローモーション映像(AVIファイル10.8MB)はここ。件のハイスピードカメラで撮影した映像は、編集の上、次回以降の例会で披露されることになっている。

高速度モーションコーダー 株式会社フローベル・大柳さんの発表
 こちらは別の会社のハイスピードカメラの紹介。株式会社フローベルは医療用、工業用、放送用、スポーツ用などさまざまな用途の特殊カメラを開発している。同社の超高感度EM-CCDハイビジョンカメラはNHKの宇宙の渚シリーズの撮影にも使われている。

 大柳さんが今回紹介してくれたのは、毎秒1000コマのハイスピードカメラとノートPCを組み合わせた動画解析システムだ。ハイスピード撮影の他、軌道描画モードを備え、モーショントラック表示ができる。スポーツのフォーム解析や、力学実験の軌道解析などに使える。

 同システムで撮影した、水風船が割れた瞬間の一コマ。風船が割れても水は慣性でその姿を保っている。右は野球のボールの軌道解析。ポータブルなシステムなので、屋外でその場解析ができるのが強みだ。

フクシマから学ぶ・原発・放射能 鈴木健夫さんの紹介
 かもがわ出版から「『ふしぎ』を科学しよう」シリーズの第5巻として、「フクシマから学ぶ原発・放射能」が発行された。安斎育郎監修、市川章人・小野英喜共著で、図書館向けが2500円、普及版が1600円(ともに税別)。著者はともに現場で実践を重ねてきた科教協会員。原発や放射線、再生可能エネルギーについて基礎から整理しなおし、子ども・生徒向けに必要な知識をわかりやすくまとめた本だが、父母・教師にも薦められる本である。

福島原発民間事故調の報告書 越さんの紹介
 福島原発事故独立検証委員会 調査・検証報告書  福島原発事故独立検証委員会(著) 株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン1575円、電子書籍版1000円。
 研究者、弁護士、ジャーナリストからなる30人程のワーキンググループが、約300人に及ぶ事故関係者に聞き取り調査を行い、報告書としてまとめたもの。400ページを超す大冊だが、巻頭の北澤宏一委員長のメッセージからも、委員会の事故に対する真摯な姿勢、世界に対する責任感が読み取れる。今夏には、英訳され世界に発表される予定である。
 詳しくは、http://rebuildjpn.org/fukushima/report または、ウィキペディアの記事をご覧いただきたい。

映画「はやぶさ」のDVD 越さんの紹介
 昨年10月に劇場公開された「はやぶさ/HAYABUSA 」(20世紀フォックス、竹内 結子主演、堤 幸彦監督)のDVDが発売された。写真は「はやぶさ/HAYABUSA デラックスBOX」で、本編のブルーレイとDVD、特典ディスクDVDの3枚組。他にすごろくとはやぶさの機能を簡単に紹介したミニポスター(両面印刷)が付いている。発売当初の定価7980円の物は出荷停止で、現在は定価10480円で販売されている。ブルーレイとDVDは同じ内容なので、どちらか1枚と特典ディスクDVDの2枚組が安価で発売されればリーズナブルだと思う。他に本編のみのDVDが定価3990円で発売されている。
 本編の副音声には、高嶋政宏、矢野創(サンプル採取/カプセル回収担当)、寺薗淳也(インターネット広報担当)、井上潔(プロデューサー/共同脚本)による音声解説があり、専門的な解説や撮影のエピソードが語られていて興味深い。
 特典ディスクの主な内容は、JAXA相模原キャンパス案内、メイキング映像、的川泰宣氏講演会「この国とこの星と私たち」などと内容豊富である。その中で特に、的川氏の講演は、日本ロケット開発の父・糸川博士から「はやぶさミッション」、さらには、3.11後の日本への想いまで、氏ならではのエピソードが多数、語られている。
 

50Hzと60Hz 成見さんの発表
 コンセントに差し込んで廊下や階段に使うLED常夜灯を、京都と東京の2か所で、毎秒300コマのハイスピードカメラで撮影した。PCの画面上で同時再生すると50Hzと60Hzの違いがよくわかる。

二次会 鴨宮駅前「すなん」にて
 15人が参加してカンパーイ!本日の会場の西湘高校は、神奈川の西部、小田原市にある。県内の例会会場としては最も西よりの記録となったが、JR鴨宮駅から徒歩8分なので、交通の便は悪くない。西湘高校で贔屓にしている無国籍創作料理のお店で年度の納会だ。思えば1年前は震災の影響で大変だった。永遠に記憶に残る一年になるだろう。


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