例会速報 2013/02/21 東京大学附属中等教育学校


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授業研究:3つの電球の明るさ 喜多さんの発表
 ある電気の実験で「生徒がどのように考えたか」の分類についての報告である。対象は3年生の理系2クラスで29名と27名、計56名。この生徒達は2年生の物理で電気パンを実験しており、V=IR、P=IV、W=Ptは簡単に学習している。物理Ⅱの電気のところで、コンデンサーを学習した後の直流回路のところの展開である。
 電球3本(左からA,B,Cとする)を直列につないだものを準備する。Aの左側をa、ABの間をb、BCの間をc、そしてCの右側をdとする(写真左)。先ずは、ab間に100Vを加え、電球1つだけのときの明るさを確認する(写真右)。
 

 次にad間に100Vを加え3つ直列のときの明るさを確認する(写真左)。 その後、bd間をリード線でつないだとき、どうなるかを考えさせる。このとき電球BCは点灯せず、Aのみ明るく点く(写真右)。これについては、皆納得していると喜多さんは判断した。
 さて、ここからが本題である。bd間のリード線をそのままで、更にac間をリード線でつないだとき、電球ABCの明るさはどうなるか、理由も付して答えるように指示した。それぞれの回答を最初に読んだ後の印象は、「これほど多くの考え方があるのか!」だった。
 

 生徒の回答を分析してみたら、大きく分けて6通りの答え、細かく分けると27通りにもなった(写真左)。分類の仕方については、議論のあるところだと思う。この問題を多肢選択にするとき、どのような誤答があるか、生徒に訊いてみるのが一番と考えて書いてもらったのが喜多さんの動機だった。その意味において、「対称的でないと考えた者が14名いたこと」は意外だったと、喜多さんは語る。
 例会参加者からの質疑の中で、どのように提示するかで答えが変わってくるのではないかという指摘があった。初めからbd間、ac間をつないで質問したら、「対称的でない」という答えは出てこないのではないかという指摘である。喜多さんはこの結果を踏まえて、来年の授業展開をどう考えるか、思案しているところである。
 ちなみに正解は右の写真の通り、全ての電球が明るくつく。電位の考え方が理解できていて、電源のそれぞれの端子と等電位の部分をたどることができれば容易に正答に近づけるのだが・・・。
 

折り紙で二次曲線 山本の発表
 円形の紙を用意し、円内の中心以外の1点をF1、中心をF2とする。円周上の任意の点をF1に重ねるように折り返し、折り目を付ける。円周上のできる限りたくさんの点について、次々に同じ操作を行う。
 

 すると無数の折り線の包絡線がF1とF2を焦点とする楕円となる。右の写真のように作図してみると、楕円の性質がよくわかる。F1'は円周上の任意の点で、線分F1F1'の垂直二等分線が折り線である。線分F1'F2を引くと折り線との交点Pが楕円との接点になる。図よりF1P+F2P=r(円の半径)であり、「2点F1とF2からの距離の和が等しい点の集合」という楕円の条件を満たしている。線分F1P、F2Pが接線となす角が等しくなることもわかる。楕円鏡面では一方の焦点から出た光が反射後他方の焦点に集まる性質がある。
 

 次に長方形または正方形の紙を用意する。紙面内の1点Fに1辺上の任意の点を重ねるように折り返し、折り目を付ける。すると、折り線の包絡線が、Fを焦点とし、重ねた1辺を準線とする放物線になる。上の楕円の例で円の中心だったF2を無限遠に遠ざけた場合と考えればよい。準線が円周の一部に相当する。
 

 準線上の任意の点F'と焦点Fを結ぶ線分の垂直二等分線が折り線である。F'を通り対称軸に平行な直線を引き、折り線と交わる点をPとすると、FP=F'Pで放物線の条件を満たし、点Pは放物線と折り線の接点となる。線分FPと折り線、直線F'Pと折り線がなす角はぞれぞれ等しく、放物鏡面が対称軸に平行な光線を焦点に集める性質が示される。先の楕円の例と対応させるなら、直線F'Pは無限遠にあるもう一つの焦点F2をめざしていると考えればよい。

 楕円、放物線と来れば双曲線にも挑戦したい。例会参加者にも考えてもらった。楕円の場合に円内にあった点F1を円の外に出せばよいので、付箋を使って円の外にF1、円の中心にF2をとる。そして、同じように円周上の任意の点をF1に重ねるように折り返し、折り目を付ける。
 

 無数の折り線の包絡線がF1とF2を焦点とする双曲線となる。同様に作図してみると、双曲線の性質がよくわかる。F1'は円周上の任意の点で、線分F1F1'の垂直二等分線が折り線である。直線F1'F2と折り線との交点Pが双曲線との接点になる。図よりF1P-F2P=r(円の半径)であり、「2点F1とF2からの距離の差が等しい点の集合」という双曲線の条件を満たしている。線分F1P、F2Pが接線となす角が等しくなることもわかる。双曲鏡面では一方の焦点から出た光が反射後、他方の焦点から放射されたように広がる性質がある。あるいは向こう側の焦点をめざして集まる光は反射後手前の焦点に集まる、と表現してもよい。
 以上、折り紙をしながら三種類の二次曲線の性質が統一的に学べるこんな導入はいかがだろうか。
 

ヤングの実験 小沢さんの発表
 小沢さんは、ヤングの実験で、スリット間隔も生徒が測定できるような工夫を紹介してくれた。右の写真は、原図(横8cm×縦4cm)をOHPフィルムに25%縮小のコピーをして作った複スリット。スリット間隔は0.3mm。原図は描画ソフト「花子」で作成し、上部に櫛状に短い筋をスリット間隔と同じ間隔で60本引いてある。生徒に、原図とフィルムの両方を渡して、まず縮小率を調べさせる。次に、原図の60本の短い筋の列の長さを測らせ、フィルム上のスリット間隔を計算させる。
 

 次にこのフィルムを洗濯ばさみに挟んで立てて、レーザー光を当てると、2mほど離れたスクリーンに干渉縞が映る。この実験では、光の波長を求めるために必要な量は、すべて生徒の手で測定できる。
 

弦の振動の映像 水上さんの発表
 概径12mmφのゴム管を張った長さ約1mの弦をはじいたときに生じる基本振動から4倍振動までの固有振動の映像である。初めて学ぶときは教科書の言葉「固有振動」「基本振動、2倍振動、3倍振動」の実例として実物を演示するが、復習の際にはこの映像を用いている。
 

 左は3倍振動の状態だが、最初にはじくのは一番右の腹の部分だけである。その振動がしだいに全体に行き渡って、このような3倍振動モードになるのが、動画で見るとよくわかる。

 下左は毎秒300コマの高速映像で、次の3つの場面で利用する。
①弦の振動は「定常波」を学習する際に作図した合成波形の変化と同じであることを確認する。
②映像を分析し、m倍振動数fm=m×基本振動数f1になっていることに気付かせる。作業手順は次の通り。QuickTimeの映像の左隅の表示をタイムラインからフレーム番号に切り替え(写真右)、コマ送り機能を活用して基本振動の5回、2倍振動の10回、3倍振動の15回の振動に要するフレーム数を数えるとどれも205フレームになる。このことから、振動数の関係は、f2=2f1、f3=3f1になることがわかる。
③弦の長さをLとすると、波長λは2L→L→2L/3 と変化するが、弦を伝わる波の速さはυ=fλ=f1×2L=2f1×L=3f1×2L/3と同じ値である。
 

振動源の向きを変えた弦の振動 水上さんの発表
 先月の例会で紹介があった映像の改良版である。スピーカーの振動数が表示されており、波源の振動数を変えずに振動方向だけを弦と垂直から平行に変えると腹の数が半分になることが良くわかる(写真右)。
 

スーパーボールのはねかえり 水上さんの発表
 「球がなめらかな面に斜衝突してはねかえるとき,速度の面と平行な成分Vxは変化しない」ことを教える際に利用するために毎秒300コマで高速度撮影した映像。2012年11月の例会で紹介された映像の改良版である。
 

 最初のシーンは机に中性洗剤の原液を塗って摩擦がない状態、すなわちVx≒V´xにしており、後半のシーンでは木の板を置いて摩擦がある状態にし、Vx>V´xになっている。
 

 例会では、バックに方眼目盛りが欲しい、机と背景が黒く反射面が分かりにくい、など、さらに改良を要する点を指摘された。これらを踏まえて撮り直し、3月の例会で紹介してくれるそうだ。

SPPの報告 加藤竜一さんの発表
 東大附属では、「センサーの利用」という内容で物理Iの授業でSPPを実施した。講師は応用物理学会に紹介していただき、農工大名誉教授の佐藤勝昭先生に来ていただいた。実施内容としては、暮らしの中の光技術ということで、様々な実験を交えながら様々な光技術についての講義をしていただいた。受講した生徒の中には「今回の講義を聴いて、来年物理IIを選択することにした」と言う者がでるなど、なかなか刺激的なものだった。
 

 例会の席で加藤さんは、佐藤先生の講義の中で、特に光ディスクについて学んだことを紹介してくれた。2012年10月例会で慶應高校の喜多さんがCDやDVDの電子顕微鏡写真を紹介してくれた内容を補足するもので、大変参考になった。
 

 写真のPPTは、講師の佐藤先生が作ってくださっり、SPPの授業で生徒向けに使用したものである。このファイルは、佐藤先生のHP内の「市民講座等」というリンクの先にあるので、参考にしていただきたい。トップページのURLはここ→http://home.sato-gallery.com/
 

オーストラリアの気象カレンダー 加藤竜一さんの発表
 2月になって、「いまさらカレンダー?」という感もあるが、加藤さんはネットを見ていてたまたま、「オーストラリア気象局が選んだ2013年のカレンダー写真が雄大すぎ!」という紹介を見つけた(http://www.roomie.jp/2012/11/34853/)。そこからたどるリンクは確かに雄大なものだった。この写真はオーストラリアの気象局が、毎年公募で集めているものだという。オーストラリア気象局のHP(http://www.bom.gov.au/calendar/)を見ると、日本の「気象カレンダー」と同様、それぞれの写真の気象の解説も載っているのでぜひ一読されたい。
 

高校物理選択者動向 鈴木亨さんの発表
 本年度は新課程理科の先行実施導入年度だった。鈴木さんは昨年に続き、来年度の教科書需要数から新課程2年目を迎える高校理科の動向を分析した。物理基礎の需要数は本年度が39万、来年度が71万である。差額32万は2年次の履修分を反映していると考えられる。4科目の比較から、基礎科目の履修は1年次2科目、2年次1科目が一般的なパターンだと読める。
 

 4単位の「基礎なし科目」については来年度が初の履修年度だ。物理は約15万で、本年度物理基礎を履修した者の40%弱が選択していることになる。一方旧課程の物理Ⅱを見ると、本年度と来年度の差額は約4.5万は旧高2の選択者と見られる。
 これらの分析から、理系志望の物理選択者はそう変わっていないこと、4単位物理の分割履修や早期採択がかなりあることが推定される。当然ながら各高校の教育課程編成は新課程対応のセンター試験の選択パターンをかなり意識しているようだ。
 

 鈴木さんは新課程においても「物理は理系」の固定観念が払拭されたとは言い切れず、物理基礎が「市民のための教養」になっていないのではと警鐘を鳴らす。
 日本物理教育学会は、高等学校における物理基礎の実施について会員および学会と連携できる研究会組織の構成員を対象に、物理基礎の実施に関するアンケート調査を行っている。高校関連以外の機関に所属されている方もご協力いただけるとありがたい。
アンケート用ウェブサイトのURL:https://www.surveymonkey.com/s/N78PWNW

コミケ本「物理ガール」 車田さんの書籍紹介
 コミックマーケット(2012年冬コミ)で車田さんが購入した本の紹介。結城さんの「数学ガール」はすでにノベライズされて広く知られている。「物理ガール」は女子高生による物理談義のスタイルをとるが、女の子だけのやり取りなので「数学ガール」と比べると色恋沙汰がないのが物足りなく感じる向きもあろう。
 登場人物は物理が恋人という物理女教師と物理好きな高校1年女子が2名。電気抵抗から超電導まで高校生にも理解できるように構成されている。内容は物理学全般ではなく固体物理に限定されている。

第1話 オームの法則/第2話 電気抵抗率と電気伝導率/第3話 もう一つのオームの法則/第4話 電気抵抗の温度依存性/第5話 超伝導の発見/第6話 マイスナー効果/第7話 超伝導の磁気特性/第8話 BCS理論/第9話 高温超伝導

参考URL:http://www.pixiv.net/tags.php?tag=物理ガール

西條さんの新刊本 山本の書籍紹介
 四国徳島の西條敏美さんが出版した新しい本の紹介。
「知っていますか?西洋科学者ゆかりの地 in JAPAN ~PART1:新しい世界を開いた西洋科学者」恒星社厚生閣\2800+税。
 科学史を飾る著名な西洋科学者にゆかりの石碑、像、植樹などがこの日本の国内にもある。西條さんは自ら取材して日本中を巡り、旅行記・回想録のようなスタイルでその業績と共にゆかりの地を紹介してくれる。ヒポクラテス、ニュートン、メンデル、パスツール、ファーブル、ゲーテ、コッホ、テスラ・・・関東地方だけでもこれだけの科学者の記念物があるという。
 メンデルの修道院にあったブドウの木から株分けされたものが小石川植物園に今もある。元祖メンデルの木は枯れてしまったが、小石川植物園から逆輸入してこれを復元した、などのエピソードも興味深い。
 同書に紹介されている自宅の近くの記念物を調べてみた。江の島のモースの碑は有名でよく知っていたが、そこからほど近い稲村ヶ崎にコッホの碑があるとは長年住んでいながら知らなかった。この本にない同様の記念物を身近で探してみてはいかがだろう。

宇宙の?に挑む 神谷さんの情報提供
 最先端研究開発支援プログラム 村山プロジェクト一般講演会
「宇宙の?に挑む~私たちがここに存在する不思議~」

『星くずから地球へ』講師:小久保英一郎
『宇宙になぜ我々が存在するのか』講師:村山斉
パネルディスカッション 『私たちが宇宙に存在する不思議』

日時:2013年3月24日(日) 13時~17時  (12時30分開場)
場所: 東京大学伊藤国際学術研究センター 伊藤謝恩ホール

詳しい情報はここ→http://www.ipmu.jp/ja/node/1482
※3/9現在定員に達し、募集は締め切られています。

応用物理学会春季学術講演会 山本の情報提供
 応用物理学会春季学術講演会 特別企画シンポジウムのご案内
【テーマ】
中高校の理科・技術教育の改善への取り組みと課題
(科学技術立国を支える人材養成)
■日時
2013年3月27日(水)13:30~17:00(受付:12:45~)
■会場
神奈川工科大学 K1号館(情報学部棟)12階メディアホール
■参加費:無料
■申込方法:http://www.kait.jp/gwy_corp/symposium/
■リーフレットのURL
http://www.jsap.or.jp/activities/annualmeetings/2013/2013s_SPsympo1.pdf

二次会 幡ヶ谷駅前「大黒屋幡ヶ谷店」にて
 12人が参加してカンパーイ!。本日は初めての会場で新鮮だった。YPC例会は会場持ち回り制なので、いろいろな現場が見学できる。今回は改修工事を前に引越の準備に忙しい中、受け入れていただきありがとうございました。不要品整理でいっぱいお土産をいただいて帰った人も・・・。


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