例会速報 2014/06/15 東京学芸大学附属高等学校
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授業研究:自分らしい授業を求めて 目黒さんの発表
4月から理科の教員として新たなスタートを切った目黒さんの、物理基礎の授業の報告があった。一年目の目標として、自分らしい授業を確立することを目指して、生徒の学習習慣をつける指導や、思考力を伸ばす授業を模索中だ。毎回の授業の反省点も記録に残しているという。右の写真はプリントに載せた速度の合成の例題。「いきなりでは難しすぎるのでは?」「一次元の場合、ことさらベクトルと強調しなくても。」という声もあった。
もう一つの報告は明日やる予定の生徒実験(プラスチックバネと輪ゴムによるフックの法則の測定実験)だが、予備実験が思うようにうまくいかないという。おもりをつるさない状態が自然長とは限らないのでグラフが原点を通らないのは当然、ゴム弾性ではバネと違ってフックの法則は成り立たない、測定したのは変位なのでXを縦軸にとるべきでは・・・など例会参加者からいろいろなアドバイスがあった。教材としてバネを使う理由や、実験の目的と目標をはっきりさせるべきだとの指摘もあった。困り事をさらけ出して、仲間内でもむことは大変よい勉強になる。YPCの授業研究では失敗例も歓迎される。
均時差の説明 田代さんの発表
冬に向かうときは日の出時刻はあまり遅くならないが日の入り時刻が急に早くなる。この事象は均時差(真太陽時と平均太陽時の差)に起因する。田代さんは以前も2007年7月例会で均時差を扱ったが、その時は円盤での説明だった。今回は天球を用いたより忠実なモデルである。ビニールテープの赤は天の赤道を、黄色は黄道を示す。
秋分点(天の赤道と黄道の交点)に太陽が位置する秋分の日には、太陽は正午に南中する。約45日後、立冬を迎えるころ太陽は黄道上を45°だけ先に進んでいる。しかし、黄道が天の赤道に対して23.4度傾いているので、真太陽の位置の子午線(黒の点線)は、当日の正午に南中する子午線(黒の実線)とずれを生じる。このため立冬の太陽の南中は正午前になるのである。正午には太陽は南中を過ぎて少し西に移動している。立冬前後には日の出はあまり遅くなっていないのに、日の入り時刻がどんどん早くなることも、このモデルを使うと具体的に理解できる。
アルミラミネートで露点 田代さんの発表
中学の気象の授業でステンレスカップを使って露点を測定するが、学校によってはステンレスカップがない。アルミ缶を使うと水滴で表面がくもるのがどうもクッキリしない。一杯用のドリップコーヒーを包んているアルミラミネートの袋を裏返し、水と温度計を入れて氷(氷水)を追加するとクッキリとくもりが分かる(写真左)。廃物利用の安上がりな実験である。例会では、車田さんがねじ蓋式のコーヒーのアルミ缶で、表面のプラスチックシートをはがしてクッキリとした水滴を見せてくれた(写真右)。これは非常にわかりやすい。
都立高の入試問題の誤りに関して 田代さんの発表
今年度の都立高校の理科の入試問題の大問3の問3に出題の誤りがあり大きな問題になった。問3は「秋分の日に」という条件を示さなければ解けない出題であったことを都教委も認め、合格発表前日に謝罪し、全員に5点を与えることとした。
さて、仮に秋分の日とことわりがあったとしても中学生にとってはそもそも無理な出題であるというのが田代さんの説明だ。中学では地軸の傾きは太陽高度の季節変化に関して扱うだけである。おうし座が夏の太陽の通り道、さそり座が冬の太陽の通り道なども扱っていない。まして、夏至の満月は冬の太陽の通り道(黄道)付近にあることなど中学では扱っていないのである。
厳密には白道(月の通り道)は黄道とは一致しておらず、黄道と5度ほど傾いている。その交点も年々移動しており、18年あまりで一周することを出題者側は承知していただろうか。そうしたことを正しく理解していれば、こんな問題を出題しようとは思わなかったに違いない。
500円玉で遠心力と摩擦力 勝田さんの発表
勝田さんは、遠心力とは何かをしっかりと教えつつ、生徒の活動主体の授業が出来ないかと考えた結果、以下のような構成で授業を行った。
(1) 回転板の回転軸にばねを取り付け、回転板と一緒に回転させる。さらにiPhoneを回転板に固定して、回転板と一緒に回転しながら動画を撮影する。その動画を見ると、ばねが伸びているにもかかわらず、おもりは静止している。その事実から、「ばねを外向きに引っ張る慣性力=遠心力」がはたらいていることを説明する。
(2) 次に課題を通して生徒に考えさせ、さらに生徒間で議論することで理解を目指す。
課題:回転板の上に3枚の500円玉を多く。それぞれ、回転軸からの距離の異なるところに配置する。回転板を回し、だんだん回転速度を上げていくと500円玉はその順番で滑り出すか?
選択肢: A)遠いものから先に滑る←正解 B)同時 C)近いものから滑る (それぞれグーチョキパーで一斉回答させる。)
実験自体は面白みもあり好評だったが、「遠心力を使わなくても解ける」「摩擦力が向心力となっていることを、生徒がしっかり把握しているか」などの指摘もあり、改善の余地がありそうだ。「来年はもっとよい形で報告したい。」とのこと。
自然科学と情報 西野宮さんの発表
今日では「情報」という言葉は多様な意味で用いられていて、ただひとつの定義を与えることは困難だ。そんな中、「物質でもエネルギーでもない、新たな「情報」というカテゴリーが実在する。」という主張がある。(養老孟司「人間科学」)
西野宮さんは、生物物理学の分野では、情報という用語が盛んに用いられているにもかかわらず、自然科学としてその用語の定義が行われていないと指摘する。その理由は次の3つが推測されるという。
1.情報理論で扱われる情報概念を使用している。
2.DNA情報の起源はまだ不明なので、情報とは何かが実はわかっていない。
3.物質の枠内で説明しようとするとどうしても自然科学の枠を逸脱してしまい、定義できない。
分子生物学は生物を分子レベルの現象に細分化したが、これらの成果を統合して、物質がいかに生物たり得るのかを示すのが生物物理学者の仕事だと西野宮さんは考えている。その際「情報」こそが生物を総合的に統一する鍵ではないか、というのが西野宮さんの主張だ。
物理室紹介 市原さんの発表
初めての学芸大学附属高校での例会だったので、市原さんに実験室の紹介をしてもらった。同校では生徒実験を中心に授業を展開していて、二年生の物理基礎は標準単位数の2単位で行っている。実験室で授業を行い、2回に1回の頻度で生徒実験をしているという。さすがともいえるすばらしい実践だ。
実験にスムーズに取り組めるよう、写真のようにひきだしになった道具箱に器具を一式セットしてあり、生徒はその箱を持っくれば実験が開始できる。写真は、力学台車と記録タイマーなどが入った力学セット。
箱に入らない道具は棚に並べてあるが、赤色レーザーや変圧器なども班の数だけある。波動のセット,電気のセットなど,よく使うものを一箱に入れておくと、管理は大変だが授業の準備は楽になる。参加者からは「理想の環境だ」と賛嘆の声しきり。
キジバトの求愛行動 偶然目撃
解散直前、会場の物理実験室の窓外の樹上に、キジバトらしき鳥のつがい?を見かけた。左側のオスがさかんに求愛のダンスをしていたが、その後どうなったかは不明。例会とは何の関係もない、通りがかりの出来事だが、ほほえましかったので写真におさめた。
二次会 学芸大学駅前「山内農場」にて
14人が参加してカンパーイ!。本日のレポーターの目黒さんも本年度新採用組だったが、若手の元気がよいことはYPCの未来を明るくしている。職場でのフラストレーションも例会ではき出して、先輩からの激励を受ける。「おれも若い頃は同じだったよ。」「今の若い人のほうがよっぽどしっかりしているよ。」「その調子でがんばれ。」
本日は初めての会場で、見た目に珍しいものも多かった。それにしても、会場周辺の道路は迷路のようで閉口した。
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