例会速報 2005/11/13 カリタス学園女子中学高等学校


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授業研究:作用・反作用の教え方 水上さん、鈴木健夫さん、鈴木亨さんの発表
 今回の授業研究のテーマは「作用・反作用」だ。それぞれこだわりのあるところだ。

 最初にレポーターに立ったのは水上さん。水上さんの授業展開はこうだ。

 教科書で該当箇所の記述を読む→いくつかの実例を演示する(例会では「サイエンス君の5分間実験」で代用)→「押せば押し返される。引けば引っ張り返される。(作用と反作用を区別するのは無意味。あくまでもキャッチフレーズ)」を提示→問題練習として,一見すると不思議だが,この法則を適用することで理解できる現象を扱う。(自分で自分を吊り上げる(後出)。宙に浮いた磁石を上皿秤に乗せる。上皿秤の上で浮力の実験)。

 また、水上さんはつりあいと作用反作用の混同を避けるために,板書の際,物体ごとに働く力を色分けしている。力は「だれがその力を受けているのか」を意識することがとても大切だから、この色分け板書はぜひ心がけたい。

 鈴木健夫さんは、東京物理サークル編著「楽しくわかる物理100時間」を参考に、作用反作用の学習の前に「力の原理」と称してつりあいを学習する。日常の感覚から当たり前のこと(静止している物体に力が働けばその方向に動き出す、両側から等しい力で引き合えば物体は動かない)から出発して、つりあいという状態を定義する。
 その次に、二つのバネを直列につないだ場合、バネの長さは1つのときにくらべてどうなるかという課題で予想してから演示実験をし、その説明の過程で「力の原理」を用いつつ、二つのバネの間に反対向きで同じ大きさの力つまり作用反作用の存在に気づかせるという展開である。
 かつて科教協全国大会で、「作用反作用は説明してはいけない」という千葉や大阪の方と、「分子間力を使って物の弾性から作用反作用を説明する」という東京や埼玉などの方の間で論争があった。
 鈴木さんは、作用反作用は説明不要の原理であるという主張が正しいと思いつつ、生徒の理解のためには作用反作用がどういうものか納得するような発見が必要だと考え、上記のような課題だけを入れ、あとは作用反作用とつりあいの混同を避けるように強調するだけの展開にした。
 後者のためには「力は一つの物体に働く力のみ同じ図に描くこと。作用反作用は同じ図中に書いてはいけない、面倒くさくても二つ図を作りそこに書け。」「作用点は、黒丸で示し、できれば物体の線のわずか内側に書くと良い」と強調している。また、上の議論の流れから「押したら押し返す」「引いたら引き返す」という言い方は避けるようにしている。

 鈴木亨さんは、職場で行われた研究会に集まった中学校の先生方にアンケートを行った。その中で、指導要領にはない「作用反作用」を中学で教えているか、どう指導しているか、の質問項目を設けた。多くの中学では何らかの形で作用反作用を教えているようである。
 しかし、そこに集まった中学の先生のうちでは「机の上の物体にはたらく重力の反作用は?」という問いに関して、「物体が地球を引く力」という正解を書けた人は一人もいなかったという。このことは、わが国の初等中等教育課程における物理教育が抱える問題点を象徴しているのかもしれない。

自分をつりあげる 水上さんの演示
 水上さんが作用反作用の関連演示の一つとして実践しているゴンドラで自分をつり上げる実験。YPCではおなじみのものだ。滑車に通したひもを自分自身でひくと、体重の半分の力で比較定容易に自分をつり上げることができる。これを他人が引くと、体重全部に相当する力を加えなければならないから持ち上がらない。作用反作用や力のつり合いをよく理解しないと説明できない現象だ。よく問題集に載っている実験だが、実際に行うとやはりインパクトが強い。
 

CO2バルーン音のレンズ 市江さんの発表
 市江さんは鎌倉学園のクラブの実験で、おなじみのCO2を入れた音のバルーンレンズの実験を行った。その再現実演を会場で披露してくれた。
 用いたバルーンは直径約1.8mの業務用バルーンで、楽天で¥12600で購入した。多少は使いまわしができそうだが、メーカーは1回の使用に限っている。他にも安価な1個¥900というものがあったが、こちらは実際には試してはいない。耐久性に問題があるかもしれない。
 今回、二酸化炭素のボンベを一般の(ディスカウントでない)酒屋さんから安く入手できることがわかった。(地元の居酒屋に卸しているらしい。)液化二酸化炭素 5kgで約¥2500(ボンベのデポジット¥5000が別途必要)これでジャンボバルーン約2個分だ。
 左はCO2を詰めている様子。断熱膨張でボンベも風船も冷たくなる。ふくらんだ風船はずっしりと重くなる。ばねはかりではかると数キログラムある。
 
 ジャンボバルーンに二酸化炭素を入れ、バルーンをはさんで会話をすると、音の屈折により、相手が実際とは違う位置で話しているように聞こえる。お互いの位置をうまく調整すると、はなれた相手がまるでバルーンの中や自分の目の前で話しているようだ。
 右は「こんなのでもできますよ」と黒瀬さんが紹介してくれたゴミ袋レンズ。形はともかく、一応の効果は確認できる。ゴムと違ってCO2が抜けにくいのもよい。
 なお、本実験を行うときには高濃度の二酸化炭素を大量に用いるので、酸欠にはくれぐれもご注意を!

おとかえるくん(光センサ電子音発生装置) 越さんの発表
 「水野さんのテルミンの発表の前座で」と越さんが取り出したの小さな箱。近くに手をかざすと、電子音が怪しげに変化する。一見テルミン風。
 実はこれ、右の写真のような基板上の左右に取り付けられたCdSに手をかざし、明るさ(光量)を変えると、音の大きさと高さを連続的に変えられるという回路。練習すれば、簡単な曲を演奏することも可能。言わば、光センサを利用したテルミンのような楽器。エレキットの電子工作キット「おとかえるくん」、1980円。
 

テルミンとマトリョミン 水野さんの発表
 アナログ電子楽器「テルミン」については98年1月例会などでも話題になった。水野さんは最近購入したテルミンを披露してくれた。
 写真左は「テルミンラボ」という会社が販売している完成品で約6万円。十分演奏に使える本格的なもの。左右のアンテナに手を近づけたり遠ざけたりすることで静電容量の変化により周波数と音量をコントロールする。
 右は「サウンドハウス」という会社から購入したというキットで、約4万円。例会当日は半田付けの不良で音が出なくて残念。
 
 下はマトリョーシカ人形に仕込まれた「マトリョミン」。「マンダリンエレクトロン」という会社から購入したという(約4万円)。これはアンプ・スピーカーが内蔵されており、手軽にテルミンの音が楽しめる。電源は006P(9V)の電池。
 越さんの紹介してくれた「おとかえるくん」も一緒に、勢揃いしたテルミン。今年の文化祭で、神奈川学園理化部が電磁波の研究をしたので、それで購入しようと思い立ったそうだ。多額の出費と情熱に参加者は皆感嘆の声をあげた。

 世界初の電子楽器「テルミン」の本物の音色は、ロシアの科学者テルミン博士の数奇な運命を描いたドキュメンタリー映画「テルミン」で鑑賞することができる。昔はサスペンス映画の効果音としても用いられていた。ホームページにて「バーチャルテルミン」の擬似演奏もできる。

ハンドボイラーで蒸留の実験 高杉さんの発表
 化学教育雑誌の記事から紹介。
 YPCではおなじみの“ラブメーター”もしくは“ハンドボイラー”。一時ダイソーで150円+税で売られていたが)このごろ見かけなくなった。下方の球を手のひらで温めると、ボコボコと煮立っているようになるのを楽しむおもちゃだ(写真左)。だがこれはもちろん“ boiling(沸騰)”しているのではない。
 さて、このおもちゃを、液を下方にためた状態のまま、上下逆さにして、下方の球(もとは上方の球)は氷水で冷やし、ガラス管のある上方の球(もとは下の球)はドライヤーなどで温めると・・・・・(写真右)。
 
 もとの液は色素が濃縮され、冷やされた球には無色の溶媒だけがたまってくる。それぞれの球では溶媒の蒸発―凝縮が起こっており、色素は高沸点のため着色液体の濃度の不均化が起こったのだ。蒸発&凝縮を続ければ、色素固体と溶媒に分けてしまうことも可能だ。つまり、混合物からの成分の分離=精製できたということになる。ハンドボイラーは「密閉系小規模蒸留装置」だったのだ。「物質の精製」や「状態変化」の単元で活用できそうだ。(記事の全文訳は次号のニュースで)
 こんな使い道があるんなら、あのときダイソーで買い占めておくんだった(^^)。

高速ダブル回転浮沈子 とは? 高杉さんの発表
 9月例会で加藤俊さんが紹介してくれた当銀さんの「高速W回転浮沈子」は、美しくラブリーなできばえだ。しかし、たかすぎさんはその名前を見て考えた。「“ダブル”“回転”浮沈子」と名づけるならば、浮沈子がダブルで・・・つまり「浮沈子の中に浮沈子が入れ子になって」回転してほしい。しかもそれぞれ逆回転(ダブル回転)したら最高!・・・.ということでできあがったのがこれ。(動画でお見せできないのが残念)
 当銀さんの「高速W回転浮沈子」では本体の回転とビーズ玉の回転方向が同じになる。このことからもわかるように、浮沈子を単純に入れ子にしただけでは、内部浮沈子の回転は、外部浮沈子の起こす水流に負けて同じ回転をしてしまう。このためコルク栓にちょっとした工夫がしてある。その構造はここではヒ・ミ・ツ(^^)。
 PETボトルを押すと、浮沈しながら見事に入れ子の円筒が逆回転し喝采をあびた。「現象としてはおもしろい。回転浮沈子作りの“玄人受け”するかもしれないが、初学者に現象を気づかせる〜説明する にはひねりすぎなんじゃないの?」とか「いやその運動の複雑さゆえに、初めて見る人にインパクトがある。」とか「お土産品で売り出すにはそれくらいがちょうどいい。実用新案を取っておけば?」とか感想もいろいろ。
 

ゴム風船エアパック製作の工夫 高杉さんの発表
 「似たような工夫をもうすでにされている方もいるのではないかと思いますが…。」と言いながらたかすぎさんが出してきたのはゴム風船とCDで作るエアパック(風船ホバークラフト)。この装置自体のオリジナルは不明だが、風船とフィルムケースをさらに手軽で体裁よく、小学生でも簡単に接続できるようにしたのが今回の工夫だ。
 キャップに7mmφの革細工用ポンチで穴を空け、ゴム風船を通してから内側から3〜5cmの長さに切った6mm径のストローを押し込む。ゴム風船を深めに挿入すれば、風船の首が揺れるために起こるエアパックのふらつきも軽減できる。たかすぎさんは、9月にこの方法で地元の小学4年生(とその保護者計80名)の実験工作教室で指導をしてきた。
 なお、宮田さんからは、「ゴム風船の口をキャップにすっぽりとかぶせてしまい、ゴム膜ごとフィルムケースにはめ込んでしまう。」という力技も紹介された。
 

紅葉タオル 高杉さんの発表
 某所からいただいたという“御挨拶”「紅葉タオル」。緑色に描かれたカエデの葉が、冷やすと紅葉する。染料に「感温色素」が使われている。発色・変色の機構にもいろいろとバリエーションがあるらしいが、基本的に色素分子の構造の変化によるものだ。サーモクロミズムという。
 「紅葉タオル」でネット検索してみると、そのものずばりが楽天から販売されている。送料別で¥198.-
「感温色素」「感熱色素」等のキーワードで検索をかけると、いろいろとヒットする。
 「30℃以上の温度で色が変わる特殊染料でプリントした温感タオル」というのもあった。こちらのほうが世間ではよく知られているかもしれない。「温めると女の人の裸が現れるヤツをテレビで見た。」という証言も。ご存知の方は情報をお寄せください。

 

低速リサージュ 山田さんの発表
 山田さんお得意の、ファンクションジェネレータをオシロスコープによる実験シリーズの一つ。低周波のサイン波を大容量コンデンサーによって位相をずらし、XY入力に導いてリサージュを描かせる。周期1秒ぐらいでゆっくりとした円を描く。単振動と円運動の関係を示す教材としても使える。右はスローシャッターで撮影した光点の軌跡。手振れで円がゆがんでしまったが、雰囲気を読み取っていただきたい。
 

ぷるぷる・テントウムシ 越さんの発表
 偏心モーターにより本体を細かく振動させ動く、田宮模型の工作キット「ぷるぷるテントウムシ」。かつて流行った電動ゲジゲジと同じ原理。金属製の足(レッグロッド)の傾きを調整することによって、進行方向や速さを変えられる。680円。他にもロボクラフト・シリーズとして、いろいろなタイプのキットがある。
 

エアーバズーカミニミニ 越さんの発表
  トイザラスで見つけたエアーバズーカのおまけとして付いてきた小型版(非売品)。フィルムケースほどの大きさ。米村先生考案の空気砲のおもちゃ版。バケツ大のエアーバズーカの方は、中村理科では空気砲という商品名で、販売されている。1380円。

ハイパーねこシステム 平野さんの発表
 生徒の積極的に授業に参加する姿勢を育成するために、平野さんの授業では「ねこシステム」を導入している。2004年3月例会、YPCニュースNo.193で発表があった。
 その後もねこシステムは進化し続けている。2005年4月からは,授業中に実施される「ねこはずしゲーム」を制した場合などだけでなく,生徒実験で,事前の注意をきちんと守って取り組んでいたり,生徒自身の考えでちょっとした工夫がされていたりしたときなどに「免罪符」が発行されている。免罪符は専用シートに日付のチェックを受けることで効力を発する。獲得した免罪符の数だけ,定期テストで獲得してしまった「えらこっちゃ猫」の数が減じられる。生徒はこのシートを教科書やノートにはさんで保管しているので,現時点での「ねこの数」が把握しやすくなったようだ。また,ねこの減り具合がよくわかるようになったため,積極的に授業に取り組む姿勢をもつ生徒が非常に多くなっている。

iPodで角運動量保存の実験 小河原さんの発表
 The Physics Teacherの2005年11号に掲載されていた実験の追試。ハードディスク内蔵の携帯用音楽再生機を宙吊りにし、再生ボタンを押すと、ハードディスクの円盤が回転するのとは逆回りに、本体が回転を始める。すずりょうさんのiPodを借りて試してみると、本体は左回りに回転し始めたので、内部のハードディスクは右回りであると考えられる。本体とハードディスクの質量差を考えると、157gの本体がこれだけ回転するということは、軽いハードディスクは相当高速回転しているのだろう。宇宙船の姿勢制御に使われるリアクションホイールの原理だ。
 

米国における理科教育の様子 小河原さんの発表
 (写真なし)小河原さんは、慶応ニューヨーク校赴任中に見学した高校の様子をふまえた、米国理科教育の様子の紹介してくれた。教えている高校物理の内容自体は、日米でほとんど変わらないものの、スタンダードのあり方と共通テスト、教科書、授業スタイル、教員研修や異動などは相当に異なっている。反面教師として見習う点も含め、今後の日本の理科教育を考えるときには少なからず参考になるだろう。詳細は、次号のYPCニュースに掲載の予定。

TEPCO電気と遊ぼうランド 三上さんの発表
  11月19日(土)は東京電力技術開発センター(鶴見)の一般公開日だ。日頃は見ることのできない研究所の施設を見学できる。子供向けの工作・体験教室や探検ツアーなどのイベントも企画されている。当日はお隣の「電気の史料館」(三上さんのお勤め先)も入場無料となる。
 残念ながら本速報が公開される頃には終わっているのだが、来年の同時期のチャンスをお見のがしなく。

西條敏美さんの「理科教育と科学史」 山本の紹介
  科学史に詳しい、徳島の西條敏美さんの新刊。「理科教育と科学史」大学教育出版\2200を紹介した。科学史教育という視点から、ご自身の教育実践や調査報告をふんだんに盛り込んでまとめあげた、極めてユニークな本だ。
 第三部はジュールの実験やクーロンの実験を原著にあたって忠実に再現しようとしたレポートで、特に興味深く読んだ。第四部の調査報告も貴重なデータ集だ。
 「理科基礎」などを足場にした、従来の理科教育にない新たなアプローチの提言である。

ISBN4−88730−632−6 C3037

あみものコレクション 竹内さんの発表
 バンダイのウサコレフレンズシリーズのおもちゃ「あみものコレクション」は、ハンドルを回転させるだけで筒編みと平編みが可能な編み機である。付属の材料で簡単に編みぐるみが作れる。たかがおもちゃだが、一本の毛糸が自動的に編み上げられていく技術はやはり「科学」の成果なのだ。この感動は大切にしたい。

はやぶさの運動から光圧を求める 山本の発表
 世界で初めて小惑星へのタッチアンドゴーに成功した日本の探査機「はやぶさ」は、その後スラスタの不調で姿勢制御ができなくなっており、先行きが心配だが、JAXAのはやぶさ関連記事・宇宙ニュースのWebページには、物理の教材になりそうなデータも公開されている。
 10/25ニュースリリース「はやぶさの位置制御に与える太陽輻射圧の影響」からは、地球軌道付近での太陽光線による光圧(輻射圧)が読み取れる。基礎知識は物理Iの等加速度運動の式程度で十分だ。生徒用の「学生読み物」として小論を書き下ろしてみた。

二次会 登戸駅前「にじゅうまる」にて
 14名が参加してカンパーイ!カリタス学園での初めての例会を終えて、これまた初めての登戸駅前での二次会である。こうして持ち回りで会場を設定すると、色々な学校を見学でき、それ自体が大変参考になる。もちろん飲み屋のレパートリーも増えるのである。飲み会の設定ならYPCにお任せ!


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