例会速報 2007/08/25 富士河口湖高校
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授業研究:オープンスクール授業より 加藤さんの発表
例会の日はちょうど富士河口湖高校のオープンスクールだった。来校の中学生向けに『音階』の授業をした際のアルミパイプ楽器を加藤さんが披露してくれた。管楽器や弦楽器は、音階が1オクターブ上昇すると弦や管の長さが半分になるが、打楽器では2オクターブ上昇すると長さが半分になる。ここでは、アルミパイプを適切な長さに切り、吹いて管楽器にすると1オクターブで半分の長さに、管を落として床に当たった時の音を聞くと(打楽器として聞くと)2オクターブで半分の長さになることを示した。(落としたときに、2オクターブで半分の長さになることは、愛知の飯田洋二先生に教えていただいたという。)授業ではこの後、細いアルミパイプを生徒に切らせて、床に落とすとドレミファソラシドになるものを作り、お土産とした。
塩の幾何学応用編 車田さんの発表
前回例会や科教協のナイターで好評だった塩の幾何学の続編である。図形に塩を盛ると、塩は最短距離を目指して流れ落ちる。
【写真左】2次関数に塩盛り
y=x^2のグラフを切りぬいた厚紙に塩を盛ると、左右対称なのでy軸上に稜線が現れるが、凸部分の先端では稜線が消失する。この稜線の消失点は、y軸上の点と曲線との最短距離の点になっている。
【写真下左】円周上に3点穴を開け1点は円周外の点に穴を開けたもの
真上から見ると穴に近い点、塩は穴に最短距離で流れ落ちる。例えば、穴を学校とみなすと、稜線は平面上を学校に最も近い区域に分ける境界となる。いわゆる学区割りだ。
【写真下右】円周上の4点に穴を開けたもの
穴と穴との間には垂直二等分線の稜線が現れる。この稜線4本は1点で交わり、円の中心を示す。
※前回、演示中塩が湿気ってしまったので、今回は湿気らない塩として「エンリッチ塩」を使用してみた。普通の塩と比べるとサラサラしているが、塩が流れやすく稜線が見えづらかった。事前にフライパンか電子レンジにかけて水分を飛ばした塩を用いるのがよさそうだ。
JAXA宇宙食試食会より 車田さんの発表
7月10日に芝公園のプリンスホテルで行われたJAXAの宇宙食の試食会の報告。JAXAが国内12社が応募した29品目の食品を、「宇宙日本食」第1号として認定した記念イベントだ。
写真の赤飯は、宇宙食に認定された尾西食品株式会社の赤飯の試供品。例会で作って試食した。袋の中にはごま塩の袋とアルファ化米の赤飯が入っている。常温の水を入れて約1時間でおいしいお赤飯の出来上がり。お湯だと20分位でできる。水さえあればOKということで非常食にも最適だ。むしろ、非常食が宇宙食の基準に見合って認定されたという感じだ。
無重量の環境に長期滞在すると味覚・臭覚が鈍るという。そのため、味付けは刺激を強いものにしているそうだ。この赤飯はごく普通の味だったが、車田さんが試食したカレーは味が濃かったという。同社の製品は、赤飯のほか白飯・山菜おこわもあり、非常食として販売されている。
放射温度計いろいろ 高橋さんの発表
高橋さんは熱学に興味を持っている。これまでに買い集めた赤外線放射温度計をいろいろ持ってきて披露してくれた。いずれも赤外線を検知して放射温度を測る。
右の写真は耳式体温計。耳の穴にさし込んでボタンを押すと、内耳の放射温度から推定してたちどころに体温が表示される。赤ちゃんなどに使われるそうだ。
左の写真は最近発売された「おでこで測る体温計」。比較的近距離で額の放射温度を測り、体温を推測する。無接触で測れるところがメリットなのだが、周囲の温度などの影響が大きく安定した測定ができない。ふつうの放射温度計でもおでこを測れば「熱があるかどうか」はわかるが、そのくらいなら昔ながらに手を当てるのとあまり変わらないのでは、という話になった。
右の写真のように、指向性の強い温度計で空の温度を測ると、雲のあるところとないところで値が変わる。雲のない青空は高層の大気または宇宙の温度を反映して非常に低い温度を示す。雲は対流圏内にあって比較的温度が高いというわけだ。当日は空模様が悪く青空が見えなかったため比較は断念。
パルスオキシメータ 高橋さんの発表
血中酸素濃度を測定する医療機器。赤色光と赤外線を指に当て、透過光を測る。ヘモグロビンに酸素が結合すると赤色が濃くなることを利用しているが、「動脈」だけを測るために脈動部分だけを切り分けるという巧妙な方法を使っている。正常値は95〜98程度だが、黒瀬さんが果敢に息を止めて実験したところ、80以下まで下がった。(危険です!決してまねをしないでください。)ぜん息の発作が出た時は、いくら息を吸ってもこのくらいにしかならず、長く続くと命にかかわる。
YPC特製Tシャツ 越さんの即売会
越さんは自作のTシャツを持ち込んで即売会。Tシャツ用の簡易シルクスクリーン印刷機で作ったもの。背中には、「Y=pc2」と、物理ジョーク、胸には、卒業生に描いてもらったというかわいらしいアインシュタインのイラスト入り。人気でたちまち売り切れ。
理科の実験安全マニュアル物理編 越さんの発表
03年に発行された「理科の実験安全マニュアル」(著者 左巻健男・山本明利・石島秋彦・西潟千明、東京書籍、1575円、ISBN4-487-79902-3)は、理科の各分野で、第一線で活躍されてきた先生方が共同で執筆された本。理科実験を授業などで生徒たち見せたりやらせたりする上で、どの線までなら安全か、具体的、定量的に書かれている。高校でも、理科の専門外の科目を持つ事が多くなった昨今、大変参考になる。
越さんは、「物理実験の安全」についてこの本を参考にし、自らの失敗例などを付け加え、例会で発表した。その中で、「火吹きを成功させる秘訣」の話もあり、じゃあみんなでやってみようという事で、「夜の火吹き大会」となった。その成果は下の「二次会」の記事を参照。
錯視あれこれ 鈴木さんの発表
青森の野呂茂樹さんは、錯視のセットをパッケージにして、こどもに配り、一人一人に錯視を実感させる試みを、科学教室などで実施されている。鈴木さんは8月の「JAPAN
SKEPTICS教育分科委員会」で、野呂さんからいただいた実験セットを若干改良してみた。鈴木さん自身も授業でできるだけ生徒一人一人に実験をさせる「小実験(個別実験)」を増やそうと腐心している。
野呂さんの元のものから発展させたのは、ほとんど北岡明佳著「だまされる視覚−−錯視の楽しみ方」(化学同人DOJIN選書2007)が出典だ(写真左)。
下左は北岡氏作「クッション」。水平鉛直の線はすべて平行である。下右の「錯視」では縦の格子以外の「地」の色は上が濃く下が薄いように見えるが、実は上下一緒である。横に切ったものをもう一枚用意して添えてみると、確認できる。
左の写真は北岡氏の著書を元に鈴木さん自身が画像ソフトで作ったもの。グラデーションを効果的に使っていて、1から5の四角は順に濃くなっているように見えるが、実はすべて同じ濃さである。一つだけ四角を打ち出したものを下に添えて比較すると、濃さはすべて同じだということがわかる。
これらは、授業の中で生徒に発問しながら確認していくと効果的だろう。セットの中に色々な紙があるので、発問した段階ではどれとどれを見比べるかはすぐにはわからないので、正解はすぐに出てこない。その後、指示に従って各自で確認すると、驚きの声が上がるだろう。
セットにしてB6版やA6版のクリアポケットなどに入れておくと、授業後に再度入れさせて回収すれば、すぐ次の授業で使える。人間の視覚がいかにあいまいかということを科学一般の素養としてどこかでぜひ扱いたい。
カライドサイクル 車田さんの発表
2007年科学の祭典全国大会後半に出展された佐賀市立城西中学の渡部泰道さんの作品の紹介である。以前03/11/15 慶應高校例会で紹介したヘキサフレックスと原理は同じだ。
材料は事前にカラープリントした紙をラミネート加工してあり、直角に曲げるところはL字プラスチック板で補強、連結部分はテープで簡単にとめることができ、作りやすいようによく工夫されている。
カライドサイクルはヘキサフレックスに面をつけたものと見ることができる(写真左)。面のつけ方により2〜3種類のバリエーションが生まれる。
下の写真のように二つを合体して、トランスフォームすることもできて作った後の楽しみもある。カライドサイクルの詳しい変形の様子はここ。
4D2U宇宙旅行シミュレーションMitaka 山本の書籍紹介
国立天文台三鷹キャンパスの4D2U(4-Dimensional Digital Universe)チームが開発した4次元デジタル宇宙ビューワーの民生版「Mitaka」を収録した書籍が出版された。「パソコンで巡る137億光年の旅・宇宙旅行シミュレーション」(インプレス・ジャパン)\1600税別。ソフトはWindows
Vista/XP/2000対応。
難しいインストールはなく、フォルダごとデスクトップにコピーすれば動作する。メモリーをたくさん積んでいる方が動きはスムーズだ。
起動すると地上から見た星空が表示されるが、Mitakaはただのプラネタリウムソフトではない。視点を他の天体や何億光年も彼方の宇宙空間に移して、そこからの宇宙の眺めを表示できる。空間移動、時間移動もマウスまたはキー操作で連続的にスムーズに行え、「パワーズ・オブ・テン」を見ているよう。まるで宇宙を旅している気分だ。
地球と火星の詳細な地形データも収録されているのでこんな光景を作り出すこともできる。上右はイラン高原上空から眺めたカシオペア座方面の天の川。地平線付近の青い部分はカスピ海だ。下左は火星のマリネリス渓谷上空からいて座の銀河中心方向を見たシーン。起伏は強調されている。
さらに、カッシーニやボイジャーなどの惑星間探査機の軌道およびレンダリングデータもあるので、右下のように探査機の惑星フライバイをシミュレーションすることもできる。土星軌道に入るカッシーニの背景はおうし座。
これだけのソフトがついて書籍ぐるみ\1600は安すぎる。国費を投入した研究の国民への還元ということだろう。買わない手はない。
メカトンボ 越さんの発表
以前、TBSの理科番組「ネプリカ」で紹介されていた、ラジコンのトンボ型羽ばたき飛行機「メカトンボ」。本物のトンボとは羽ばたき方が異なり、ホバリングなどはできないが、風が無ければ、屋外で飛ばす事もできる。07年6月、シー・シー・ピーより定価8379円で発売された。トイザラスなどで、実売価格7000円程度。メカトンボについて詳しい情報はここ。
REAL Baby 越さんの発表
全長135mm、重量約10gw、赤外線リモコンの室内用超小型ヘリコプター。基本構造は、07年1月例会で紹介されたHoney Beeと同じ。
機体本体や主ローターの上側のスタビライザーが本物のヘリコプターに近い。東急ハンズ、ハンズメッセにて、2500円程度で購入。
プロポに似た赤外線ラジコンで、ローターの回転数とテイルプロペラの回転数を制御できる。前者で上昇・下降を、後者で方向を制御する。室内を一周して、見事高杉さんの手のひらにソフトランディング・・・・。というより「ナイスキャッチ」か。
二次会 山中湖畔の保養所にて
17名が宿泊して、カンパーイ。このところ、夏の例会はここで宿泊するのが恒例となっている。年に一度、寝食を共にしながら、時間を気にせずとことん科学を語ろう。
夕食後は部屋に帰って、科教協名古屋大会のYPCナイターのビデオを見ながら反省会。南極観測50年史「白い大陸からのメッセージ」(極地研制作)の上映もあった。
さらに、夜の「火吹き大会」などで大いに盛り上がった。事情を知らない人たちが見たら、とんでもない不審者集団だ。
翌朝の朝食後も越さんが持ち込んだフリーピストン空き缶スターリングエンジンキットの研究。JAXAの研究成果をもとに作られたスターリングエンジンの模型キットの廉価版(コンセプトプラス株式会社、1260円)。組み立ては簡単だったが、意外と調整が難しく、安定した動作は数分間だった。
寸暇を惜しんで科学を楽しむ集団。それがYPCだ。生徒にも科学する楽しみを伝えたいものだ。
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