例会速報 2013/09/23 慶應高校
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授業研究:熱力学の授業(物理Ⅱを中心に) 小沢さんの発表
高3の授業、特に熱の分野は、説明中心になりがちだが、題材をうまく選べば、生徒に考えさせて議論させる展開が可能である。断熱膨張で温度が下がることを説明する実験を見せてから、このときのp-V図を描かせると、最初はpV=(一定)のグラフを描いてしまう生徒がいる。これについて班で議論させて、その結論を班ごとにA4のパネルで答えるという活動を取り入れた。パネルをプロジェクタで映し、答えた理由を聞いていく。写真の班は、議論していく途中で考えが変わった(温度の変化も考慮してp-V図を描けるようになった)ことがわかる。
例会では、熱の授業の構成ついても議論した。ミクロな見方を安易に取り入れずに、まずはマクロな見方を定着させることが必要という意見や、エネルギーや熱という用語の使い方に関する指摘があり、その後YPCのMLでも議論が続いている。
手作りスターリングエンジンいろいろ 釘宮さんの発表
富士山麓でスターリングエンジン工房「IDスタジオ テクノプロト」を経営する釘宮さんが、手作りのスターリングエンジンの数々を持参して披露してくれた。下はA-18-14-Dエンジンに3灯LED一体型発電ユニットを組み込んだモデル。エネルギー変換の教材として人気だ。右はそのカットモデル。シリンダー内のピストンやディスプレーサの動きがよくわかる。動画(movファイル2.3MB)はここ。
写真下左は釘宮さんの作品の数々。いずれも完成度が高く、会場では驚嘆の声が上がっていた。メタルダイキャストから一つ一つの部品を手作りするそうだ。写真下右は左の写真後方のボートに搭載されているB-20エンジンと可変ピッチプロペラシステム。途中の軸受け部のればーを操作すると動作中にプロペラのピッチが変更でき、前進・後退を切り替えられる。舵の操作と合わせて船の無線操縦が可能になる。
極めつけは「スケルトンRCスターリングカー・SRX」。上記、A-18-14-Dエンジンを搭載し、右の写真中央のCVT(無断変速逆転機構)と本格的デフギヤの装備により、ラジコンで前後進・左右旋回がスムースにできる。動画(movファイル2.0MB)はここ。すばらしい出来映えだ。自動車の構成要素が一目で見られるのも教育的。
SRXを操縦する釘宮さんと絶賛するギャラリー。釘宮さんはプラスチック板を加熱して軟らかくし、木型に押しつけて成型する方法(写真右)やメタルダイキャストの石膏型も披露してくれた。裾野市の工房では人が乗れる手作りクルーザーも製作しているそうだ。
磁気ブレーキ実験器 山本の発表
ネオジム磁石をアルミパイプや銅パイプの中に落として空中浮遊を観察する実験があるが、一度に大勢で観察できないのが泣き所だった。そこで、大勢で観察できて扱いやすく、百均の材料だけで簡単にできる装置を考案した。
磁石はダイソーの「超強力マグネット」(T182)4個入り105円を使う。「B4硬質カードケース」の片面を切り取り、「5色カラーボード」(厚さ2mm)と厚さ1mmの両面テープをスペーサーにして、厚さ0.2mmの「PPシート」で裏打ちした間の各レーンにネオジム磁石を1個ずつ閉じこめる。いずれもダイソーの商品。写真のように20mm幅の3レーンを作るが、それぞれの間は磁石同士が干渉しないように60mm離す。PPシートの裏から一円玉や十円玉をはりつけてできあがり。もちろんアルミ板や銅板でもよいが、身近なもので作るのも意義深い。薄いPPシートを使うのは金属と磁石をできるだけ接近させるためだ。鉄の棒などで磁石を上端に吸い付けておいて(写真左)、ヨーイドンで一斉に落下させる(写真右)。
硬貨のないレーンの磁石は自由落下で真っ先に落ちるが、硬貨のあるレーンは硬貨に生じる渦電流で磁気ブレーキがかかり終端速度で落ちる。十円玉より一円玉の方が遅いのは、アルミの抵抗率が小さいので渦電流が流れやすいからだ。ちなみに純銅はアルミより抵抗率が小さいが、十円玉は青銅で、かなり抵抗率が大きくなる。ゆっくり観察したければ、装置を斜めにして斜面を転がる磁石として観察することもできる(写真右)。往復で演示できるので効率もよい。
圧気発火器 小河原さんの発表
小河原さんが、圧気発火器の内部温度を類推する試みを紹介してくれた。圧気発火器は、断熱圧縮の教具としてよく用いられるが、紙の発火温度を超えていることはわかるものの、内部が何度になっているのかは不明である。センサーを入れようにもコードがあるし、センサー部分が小さくないとその熱容量の影響で正確な測定は難しい。
そこで、発火点の判明している物質を次々と入れてみたところ、615度のアニリンまですべて発火したとのこと。写真左は試してみた試料。左から、石けん、食用油、ゴム、木片、コルク、コーヒー、ココア。例会では、石鹸を少量入れてみたところ(写真右)、小さい炎ながら見事に発火した。さらに、より発火点の高い物質を入れてみたいということだが、理科年表の値は1気圧の場合であり、内部気圧が高ければアニリンでも615度以下で発火するだろうという指摘があった。やはり、正確な内部温度を測定するには温度センサーを利用するべきだろうが、いろいろな物質を入れてみた試行自体はとても興味深い。
風船レンズ 熊田さんの発表
二酸化炭素中の音速が空気中より遅いことを利用して、風船に二酸化炭素をつめて「音のレンズ」とする実験がある。熊田さんはダイソーで売っていたフィルムタイプの風船がレンズの形に似ていると思い、二酸化炭素を入れて風船レンズとして使ってみた。
結果は、格段に聞こえやすくなるわけではないが、ゴム風船に比べて二酸化炭素が非常に抜けにくいというメリットがあった。後日、従来使っていた大きなゴム風船を送信側、受信側としてこのフィルムタイプの風船を使ってみたところ、かなり聞こえやすくなることが確認できた。
CIS太陽電池 喜多さんの発表
主成分が銅(Copper)、インジウム(Indium)、セレン(Selenium)の太陽電池を頭文字をとってCIS太陽電池よぶ。従来の結晶シリコン系太陽電池に比べて、部分的な陰の影響も少なく、太陽光に当たると出力が上がるという性質をもっており、やがてシリコン系太陽電池にとって替わるのでないかと予想されている。 写真はそれぞれ、左がシリコン系、右がCISで、全面に光が当たれば、同じ出力となるように作られた比較用サンプルだ。
OHPの光を一部陰ができるように当てた。LEDの明るさに注目してほしい。結晶シリコン系(左)よりCIS系(右)の方の出力が大きいことが分かる。このサンプル用の太陽電池は、代理店の方から一時的に借り受けているものだそうだ。
18分回るコマ 海後さんの発表
海後さんは20分以上回るコマを自作しようと考えているが、その参考のために「製造業コマ大戦」の全国大会で優勝した(有)シオンの「単独回転時間を追求したコマ」を購入した。メーカーの記録は15分だが、海後さんはそれを大幅に更新して18分以上回すことができたのでYou Tubeに動画をアップした。例会での動画(movファイル2.6MB)はここ。
極めて加工精度が高くブレが無い事、中心が軽いジュラルミンで外側が金なみに重いタングステンでできており、フライホイール効果が大きい事、軸先端が鏡面仕上げの硬いセラミックで摩擦抵抗が非常に小さい事などが相まって高性能を生み出していると思われる。ついでにギネス記録も登録可能かどうか申請中とのこと。
鈴(りん)コマ 海後さんの発表
コマ大戦では鈴の音がする「鈴音コマ」が出ていたが、相手のコマとぶつかってもほとんど音が聞こえなかった。そこで海後さんはもっと大きな音が出るものは?と考えた結果、御鈴を思い付き、自作してみた。つまむ軸が無くても、コツをつかめば胴をつまんで回すだけで1分以上回る。「うるさいコマ」と言われることを期待して、11月16日のコマ大戦「八王子場所」のアイデア部門にエントリーしたそうだ。結果に期待しよう。動画(movファイル4.8MB)はここ。
知恵の輪 海後さんの即売会
現在は販売中止になっているが、2007年発売のテンヨー社の知恵の輪「エレクトロ」の紹介。この知恵の輪はリメイク品でオリジナルは1970年に販売されてヒットした。原子核の周りを電子が回っているイメージを、コンピューターを使ってデザインした知恵の輪、というのがうたい文句で、少年時代の海後さんはそれに惚れ込んでしまい、それから30年近く手元に置いていた。
26手解と手強い難しさだが、海後さんは例会の席で、今でも手元を見ずに30秒以内で解く事が出来るワザを披露してくれた。
テンヨーのリメイク品は紐がウレタンゴムの長い紐で非常に扱い難かったせいで販売中止になったようで残念である。今回紹介したものもリメイク品だが、オリジナル品の紐に似せて、しなやかで丈夫な短めの組紐に付け替えたものを販売してくれた。
ラジオのキット 車田さんの紹介
韓国の科学の祭典のラジオ作成のブースで作った作品。キット化されていて、アンテナがコンパクトなのが特徴的。
圧電素子を使ったおもちゃ車田さんの紹介
これも韓国の科学の祭典で入手したもの。アイスコーヒーの容器の底に圧電素子がはりつけてあり、容器を振ると中のBB弾がぶつかる衝撃で電圧が発生し、ふたに付けたLEDが光る。
ガラスの教材 車田さんの紹介
教材用として販売されている各種ガラスの見本セット。ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラス、鉛ガラス、石英ガラスの単板と、透明複層ガラス、遮熱高断熱複層ガラス、合わせガラス(高分子フィルム含有)の計7枚の板ガラスのセット。中でも鉛ガラスは、NMR施設の観察窓として使われているもので、放射線遮蔽実験ができる。
詳しくは次の記事を参照されたい。http://okidoki-science.com/blog/suzuki/07161542
浮き振り子の映像と授業プリント 水上さんの発表
単振動の授業で「浮き振り子」(水に浮かんだ柱状物体の単振動)の問題を解かせる際に利用している。1つ目は「試験管の直径2rを測定→鉛のおもりを入れたときの質量mを測定→単振動する浮き振り子」の普通速の映像、2つ目は単振動する浮き振り子の毎秒300コマの高速映像である。
授業の流れは、問題を読む→1つめの映像で浮き振り子のシーンを見せて身近に感じさせる→問題解答(周期T=2π×√(m/ρSg))→答に測定値と…水の密度ρ=10^3kg/㎥と重力加速度g=9.8m/s2を代入して周期Tの具体的な数値を計算→高速度映像をコマ送りして周期Tを測定し、計算値とほぼ等しいことを確認する。
また計算値T=0.738sと高速映像による測定値T=0.762sの間に3.3%のずれがある理由について参加者から「撮影地のgは9.8?」「水の密度は10^3kg/㎥は4℃のときだが?」「液体の粘性により接している水も一緒に振動してしまい、有効質量が増すのでは?」などアドバイスがなされた。なお、水上さんのこの授業用のプリントが今月のYPCニュースに掲載されている。
ガリレオのイリュージョンの部屋 越さんの発表
越さんは、2005年10月例会で報告した「建築Girls」の「傾きの部屋」を、再び県立松戸高校の文化祭のクラス発表で製作した。写真左上は骨組の組立の様子。今回は床の傾きを13°(前回は15°)とし、更に床面が滑りにくいように、カーペットを敷いた。6畳ほどの広さの部屋の中に入ると、視覚による鉛直方向と実際の重力の方向がずれているため、軽いめまいのような感覚に襲われる。
ドラマ「ガリレオ」が放送された直後にクラスの発表内容を決めたので発表のテーマは「ガリレオのイリュージョンの部屋」に決まった。そこで「傾きの部屋」の他にも、大型空気砲や写真モザイクアート(500枚ほどの小さい写真を貼り合わせ、遠くから見ると全体として人の顔などの図に見えるもの。「アンドレア・モザイク」について詳しくはここ→http://matome.naver.jp/odai/2136223498891436201
今回はインパクトドライバーの使用により作業効率が格段に向上した。回転方向に打撃を加えることで強いトルクを得られる工具で、コーススレッドと呼ばれる長めの木ねじを
いとも簡単にねじ込める。また、逆回転させて簡単に抜くこともできるので、文化祭の片付けの日も実質2時間ほどで「傾きの部屋」を解体することができた。
さらに、トリック立体などの展示も行った。写真左のように、ある角度から見ると4本の柱は平行に立っているように見えるが、実際には写真右のように柱は平行ではない。また、下段左の写真の左側、普通の円筒に見える立体は、実際には中央部が低くなっている。そのため、上にビー玉を置くと、高い中央部にころがっていくように見える。
これらは、2009年7月例会で紹介した「へんな立体」という本を参考にした。また、「トリック立体キットBOOK」というペーパークラフトの本(写真右)では、付属の厚紙に切り取り線や折り線が入れてあり、正確に作り易くなっている。他に、「超ふしぎ体験!
立体トリックアート工作キットブック」、「超ふしぎ体験! 立体トリックアート工作 キットブック2」(いずれも 杉原 厚吉 著)も参考にした。なお、明治大学、杉原厚吉徳特任教授らによる「錯覚美術館」(東京神田淡路町、毎週土曜日のみ開館)では、「トリック立体」をはじめ「動く錯視」などの最新の作品が展示されている。
二次会 日吉駅前「若竹」にて
21人が参加してカンパーイ!本日も大勢が二次会に残った。ベテランから学生さんまで幅広い年齢層が集う。明日の理科教育を語り合いながら、科学談義に花が咲く。
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